4.介護の日々 
臥す義母にむきやる桃のみづみづし指のあひよりしずくしたたる

麻痺の義母を抱き湯船に沈むとき清められゆくわが身とぞ思ふ

散り敷ける桜落ち葉を掃き寄せて移動入浴の車待ちをり

臥す義母に見せむと手折る野苺の熟れ過ぎたるがほろほろと落つ

遠き日のミルクの温度計るさまに洗浄液を手首に垂らす

流れ出づる尿見えしとき導尿管替へる緊張のやうやくほぐる

尿管に洗浄液を入れむとし逆流すればわが顔に飛ぶ

臥す義母の腹部に触れて宿便を揉みほぐしをり薬効かねば

膀洗を終へれば次は隣室の叔母の便器を片付けにゆく

車椅子二台連ねてデイケアに送り昼餉は餅焼くのみに
5.義母逝く 
わが腕に義母の亡骸抱きしめて戻る夜道に桜舞ひ散る

わが腕にずしりと重く暖かき義母よ命の無しと思へず

抱き帰る義母の温みの伝ひ来て全て許し合ふ時は来たりぬ

宿命の限りを生きて骨壷の半ばに満たぬ義母となりたり

四肢麻痺の義母の命の細き火をくべつ起こしつ六年を経ぬ

おほいなる挑戦なりし六年の介護終わりて心静けし

六年の介護に得しもの多くして失ひたるに思ひ至らず
 星野富弘さんと同じ頚椎損傷の怪我で寝たきり
になった義母を在宅で六年介護しました。そのと
きの日々のスケッチです。同居していた夫の叔母
もリュウマチでほとんど寝たきりでした。
 桜祭りの夜病院で息を引き取った義母を車で抱いて帰りました。夜桜が散る公園の横を通るとき夫がスピードを緩め最後の桜を見せてやりました。
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アレチウリ(せっちん画)
特別寄稿 みまき氏
      
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