下関商業高等学校退職強要事件
経過と概要
 小泉不況のもと、大企業のリストラが全国で吹き荒れ、未ぞうの失業者がつくり出されています。
政府はなんらの雇用対策も不況対策も、持ち合わせていないばかりか、リストラの応援団、後押しをかってでています。
 労働者は黙っていては生活も権利も守れない時代がやってきました。
 かって先人達が苦闘の末に勝ち取った成果が今こそ発揮される時はないでしょう。
 ここに日本高等学校教職員組合、山口県高等学校教職員組合の協力を得て、今注目されている「下関商業高校退職強要事件」の概要と資料を紹介します。

資料 昭和45年(ワ)第264号 損害賠償請求事件判決 (山口地方裁判所下関支部  判決言渡 昭和49年9月28日
    昭和52年(オ)第405号 損害賠償請求事件判決  (最高裁判所第1小法廷 判決言渡 昭和55年7月10日)
下関市教育委員会による下関商業高校教諭に対する
            退職強要事件の概要と公判経過       
           山口県高等学校教員組合 
下関商業高等学校教員組合

一、は じ め に

 下関市教育委員会(以下市教委)の不当にして、人権無視の退職強要事件は、提訴以来、四年を過ぎ、九月二十八日、判決書い渡しを迎える。
 提訴以来、私たちは、市教委の憲法を無視した、退職強要、人権侵害の事実をひとつひとつ暴露し、その違法性、不当性を鋭く追求してきた。

二、事件の概要       =何がどのように問題となったのか、退職強要、人権侵害の実態=

 昭和四十五年(学校年度四十四年度末から四十五年度にかけ)、市教委は、下関商業高校数諭に対して、退職勧奨をおこなった。そのなかで、とりわけ、教諭 坂井恒堆(当時61才)、教諭河野久馬三(当時60才)、田辺政子(当侍59才)、に対しては、退職勧奨の域をはるかに逸脱した、事実上の退
職強要にわたるものでありたんなる「おすすめする」事実行為としての「勧奨」を、定年制に匹敵する法的実効を持つものであるかの如く考へ、「とに
かくやめてもらう」「やめてくれるまで勧奨はつづける」とうそぷき、事実、言葉通り実行したのである。
 それは、全国に例をみないどころか、ある種の異常さをもって執ように行なわれたのである。以下その概略を示すと
@ 「勧奨」の回数と期間
          回数                 期間
  坂井教諭  17回                  2月26日〜5月27日    91日間
  河野教諭  21回(うち深夜電話3回)      2月26日〜7月14日   139日間
  田辺教諭  26回(うち電話2回、電報10回)  2月26日〜5月18日     82日間
A 勧奨した者
 八木教育次長、岡田課長補佐、藤原総務課長、古谷主佐、村上総務課長、河田室長、.大谷指導主事、森指導主事、平沢教育委員長、校長、校長代行、元下商教諭(いずれも当時)
B 市教委の基本姿勢(発言録より、いづれの発言も公判の経過で認めている)
 「とにかくやめてもらう。どんなことがあってもやめてもらいます」
 「イエス (やめる)というまで勧奨する、文句があるなら裁判で白黒つけよう」
 「昨年は力がたりなかった、今年は市教委の総力をあげてとりくむ」
 「憲法は憲法である、下関には下関の常識がある」
             (このような発言は枚挙にいとまがない)
C 人権侵害と教育権の侵害
 イ 前述の如く、連日の呼び出し、執ような「勧奨」は、原告教諭等に、はかり知れない精神的苦痛を与えた。また、河野教諭に対しては、深夜電話をかけ「勧奨」した。田辺教諭に対しては、電報で(やめないので)市教委に配転する旨の電報まで打った。
 また、河野教諭に対しては、突然、研究物の提出を迫ったり、「市議会であなたのことが問題になる」など根拠のないおどしまで行った。
  さらには、「あなたがたがやめなければ組合が要求していることも実現しない」「宿直廃止もできない」とまでいった。(事実、組合との間で確認されていた欠員教諭補充、宿直廃止は実現されなかった)
 ロ 市教委は、「勧奨」のための呼び出しを、職務命令でもって行なった、「教科指導について」という職務命令で出頭すれば、「やめろ」という「勧奨」であり、遂には、「心境をききたいので出頭せよ」という前代未聞の職務命令まで出きれた。
  このような、たび重なる呼び出しは、学校数育へ重大な影響を及ぼすのでやめてくれという要請に対し、市教委は、「そんなことは関係ない、長い目でみればプラスになる」「校務は家に帰ってやればよい」と一顧だにしようとしなかった。
D その他、名誉を傷つけ」人権をじゅうりんするような言辞(発言録より)
 「ここでやめるのが常識だ。あなたは我儘で、非常識ですよ」
 「風呂屋で1人がいつまでも入浴していると他の人がはいれないのと同じだ」
 「同窓生のなかに『あの先生まだいたのですか』とおどろいている人がいますよ」
 「退職金と年金で寝て暮らせますよ」
 「新採用をはばんでいるのはあなた方ですよ。ジラや我儘を言わないでくれ」
 「下商は沈滞している。高令者が多くて生徒も可愛想だ」

三、何を訴えたのか      =本裁判の争点、市教委の行なった行為の違法性=

 前述の如く、市教委の行なった「退職勧奨」は、その実体に着目すれば、それ自休、「退職勧奨」の域をはるかに逸脱し、退職の強要にわたるものであることは明白である。さらに、そのやり方、言辞に着日すれば、人権をふみにじり、原告らの名誉を著しく傷つけるものであり、多くの違法性を有するものである。
 わたしたちは、本件訴の中心点を次の五つにおき、市教委を追求してきた。
 @ 退職勧奨の名をかりた事実上の退職強要であり、それ自体、法を逸脱した行為であるということ。
 A 勤労権の侵害をなしたこと。
  憲法第二七条は、国民の勤労権を保障している。また、地公法第二七二八・二九は、「意に反してやめさせられることはない」旨規定している。そして、それらは、強制的にやめさせようとする行為に着手すること自体も禁じていると解するのが法常識であり、市教委の行為は、この規定に抵触するものである。
 B 平等権の侵害。
 C 違法な出頭命令と教育権の侵害
 D 名誉毀損と平穏な私生活の侵害
 以上が、わたしたちが本件訴で争っている中心点である。もちろん、この五点につきるものではない。
 公務員の労働関係一般、およぴ、教育という仕事に対する基本認識、あるいは定年制問題等についても当然ふれざるをえなかった。
 そして、このような異常な行為を生み出す土壌としての、被告らの教育、教育行政、人事に関する基本認識等も問われるのであって、その点も、証言、
準備書面等で積極的に追求してきたところである。

四、むすぴ         =基本的人権の保障と民主教育の確立をめざして=

 憲法は、基本的人権を「人類普遍の原理、永久に侵すことのできない権利」と規定している。教育基本法は「民主的で文化的な国家の建設、世界平打と人類の福祉、この理想の実現は根本において教育の力にまつべきもの」と規定している。
 わたしたちは、憲法、教育基本法の忠実な実践者たらんと欲する。
 ひとりひとりの人権が尊重きれてこそ、ひとりひとりの教師の身分が尊重されてこそ、そして、真の民主主義が教育行政、学校現場につらぬかれてこそ、教育は、その使命にこたえるてとができると考える。
 そ意味で、人権を守るたたかいと、民主教育を確立していく実践とは、表裏1体をなすものであると考える。
 わたしたちは、この裁判をとおして、人権保障のもつ重大な意義と、民主教育確立の実践的努力の持つ意味とをみなおし、かみしめてきた。
 さらに、それを深め、国民的課題にこたえうる教育の確立をめざしてまいしんしていかなければならないと決意するところである。
                             
(四九、九、二六)

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