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幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ

高倉健主演 武田鉄矢 桃井かおり 倍賞千恵子共演 山田洋次監督作品。
東京で働く青年・花田欽也は失恋し、傷心旅行に車で北海道へ出た。釧路などを回り、網走に寄った欽也は、同じく東京から旅行に来ていたOL・小川朱美に声を掛け、ナンパして車に乗せる。朱美もまた、傷心旅行だった。
2人は海岸で戯れ、記念写真を近くにいた中年男性に撮ってもらい、お礼にと彼の行き先へ乗せる事にする。
その中年男性、島勇作はつい先ほど、刑務所を出所して、郵便局で所用を済ませ、食堂で久しぶりのビールやカツ丼、ラーメンを楽しみ、しかし帰路を行きあぐねていたところだった。

結末 ネタバレ注意

その日の夜、旅館で一泊する事になった3人だが、一人先走って朱美を押し倒そうとした欽也は泣かれ、抵抗され、隣の部屋で聞きつけた勇作にたしなめられる。
翌日、陸別駅で別れる事にしたが、電車が来るまでの間、カニを食べる事にして、結局3人旅は続く。
しかし走行中、カニに当たった欽也が腹を下し、車を動かす事になった朱美が脱輪させてしまい、男2人で持ち上げ直すと、今度は暴走。畑に突っ込んだ。
民家に宿を借り、欽也は勇作にその軽さをたしなめられる。
翌日、帯広駅で別れる事にしたが、欽也が駐車場でチンピラの車に石をぶつけ、絡まれ、平謝り。だがチンピラはしつこく欽也を痛めつけようとし、見兼ねた勇作がチンピラを倒し、欽也と朱美を後部座席に乗せ、車をぶっ飛ばして逃げる。
だが運悪く検問があり、服役中に免許証を失効していた勇作はその事を説明する羽目になり、2人にその事実を知られてしまう。
警察署で事情を聞くため連行された勇作だったが、顔を知っていた渡辺係長に助けられ、難を逃れ、解放される。
外に出た勇作は、わざわざ待っていた欽也と朱美に別れを告げるが、2人は勇作の後を追い、また車に乗せた。
勇作はそれまでの半生を語った。
九州でチンピラ同然の生活をしていた勇作は30歳を過ぎて、自分の人生を見つめ直し、心機一転、夕張の炭鉱夫になった。
だがつまらない生活の日々に辟易としていた頃、スーパーのレジで働く光枝に惚れ、やがて会話をするようになり、離婚歴を告白した光枝を受け入れ、所帯を持つ。
だが、光枝が待望の妊娠をし、勇作が注意していた中で流産。流産の経験が過去にもあったと隠し事をされ、機嫌を悪くした勇作は街へ飛び出し、彷徨う中でチンピラとケンカになり、倒れたチンピラは打ち所が悪く死んでしまった。
勇作は刑務所に収監され、光枝に一方的に判を押した離婚届を渡したのだった。
3人は一泊し、翌日、札幌へと向かうが、勇作は出所の日、光枝に手紙で「もし許してくれるなら、黄色いハンカチを掲げていてほしい」と伝えていた事を話し、夕張へと向かう。
家が近付くにつれ、臆病風に吹かれる勇作は何度も車を止めさせたり、引き返させたりと、ためらいを見せる。
目を伏せる勇作に代わって、朱美と欽也が黄色いハンカチを掲げた家を探すと、うつむく勇作を呼び寄せる。
外に出た勇作の目には、たくさんの黄色いハンカチがはためく姿が飛び込んできた。
朱美と欽也は荷物を渡して去り、勇作は家へゆっくりと近づいていくと、中から光枝が現れ、勇作を見つけ涙を流した。
車を走らせる2人は、感動を受け車を路肩に止め、互いに抱き合った。
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管理人の批評

1977年、昭和52年、日本の松竹作品です。
あまりにも有名な作品すぎて、改めて書くのも畏れ多いですが、この作品は、
1、高倉健さんが東映を退社して出演し、『八甲田山』と同じ年に公開された。
2、高倉健さんが刑務所帰りの一般人を演じている。
3、高倉健さんが渥美清さんと共演を果たしている。
4、武田鉄矢さんの俳優デビュー作である。
5、タイトルから想起されるクライマックスの画は圧巻である。
6、この映画のヒットにより、夕張市は一躍知名度が全国的になった。
 
おそらく、この映画を日本映画の最高峰であると位置づけている人もいるのではないでしょうか?
そこまでいかずとも、観るべき日本の映画、後世に残したい映画を挙げれば、必ず上がってくるのではないでしょうか?
そんな『幸福の黄色いハンカチ』ですが、上記の1と2で述べたように、高倉健さんが東映で散々任侠ヤクザをやりきり、やり尽くし、やらされた後、役者としての道を思い直して、専属からフリーになり、初挑戦した人情映画です。
タッグを組むのは人情映画の巨匠・山田洋次。この時すでに『男はつらいよ』シリーズは20作近く撮られています。
やはり台詞に山田節が練り込まれているというか、もともと脚本を手掛ける事の多い山田監督だけに、文章の癖というものが、「男はつらいよ」シリーズを観た方ならわかります。
しかし、そのセリフを見事に言いのけてしまう。ウジウジとしたキャラクターながら、観客を呆れさせない、嫌な気持にさせないところに高倉健さんの魅力があると思います。高倉健さんだから成立する映画だと思います。
ぜひともインタビューしてみたかった。この時の事を聞いてみたかったものです。
なにより私達が心を掴まれるのが、冒頭の高倉健さんが出所して、食堂でビールやカツ丼を注文し食事をするシーン。このシーンが、高倉さんがまず力を入れたシーンで、長期服役し、長い事味わえなかった贅沢な御馳走に久々にありつく人間の心情を見事に演じ、表現している事は、多くの人々に周知され、山田監督も、このシーンの為に高倉さんが2日ほど絶食していたのを聞かされ、驚いたという事です。
網走刑務所から出所するというのは、脚本の設定上、舞台が北海道だからというのもありますが、『網走番外地』シリーズでお馴染みの俳優・高倉健さんのキャラクターがある程度決まってしまっていたというのもあるでしょうし、先の映画の効果で、刑務所は網走と相場が決まっていたのかもしれません。
もちろん、刑務所は日本全国(各都道府県ではなく)各地にあります。ですが当時は、ある種犯罪抑止効果も狙って、「悪い事をしたら、網走刑務所に収監されて、厳しく寒い冬を迎えなければならない」というイメージを浸透させる必要もあったのかもしれません。
さて、4の通り、この作品は今や大御所俳優ともいうべき存在となった、武田鉄矢氏の俳優デビュー作でもあります。当然、素人同然である武田さんは山田監督から毎日叱られ、共演者であり、同郷・福岡の先輩である高倉健さんに、監督に叱られる度、励まされ、指導されたそうです。
ちなみに、監督に叱られた言葉の中に、高倉健さんにシャッターを押してもらうのを頼むシーンで、「映画スターに対する声のかけ方をするんじゃない!」というのがあったそうですが、初めての出演作品が同じ福岡出身の大スター、高倉健さんとの共演では、無理もないと、心中お察しします。
ただ、その成果・甲斐もあり、翌年には同じく山田監督の『男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく』に出演されています。
そしてこの時の交友が、『刑事物語』への友情出演、『駅 STATION』への友情出演に繋がっている事と思います。
武田鉄矢、板東英二、岡村隆史。高倉さんが気にいる人間には何か共通点があるような気がするのですが、皆さんはどう思われますか?
この作品の中で、「妻の流産」という出来事があり、遺作となった『あなたへ』では、元歌手の奥様が亡くなられた病気が「悪性のリンパ腫」であるとセリフにあり、高倉健さんは本当に映画人だったのだなと、衝撃を受け、思い知らされます。
本名・小田剛一として役者・高倉健を演じ切り、映画の役に打ち込む。観客の邪魔になるからとプライベートを一切見せなかった高倉さんですが、そのプライベートは映画の中に溶け込んでいたようです。
また、私がこの作品を観たいと思ったのは、ダウンタウンの松本人志さんがラジオ『放送室』の中で、この作品のクライマックスで刑務所帰りの高倉さんが声を張り上げるシーンは怖いのではという疑問を発言されたのが契機ですが、作品を観て、3人が打ち溶け合っている姿に、私は「ああ、漫談だったんだな…」と自分の浅はかさを痛感しました。その漫談がラジオ終了から数年経った今、2014年11月23日放送の『ワイドナショー』でまた聞けた事を面映ゆく感じます。
ちなみにこの映画は、私が思うに男映画です。もちろん女性も楽しめるとは思いますが、やはり女性がいつまでも自分の帰りを待ってくれているというのは男の幻想であり、それと対極にあるのが、『鬼平犯科帳』や『剣客商売』などで有名な池波正太郎の世界であり、パロディーやコントであると思います。夢を見させてくれました。
この作品は日本テレビが追悼の意を込めて、2014年11月28日に放送されました。謹んでご冥福をお祈りします。