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【アニメ】「巌窟王」の感想(第七幕〜第十二幕)

原作既読者による、第七幕以降の感想文。アニメ版を完全ネタバレ無しで楽しみたい方は、以下の感想を読まないほうが無難かも。いやいや全然OKですよ! という方は、引き続きお付き合い下さい。


第七幕第八幕第九幕第十幕第十一幕第十二幕


【2004/11/23】

第七幕『秘蜜の花園』

人妻と、真昼の譲治の巻

<あらすじ>
伯爵がオペラ座で気を失ったエデを連れ去った後、アルベールとフランツの元にマクシミリアンがやって来る。フランツの許婚ヴァランティーヌが好きだと言う彼に戸惑うアルベールだったが、フランツは「二人のことはおまえにまかせる」とだけ言って去ってしまった。
それなら、とマクシミリアンの恋を応援することにしたアルベール。早速ヴァランティーヌの家へ二人で押しかけるが、逆にヴァランティーヌに追い返されてしまうのだった。

一方モンテ・クリスト伯爵は、ヴィルフォール検事総長夫人エロイーズに接近。お礼に彼女の温室を案内された伯爵は、意味深な毒物談義と共に彼女を誘惑する。


エロいよ。エロイーズがエロいよ(洒落じゃなくて)。伯爵もエローイよ! と始終ニヤニヤしながら見終わったわけですが、よくよく考えてみるとあれ、伯爵かなり頑張ってた?という気がしてきました。
少なくとも、原作の伯爵ってああ見えて結構純情だし、アニメ化にあたって性格改造されているにしても、エンディングやデモ映像にチラッと写っている昔の彼(つまりエドモン・ダンテス)を見る分には、人妻を篭絡するような性格は、元々備わっていたものでは無いと思うんだよなぁ……。

巌窟王に出てくるキャラクターは、多かれ少なかれ、皆「切実な想い」を持っている人達ばかりだけど、その筆頭が伯爵なんだよな。彼は自分の人生を取り戻すための手段として復讐してるわけだから、そりゃあもう必死。
そういう目でもう一度あの誘惑シーンを見てみると、伯爵様のあまりの頑張りっぷりに、涙を禁じえないのでありました。

さて、ここからはいつものごとく、だらだらとストーリーの追っかけ感想を始めます。前回の続き、オペラ座のシーンから、第七幕はスタートです。[※注1]
気絶したエデを、お姫様抱っこで運ぶ伯爵。こらこら、見せびらかすように抱えてないで、毛布でもなんでもかけてやれよーとか思ったですが、その後の「アルベール!」呼び捨て伯爵に、そんな気分も吹っ飛びました。……いつそんな仲に!?
馬車に戻った伯爵、気がついたエデに向かって「見たか? あの男を」……って。こらこら、わざと見せたくせに、何をおっしゃておられることよ。今日の伯爵様はなんだか攻撃的ね。

伯爵も行ってしまって、なんだか白けてしまったアルベール。そのままロビーでフランツと過ごしていると、そこにやってきたのは純情少年マクシミリアン。
彼は彼で、片思いの相手ヴァランティーヌが溜息をつくのを見ていられず、フランツを問い詰めに来たわけだが、「一人の女の子として大事に思ってる(= あ、別に何とも思ってないです。はい)」と言うフランツに逆上。
それをなんとか止めて、部屋の外へ追い出したアルベールに、「人を愛するってどういうことなんだろうな。……厄介なことだ」と、つい口走ってしまうフランツ。

もつれる想いの糸。やっぱりフランツは……真性だよ、なあ? 本人はかなり自制しているつもりなんだろうけど、こうまでやられてしまうと流石に、ねぇ。
シーンの雰囲気から見てもそうだけど、「CGWORLD 12月号」(発行:ワークスコーポレーション)にも『アルベールの成長には、女性がかかせないから』という理由で、ユージェニーのデザインと性格が変更されたことが載っていたので、そのお鉢がフランツに回ってきた……と考えても良さそうな気がする。(つまり原作にあるような、ユージェニーと、彼女の音楽の先生でもあるルイーズ・ダルミイー嬢との同性愛っぽい関係は、ほぼ無くなったと見てもいいんじゃなかろうか)

実際問題、アルベールを主人公で物語を進めると決めた時点で、フランツの重要度が上がってくるにもかかわらず、設定上では『伯爵に直接からまない』役どころ。これじゃあちょっと弱すぎるから、苦肉の策でこんな設定をくっつけてみました……ってことなのかもしれない。

まあ、苦肉の策とか言っておいてなんですが、私としては(アニメだろうが現実だろうが)男の人が男の人を好きになることについては、「そんなこともあるだろうよ」と思う程度なので、まあ頑張れよ……としか言いようがありませんな。しかしかなり苦しい恋なのは否めないよ、それは。え? そんなことは百も承知ですか。そうですか。ま、ま、まだユージェニーが好きなのでした! という可能性も無いとはいえないし。ね。

それはともかく、マクシミリアンとヴァランティーヌの件は「おまえにまかせる」と言って、フランツはトンずらしてしまったので、アルベールはそれじゃあこっちを応援するか、とマクシミリアンと一緒になってヴァランティーヌの家まで行くことにするのでした。
一方、伯爵は馬のエクリプスに仕込んだ仕掛けを、おもむろに発動。やたらと嬉しそうなベルッチオ君と、伯爵のニヤリ笑いで、前半終了。

後半。ヴァランティーヌの自宅へ押しかけるアルベールとマクシミリアン。「あなたをぉ、愛してしまいましたァ!」……いきなりそれかよマック!
ヴァランティーヌも、普通だったらそう言われて、そんなに悪い気はしないと思うんだけどなぁ。残念ながら好きな人(かつ婚約者)に振り向いてもらえない、という苦境に立ってるので「人の気持ちも知らんと! 帰れ帰れ!」と二人を追い出す始末。
原作だと最初からラブラブ・バカップルぶりを発揮するマクシミリアンとヴァランティーヌ組だけど、アニメ版はちょっと違っていて、結構おもしろい。

さて、追い出されてガックリする二人の前に、伯爵とヴァランティーヌの継母、エロイーズがやってくる。驚いて隠れるアルベールとマクシミリアン。
伯爵とエロイーズが二人でやってきたのは、その前のシーンでエロイーズ(とダングラール夫人ビクトリア)の乗っていた馬車馬が暴走してしまったところを、偶然伯爵の従僕であるアリが、間一髪のところを救出。その後、伯爵がエロイーズを送ってきたから……という理由があるわけだが、それはともかく。

伯爵と談笑するエロイーズは、自分の子供に遺産が全く無いことを嘆いているが、当の子供エドゥワールは伯爵を見て「吸血鬼だ!」と騒ぐありさま。正直だな、子供は
伯爵の笑いが若干ひきつっているように見えたのは、たぶん私の気のせい。でも、彼だって作戦遂行中でなければ「誰のせいでこうなったと思っとるんじゃーー!!」と言いたかったに違いあるまいよ! でもそこは伯爵、顔色一つ変えずに子供を誉めることは忘れない。すっかり伯爵が気に入ってしまったエロイーズは、自分の秘密の温室に伯爵を案内するのだった。

さて、ここまでくれば、あとはこっちのものと言わんばかりに、さり気なく話題を植物の話から毒物談義に持って行きつつ、人妻誘惑モードの伯爵。
『あーいいなぁ。ちょっと、エロイーズさん、十秒だけ、いやっ、五秒でもいいから替わってくださいよ!』と思った人は手を挙げるべきだ。先生、黙っていてあげますから、皆さん目をつぶって思い当たる人は手を挙げるように。
伯爵っていい匂いすんだろうなあ……きっと。それにあの声で耳元で囁かれたら、落ちます。間違いなくポトリと落ちますよ。
そういえば昔、声優志望の人に頼んで耳元でささやいてもらったことがあるが……ありゃヤバかったなぁ。え、そんなことはどうでもいいですか、はい。

と、そんなシーンを、のぞき見するアルベール。「伯爵があんなことを(ショッキング!)」と固まっているところへ、伯爵の一睨み → のぞき見終了。というわけで、その後の伯爵とエロイーズが何やったのかはわからんですが、ひとしきりモソモソした後で「はい、続きはまた今度ね〜」で終わりだと思いますよ私は。
そうじゃなきゃ、次のシーンで人妻一人ハッスルな場面になる意味が無いような気がするので。
最後にベネデットことアンドレア・カバルカンティ侯爵の登場で、「巌窟王」の役者はほぼ揃いました。

それにしても今回、エデとアリはちょっと可愛そうだったな。エデは気絶 → 即強制帰宅だし、アリは原作でも随一の大活躍シーンが、人妻のソロプレイシーンにすっかり奪われる形になっていたしなぁ。

エデ:「ところで、伯爵様はどちらに行かれたのかしら」
バティスタン:「今頃はヴィルフォール夫人のエロイーズとお楽しみですぜ、ウェッヘッヘッ、うわ、何するエデ様rのあおせfdっ」
アリ:「……(アリは触手をくねらせている)」

エデとアリと、それから伯爵様に幸福が訪れますように。
東方銀河の空に願いをかけつつ、星四つ。★★★★彡。


【2004/11/31】追記

[※注1]
第六幕〜第七幕のオペラ座のシーンで使われている音楽は、ジャコモ・マイヤベーアの「悪魔のロベール」というオペラ。
第六幕で、アルベールが伯爵から贈られたオペラ座のチケットに、「Roberto il diavolo(=悪魔のロベール)」とバッチリ書いてありましたし、原作「モンテ・クリスト伯」(訳:山内義男、岩波文庫版)の第五十三章の題名は、ズバリ「ロベール・ル・ディアブル(=悪魔のロベール)」とあるので合ってると思います。(曲は全然知らないんですが)

「悪魔のロベール」は、「モンテ・クリスト伯」が書かれた当時、かなり評判が良かったというオペラだそうです(つまり、今はそれほどでもないってことか)。ちなみにジャンルは怪奇モノ。
原作者アレクサンドル・デュマは元々劇作家で有名になった人なので、作中にもしょっちゅうオペラが出てくるのは、そういうわけです。まあ、当時の娯楽ってそれくらいしか無かった、っていうのもありますが。
「悪魔のロベール」のストーリーは、こちらのサイト「CDラック:オペラ」のページ中ほどを参照下さい。

ところで同サイト内には、ショパンの「別れの曲」に日本語歌詞を付けた歌が存在するという記事があったので、こちらにもリンクしておこうと思います。なかなかいい歌詞じゃないの、これ。ちょっと古めかしいとこが良い。
巌窟王オープニング曲「We Were Lovers」(作:ジャン・ジャック・バーネル)は、おそらく(あくまでもおそらく)ショパンの「別れの曲」にインスパイアされてると思われるので、そっち繋がりということで。

【2004/11/31】

第八幕『ブローニュの夜』

復讐の総復習。

<あらすじ>
かつてヴィルフォールが所持していた「オートイユの別荘」を買い取ったモンテ・クリスト伯爵は、モルセール将軍、ダングラール男爵、ヴィルフォール主席判事とそれぞれの家族、およびその友人知人を招待し、お披露目パーティーをすることになった。
一同が会する中、伯爵はアンドレア・カバルカンティ侯爵を紹介し、さらに余興として館にある「秘密の部屋」を探すゲームを提案する。
一番先に部屋へ辿り着いたのは、アルベールとヴィルフォール、ダングラール男爵夫人ビクトリアのチームだったが、そこで見せられた「箱」を見た瞬間、ヴィルフォールは恐怖に顔をゆがめ、ビクトリアは失神してしまう。


さて第八幕ですが、はじめに見た時は「アルベールのシャワーシーン」とか、「あれ? フェルナンより伯爵のほうが背が低い!」 とか、「伯爵の苦悶の顔が〜」とか、いいですなぁいいですなぁ! と思いながら見てたんですけど、もう一度見直した時には、シナリオと演出もかなり良いですよ、ってことに気付きました……。

今回ストーリーの主軸は、『アンドレア・カバルカンティの登場』と『ヴィルフォールとビクトリアの過去の秘密』の二つなんだけども、それに加えて第一幕〜第六幕までに出てきた登場人物とその関係のおさらいするという、結構大変なことをやってくれていると思うんだな。

そのまとめ方というのが、『会場にいるキャラクター達を、上の階にいるアルベールとフランツの視点で俯瞰的に見ることによって、その関係性とそれぞれの思惑を説明する』というモノ。
これで説明口調になることなく、あるいはズバリ「総集編の回」のようなものになることなく、あくまでストーリーの中で、それまでの総括をやってのけることを可能にさせている!

全二十四幕のうち1/3まで来たこの第八幕で、一旦まとめをやってもらえるというのは視聴者にとっては嬉しいことだけど、「巌窟王」という話の登場人物の多さと複雑さを考えると、こんなふうに上手くまとめられたというのは、結構スゴイことなんではないかと。
とりあえず、パーティー会場にいた人々の思惑や思考(私による意訳含む)だけピックアップしてみても、

総勢二十人。この大量キャラの各々の思惑と、関係性をほぼ十〜十五分くらいで表現してのけたのはやっぱすんごいと思うんですけど……ど、どうなのかな。普通? いやあ、普通じゃない、よ、なぁ。
どっちにしても、こんな風にきちんと計算されたシナリオと演出があるから、安心して燃えたり萌えたり、この先の展開ってどーなんの!? とか思ったり出来るんだよね。ありがたやありがたや。

と、まぁ構成の上手さに感心するのはともかく、今回も伯爵様は頑張っておられたなぁとしみじみ思いましたよ。そこまでせんでも、と思うぐらい芝居がかったあの態度ととか。(目、赤く光らせたり黄色く光らせたり忙しそうだった……)微妙に客も引いてたよな。ダングラールいなかったら、相当寒いことになってたんではないかと思ったりして。

それからメルセデスと二人になった時の、もんのすごい緊張感とかもね。良かったんです。
あと、対アルベールの伯爵は、やっぱり最強だと思いました。

伯爵:「アルベールさん、少々お手伝い願います。ここまでありがとうございました。大変だったでしょ
アルベール:「すみません、伯爵。実はその、見てしまったんです」
伯爵:「はははははは。これは参った。見てらしたんですね。いや、奥さんがしつこくてねえ。はははははは。ところで私のほうこそ、ごめんなさい」……で、病を告白。
伯爵:「アルベール(←呼び捨て)、これはあなたと私だけの秘密です

なんじゃそりゃあ!? そのくだけた口調はなんなんですか、と! さらに『秘密の共有』ワザでだめ押しですか、と! そこまでするか。完璧主義だよな、伯爵って。……うーん、でもやっぱり今回気になったのは伯爵のアレ。
どーなのよアレ。あの手! やばいんじゃないの、結構やばいんじゃあないの? 伯爵は、この復讐に命賭けちゃってるんじゃないのっ!?。
それすらもアルベールを落とす手段に使っちゃってるあたり、「無理だ、アルベール。お前には絶対抵抗できん」と思うわけですが。

やっぱし個人的には、伯爵には幸せになってもらいたいと思うですよ。原作と同じラストにはならないと言う話ですが、せめて世界の中心であの決めゼリフだけは叫んでもらいたいんですよ! ほんと、よろしくお願いします。(誰に言ってるんだかよくわからんですが)
総合評価は星五つで。★★★★★


[※注1]
この時ユージェニーが演奏している曲が全然解らなくて、でも「何となくドビュッシーかなぁ」と思ったので、そっちの線でいろいろ調べてみましたが、おそらく「ドビュッシー:ヒースの荒野」という曲かと思います。
曲はHMVのサイトから試聴できます(ディスク1の17曲目)

「ヒースの荒野」と来るとどうしても思い出してしまうのが、「嵐が丘(著:エミリ・ブロンテ)」という本。巌窟王の原作「モンテ・クリスト伯」と同様にいわゆる世界の名作文学の一つってやつですが、この「嵐が丘」、ストーリーが微妙にモンテ・クリスト伯と似ているんですよね。
まあ、「嵐が丘」のほうが「モンテ・クリスト伯」よりもエンターテイメント少なめで、より陰鬱さと暗い激情に満ちた内容ってかんじですけど。モンテ・クリスト伯爵は結構ユーモアとかもある人なのに、嵐が丘のヒースクリフはそんなの全然無さそうだもんな。

まあ、アニメの巌窟王に「嵐が丘」は全然関係無いのかもしれないけど、あえて「ヒースの荒野」という曲を使ってるってことで気になったというだけです。


[※注2]
マクシミリアンがヴィルフォールに自己紹介する時に、軍人である自分の所属を述べてますが、これは多分「りょうけん(猟犬)座ガンマ方面軍 陸軍大尉」って言ってるんだと思います。
フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia)』りょうけん座にある星図を見ると、ガンマ(γ)というのがあるので、こっちの方面っていう意味なんですかねぇ。よくわかりませんが。(星座内の星には、明るい順にアルファ(α)星、ベータ(β)星、ガンマ(γ)星とギリシャ語の記号をつける規則があるらしいので、ガンマ=りょうけん座の中で三番目に明るい星という意味なのかな)

りょうけん座は、春半ばから初夏にかけての夜空に見られる星座(肉眼だと厳しいかも)だそうなので、観測してみるとマクシミリアンの職場が見えるかもよっ、てことですよ。

【2004/12/7】

第九幕『闇色の夢を見た』

地獄までの100マイル

<あらすじ>
ヴィルフォールの持つ不信感は、ついに伯爵へ銃を向けさせるほどにまでなるが、丁度そこへダングラールが駆けつけたことによって、うやむやになる。
その頃、ユージェニーを手分けをして探していたアルベールとフランツだったが、その途中アルベールはアンドレアに挑発的な言葉をかけられ、一方フランツは伯爵の額に浮かぶ謎の紋章を目撃すると共に、「巌窟王」という言葉を耳にするのだった。

その後突然気分が悪くなり倒れてしまうアルベール。その原因は「毒物」だと言う伯爵の言葉に、ヴァランティーヌの危険を感じ取ったアルベールとフランツ、マクシミリアンはヴィルフォール家へ急ぐが、ヴァランティーヌと執事のバロアには、毒の魔手が刻一刻と迫っていた。


伯爵はかなり具合が悪いらしい。
……それは反則ではなかろうか。何がって「最強キャラのくせに最弱キャラ」ってもう、どっちなんですかと! いや、どっちもなんだよって。それはズルくないですか。
普通、「最強キャラなんだけど、ちょっと弱いとこもあるよ(RPGあたりのオシャレラスボス系)」とか、「最弱キャラだけど、いざとなったら強いんだよ(なんだか良く解らんがモテまくりな話しの主人公風味)」っていうのがバランスってもんじゃないですか。

それがどうよ、我らがモン様ときたらバランス無視で最強と最弱どっちも有りで、振り幅最大、全速前進で面舵・取り舵いっぱい! Hard port and starboard ! で、どっちだよ! 両方だよ!! みたいなね。意味不明ですいません。
まあ伯爵はラスボスであり裏主人公でもあり、なので当たり前っちゃ当たり前なんだけどさ。

そーりゃ、ベルッチオじゃなくても放っとけません。地獄の底までお伴します。
え? 私はどうなのかというと、それはまぁ、伯爵の館の掃除夫ぐらいがいいかなって思っておりますが。そんでリネン室(フランス風に言えばリンネル?)あたりで、「やっぱりうちの伯爵様が一番よねぇ」とか噂したり、時々モン様とすれ違ってときめいたりとか、そんな日々がいい。

だってベルッチオとかバティスタンみたいに近い距離で接してると「あんな主人じゃ心配で心配で夜も寝られません!」ってことになりそうじゃないですか。困ったものですよ。
そんでもってラストがどうなるかは解らないですが、最後伯爵がどこかへ去って行かれてしまったと仮定して、その後は思い出話でも語りあって……って、今やってることと大して変わらないじゃねえか、と気付いたところで、いつものように始めから第九話を振り返ることにします。

今まであまり気にしていなかったですが、「紳士淑女の皆様、今晩は(メダァム メスユー ボンソワ〜ル)」の声の人、いい声ですなぁ。今回はボンソワールの「ボン」のところにアクセントがついていて、なんかいつもと違ってて面白かったな。
この声の主が誰なのか、ってのもいろいろ想像できるけどうーん、伯爵の額にくっついてる人の声かもしれないし、ただの語りなのかもしれないし。
とりあえず原作では、場面転換時に作者からの一言、みたいな表現はあったような気がする。『読者の皆さんはお気づきかもしれないが、その頃モンテ・クリスト伯爵は〜』というような感じで。だからそういうものなのかもしれない。わからない。

続く冒頭、倒れたビクトリアそっちのけで伯爵への不信を露にしたヴィルフォールは、伯爵へ向かって問い詰める。「お前は一体誰なんだ」と。
伯爵は舌先三寸と、お手々でチューリップの合わせ技で時間稼ぎしている間に、ダングラールがやってきてしまったので、ヴィルフォールの問い詰めも不発に終わる。どっちにしてもピストルごとき伯爵には効かないんじゃないかなぁ、と思うんだが。

一方、アルベールとフランツは手分けをしてユージェニーを探しに行く。アルベールの行く手に現れたのは、アンドレア。
「君、ユージェニーを知らないか?」と訪ねるアルベールに、「伯爵から君の噂は聞いているよ。でも、この世で僕だけが唯一伯爵の気持ちを理解できる存在なんだよ。失敬! ハハハハハ〜」とトンチンカンなことを言うだけ言って消えるアンドレア・カヴァルカンティ。ぽかーんとするアルベール。うん、今のはアルベールは悪くない……悪くないよ。

フランツの方はというと、広い館で迷ってしまったところ、途中伯爵に出会って「あ、ラッキー」と思うも、どうもその伯爵の様子がおかしい。なんかフラついてるんですけど…なんか額が光ってるんですけど!……なんかその額の紋章みたいな目がパカッと開いたんですけど!!
ホラーな伯爵を見てしまったフランツが、「あわわわわわ」となっているところに、ベルッチオが横っ飛びに伯爵の元へ。……「横っ飛び」は伯爵一家のお家芸なのか?

ベルッチオ「伯爵! どうぞ、お手を」
伯爵「すまん、ベルッチオ。あの刻印は……」
ベルッチオ「どうかご無理は……と言っても無駄でしょうが」
伯爵「ついて来られるか、地獄の果てまで
ベルッチオ「無論、どこまでもお供しますぜ巌窟王!」

ブヒャー! なんですかこれ。すごいよ巌窟王、巌窟王すごいよ。ぬ、なんかこの二人には入り込めんなこりゃ……、いや、入り込むも何もないですけど。
それはそうと、「すまん、ベルッチオ。あの刻印は……」ってどうなのよ。あの刻印が何だってのよ!

そろそろ物語も中盤だし、伯爵の過去話も気になってきました。原作既読組ですら気になるんだから、全く知らない人はホントちょっとイライラするぐらいなんじゃなかろうか。意味深なことばっかりで、悶々するじゃないのさ! とな。
かといって、この話の最大のネタばらしをしてしまうには、ちょっと早いのかなぁとか。
伯爵自身の過去が最大の謎である」というところが、原作とアニメの一番の違いなんだよね。

原作の場合は、伯爵を主人公に時系列に沿って話が進んで行くから、読者は過去の出来事を全部知った上で、伯爵が復讐を行っていく過程を眺めていられる。でもアニメは違う。伯爵という過去は未だ伏せられている……。
そのことで展開は原作よりスリリングになったとは思うけど、今度はどこまでそのテンションを引っ張っていけるかが腕の見せ所ということなのかなぁ。バランスが難しいかもしれないけど、あっという驚きを期待します。

それで、何だっけ。あぁ、アルベールだよアルベール。ヴァランティーヌとマクシミリアンが仲良さそうにしている所まで行ったはいいけど、その後バッタリと倒れるんだ。
結局伯爵から、アルベールが倒れた原因は東方宇宙産の毒で、しかも狙われているのはヴィルフォール家であると教えられるわけだが、わざわざ教えるってことは、ヴィルフォールを追い詰めるための下ごしらえということだよね。
それよりも、ここはもっと微妙なシーンが同時進行だったので、そっちのほうが気になりました。……つまりマクシミリアンとフランツのね。

マクシミリアンは、フランツの想いには気付いちゃいないと思うんだよな。「結婚できなければ好きになるのをやめるのか? やめられないだろ。やめられないよな。愛することは」と言うフランツの言葉が、誰に向けられたものなのか……。
純粋で真っ直ぐなマクシミリアンには、こんな形の愛情がある、なんてことも知らないかもしれない。
マクシミリアンも苦境に立っているといえばそうなんだけど、「好きだ」という事ぐらいは出来るわけじゃん(実際言ってるし)。だけどフランツは「好きだ」という事も出来ないから、だからフランツの笑顔は、どこまでも透明なんだなぁ。
そんでその話を(後ろ髪からちょこんとのぞいてる耳で)そっと聞く伯爵……あの時、フランツを一番理解したのは伯爵その人だっただろう。
この次のエロイーズがやって来るシーンで見せた伯爵のあの表情は、ものすごい複雑でいくらでも深読みできてしまう。

さて、元気になったアルベールはヴァランティーヌを助けるため、奔走する。
「あの二人の愛は本物だ、幸せになってほしい」は、取って付けたように聞こえる気もしないではないが、彼も両親のこととかがあるんで、「本物の愛」とやらにこだわっているんだろうということにしとこう。しとこうよ。
伯爵に助けを求めるが、生憎留守とのこと。途方に暮れるアルベールの前にまたもや現れるアンドレア。
「相変わらず一人じゃなにも出来無いんだな、きみは。(バキューンって感じの手振り)君に未来を知る勇気があるのか!?」と言うアンドレアに、「なんなんだ、お前」と返すアルベール。……ほんと、なんなんですか

いいキャラだなあ、アンドレア。和むよカヴァルカンティ。皆、息詰まるキャラばっかりで、こういう息抜きは必要だよ。ほんと貴重。いや、重要なキーパーソンだってことは解ってるんだけどさ。
ベルッチオとバティスタンのコンビにいいようにあしらわれてるんじゃないかなあ……。
「おっ、その身振りマジいいっすよ! マジ貴族っぽいっすよ!!」とか言われてその気になっちゃってるアンドレア・カバルカンティ侯爵。やべ、ちょっと可愛そうになってきた。

そんなこんなで、しかしアルベール頑張りも虚しく、執事のバロワとヴァランティーヌは毒に倒れる。
この時、何もできないノワルティエ氏の表情が何とも言えんかった。(でもノワルティエもこう見えて、原作では過去にアレやコレや、やってる人物なんだけどな! ほんと、喰えない爺さんです)
そして、その様子をじっと見つめるエドワール。ほんの一瞬なのに恐ろしい子だな。エロイーズは伯爵に向かって「恐ろしい方ね、あなたは」とか言ってるが、お前の子供のほうが恐ろしいですよ!

さあ、それではラストシーンはやはり、この方にしめていただきましょう。

闇色の夢から目覚め、地の底から甦りし背徳の子よ
愛することも愛されることも知らぬ、美しいおまえ
……呪いなり、呪いなり

伯爵、かっこいいヨー!
揺らぐことがあったとしても、その復讐の炎は決して消えることは無い。
矛盾も葛藤も捻じ伏せて、行くは地獄への100マイル。
星四つ★★★★。

【2005/1/4】

第十幕『エドモンからの手紙』

E-D-O-M-O-N-D, Thats my name.

<あらすじ>
毒により、命はとりとめたものの昏睡状態に陥ってしまったヴァランティーヌ。静養と危険回避のためマクシミリアンとアルベールは彼女を連れ出す相談をするが、やってきたヴィルフォールに阻止されてしまう。
その後、ヴィルフォール、ダングラール、そしてモルセールの元に一通の手紙が届く。手紙の差出人には『エドモン・ダンテス』とあった。その名を聞いた時の、両親の反応に疑問を持ったアルベールは、こっそり父親の後をつける。 一方、ヴァランティーヌ救出作戦に出たマクシミリアン、フランツ、ルノーはこっそりヴィルフォール邸に忍び込むのだが……。


さて、第十幕にしてついに、今まで出っぱなしだった伯爵が舞台の袖に姿を消しました。今まで頑張って仕掛けてきた復讐爆弾の導火線に、最初の火を付けに行かれた模様です。
……カチ、シュボ。

ライターの明かりで、線にくくりつけられた名札が見えます……『ヴィルフォール』『ダングラール』『フェルナン』そして『カドルッス』、と。
それをじーっと見ていた伯爵、それぞれの導火線へおもむろに点火。それを合図に、ベルッチオが四通の手紙を持って、何処かへ去って行きました。
伯爵はコーヒーを飲みながら、舞台上を映すモニターを観ておられます。やがてスルスルと幕が上がります。
……火曜サスペンス劇場『〜エドモンからの手紙〜』はじまり、はじまり。

雨降るパリ。ヴィルフォール家では葬儀が執り行われている。
この葬儀、誰のものかははっきり描かれていないが、まぁノワルティエ氏付きの執事バロワの葬儀だと見ていいのかな。
毒入りレモネードを飲んでバロワは死に、ヴァランティーヌは意識不明の昏睡状態となってしまった。
この事態を予測しておきながら、救えなかったアルベール。ヴァランティーヌの傍にいるマクシミリアンを前に無力感に苛まれているのは解る。解るが、「君は眠れているのか」とマクシミリアンに聞いておいて、「体力だけは自身があります」と言わせておきながら何のフォローもしないのはどうかと。
でもここで「……そ、そんなことないよ!」とか言うのも、わざとらしい。沈黙は饒舌に勝るっていいますしね……。

しかし、ともかくこの家にヴァランティーヌを置いておくのはヤバイということで、どうにかして安全な場所に連れていこうとする二人だが、やってきたヴィルフォールがもの凄い勢いで阻止してきたので、さすがに誘拐犯にされちゃまずい、と一旦退却することになるのであった。

一方、ヴィルフォールが手配した調査人ボヴィルは、モンテ・クリスト伯爵の周辺に『モレル商会』や『ルイ・ダンテス』という人物について調べている一人の牧師がいることを知り、早速ヴィルフォールにご報告。
ヴィルフォールが、「よっしゃー、これで伯爵のことを追い詰められるぞ」と、鼻息を荒くしていたところに、「パパ! 今日の学芸会、来てくれるよね!」とはしゃぐエドワールに来られて、ついカッとなったのかどうかはわからんが「パパは仕事が大変なんだ!」とピシャリ。
エロイーズのフォローもなんのその、物理的にドアを閉めることで一方的に会話終了。「黄色いこびとは行かないって、先生に言って!」と叫ぶエドワール。

おい、ヴィルフォール。いやあえてファーストネームで言うならば、ジェラール! 自分で自分のこと「パパ」って言っといてそりゃねえって。 まあなんというか、学芸会の会場にいられても微妙に困るキャラではあるけどな。むっつり拍手とかされてもさ……。
それにしても、ヴィルフォールにとってはどちらも同じ自分の子供なのに、どうも対ヴァランティーヌへの態度と対エドワールへの態度が全然違うような気がすんだよなぁ。
やっぱり昔の奥さんが忘れられないってことなんですかね(エロイーズさんは後妻です)。ヴァランティーヌがだんだんと『初めて出会った頃の、今は亡き妻』に似てくるのを傍で見てるのは、なかなかどうして心穏やかにはいられないかもしれない。
しかも、その娘は『体力だけが自慢』と言う、どこの馬の骨だか、プリンだかわからんマッチョにかっさらわれようとしてるとなると、ちゃぶ台返しどころの騒ぎじゃないだろうが、まあそんなところへ一通の葬儀の案内状が届く。差出人はエドモン・ダンテス。
……過去の悪夢が甦る。

ところ変わって、ダングラール邸ではダングラール男爵とアンドレア・カバルカンティが仲良くお話中。
ユージェニーの話題になると、ダングラールは「いやはや、最近婚約者の家になにかとありましてねぇ」と、何かを匂わせるような口調でアンドレアをチラっと見るが、そこへやってきたユージェニーの持ってきた手紙を受け取ったとたん、あからさまな動揺を見せる。
その様子を見てニヤーっと笑うアンドレア。……以上、成り上がりオヤジと、にわか貴族による寸劇でした。
アンドレアは続けて、ユージェニーにちょっかいをかけようとするのだったが、スルリと逃げられてしまう。がんばれ、アンドレア。そしてもっと私を笑わせてくれ

場面変わってモルセール邸。ヴィルフォール邸から戻ったアルベールは、自宅前の庭を手入れする召使達をちらりと見る。
その様子を見て思い出したのは、使用人がいなくなったため荒れはじめたヴィルフォール邸のこと……やあ、よく気付いたね、アルベール。君の今の生活レベルを維持するには、多くの人の労力が必要なんだよ……って本当に気付いたのかな? まあ、いずれにしましても。

一方アルベールのパパ、フェルナンことモルセール将軍は大統領戦に向けて身辺整理の真っ最中。読んでいる書類には、『ジャニナ』と書いてある。ウーン、それはヤバいモノですなー。
そこへアルベールがやってきたので、急いで書類を引き出しにしまうフェルナン。引き出しの中には書類と共に拳銃が……うわあ、意味深だ意味深だ!
「葬儀の案内が届いてますよ」と手紙を父親に渡したアルベールは、続いてヴァランティーヌを連れ出せるように、ヴィルフォールに頼んで欲しいと言うが、手紙の差出人を見たフェルナンはそれどこじゃない。だって差出人の名は、エドモン・ダンテスなんですから!

そういうわけで、自分のことでいっぱいいっぱいのフェルナンは、アルベールの頼みを「とにかくだめだ!」の一言で(アルベールから見れば)理不尽に拒絶。
アルベールも「頼んだ俺がバカだった!」と、そのまま盗んだバイクで走り出す……ワケではなく、ママのところへ。「エドモン・ダンテスって人を知っている?」と聞くと、あからさまに目が泳ぐメルセデス。
うおー、エドモンって一体誰なんじゃー! ということで、後半へ続く!

さて、後半。不意に出かけたフェルナンを怪しんで、追いかけたアルベールが辿り着いた場所は、廃墟の教会だった。さらに教会の周囲には一人の女が……うん? あれってルイジ・ヴァンパと一緒にいた女(=テレザ)じゃありませんか?
それにアルベールが気付いたかどうかはさておき、フェルナンが教会内に入っていくと、そこには先客が。言わずと知れたヴィルフォール、ダングラール、そして最後の一人カドルッス。
「イフ城で死んだ」はずの男に呼び出された四人の前にあるのは、一基の棺。開けることになったのは、四人の中で唯一の負け組、カドルッスだった。

いつの間にか教会内の告解室に潜入していたアルベールは、その一部始終を固唾を飲んで見守る! どうでもいいが、その潜入スキルはすごいぞ! アルベール!!

カドルッスの頑張りで棺の蓋が開き、スローモーションで背後の十字架がバターンと倒れると、ハトがバタバタと舞い上がる! よっしゃーあとは二丁拳銃が出てくればジョン・ウー三連コンボの完成だ―! (映画監督ジョン・ウーのこと 。彼の作品の多くには、ハト・スローモーション・二丁拳銃の要素が入っている)……というのはまあいいとして、中から出てきたのは「ボヴィル――!」[※注1]

……いや、でもその人知ってるのは、たぶん検事総長ヴィルフォールさんだけですから。多分ほかの三人( + アルベール)は「誰だこいつ?」と思っているに違いありませんから……。
でもボヴィル、せっかくいいキャラだったのに、あっさりお亡くなりになっちゃって、残念でしたね。

一方、フランツ、ルノー、マクシミリアンの三人で結成された少年探偵団。

フランツ:「なあ、ちょっと聞きたいんだが、ルノー呼んだのって君か、マクシミリアン?」
マクシミリアン:「いえ? 自分はお呼びしていませんが。あなたじゃないんですか?」
フランツ:「いや……」

というようなやり取りがあったかどうかはともかく(← もちろん無い。でもルノーの空気っぷりはあまりにも凄い)、三人組のヴィルフォール邸への潜入作戦は成功。無事ヴァランティーヌを保護し脱出する途中、ノワルティエに会う。
無言でエロイーズとエドワールの肖像を示すノワルティエに対し、勘のいいフランツは毒殺犯の正体に気付くのだった。
しかし首尾よく脱出したかと思えた三人組の前には、エロイーズとエドワールが! どうする、どうなる少年探偵団!

場面変わって、時間軸を少し戻しましょう。これはどうやら先ほど棺に入っていらっしゃった、ボヴィルの視点のようです。
どこぞの家(たぶんエドモンの生家)を探索している途中、目の前に現れたのは牧師姿のルイジ・ヴァンパ。
「何をお探しですか? あなたの探している人はこーんな顔をしてはいませんでしたかぁっ!?」 と怪談さながら、顔を剥ぎ取るとそこに現れたのは、のっぺらぼ……じゃなくて我らが伯爵様!!
最後の最後で出てきたーー! しかも魔女ッ子風味の演出で!!……と思ったら、ヴィルフォールの夢落ちでした……。

ラストは、エロイーズ vs 少年探偵団の一触即発シーンに、拳銃を持って殴りこみをかける、主席判事殿の後姿でエンド。以下次幕へ。

……さて、楽屋でモニターを見ていらっしゃった伯爵様ですが、もう出かけられるようです。
ああ、もう行っちゃうの? 色々聞きたいことあったんだけどなぁ。あの魔女ッ子演出はどうでしたー? とか……、ボヴィルを消したのは伯爵様のご指示だったんですかー、それともルイジ・ヴァンパの独断? そもそも、ルイジはいつ伯爵一味になったのーとか……。あー行っちゃった。……まあいいか。サスペンス風味で面白かったですよ。それではまた、来週。

星四つで★★★★。


[※注1]
ボヴィルってアニメの完全オリジナルキャラかと思ってたら、あら。原作にもいたわ……。
岩波版、二巻の「監獄の記録」の章に出てくる「刑務検察官・ボヴィル氏」ね。(一巻「怒れる囚人と狂える囚人」の章に出てくる「刑務検察官」は名無しだけど、ボヴィル氏と同一人物だと思う)。
キャラクター的には、知らずにヴィルフォールの片棒を担いでいたが、普通に自分の仕事をこなすマジメな人、ってかんじでアニメとはちょっと違ってたな。

【2005/1/7】

第十一幕『婚約、破談』

モンテ・クリスト、無常と言うこと。

<あらすじ>
エロイーズと対峙したマクシミリアン、フランツ、ルノーだったが、なんとかヴィルフォール邸からの脱出に成功。マクシミリアンはヴァランティーヌを連れて故郷へと帰っていった。
ヴァランティーヌのいなくなったヴィルフォール家では、夫が妻を毒殺容疑で糾弾し、一方モルセール家では、『エドモンからの手紙』を巡ってフェルナンとメルセデスとの間に亀裂が走る。そしてアルベールもまた、伯爵を巡ってフランツと対立してしまう。
気落ちするアルベールに、伯爵は一つの言葉を贈る――「待て、しかして希望せよ」と。しかし自宅へ戻った彼を待っていたのは、ユージェニーとの婚約の破談だった。


年内最後の放送ということで、この後二週間「巌窟王」はお休みでした。(これ書いてるのは年明けなので過去形)
伯爵もクリスマスやったり、東方宇宙風の正月を過ごされたりなさったのでしょうか。雑煮食ったりとか。そんなノンキなことやってませんか、そうですか……。

でも最終的には、そういう季節行事なんかを楽しく祝えるような伯爵様になってほしい……食べず眠らずクリスマスもやらず、寝正月でダラダ〜ラして、あ〜随分マッタリした番組になったんだなぁ、と思いながら見る『新春かくし芸大会』も無い生活なんて、悲しすぎますもの……(メルセデス談)
で、何の話でしたっけ? あ、そうそう。前回のエロイーズ vs マクシミリアン、フランツ、ルノー組のシーンの続きからですね。

「私の娘に何をしようというのですか?」と余裕たっぷりだったエロイーズが、突然苦しみだしバッタリ倒れてしまったのを幸いに、さっさとトンズラする三人組。そこへ丁度やってきたヴィルフォールは、彼らに追っ手をかける。
シャトー・ルノーのクラシックカーを追いかけるパトカー! もうだめ〜追いつかれる〜というところで、正面からバイクに乗ったアルベールが登場。

「アルベール、ブロックだ!」と叫ぶフランツの言葉通り、数台のパトカーにバイク単体で特攻するアルベール。……無茶な!! さようなら、アルベール。君の勇士は忘れない! 大きな犠牲を払いつつ、ヴァランティーヌ救出(もしくは誘拐)作戦は成功。マクシミリアンは彼女を連れて、実家へ里帰りしたのでしたとさ。

残されたのは、無残に路上に散らばるのはアルベールの手足……ではなく、散らばってるのは彼のバイク(だったもの)。アルベール本体のほうはモチロン無事で、ペッポから甲斐甲斐しく介抱されてました。

その夜、モルセール家。「二十年も前に死んだやつから、なんで手紙が来るんだ……」と、一人頭をかかえるフェルナン。そこへ髪の毛を下ろしたメルセデス登場。……おお、色っぽい。
ズバリ「エドモンから手紙が来たんでしょ」と切り出すメルセデス。修羅場の雰囲気濃厚です
「エドモンは死んだはずじゃ」「あの男をまだ愛しているのか!」「私は彼が死んだって聞いたから……!」アチャー。メルセデス、本音をチラリズム。
メルセデスも、別にフェルナンが嫌いってわけじゃないんだけど、なんていうか。まあその……友達とか、家族として愛してるというかね……。『幼なじみ』だって言ってたしね……(原作だと従兄弟だったが)。

フェルナンはどうしようもなく普通な男だけど、メルセデスのことになると普通じゃなくなるね。
ヤツはメルセデスをどうしても手に入れたくて、99%ムリな状態から残り1%の希望にすがって、清水の舞台から大ジャンプ(K点超え)をしてしまったやつだからな……。
その点では凄いやつだな、って思うのね。でもどんなに努力してもダメ、ってものが世の中にはあるからなぁ。
哀れなり、哀れなりイカロス。ド派手に駆け上がった出世階段を、大回転しながら落ちていくフェルナン父さんの今後にご期待下さい。

さて、両親の話の一部始終を聞いてしまったアルベールは、傷心のまま『部室』(フランツと一緒に借りてるかなにかしている秘密基地みたいなとこ)へ。
しかしここでも、伯爵をめぐってアルベールとフランツは対立。フランツが理路整然と伯爵の怪しさを証明してみせても、アルベールは「誰よりも伯爵の本当の姿を知っているのは俺だ!」で、一刀両断。恋は盲目なり。

一方、フランツ達に放置されたエロイーズは、後から来た夫に介抱されたらしく、無事一命をとりとめていた。しかし妻の倒れっぷりに不信を抱いたヴィルフォールは、どうやらその原因が植物毒にあることをつきとめる。
災難続きのヴィルフォールが、今一番解決すべき点は二つ。第一に「娘を探し出すこと」……こちらは有能な部下にまかせておき、彼自身は二つ目、つまり「事件を外部に漏らさぬこと」を解決するために動き出す。そこへやってきたのが、毒から回復したエロイーズだった。

ヴィルフォールは決意する。自分の今の地位を守るためにはこの女を“切る”しかない! かくして夫は妻を糾弾し、妻は夫に絶望し、狂乱する。
まあなんというか。エロイーズがバロワとヴァランティーヌを毒殺(もしくは毒殺未遂)したことは裁かれて当然なんだけど、彼女もちょっと可愛そうな人ではあるよ。ヴィルフォールからは全然愛情が感じられなくて、子供に全てをかけるのも仕方ないといえば仕方ないと思うんだよねぇ。
子供といえば、エドワール……この後どうなっちゃうんだろう。
このアニメに出てくる人は皆、それぞれにそれぞれの事情があって、誰も憎みきれないよ。私には。

ところでエロイーズが毒殺犯になったのは、伯爵がエロイーズに指輪とガラス瓶を渡したところから始まっているわけですが、あの指輪に仕掛けられていたのが、ヴィルフォールの突き止めたところの「植物毒」で、ガラス瓶に入っていたのが(伯爵の言葉を信じるなら)「鴆毒(チン毒)」[※注1]だった、と。
つまりバロワ、ヴァランティーヌ、そしてアルベールが倒れたのは「鴆毒」の方で、エロイーズが倒れたのは、指輪の仕掛け(多分伯爵の任意で毒を盛ることが出来る)による「植物毒」という解釈で良いのだろうか……。まあそういうことにしておこう。

フランツと仲違いをしたアルベールは、いつのまにか伯爵邸の前へ。「誰よりも伯爵の本当の姿を知っているのは俺だ……」と小さくつぶやいていたところへ、「やあ、アルベールさん」と伯爵が登場。うわ、アルベール……君の恥ずかしい呟き、全部聞かれてたよ
その後伯爵邸へ招待されたアルベールは、伯爵手ずからの中国茶をご馳走になりながら(ちっ、羨ましい)あのセリフを聞くことになるわけだが、ちょっとこれは後回し。

一方フランツは、涙ぐましい努力でアルベールを救おうと、図書館へ調べ物へ。
google検索、チョイチョイチョイと。検索結果は……「gankutsuou」。えええー、なんですかそれ(伯爵ファミリーの公式サイト?)。それにしてもどんなデータベースだか知らんが、gankutsuouとはこれいかにー。 日本語か? それとも東方宇宙語か!?

そんなフランツの(いろんな意味での)苦労も知らず、伯爵邸から帰った後ユージェニーと会うアルベール。
彼女はついに、憧れのオペラ座の舞台に立つことが決まったらしい。「おめでとう!」と素直に喜ぶアルベールに、ちょっと照れるユージェニーがかわいいね。なんだ仲いいんじゃん、この二人。

しかし帰宅したアルベールを待っていたのは、ユージェニーとの婚約が破談になったというニュースだった! 驚き困惑するアルベール。
ま、全ての道は伯爵に通じてるということなんですけどね……。


<伯爵、その人生観>
それでまあ、伯爵とアルベールのお茶のシーンについてですが。
正直、私はここであのセリフが出てくるとは思っていなかったので、ちょっとびっくりしました。原作ではラストに出てくるこのセリフが、この第十一幕で出るとは。
「これから二週間休みだけど、期待して待っててねー」(地上波放映では、年末の二週間は放送が無かった)という意味なのか……とか勘繰っちゃました。

でもよく考えると、このセリフと同様のものは、既に何度か伯爵はアルベールに言ってんだよな。
まずは第一幕で、伯爵の持つ金時計の裏蓋に刻まれていた言葉「死は確実なり、時は不確実なり」。それから、“横っ飛びの回”でおなじみの第五幕、洞窟でアルベールに語るセリフ「私の人生とは、まさにこの箱庭のごとく、虚ろで儚いものなのです」。そして今回の「待て、しかして希望せよ」。
これらのセリフはずばり、伯爵の人生観の断片なのではないかなぁと思う。全体を通してみると、大体こんな意味になるのではなかろうか。

――人生において、確実なことはただ一つ、いずれ誰もがぬという事実だ。このように生の本当の姿というものは、虚ろで儚く、無意味なもの。
しかしだからといって、投げやりになってしまってはいけない。無意味の上に自分なりの意味を打ち立てること、それが生きるということだから。そこには偶然など存在せず、ただ自分の意思だけが、自分の生を決定する。
だから何があっても諦めるな。希望を持って生きろ。

「巌窟王」全二十四幕。前半部が終わるこの第十一幕で、伯爵がアルベールに「待て、しかして希望せよ」という言葉を贈ること……これは、自分の復讐が原因で、これから大変な目に逢うだろうアルベールに対する、伯爵からの戦線布告であり、忠告であり、そして慰めでもあるように思える。

うーん。しかしなんだかんだで、やっぱり伯爵っていい人じゃん。復讐相手の子供に対して、わざわざこんなこと言ってあげる必要なんてないんだからさ。
まあアルベールは、ぽかーんとしたまま「わ、さすが伯爵。なんか良く解んないけど、かっこいいこと言ってる!」ぐらいにしか思ってないんだろうけど。
アルベールが、この言葉を本当に理解した時、はじめて「誰よりも伯爵の本当の姿を知っているのは俺」ってことになるんだろうが、それは伯爵の復讐が終わった後、なんだろうなぁ。

大人の階段を上っていくアルベール。さて、その先にあるものは? ってところで、星四つです★★★★。


[※注1]
鴆毒(チン毒)は、中国の鴆(チン)という鳥の毒だという話もありますが、どうも「空想上の毒」、もしくは「貴族の用いる毒物」の婉曲表現という説が正しいみたいです。ま、「東方宇宙」には実在する毒物なのかもしれないですが……。
詳しくは「鴆(チン)の毒性」をどうぞ。

【2005/1/7】

第十二幕『アンコール』

トロイメライをもう一度

<あらすじ>
お互いの両親の事情により、婚約解消となったアルベールとユージェニー。そんな中ユージェニーは、憧れのオペラ座での初コンサートに臨むことになった。様々な人々の思惑がすれ違う中、破談になった二人の心が近づいていく。
一方、ヴィルフォールはモンテ・クリスト伯爵を捕らえるため、遂に警察を動因。オペラ座を包囲したのだった!


アルベールが前回、両親から破談を告げられたのと同じように、その相手であるユージェニーにも、父親であるダングラール男爵から、婚約の解消が告げられる。
ダングラールはその理由を「モルセール将軍の良からぬ噂を耳にしたから」、と説明したが、ユージェニーには納得できず「私を株か債権のように扱わないで!」と反論する。
うーん、……ダングラール男爵ってマネーオタクだけど、娘のことを全くかわいがってないわけじゃないと思うんだけどなあ。どうなのかな。
シーン最後の「モンデゴめ、しくじりおって……」という男爵のセリフですが、この「モンデゴ」というのはモルセール将軍(本名フェルナン・モンデゴ)のことです。おやおや、きな臭さが漂ってまいりました。

その噂のモンデゴことフェルナン・ド・モルセール将軍は、サングラス着用でなにやら秘密の相談中。相手はあのカドルッス。実はフェルナンはこの男に「お前の過去をバラす」と脅されて、こっそり直談判に来ていたのだった。
「幾ら出せばいいのか」と聞くフェルナンに、カドルッスは一瞬卑屈な態度を見せたあと「ぅぁあぁあるだけ出しな!」と言い、さらに次の台詞を投げつける!
オレの口を、金貨でふさいでおくれよぉ!!」……うわ、これ名言だ! 「待て、しかして(以下略)」を始めに、巌窟王には数々の名言があるけど、今日の名言王はカドルッス、あんたで決まりだ!

さて、演奏会を控えたユージェニーは、自宅の玄関でアンドレア・カヴァルカンティ侯爵と接近遭遇。
「あなたを悲しませるもの、すべてを消し去りたい!」そして、そんなカヴァルカンティ節に引くユージェニー。
「だいたい、愛してもらう理由が無い」という反論に、「人を愛することに理由がいりますか?」と、幽霊ポーズでユージェニーを追いかけるアンドレア。こらこら。どうどうどう!
さらに「モルセール伯爵の不祥事は、伯爵がリークしたんだよ」と教え、「愛する人の悲しんだ顔は、堪らない」と言うアンドレア。
ユージェニーは困惑してるけど、多分アンドレアの言ってる意味は、ユージェニーが考えていることとは違うと思う……「愛憎する人の悲しんだ顔は、堪らなく面白くて愉快で、ゾクゾクする!」っていう意味で言ってんだと思うのな。

その後、ユージェニーはフランツに会い、モンテ・クリスト伯爵の正体について聞くが、フランツにも確かなことは何一つ解っていないので、答えられるはずもない。
ユージェニーは続けて、昔は良かったと言い、アルベールについて「いつからかしら、手も繋げなくなったのは……」と独り言ともとれる呟きを漏らす。
フランツは笑いながら、ユージェニーもなんだかんだでアルベールが好きなんだな、と「ごまかせないさ 誰かを恋しいと想う気持ちは」と、返すのだけど。その、フランツのっ! 苦悩の笑顔がっ!
……どうしようフランツ、ほんとどうしようねぇ。困ったねぇ。でもどうしようもないもんなあ。うん。本当に彼はいいヤツだよね。
その後フランツはいつものあの部屋へ行くが、結局アルベールとは会えず、二人はすれ違っていく。

実はアルベールも時間差でいつもの部屋へ来ていたのだが、結果はフランツと同じ。
どうにもやるせな〜い気分のままアルベールは帰宅し、葡萄棚の下にいるところへ、母メルセデスが話し掛ける。
「アルベール、自分の気持ちを大切にね」その言葉に「……母さんは正直に生きてきた?」と返すアルベール。しかしメルセデスは直接答えず、ただ「ここはパリ。自分次第で何でも手に入る楽園なのかもしれない。でも、勇猛な心を失えば、ただ流されていく」とだけ答えるのだった。

さて、ユージェニーのオペラ座での演奏会当日。客席にアルベールが見当たらず、落ち着かないユージェニーのところへ、リュシアン・ドプレーがやってくる。
自分の母親の愛人をやっている男に、そっけなく対応するユージェニーだったが、ドプレーは「今日ばかりは自分と愛しい人のために弾くべきだ」とだけ言って去っていく。

アルベールがオペラ座へやってこれなかったのは、ダングラール男爵に門前払いを食らわされていたからだった。
ダングラールの手下の黒服スミス軍団に、とっつかまった異星人状態だったアルベールを救ったのは、先ほどユージェニーと話していたリュシアン・ドプレー。
彼は「もう少しうまく立ち回れ」と、アルベールをこっそり舞台袖まで案内してやる。 アルベールは、ドプレーとユージェニーの母親との関係について疑問をなげかけるが、「それは仕事のうちであって、君には一生わからないだろうし、わかる必要も無い」と若干自嘲的に答え、ただしユージェニーの演奏はちゃんと聞いてやれよと、先輩らしい忠告をアルベールに与えた。

ドプレーは今幕では面目躍如! という活躍でなかなか面白かった。彼の生き方については「どうかな」と思わないでもないけど、それが彼の選んだ道。
それにしても、アルベールは皆に愛されているな!

さあ、いよいよユージェニーの演奏が始まります。曲目は、ラフマニノフの『ピアノ協奏曲第二番』。
鍵盤に指が置かれ、キーを叩いた瞬間にグンッと画面がズームアウト。流れる演奏に乗せて、複雑にからみあう登場人物たちを、次々に映し出しますよ!

始めは、舞台袖で演奏を見守るアルベール → オペラ座外に乗り付ける怪奇馬車、あれは、あの馬車は、あの姿は、伯爵ではないですか!
すると、その登場を見張っていた警察官らしき人物が現れる……それはヴィルフォールの配下だった。
一方モルセール家では、暗闇の中で自らの肖像をじっとみつめるメルセデスの姿があった。 → また一方では伯爵邸にて、一人椅子に座り、遠くを見つめるエデの姿があった。
フェルナンは車中で頭をかかえ、 → ダングラール夫人ビクトリアは、桟敷にたった一人で座っている。そしてそれを意地悪く見つめるカバルカンティ。 → どこかの居酒屋で、金貨を指でつまみながら、幸せそうにそば粉のガレット(クレープ)を食べるカドルッス。 → 舞台袖のアルベールに笑顔を向けて、そっと立ち去るドプレー。そして、オペラ座のロビーに到着する伯爵……最後にユージェニーへと戻り、演奏は終了。

舞台袖に戻ったユージェニーは、そこにアルベールがいることに驚く。キラキラ眩い彼女を思わず抱きしめるアルベール。いいぞ! ああ、なんだかジョアのイチゴ味か、サクマドロップのレモン味な感じだよ! きゅんきゅんだよ!!
そこで思い出したかのように麝香葡萄を取り出し、これ、好きだろとユージェニーに差し出すアルベール。
それは違うだろう! というツッコミはユージェニーも同じだったらしく、「普通は花束とかかかえてくるものよ」と若干苦笑いするが、そういえばこいつは昔からこういうやつだった! と思い出す。見詰め合う二人。よっしゃー! 今だ! チューしろーチューだ!! 燃え上がる二人、萌え上がる視聴者!! しかし。
……カバルカンティ、邪魔すんなよ、と。(お約束)。

しかしユージェニーは負けない。「アンコールはあなただけのために弾くから」[※注1]とアルベールに言って、再び舞台へ。
しかしカバルカンティも負けない! でっかい花束をかかえて舞台まで出て行き、花の陰から「この舞台は、このボクがしつらえたのさ」と笑う。
そう、どうやらこの舞台は produced by アンドレア・カバルカンティだったらしい。

舞台袖には再びダングラール男爵が現れ、黒服団が再度アルベールを捕獲! そのままロビーに放り出された彼の前にいたのは……伯爵だった。
はくしゃぐぅ〜〜(うわぁああーーん!)

アルベール:「伯爵ぅ〜カバルカンティーがいじめるよう〜」
伯爵:「どうされました。今日はひどく顔色がお悪いようですが」

……いや、もうこの伯爵の自ギャグ(?)につっこむのはよそうと思いつつ、しかし言わせていただきたい! あなたのほうがよっぽど顔色悪いですから! って。
それよりも、アルベールだよアルベール。そこで伯爵かよ! 伯爵に行っちゃうのかよ!!と。
ま、まぁ……まぁ行くわな。行くね。ちょっと考えると、なんでアンタそこにいるの? と思うけどね。タイミング良すぎるでしょ、ってね。
でもまあ。確かに全ては伯爵のドッキリなのであって、カバルカンティの後ろについてるのだって伯爵なんだけど、アルベールを抱きとめる伯爵は、本当に彼のことを心配していたんだと思いたい。
それを証拠に、今回の伯爵は言葉少なだった! ニヤリとか、してなかった!! なかったよね……なかったと言ってくれ、はくしゃぐぅ〜〜(うわぁああーーん!)

……さて、そのまま寄り添ってオペラ座を出る二人の前に、ザザッと現れたのはヴィルフォール率いる警察の面々……事件はオペラ座で起こっている!
「バロワ毒殺容疑で、モンテ・クリスト伯爵を逮捕する!」とヴィルフォールが吼えたところで、以下続く!!

次幕は、伯爵の華麗なる横っ飛びで、「オペラ座、封鎖出来ません!」となるのか、伯爵の真っ青顔が急に真緑顔になって、「レッツ、キューバン・ピート!」とか言いながらアルベールを小脇にかかつつ、警察の方々と一緒に踊りまくるのか(←映画「マスク」ネタ……ジム・キャリーの出てるやつ)……なんかDOKI DOKIしちゃいますね!
次回予告ではついにロボが出ちゃったり、フェルナン父さんの若い時が出ちゃったり、ちっちゃいエデが出てきたりで、こりゃ来週も見逃せないな……!


<ユージェニーと四人の男達>
さて、今幕の全体を落ち着いて眺めてみると、ユージェニーを中心に、四人の男が次々にからむ構図になってんだなぁと、なんとなく思いました。
四人とはつまり、アンドレア・カバルカンティ侯爵、フランツ・デピネー子爵、リュシアン・ドプレー内務省一等書記官、そしてアルベール・ド・モルセール子爵のこと。
何故この四人はユージェニーの周りに配置され、個別に会話をするシーンを与えられたのか……それは彼ら四人を通してそれぞれ異なる「愛の形」を描こうとしたから、ってかんじですかね。

カバルカンティ=「憎しみ混じりの偽りの愛」、フランツ=「秘める愛」、ドプレー=「計算高い大人の愛」、アルベール=「純粋で素朴な愛」とまぁ、こんなかんじで。
この「四つの感情」は、つまるところモンテ・クリスト伯爵に集約されているってことなんだろうけど……。
伯爵が皆に愛されるアイドルなのは、普通の人が一人では持ち得ない感情をその内に抱えているから、というところが大きいんだろうな、と私は思ってます。

来週あたりから、話がガンガン動きだそうな予感にときめきながら、星四つ★★★★。


[※注1]
ユージェニーがアンコールで弾いた曲は、シューマンの作品集「子供の情景(Kinderszenen)」から、七曲目の「トロイメライ(Traumerei)」です。
「子供の情景」は全十三曲からなる小作品集で、「鬼ごっこ」や「こわいぞ」など、各曲には“子供”をイメージさせるタイトルがつけられています。
……ちなみにトロイメライは“夢”という意味。

作曲者シューマンはこの曲に関して、

『……貴方は、前に私のことを“ときどき子供みたいなところがある”といいましたが、その言葉が私の胸にのこっていて、それがちょうど羽根をあたえられたかのように思えて、この曲を書いたのです』(全音楽符出版社:シューマン 子供の情景とアベッグ変奏曲、解説:門馬直美)

と手紙に書いているそうですが、この『貴方』が指しているのは、後にシューマンの妻になる、クララという女性のことです。

ユージェニーがアルベールに『アンコールはあなたのために弾く』と言ったのは、まさにこのクララの心境だったのかも。
アルベールは子供っぽくてしょうがないなぁ、と思いつつも、そこがあいつのイイトコロだって思っているんだよね。きっと。

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