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【アニメ】「巌窟王」の感想(第十三幕〜第十八幕)

アニメ巌窟王、第十八幕からの感想文。原作を読んでから書いてますから、先の展開は絶対知りたくない! という方はご注意下さい。ネタバレOKの方は、そのままどうぞー。


第十三幕第十四幕第十五幕第十六幕第十七幕第十八幕


【2005/1/19】

第十三幕『エデ』

エデ、あれがパリの灯だ。

<あらすじ>
伯爵を殺人容疑で捕縛しようとしたヴィルフォールだったが、余裕の態度でかわす伯爵に、逆に追い詰められる結果になってしまった。
一方ダングラールに資金提供を打ち切られたモルセール将軍は、軍隊を動かし起死回生を図ろうとする。
伯爵の正体を探ろうとするフランツは、リュシアン・ドプレーを頼り、内務省のデータベースへ侵入するが、今一歩のところで真実まで辿り着くことは出来なかった。
そのころ、伯爵の元を訪れたアルベールはエデと出会い、彼女の身の上話を聞くが……。


ユージェニーのオペラ座でのコンサートは、客席からの大拍手で終了。しかしユージェニーは知っている。この舞台がアンドレア・カバルカンティによって用意されたものであるということを……。
舞台袖をチラリと見る彼女だが、そこにアルベールの姿は既に無い。

それにしても……あ、この時のユージェニーの動き、第六話と同じだ! 凄く特徴的な動き方をする。ちょっとオーバーで能弁な、アニメ以外では有り得ない動き方。
第六話の動きが凄く面白かったから、今回も期待できますか?

さて、オペラ座の外では、今まさにヴィルフォールが、モンテ・クリスト伯爵を「バロワ毒殺の容疑者」として問い詰めているところだった。
ちなみにバロワっていうのは、ヴィルフォールの父親であるノワルティエ氏付きの召使だった人のこと。第十話で毒入りレモネードを飲んでお亡くなりになりました。
もちろん真犯人はエロイーズなのだけども、ヴィルフォールはその罪を伯爵にかぶせることによって、身内の大スキャンダルを隠し、かつ妖しい雰囲気プンプンの伯爵を逮捕! という一挙両得を狙った、というわけ。

さて、伯爵への殺人容疑の証拠として、毒の仕掛けられた指輪を伯爵へ突き付けるヴィルフォールだが、伯爵はあっさり「それは確かに、私が奥様に差し上げたもの」と認めてしまう。
その上で、それでは殺人の動機は? と聞く伯爵に、ヴィルフォールは「東方宇宙の残虐な習慣、快楽殺人だ!」と言って、強引に逮捕に踏み切ろうとするのだった。

しかし、伯爵の余裕の態度には理由があった。「私には証人があります」と、その手で指し示す先にいた人物は……

エロイィーズっ!?

もの凄いリアクションで驚く主席判事殿。それもそのはず、エロイーズはヴィルフォール自身の手で病院送りになっていたはず! しかし、どうやら伯爵にインターセプトされていた模様です。
そんなわけで「判事殿のみ込み違いですな、ハハハハ」と言って、悠然と伯爵は去っていくのでありました……アルベールは置き去りのまま。

それにしても判事殿、ツメが甘すぎます! こんなアバウトな理由で、伯爵を逮捕をしようとするとは。
それに動機が『東方宇宙独特の快楽殺人』だなんて、伯爵に大爆笑されてもしょうがないような気が……。もっとマシなのは無かったのか。
大体、「バロワ殺人事件」で伯爵に容疑をかけているのに、そこにエロイーズ殺害容疑までのっけた上、証拠として挙げてみせたのが「毒仕掛けの指輪」ってのも、ちょっとズレちゃいませんかと。

確かに指輪から検出される毒(=エロイーズがぶっ倒れた原因)と、バロワが死んだ原因となった毒が、同種ならそれなりの意味がある思うんだけど、私は指輪毒=植物毒で、バロワの死因=鴆毒(チン)毒だと思っていたので……この辺どうなんですかね。
伯爵の言う「鴆毒(チン)毒」が「毒殺用の毒の総称」という意味だったら、両者の毒が同種だってことも有り得るよなぁ、とかまあどうでもいいですね、そんなことは。

さて、オペラ座の演奏会の終ったユージェニーは、結局その演奏会は自分の実力のみで勝ち取ったものではなかったと知り、がっかりする。
失意のユージェニーに近づき、さり気に手の甲にチューするカバルカンティ。ユージェニーしっかりしろ!

一方、フェルナン・ド・モルセール将軍はダングラール男爵から、資金援助の打ちきりを告げられていた。
「エドモンの件か?」と聞くフェルナンに、ダングラールはニヤニヤ笑うのみ。こらこら、フェルナン。確かに全ての元凶はそれなんだけど、実際に君のアキレス腱となる事件はそれじゃないのヨ。
「選挙に勝ったら連絡をくれぃ」と言って去って行くダングラールを尻目に、窮地に立たされたモルセール将軍は、ある決意をするのだった。

その頃、ヴィルフォール主席判事もまた、リュシアン・ドプレーから悪い知らせを受けとっていた。
それは、先日のモンテ・クリスト伯爵への追求を耳にした保安総局が、ついにヴィルフォールへ職務停止命令が出すのではないか、という話だ。焦るヴィルフォール。しかしどうする事も出来ない。

さて、上記二人よりは余裕があるように見えるダングラール男爵。
娘であるユージェニーは、笑い顔百面相のアンドレア・カバルカンティ侯に押しつけておいて、自分はマネーゲームに余念がない。
「さて、はじめようかミシェル……超超高密度物質マーケットだ!」と、早速カバルカンティーから得ていた有利な情報を使って、ブラックホールの先物取引を開始。
それにしても、ダングラールはミシェルと仕事してる時が一番楽しそうだな! あの生き生きとした目を見よ!!
ユージェニーを可愛がっていないわけじゃないし、ヴィクトリアが嫌いなわけでもないけど、いかんせん価値観の違いはどうしようもない。

さて、楽しくゲームを開始するダングラールだったが……当然のことながら、それはワナな訳ですよ!
「ダングラール、アクセス開始」と、やたら嬉しそうにオペレーター役を努めるベルッチオ。「よし、売れ」「承知!」「たらふく食わせて、十分に肥え肥らせてやれ」
……ヘンゼルとグレーテルの魔女みたいなノリ、で、伯爵もご満悦。

そんなこんなで、親世代三人衆が次々と伯爵のワナひっかかっていく一方で、フランツは一人「gankutsuou」について調査を続けていた。
しかし、「宇宙随一の情報量を誇る」という王立のデータベースにも、ヒット無し。どうやら閲覧禁止ワードにされているらしい……そこで呼ばれたのがあの男、内務省一等書記官リュシアン・ドプレーだ。

「今日は親友と一緒じゃないのか」と聞くドプレーに、うるうる顔のフランツ。なんだその顔は。ユージェニーといい、フランツといい、ホントしっかりしろ!
カチューシャ型ヘッドセットをつけ、ドプレーの「行くぞ!」という掛け声に、両手でグーをするフランツ。今日のフランツは妙に乙女入っている。
……さあ! それでは皆さん、いよいよ内務省直轄のデータベースへ参りま〜す! 検索ワードは『gankutsuou』。『リュシアン・ドプレー、一等書記官S種。閲覧を許可する』

巌窟王は暗闇の王』『その顔を見たやつはいねぇ』『それは千年ほど昔、銀河辺境に現れ、裏社会を支配しようとした』
……フランツ:「侵略者?
『それは人の欲望を喰らい、支配する。だが宿命に負けた』『ルイ・フィリップ歴4002年、6月捕縛され、拘禁された』『これ以上はお答えできない』
……ドプレー:「勅令! 53号を発令する!」
巌窟王はイフ城に収監された』『5043年12月23日、死亡を確認』
……ドプレー:「十年前? その囚人の名は?」
『囚人の名は“仮面の男”』『至急アクセスを中止せよ』
……ドプレー:「53号の特記時効3を発令!」
『不正アクセス……』

おーっと残念! あと一歩ではじかれ、追い出される二人。
手がかりが無くなったとガックリするフランツに、ドプレーは「ノワルティエ老人なら何か知っているかもしれない」と、アドバイスする。 どうやらノワルティエには、その昔は内務省のトップだったが、プリンス暗殺事件で失脚したという過去があるらしい。
さらにノワルティエは、帝国(=地球側との敵対組織)との和平推進派だったため、その子供であるヴィルフォールは、主戦派が主流の時代の中、出世に苦労したのだと言う。

ややや、しかしリュシアン・ドプレーとフランツのコンビがこんなカッコイイシーンになるとは思わなかったなァ。フランツもアルベールといると大人っぽいと思うけど、ドプレーと一緒だと、やはりまだまだ十五歳ですね!?
カチューシャ型デバイスとか、仮装空間の描き方や、対話型AIとの会話、エマージェーンシーコールなど、視聴覚的に楽しいギミックが満載だったけど、『巌窟王』に関する具体的な描写があったのも見逃してはいけない。
まあ、それについてのツッコミはちょっと後回しにするとして。

一方、おいつめられたヴィルフォール。その手にあるのは例の職務停止命令書だった。
父さん、地位も家庭も失ったこの私を、笑っているんでしょうね……」とノワルティエを前に語る主席判事。
四十がらみのオッサンが、四肢の不自由な父親に向かって「父さん、俺はあんたを超えようとがんばった!」とか言っちゃってます。ヴィルフォール青い、青いよ! その左手薬指の指輪がまぶしい、まぶしすぎる……!
「しかしこのままでは終らん!」と、その手に銃を握って誓う判事。……ヴィルフォール。あなた、また鉛玉で物事を解決しようとしているのだな。

このように、銃弾一発で全てを解決しようとする男がいると思えば、こちらはスケールでかく宇宙艦隊でもって、事態を収集しようとしている男がいた。その名はフェルナン・ド・モルセール将軍。
「ジュネーブの和平交渉を待ってからでも、遅くないのでは」という部下の注進を無視し、攻撃命令を下すフェルナン。これで支持率も大幅アップ! するといいですけどね……。

さて、冒頭にチラっと出て来たエロイーズはどうなったの? といいますと、どうもお子さんと一緒に、伯爵の不思議時空の館にいらっしゃる模様。童心に帰って砂遊びをするエロイーズに、一見無表情にも見える視線を向ける伯爵。
その表情はともかく、私ぁ伯爵様のお召しになっていた、白いシャツの胸元のほうがずっと気になりました。
オフモードの伯爵の衣装がとても気になります。プロモーション映像に入っていた、着物っぽいガウンみたいなのは、本編では着ていただけないでしょうか。
お休みになる時はどんな服を……着ていらっしゃるのか……シャネルのNo.5? とか えええ?
――『不正アクセス、思考を中断して下さい』。

場面はシャンゼリゼ通り30番地。外をチラリと見る伯爵。
しばらくしてやって来たのは、当然のことながらアルベールだった。しかしそこには伯爵はおらず「病で伏せっておいでです」と答えるエデがいるのみ。
……おや、伯爵。仮病をお使いになりましたね?

「こういう時、伯爵は私にしかお会いになりません」と言うエデに、「エデさんは信頼されているんですね、伯爵に」とむくれるアルベールだが、「アルベールさんは伯爵のことがお好きなんですね」と返され、「ええ、まあ」とまんざらでもない様子。
しかし、エデが伯爵に『買われた』と知り、それってどういう事でスかー! とアルベールが驚いたところで、部屋の格子戸がススーッと引き、エデの身の上話しがはじまるのだった。

エデは東方宇宙と、地球を含むこの王国との間にあった国の王女だったが、両国の戦争が激化するにつれ、エデの父親はどちらかの陣営につくことを余儀なくされた。
王が選んだのは地球側との同盟だったが、それが間違った選択であったことをまもなく身をもって知ることとなる。
地球側はエデの父親を汚名を着せて裏切り、エデと母親は身分を奪われて、奴隷となった。 やがて母親は失意のうちに亡くなるが、その後エデを拾ってくれたのがモンテ・クリスト伯爵だった――というわけ。

ここで描かれるエデと伯爵の初顔合わせのシーン、とても良いね。
帽子を取り、かがんで手の甲に恭しくキスですよ! この時、エデには伯爵が王子様に見えたに違い無い。四十前後のオッサンでも(この頃は三十代だったかも)、少々顔が青くても問題無いよ!
伯爵にとってエデは、大切な手駒の一つであり、共謀者であり、娘であり、それから……それからなんだろね?。原作既読者にとっては「それから」の後が気になるところなんですよ……。

エデの身の上話しを聞いたアルベール。すっかり打ちのめされて「僕ってバカですね」宣言。
しかし二言目には「彼女にも良く言われるんです」と、ユージェニーを勝手に『彼女』よばわりしつつ、ちゃっかりノロケ話にするという、天然ぶりをアピール。
とは言っても、アルベールは基本的に素直でいい子なので、エデはそのことを憎からず思っているはずだ。「エデさんも琴、お上手ですよね」[※注1]と誉めたのも、お世辞じゃなく本心だったんだと思うしね。

アルベールが帰った後、やってきたのはその真逆の男。憎まれっ子世に憚る、を地で行くアンドレア・カバルカンティだった。
「お坊ちゃまは気楽なもんだよなぁ! おやじのケツに、火がついてるっていうのによぉ!」ですってよ。いいぞ、カバ侯爵。アルベールのものまねも結構イケてるし! でも女の子の顔をギューギュー掴むのは、よろしくない。そんなことしてると、

手を離せ

……ほら、言わんこっちゃない。伯爵(「巌窟王」起動済)に怒られたー!
しかし、カバルカンティの言動は、エデの中にある、拭い去り難いある感情を表に出すことに成功していた。
エデも結局のところ、その復讐の気持ちを忘れることなど出来なかったのだ。めぐり巡る因果の輪。その中心にいるのは、勿論伯爵だ。
「ジョジョ! 俺は人間をやめるぞ!!」……そして彼はここにいる。

エデを慰めることもなく背後に置き去りのまま、伯爵は扉を開け放つ。彼の前にいたのはヴィルフォール。その手の中に光る銃口!
エデよ、見るがいい。全てはもう遅いのだ。サイははるか昔に、投げられているのだから。
しかしその時、伯爵の視線の端を横切ったのは、アルベールだった! 伯爵、ヴィルフォール、そしてアルベール。三人三様の永遠の一瞬、そして響き渡る一発の銃声……というところで以下、次幕。


<gankutsuou>
第十三幕では、ドプレーとフランツの頑張りで、巌窟王の正体が少し明かになった感があるけど、『人の欲望を喰らい、支配する』ってどういう意味だろう。SFっぽく考えるなら、『人間に寄生し、その欲望を喰らって生きる異星生物』ってなかんじですかね。
まあよくわからんので、とりあえず解かってきた重要事件だけ、年表にしてみるか。

<ルイ・フィリップ歴>

【4002年6月】:巌窟王、捕縛。イフ城に拘禁。

--- 1000年ほど経過 ---

【5033年頃】:プリンス暗殺事件。(同時期、エドモン捕縛。イフ城へ)
【5038年頃】:アルベール生まれる。
【5043年12月23日】:巌窟王の死亡を確認。その囚人の名前は通称“仮面の男”。(エドモン脱獄 → モンテ・クリスト伯爵に?)
【5053年頃】:現在に至る。

プリンス暗殺事件については、第六幕で『あれからもうニ十年になるのねぇ〜』と言っていた奥様がいたので。
ところで、“仮面の男”って、原作者デュマのもう一つの代表作「三銃士」シリーズの十作目の題名でもあるよな……。ううむ、いろいろひっぱってきているな!
(これでファリア神父がどうからんでくるのか……っていうか人間ですらないのだろうか……それともファリアも寄生されただけで、元は人間なのかも……仮面の男ねぇ……。それにしても12月23日に『巌窟王』の死亡を確認? モンテ・クリスト伯爵の名前も相まってなんだか意味深な……ブツブツ。)

さて、最後に今週の星の数ですが。カバルカンティの縦ロールがいつもより、巻きが浅かった気がするのを別にすると、文句無し。
……なので、星五つです★★★★★。


[※注1]
エデが弾いている楽器は、原作では「グズラ」という楽器ですが、これは

馬の毛をよった一本の弦を、弓でひく楽器
(講談社:痛快 世界の冒険文学15「モンテ・クリスト伯」、著:松村友視)

ということなので、アニメの竪琴とは別物みたいです。

【2005/2/20】

第十四幕『さまよう心』

Fly me to the space

<あらすじ>
ヴィルフォールの突然の発砲事件で、左肩に傷を負った伯爵だったが、幸いベルッチオとバティスタン、そしてアリの活躍もあり、大事には至らなかった。
一方アルベールは、ユージェニーとカバルカンティの突然の婚約を知り落ち込む。そんな彼に、伯爵は「一緒に宇宙へ行きませんか?」と声をかけるが……。


ヴィルフォール vs 伯爵のすごい引きで終わった前回。アルベールが「伯爵ぅーー!」と言いながらタックルしたおかげで、ヴィルフォールは伯爵を撃ち損なってしまう。続いて逆ギレのヴィルフォールが、その銃口をうっかりアルベールに向けたもんだから、さあ大変だ!
伯爵、巌窟モードで逆襲 → 風神拳でヴィルフォールは宙に舞い、伯爵の空中コンボが炸裂 → ヴィルフォール逮捕。……とまあそういう感じ(途中一部創作あり)で、割とあっさり目の捕り物帖と相成りました。
「アルベール、次はお前だ!」と叫びつつ、検事総長殿はここで一旦退場。……でも彼については、たぶん最後の隠し玉(カバルカンティ絡みの)がある(と思う)ので、後でもう一度活躍の場があるんじゃないかなぁ……あるといいな……と思ってます。

で、どうも伯爵様はアルベールを庇った時に左肩に被弾なさっていたようで。
この自己犠牲……なんなんだろ。反射的に動いてしまったのか、それとも「人の得物に手ぇ出してんじゃねえぞコラ!!」なのか、良く解らない。この人は本当に良く解らないんだ……。
ともあれ、その対価は結構なお値段がついたらしい。伯爵は銃で撃たれてもわりと平気なんじゃ? と思っていたので意外だ。

それにしても、アリのエイリアン式治療法はともかく、伯爵の皮膚がスケスケってどういうことなんだろう……ポリゴン欠け? 塗り忘れ? 処理落ち……限りなく透明に近いブルー??
どっちにしろ、伯爵がこんなんなってるってことは、「イフ城」あるいは「巌窟王」恐るべし! エンディングの「伯爵にチューブがダーッと殺到する絵」とか見ても、伯爵は原作より相当酷い目にあってるんじゃないだろうか。過去編が心配になってきたよ……。

さて、アルベールの家には久々のマクシミリアンが登場。久々ついでに、さらった彼女を(当初は彼女とも言えない間柄だった気もするが)「ヴァランティーヌ」と呼びすてしているところがニクイ。
これでヴァランティーヌが了解してなかったとしたら……おいおい、これってヴァランティーヌにとっては結構ホラーなシチュエーションじゃあるまいか?

それはともかく、マクシミリアンが再びパリへやってきたのは、ヴァランティーヌの元に、ノワルティエを連れて戻るためだった。そのついでにアルベールの所に寄ったということらしい。
こうしてすっかりサワヤカ青年となったマクシミリアンは、「君と出会えて良かった」とアルベールに告げ、朝日の中へ消えて行くのでありました。めでたしめでたし、エバーアフター……なーんてね。
マクシミリアンの実家「モレル商会」は、伯爵とエドモン・ダンテスを繋ぐ重要なポイントなので、まだまだマクシミリアンも退場できないはずだ。

一方、すっかりカバルカンティの虜になってしまったダングラール。
失脚したヴィルフォールや、おしりに火のついているモルセール将軍と違って、「オレは大丈夫だ」と思っているのかもしれないが、そんなわきゃあない。
ちゃっかりカバルカンティと娘のユージェニーを結婚させて、財産をさらに増やそうという魂胆なのだが、カバルカンティが伯爵の紹介でやってきた男だってことをコロリと忘れているあたり、あんたヌケ作だよ!
『剣によりて生くる者は、剣によりて死す』とも言うが……果たして金によってのし上がった者は、どうなるのか? ダングラール男爵におかれましては、後ろ暗い過去と、無制限貸出に十分気をつけたほうが良いと思われます。

さて、ブン屋のボーシャンは、「モルセール将軍の特集を組むから」という名目で、アルベールを体育館裏……じゃなく新聞社に呼び出す。
ペン型録機を向けられ、緊張しつつも父について語るアルベール。曰く「誠実で、ジャニナを守った英雄で、次期大統領の最有力候補だが、実直すぎる性格なので政治家にはあまり向いていないかも」、とかなんとか。

熱心にメモを取るボーシャン……と思いきや、書いているのはただの落書きだ! ボーシャンにとってこの取材はただの前フリ。取材はこれで終了〜とばかりにおもむろに録音機のスイッチを切ると、アルベールがホッとしたところで、何気なくカドルッスの名を出す。ギクッとするアルベール。あっさりひっかかりおって……。
その態度一発で、カドルッスからのタレコミに真実の一片を見たボーシャンは、調査を開始することを決める。

ボーシャン別れた後、パリの待ちを歩いていたアルベールは、偶然街角で見たテレビ番組で、ユージェニーとカバルカンティの婚約を知る。
ダングラール家に走るアルベール! またもや正面突破を試みるが、もちろん玉砕。「少しは頭を使え」とリュシアンに言われたの、覚えてないのか。
しかしこの婚約にドッキリしたのは、アルベールだけではない。ユージェニーも、突然自分の婚約を知らされて驚き、雨の中アルベールを捜そうとするが見つからない。それもそのはず正面突破玉砕の後、例の秘密基地に引篭もったアルベールが見つかるはずもない。

さて、そうやって一人ワールドを展開するアルベールの下に、フランツがやってくる。お互い気付かないフリをしつつ、ドングリを投げあったり、取っ組み合いになったりで、なんだかんだで仲直りをする二人。
周囲の環境変化にとまどうアルベールは、「どんなことがあっても、オレはオレだよな」とフランツにすがるように言うが、そこへ偶然落ちてきたのは伯爵の金時計……『死は確実、時は不確実なり』! しかしてフランツは決意する。自分がただ一人で真実を探り、アルベールを救ってみせると!!
しかしボンクラなアルベールには、このフランツの海より深い愛はてんで伝わっちゃいなかった。アルベールはフランツにまで捨てられたと勘違いして、「俺たちも終わりにしようぜ」とフランツに背を向ける。その背を追いかけるフランツだが、間に合わないのは当然のお約束。

そんな不憫王フランツから、アルベールをかっさらうのは当然、巌窟王モンテ・クリスト伯。雨の中、橋の上を歩くアルベールに、偶然にしちゃあ出来杉君のタイミングで、伯爵の馬車が横付けされる。
「これからちょっとコンビニへ」ぐらいのノリで、「これからちょっと宇宙いくけど、乗ってく?」と誘う伯爵。「今日は遠慮します」と言うアルベールに、あっさり引き下がる伯爵。
あれ、伯爵行っちゃうのー? と思っていたら、発進した馬車が再び停止。伯爵はわざわざ下車をしてから、アルベールの所へ行き、こう言うのだたt。

「そんな顔のあなたを置いていけるわけがありません。さ、一緒に行きましょう」

伯爵……あなた、どこの詐欺師ですか?
しかもその裏では、カバルカンティはユージェニーに「アルベールは宇宙に行っちゃったYO」とか言っていたりして、ナイス連携プレー!! 伯爵ファミリーに死角無し

宇宙船へと乗り込んだアルベール。雨にぬれていたからだと思うが、チャッカリ伯爵のシャツとか着ちゃってたりする。
「何が嘘で、何が真実かわからない」とつぶやくアルベールに、「あなたは大丈夫」と笑顔で太鼓判を押す伯爵。確かにアルベール「」大丈夫「かも」しれないが、その周囲では地雷やらワイヤートラップやらが、次々と作動してますから!!

ほらっ、モルセール将軍さん。すごい顔で笑っている選挙ポスターの下で、これまたすごい笑顔でこぶしを突き上げるあなたの足元! 足元見てー!! メルセデスと家族愛あたためてる場合じゃないですよ!!

……さて、ラストシーンです。ついに、『今夜のその時』がやってまいりました。

「車を用意しなさい! 議会場へ参ります!」

ついにエデが立った! エデが立ち上がった! 来週、いよいよ明かされるモルセール将軍の過去。
ほらほら、アルベール。伯爵と二人で盛り上がってる場合じゃないぞ……。


<プロジェクト巌窟王〜復讐者たち〜:予定表・最新版>

復讐対象者 復讐理由 【担当者】 / 復讐方法
フェルナン・ド・モルセール将軍(本名:フェルナン・モンデゴ) エドモン・ダンテスへの裏切り行為と、その後のメルセデスとの結婚 【伯爵】 / エデを使った間接攻撃(予定)、アルベールを使った間接攻撃(進行中)、カドルッスを使った間接攻撃(進行中)
ジャニナでの裏切り行為 【エデ】 / 議会場での告発(予定)
ジェラール・ド・ヴィルフォール主席判事 エドモン・ダンテスの無実を知りながら、イフ城送りにしたこと 【伯爵】 / 復讐対象者の妻に毒殺スキャンダルを引き起こさせる(作戦終了) → ヴィルフォールは、やや自爆気味に失脚。エロイーズはほぼ廃人に。
遺棄されかけた 【アンドレア・カバルカンティ侯爵(本名:ベネデット)】 / ヴィクトリアとの不倫と、隠し子の存在をバラす(予定)
ダングラール男爵 エドモン・ダンテスへ無実の罪を着せて、イフ城送りにしたこと 【伯爵】 / 「無制限貸出」の権利を使って、ダングラール銀行を破産させる(進行中)
(ダングラール夫人ビクトリアに)遺棄されかけた 【アンドレア・カバルカンティ侯爵(本名:ベネデット)】 / 父親違いの義理の妹ユージェニーとの結婚(進行中)

結構いろいろ仕組んでらっしゃいますな……。これでも「主な復讐手段」だけ選んであって、その他いろいろな細かいネタ(馬のエクリプスの件とか、ボヴィルの件とか、その他)は省いてあるんだよな。
ちなみに原作では、復讐対象者:ジェラール・ド・ヴィルフォール主席判事の【担当者】 に、ベルッチオも入っているんだが、アニメではどうなのか解らないので、(省略されているかも)こちらも省いてあります。

ところで、この「プロジェクト巌窟王」。伯爵ファミリー側では、やっぱりフローチャートとか作っちゃったりしてるんですかね? だって、そうじゃなきゃあんな連携プレイ出来ないような気がする!

ベルッチオ: 「……エデ様が動かれた。Phase14から15へ移行せよ。修正ファイルを各自チェックし、伯爵様からの指示を待て」

次幕あたりの裏舞台では、ベルッチオがこんな指示を出していたりするんだよきっと……!!」(←妄想です)。

そんなこんなで、毎回クライマックスな巌窟王。このままの勢いで、ぜひ最後まで突っ走っていただきたい、と願いつつ。星5つです。★★★★★

【2005/2/20】

第十五幕『幸せの終わり、真実の始まり』

故郷から二十五光年

<あらすじ>
エデはモルセール将軍を糾弾するため議会場へと赴き、フランツは巌窟王の謎を追ってノワルティエの記憶を遡ることになった。
一方、伯爵と共に深宇宙へ旅立ったアルベールは、伯爵の『古い友人』だという人物の話を聞かされる。


……全ては「必然」の結果として、伯爵とアルベールを乗せた宇宙船は、二十五光年の距離を駆け抜けていきました。
ここから見る故郷の光は二十五年も前の光なのだ、と知って単純に驚くアルベール。
しかし伯爵にとって、アルベールが望遠鏡のレンズ越しに見る光は、自分自身の二度と手の届かない過去そのものだった。
そして今、その光景は二十五年の歳月を越えて、再び繰り返されようとしている

「宇宙から見れば、僕の悩みなんてちっぽけなもの……」確かに星々から見れば、アルベールの悩みも伯爵の苦悩も、取るに足らないものなのである。
だがそれ故に、伯爵は復讐をしなければならなかった。取るに足らない、しかしただ一度の、かけがえのない己の人生のために
そして彼は今、静かに待っている……「繰り返される過去」の再現を決定する、最後の引き金が引かれる、その瞬間を。

一方フランツはただ一人、巌窟王の謎を追ってマルセイユへ旅立っていった。
出発の前、彼はユージェニーに会い、「この先何が起ころうとも、自分を見失うな。真実は自分自身で探すんだ」と言う。
フランツの頼もしさは、とてもアルベールと同い年とは思えないぐらいだが、事態はまさにフランツの予言めいた言葉通りになっている。……なにしろ相手はあの、モンテ・クリスト伯爵なのだ。

さて、そのころ伯爵は、地球から遥か遠く離れた場所で、優雅に水ギゼルをふかしていらっしゃるところでありました。
傍らにいるのは、伯爵とペアルックで「おりひめ・ひこぼし」模様の東洋風ガウンをはおったアルベール・ド・モルセール。
フランツが見たら(いろんな意味で)目を剥くような光景かもしれないが、それはともかく、伯爵はアルベールに「昔は自ら船を操り、宇宙を旅していました」と語りかけ、続けてとある『古い友人』の身に起きた出来事として、ある物語を話し出すのだった。

その『古い友人』には婚約者と親友がいたのだが、密かにその『古い友人』の婚約者を愛していた親友は、友人を裏切ったあげく無実の罪をきせた。
『古い友人』は十数年も牢獄に閉じ込められた末に、奇跡的に故郷へ帰ることができたが、婚約者はその親友と婚約してしまっていた……そして彼は二度と地球へは戻らなかった。

「なぜ婚約者は、『古い友人』という方が戻るのを待てなかったのでしょうか?」と聞くアルベールには、伯爵も「それはこっちが聞きたいよ!」と言いたい気分かもしれない……(いや、メルセデスは充分待った、と私は思ってるけど)が、アルベールが「人の心が信じられないと思うことが、一番悲しいこと」だと言って流した涙は、伯爵にとって感慨深い気持ちを起こさせたように見える。

まったく、目の前のこの少年はなんと幸せに満ちあふれていることか。だからこそ見たこともない他人の話を聞いただけで、素直にここまで共感することが出来るのだ。まるで二十五年前の自分のように……。
しかし一方で、伯爵はそれとは全く別の感情が自分の中にあることも感じているだろう。目の前の無力で鈍感な十五歳の少年を、徹底的に叩きのめしてやりたいという衝動を。

だからアルベールの「僕達だけは、例外であると信じましょう!」というセリフに、伯爵は応えられない。たとえ嘘でも「そうですね」と言うことは出来ない。
なぜなら、アルベールに対する限りない同情と憎悪、この二つの相反する想いが伯爵を引き裂いているから。
結局、アルベールに対し伯爵は「あの時計はまだ時を刻んでいますか?」とだけ言い、遠からず自分がパリを去ることを告げる。

伯爵が、自分から距離を置こうとしていることに感付いたアルベールは、あふれる想いをそのままの勢い(いやぁーっ若いって、本当に良いものですね!)で伯爵にぶつけるが、それを伯爵はやんわりと受け止める。

「いつか再び同じ質問をしましょう。はたしてその時、あなたは私を想って下さるか……」

それはアルベールへの挑戦と、嘲笑と、かすかな希望をこめた言葉。
その時ベルッチオが伯爵に、パリからの知らせを告げる。……Time has come.

マクシミリアンの実家、マルセイユへやってきたフランツは、ノワルティエに「巌窟王」について訊ねる。すると、ゴトリという音が……!? 落ちてきたのはノワルティエの腕だった! さらにパカパカパカッと手首の部分が開き、出てきた物は一本のペン。
どうやらこのペンによると、あるパスワードによってノワルティエの心の中へ入ることが出来るようになるらしいのだが……。
ここでフランツは、そのパスワードについてヴァランティーヌが何か知っているのではないかと考え、眠るヴァランティーヌに呼びかける。その呼びかけに応じたヴァランティーヌは、夢の中でノワルティエに結びつくあるイメージを思い出す。
それは自然界には存在し得ないもの……「青いバラ」だった。
その言葉をパスワードに、フランツはついにノワルティエの心の中へと入っていく。

宇宙の彼方、イフ城の禍々しくも壮麗な姿、映画マトリックスを彷彿とさせる強烈なビジュアル。
チラリと映る金髪・片めがねの男……あれは若ヴィルフォール!? なかなかの美貌っぷりじゃないですか。そして鉄格子の奥にうずくまる、白い礼服を着た男……『巌窟王、それはエドモン・ダンテス

同時刻のパリ。アルベールの父親、モルセール将軍の大統領選挙演説の会場に、アリをつれたエデの姿があった。
「モルセール将軍の応援演説に来た」と言い、エデは壇上へと上っていく。
「私の名はエデ・デブラン! あなたが陰謀に鎮めた父、絶望の果てに死んだ母の娘です!!」と、フェルナンを弾劾するエデ。
「これは陰謀だ!」と叫ぶモルセール将軍こと、フェルナン・モンデゴだが、エデのの一括であっさりビビってるあたり、ほんっと小心者! 政治家やるならもっとズ太くなきゃあ……。確かにそういう意味じゃ、アルベールの言うとおり、フェルナンは全く政治家向きじゃない。
すっかり叩きのめされたフェルナンに替わり、しっかり者のメルセデスは、エデに証拠を求める。
エデが首に巻かれたチョーカーを外すと……そこに現れたのは、奴隷の印! それを調べれば、その当時のデータが調べられるという仕組みになっているようだ。
フェルナンの過去は、このように絶妙なタイミングで暴かれ、彼の名声は地に落ちた。

こうしてエデは、自らの復讐を遂げたが、それは彼女にとっても後味の悪いものだった。
「私は間違ってない、それなのに――」そんなエデをなぐさめようとするアリの手をとって、彼女は「こんな思いを伯爵にさせてはいけない!」と自分に言い聞かせるように言うのだった。

このエデの告発シーン、私としてはもっと大々的にやるものだと思っていたのですが、案外コンパクトにまとまっていたので、もうちょい迫力があっても良かったかなぁと感じたけど、でもこの後のシーンを考えると、このくらいで丁度良かったのかもしれない。
それにしても、「十年前、四つの時に伯爵と出会った」ってことは……エデは今、十四歳!? そんなバカな!! 原作と比べるといろいろと、計算とかが、合わない気がするんだが……。ううむ、SFかな!?(無理やり納得)

さて、アルベールと伯爵を乗せた船は、再び太陽系へと戻って来ました。ワープアウト先はおそらく土星付近か。
伯爵はアルベールに、「スパダ号[※注1]を使って地球へ帰り、父親のそばにいて差し上げるのです」と勧める。
突然の伯爵の帰宅のススメにとまどうアルベール……しかし伯爵は、有無を言わせずアルベールの手を取りこう告げる。

「あなたはついに、すべてを知ることになる。……さようなら、アルベール

自らの名を叫ぶアルベールを背に、隔壁を閉じる伯爵。一瞬振り向いた表情に浮かぶのは、哀しみか哀れみか。

アルベールが去った後、一人部屋に佇み天を仰ぐ伯爵の姿があった。その右手を光にかざした瞬間、椅子に倒れこむ伯爵。病(巌窟王の侵食率)が悪化したのか? と見ていると、どうもそうではない。泣いている……? いや違う。伯爵は笑っていたのだ。アルベールを、そしておそらくは自分自身をも。

その時の伯爵は、一種の狂気に支配されていたのかもしれない。だって、あんなに複雑な感情は一人の人間の手に余る。そんな複雑さや矛盾に耐えられるように、人間は出来ていない。
おそらく、だからこそ伯爵は宣言する。自分自身を支えるために。それは遥か昔になされた宣誓かもしれないが……今一度、彼はこう叫ぶのだ。

「戻るぞ! 悪徳の栄える、都へ!!」

ラストシーン、アルベールを乗せて大気圏へと突入するスパダ号。彼はついに故郷へと帰ってきた。
……昨日までとは全く違ってしまった故郷へ。


<虚無の淵から>
アルベールは、伯爵に望遠鏡を見せてもらっていた時、「宇宙から見れば僕の悩みなんて、ちっぽけなもの」と言う。
アルベールの感じたことは、伯爵にとってはおそらく、実体験そのものだった。つまり、「自分の人生など全く取るに足らないものだった」と、伯爵は――いや当時はエドモン・ダンテスだったわけだけど――身をもって知ってしまった。

それまで彼の人生を「意味あるもの」にさせていた、愛する人々や希望に満ちた未来、そういったものは全て不当に奪われた。
彼がただ一人、宇宙の果てのイフ城の暗闇の中で、あらゆる意味を剥奪され、孤独に死んでいくのだと悟った時の絶望は……一体どれほどのものだったか。

しかしその虚無の淵を覗き込んで、なお生還した(本当に「生還した」とは言い難いのかもしれないけど)伯爵にとって、彼が独力で「意味ある人生」を取り戻す唯一の手段こそ「復讐」だった。
この場合の復讐とは、何かを得る手段ではなく、目的そのものだ。だから伯爵に「復讐しても、得るものは何もないよ」と言うのはあまり意味がない。そんなこたぁ本人が一番良く知っているはずだから。

アニメ版では、伯爵の過去があまり詳しく語られていないけれども、結局のところ伯爵を唯一救える(かもしれない)人は、エデでもなく、メルセデスでもなく……アルベールってことになるんだろう。
アルベールが伯爵を許せるのなら、その時はじめて伯爵は復讐以外の生きる道があったかもしれないことを、彼の中に見出せるかもしれないから。……難しいかもしれないけど、アルベールの若さに期待しよう。
どちらにしても、アルベールの持つ最強のカードは「若さ」しかないのだから。

星六つです。★★★★★★


[※注1]
「スパダ号」の名前は、原作小説に出てくる「スパダの秘宝」が元ネタ。ちなみに「スパダ」とは小説内ではイタリアの貴族の家名、ということになってました。
この「スパダの秘宝」が、モンテ・クリスト伯爵の復讐劇の軍資金になるわけですね。
アニメ版では、伯爵の富の由来がちょっとまだ良くわからないですが。

ちなみに、この惑星間航行船であるスパダ号は、恒星間航行も可能な主船「ファラオン号」にくっつく形になっています。(徳間書店:月刊アニメージュ3月号、巌窟王設定集より)
この「ファラオン号」、元はマクシミリアンの父親モレル氏の所有していた船で、伯爵がエドモン時代(ええい、ややこしい!)に乗船していた船でもあります。
モレル氏の死後、伯爵が買い取って改造をほどこしたんでしょう。

【2005/2/20】

第十六幕『スキャンダル』

Stranger in Paradise

<あらすじ>
故郷へと帰ってきたアルベールを待っていたのは、父モルセール将軍のスキャンダルだった。信じていたものに次々と裏切られたアルベールは、最後の望みを伯爵へと託す。
一方、フランツはついに伯爵とエドモン・ダンテスの繋がりを解き明かすのだが……


地上の楽園、パリ。しかしアルベールにとってモンテ・クリスト伯爵との数日間の旅行は、彼の故郷を全く違った場所にしてしまっていた。帰るべき場所で異邦人となってしまったアルベールは、父親のいるはずの宇宙軍大本営を目指す。

大望を果たしたエデは、一人静かに琴を弾いて――いや、まて。その手の動きじゃ、その音は鳴らないような気がするが――ともかくその演奏中に、突然琴の弦が切れてしまい、戸惑うエデ。
一見静かに見える彼女の心情が、琴に伝わったのか。

軍の大本営に辿り着いたアルベールは、あっという間に記者達に囲まれてしまう。
「お父様の醜い行為をどう思いますか!」などという質問を振り切って中に入ると、「モルセール子爵!」と呼びかけられ、Bダッシュで近寄るアルベール……いや、ここホント俯瞰の構図で、アルベールが小さく描かれてたからそう見えたんスよ!
さて、そんなアルベールに声をかけたのは、将軍の副官さん。彼から父親がここにはいないことを聞き、「父を信じている」と伝えてほしいと頼むアルベール。
しかしフェルナン・ド・モルセール将軍は、実はこの建物内にいた。一人過呼吸気味のフェルナンに、副官はアルベールが来たことを告げる。「ヤツは何と?」と聞くフェルナンに、先ほどのアルベールの言葉はかなりキツそうだ。

一方、ユージェニーはアルベールを心配して、自宅から脱走しようとするが、父親であるダングラール男爵に「おまえの価値を下げるものは断じて許さん!」と阻止されてしまう。
そこにすかさず、カバルカンティ侯登場! 「僕でよければ、アルベールさんの様子を伺ってきますよ……」おお、それはアメとムチ戦法だな。

宇宙軍、大本営の裏口から出たアルベールの前に、リュシアン・ドプレーが車でのりつける。ナイスタイミングですぜ、ドプレー兄貴!
その足でポーシャンを訊ねたアルベールは、「オヤジを売る気だっただろう!?」と問い詰めるが、ボーシャンには、「フェルナン・モンデゴ」と署名のあるエデの奴隷時代の権利書の写しを見せられ、またリュシアンからも、内務省ではフェルナンがヴィルフォールと繋がりのあったことを掴んでいることを告げられると、何の反論も出来なくなってしまった。
「オレはジャーナリストだ。世の中に真実を伝える義務がある」と言うポーシャンはなかなかカッコイイけど、その真実がアルベールを押しつぶそうとしているのも、また事実なわけで。

さて、巌窟王の謎にせまるフランツは、ノワルティエからヒントをもらったものの、いま一歩真実に近づけないでいた。
そんなフランツに「まぁここは一息つきましょう」、とばかりに食事をすすめるマクシミリアン。さらに彼の弟と妹が(凄く小っさー!! それにしてもあれはジュリーとエマニュエルなのだろうか……[※注1])いそいそとクッキーをすすめたりすると、嬉しそうに食べるフランツ……でも、あまりおいしくはなかったみたいです。

マクシミリアン一家の中でくつろぐフランツは、「一つの家の中にこんなに人がいるなんて」と驚き、自分の家には数人の召使と母親しかいないことや、貴族とは言っても、アルベールの家のように金持ちというわけではないこと。そしてヴァランティーヌとの婚約も、王党派同士ということでヴィルフォールが勝手に決めたものだったが、自分は外交官を目指しているため、そんな後ろ盾があるのもいいかな、と思っていたことなどを話す。
……それにしても、フランツは本当にいいヤツすぎて困る。外交官、ピッタリじゃん! 目指すといい、目指すといいよ。マクシミリアンも父親はもういないということで、ヤツが一家の大黒柱なんだよな……。ちょっと見る目変わっちゃたよ。

その後フランツが何気なく壁を見ると、そこには数枚の写真が飾られていた。
マクシミリアンによると、その中の一枚は「自分の亡き父親の所有していた、ファラオン号という船(宇宙船)の写真だ」という。
フランツがさらに、男女が並んで映っている写真に目をやると、そこにあったのはなんと「エドモン・ダンテス」の名! バラバラだった「点」は今繋がり、一本の「線」になろうとしている。

さて、宇宙軍から自宅へと帰ろうとするアルベールだが、周囲をマスコミに囲まれて入れない。……そこへ、ペッポが超アップで登場。コワ!!
ペッポに裏口を案内されて、無事帰宅できたアルベール。しかしその後、彼女(?)が一人静かに別れを告げていたことを、アルベールは知らない。

真っ暗な家の中に一人佇む母親を発見したアルベールは、彼女に本当ことを話して欲しいと頼む。息子の頼みに、メルセデスはフェルナンも自分もカタロニア生まれの平民であり、ジャニナの王女エデの演説も本当のことだと言う。
真実から目を背けることは許されない」と話す母親に、絶句するアルベール。

そのころ、フランツはファラオン号の船員名簿から、エドモン・ダンテスについて調査を始めていた。
『 Edmond Dantes 17/07/5008 』――彼は、ノワルティエの記憶やマクシミリアンの話によると、二十五年前に無実の罪でイフ城へ送られたことになっているらしい。それを聞いてフランツは独り言のようにつぶやく。「全然違う顔だ」、と。……確かに、全然違うわな。
しかし、同じ名簿の中に『 Danglars Jullian 09/03/5004 』つまり、現在のダングラール男爵がいること、さらに次々と現れる写真データに、若き日のダングラール、フェルナン、カドルッスを発見するフランツ。……さぁ、謎は解けた!

「生きているんだ、エドモン・ダンテスは! アルベールが危ない!!」

と、まあそれはそうとして、私はダングラールの名前が「ジュリアン」だったことに驚きましたよ。ジュリアン……ず、随分オシャレな……名前……だな。

雨降るシャンゼリゼを走るアルベール。「出て来い、エデ!!」と叫ぶと、伯爵の家から現れたのは、なんとルイジ・ヴァンパとテレザ、そしてペッポだった!
このペッポ、左の上腕にアザがあるように見えるんですが……これって前からありましたっけ? それはともかく、当のペッポは「伯爵の命令で、ずっとあなたを見張っていたの」とアルベールに告げる。その瞬間、「ドシャーーッ」と天から滝のような雨が! ナイス演出だ!!

ルイジ・ヴァンパからエデの居場所を教えられ、走るアルベール。
はたして、宇宙港には一人「主」の帰りを待つエデの姿があった。アルベールの叫び声に振り向くと同時に、背後に一隻の宇宙船が舞い降りる。
……こうして、アルベールはついに運命と対峙することになった! というところで、以下次幕。

いやあ、まぁ。伯爵は一度も出てきていないのに、この存在感は何でしょうな。まるで、ホラー映画のごとく、姿は見えないのに気配だけはどんどん近づいているという演出でした。でもやっぱり伯爵が出ないと、ちょっと寂しいかんじもしましたよ。

来週からの怒涛の展開に期待しましょう。星五つです。★★★★★


【2005/5/8】追記

[※注1]
第二十四話(最終話)を見る限り、この二人の小っさい子の名前はジュリーとエマニュエルであってました。マクシミリアンから見ると、甥と姪のようです。
原作の場合、ジュリーは妹でエマニュエルは妹婿ということだったので、扱いがちょっと違っていて一瞬混乱してしまいました。

【2005/3/11】

第十七幕『告白』

流れよ我が涙、と伯爵は言った

<あらすじ>
一縷の望みをかけてアルベールは伯爵と対峙するが、伯爵の口からは残酷な真実が語られる。哀しみと逆上のあまり、アルベールは伯爵に対し決闘を申し込む。そのことを知ったフランツは、必死にアルベールを止めようとするが、拒絶されてしまう。
一方、メルセデスは伯爵に面会を申し込むが、伯爵は「エドモンは死んだ」とだけ言い、その証拠を見たいならば明日ブローニュの森へ来るように、と告げるのだった。


“心臓を貫く剣”の紋章が、天から舞い降りる。彼方から、ゆらめくように近づく黒い影。……モンテ・クリスト伯は、地球へと帰還した。

伯爵と対峙するアルベールと、その二人を心配そうに見守るエデとベルッチオ。
「どうしてあなたは黙っているのですか!」……おっ、口火を切ったのはアルベールの方だ! 対する伯爵は犬歯をひらめかせながら、「偶然など無いと、私はそう言ったはずだ」と答える。彼は言う。「エデがモンデゴ(=フェルナン)の正体を知る生き証人でなければ、なぜ自分の元に置いているのか。アルベールがモンデゴの息子でなければ、なぜルナで会う必要があったのか」と。

まあね、伯爵はそう言うけど、アルベールはともかくとして、エデはそればっかじゃないと私は思うけどなあ。完全に私利私欲だとしたら、エデがあんなになつくわけないじゃん。ずっと一緒にいたらバレますよー。

さて、呆然とするアルベールに伯爵の追い討ち攻撃が……どうやら伯爵からアルベールに贈られた金時計は盗聴器で、伯爵のピアスが受信機になっていたらしい。うわぁ、屈辱モノですな。あんなことやこんなことも聞かれていたのですな! それでもなお伯爵を信じようとするアルベールを、あざ笑う伯爵。

「ありがとう、君は本当に役に立ってくれた。心から感謝する」

うわぁ、挑 発 的!! これにはアルベールもついにキレて、手袋を投げつけるのでありました。……そう、すなわちそれは決闘の合図! 明朝五時、場所はブローニュの森で。武装は鎧と剣。
駆け寄ろうとするエデを手で静止し、マントを広げて伯爵は退場。残されたアルイベールは金時計を地面にたたきつける――『この日、この時をとどめる私達だけの思い出』は今、彼の目の前で粉々に砕け散ったのだ。

……と、文章で描くとこんなモンで終わってしまう最初のシーンですが、キャラクターの微妙な仕草、目線、表情、身振り手振り……その全てがかっこいい
巌窟王はテクスチャーがほとんどの部分に貼ってあるので、画面の情報量がアニメにしては異常に高くって、わりとどんな絵でもキレイに見えると思うのです。(ただし多少の「目の慣れ」が必要だ!)
それでもやはり「線の持つ力」偉大なんだなぁ。特に今幕は、どのシーンもとにかく見ていて気持ちがいい。数ミリの差が決定的な違いを生む……まさに「神は細部に宿る」ってことなんでしょうか。

一方、暗闇の中、鏡の前に座るメルセデス。長い髪を下ろし、真紅のドレスを纏っている。「会いに行かなければ……あの方に」
母でもなく、妻でもない、「女」であるメルセデスがここにいた。

伯爵の馬車の中「どうしても決闘をやめて下さらないのですか?」と言うエデに、無言の伯爵。車窓から見える夜のパリの街には、昨日失脚したフェルナンの特大選挙ポスターが未だに貼られたままだ。
「あなたがお命を落すようなことがあれば、私も生きてはいられません」と呟くエデに応えたのおは、伯爵の呻き声だった。
……うわっ、巌窟反応が強くなってる!? とりあえず額の模様の目の数は確実に増えてるな!
「まだその時ではないっ」と、捻じ伏せようとする伯爵。頑張れ、まじ頑張れ! ところで「その時」って何ですか?

伯爵への決闘宣言の後、夜通し歩いた末に、早朝の川辺を行くアルベール。その時、遠くに見えたのは……フランツ! そして駆け寄る二人!! しかし「お前はいつも俺を見てくれてたのに、ごめん」と言うアルベールを、フランツは黙って抱きしめ――なんてことはもちろん出来ないわけで。……あんた、手ぇ震えてますがな。
厄介男、フランツ・デピネー男爵の気持ちなど知る由も無く、威勢の良い鼻水を垂らすアルベール・ド・モルセール子爵。垂れ方が妙にリアルですごい……。

さて、仲直りしたのも束の間、伯爵との決闘を知ったフランツは大激怒。「即刻、取り消しだ!」と言ったって、そんなこと聞くアルベールじゃありませんや。
フランツは最後の切り札に、伯爵がメルセデスのフィアンセだったことと、フェルナンがそのことを知りながら、強引にメルセデスを奪ったことを聞かせるのだった。……まぁ、つまり、そういうことなんスよ……アルベールさん。

ところ変わって、ここはシャンゼリゼーにある伯爵の金色地下宮殿の一角。そこには一つの奇妙な部屋があった。剥き出しの壁、高い天井、明り取り用の天窓……まるで牢獄である。
これはひょっとすると、伯爵の自室なんだろか? また、冷たそうなところに一人で座っちゃって何してんだろ、って――泣いてるー!!
どうしよう、どうしよう! 伯爵様が泣いてるよ! なんてことですか!! 見ちゃいけないもの見ちゃった的な気分になってしまいました……。
そこへさらに倍率ドン、ベルッチオの声で「モンデゴの奥様がお見えです」ですよときた! うわぁう、うわぁああぁあああ

真っ赤なドレスに身を包んだ、勝負服仕様のメルセデス。「二十五年間、片時も忘れることはありませんでした。許されなくてもただ一度だけ……エドモン、あなたとお話が!」と伯爵に語りかけるが、伯爵は「エドモンは死にました。この体は、彼の姿かたちが残っているばかり」とだけ答える。 い、いや……姿形も残ってるかどうか、かなり微妙だと思……とかそういうこと言っちゃいけませんね。すみません。

しかしメルセデスも譲らず「そんなはずはありません!」と、差し出された伯爵の手を握る。
その手の冷たさに動じないメルセデスに、伯爵は「……それなら、エドモンが死んだという証拠をお見せしましょう」と、明朝五時にブローニュの森へ来るように告げ、二人の面会は終了するのでありました。

一方、アルベールはフランツから伯爵の過去を聞いてしまい、一瞬怯みはしたものの、結局「伯爵め! 俺の純情踏みにじりやがって!!」と駆け出してしまうわけで……こらっ、全然成長しとらんじゃないかー!! というわけで、アルベールにはまたもやフランツの声は届かないのです。
「戻れ! アルベール、戻ってくれ……。それでも行くのか、あいつの所へ」……って、このセリフ、嫉妬混ざってるように聞こえるんですが。フランツはもの凄くいいやつだけど、ただの聖人君子じゃないよね。そういうとこが人間くさくて私は好きだけどね。
そしてゆっくりと顔を上げるフランツ……その顔は何かの決意を秘めていた。

さあ、飛び出したアルベールが何処へ行ったのかと言うと、自宅の居間にいましたよ。花瓶を投げつけたりして、なんだ八つ当たりか? と思いきや、壁に飾られた絵が床に落下した途端、なんと何だかよくわからない起動画面になりやがりましたよ。どんな仕掛けだー!?
フェルナンあたりが「男同士の秘密だぞっ(←当然ここでウインク)」とか言って息子にこっそり教えておいたのかもしれない。私にはパリの人々の美意識ってやつが、いまいちわかりませんが……。

それはともかく、ロボですよ、ロボ。起動しちゃいましたよ!! 決闘時に使う「鎧」ってロボ(多分フェルナンが昔使っていたやつ)だったのですな。ま、まあエンディングで散々出てたからなんとなく解っちゃいましたが。
そして、搭乗したアルベールはそのまま玄関へ……おい、待て、そのままパリの街へ出るつもりか!? 「戻れ! アルベール!!」と私まで叫んでしまうところでした。

一方、ユージェニーを訪れたフランツ。「おかえりなさい!」とユージェニーは喜ぶが、どうもフランツの様子がおかしい。「明日はアルベールの誕生日だってのに」とムクれるが、気をとりなおした彼女は、アルベールのために作ったという曲を披露する。
フランツ曰く「ユージェニーらしくないロマンティックな曲だな」ということだけど、もちろんその曲は、巌窟王オープニングテーマの「WE WERE LOVERS」だ。

別れ際にフランツは、自分が書いたアルベール宛てのバースデーカードを、ユージェニーから渡して欲しいと頼む。
「今更恥ずかしくて渡せないから」と言うフランツに、ユージェニーは「サプライズ、ってことね」と納得し、明日午後三時にカフェで誕生会をする約束をするが……さあ、果たして約束は守られるのか。

その頃伯爵サイドでは、淡々と明日の準備が進められておりました。
ところで、最近バティスタンさんを見ませんよね。伯爵の髪を束ねてたのって、彼じゃないしな……あのシルエットは違うよな。
あ、もちろんベルッチオはいますよ。うっかり「あ……伯爵」とか言ってしまって、「なんだ」とかそっけなく返されちゃって「……ご武運を」とか言っちゃってますよ。
本当はそういうこと言いたいんじゃないんだよね……言える雰囲気じゃありませんが。手に持ってるのは伯爵の服だよなあ。ほぁ、伯爵様のドッキリ生着替え。

そんな準備万端な伯爵サイドに比べて、アルベール側の方はというと……前夜祭だかなんだかで、フランツと酒盛りタイムですよ。「必ず叩きのめしてやる」と息巻いてますが、なんか緊張しすぎで眠れない受験生みたいな雰囲気が。相手があの伯爵なので、まあムリもないか。

――苦節二十五年のモンテ・クリスト伯爵。シャバに出てからは、十年近く復讐のためだけに生きてきました。
剣と鎧の扱いはもちろん、社交術・芸術・文学・化学・歴史、女の扱い方から経済学、そして語学(原作ではフランス語はもちろん、アラビア語・英語・イタリア語・ギリシア語、もっとあったかも……ともかく数ヶ国語を話せた)等々、とにかくあらゆることを学んで参りました。
外見も改造しました……耳と、肌の色と、目の色は自主的じゃないかもしれないが……髪の毛を伸ばしてパーマもかけました! 体重もぐっと落としました! (まぁ、髪の毛も体重もイフ城の名残で、自主的じゃないかもしれないが)とにかく努力につぐ努力、執念につぐ執念!! ……やれやれ。基本的にまじめな性格なんだろな、きっと。

ともかくそういう人が相手なんで、アルベールが妙にハイになるのも仕方ないかなって思いますよ。それにしても、この部屋の窓のステンドグラスの柄はあまりに意味深すぎる……三羽の鳥と一匹の子羊。子羊といえば、“生贄”の象徴じゃありませんか。
すっかり眠ってしまったアルベールを、ただじっと見つめるフランツ。どうしたフランツ、何考えてんだフランツ!!
……以下、次幕。


<mercedes>
伯爵が人気があるのは“奪われた男”として、「判官贔屓」される面が多分にあると思うけども、メルセデスはどうなんだろう。“手に入れた女”のくせに「都合のいいやつだ」とか思われてるんじゃなかろうか。
妻であり、母であり、女でもあるメルセデス。それぞれの側面からだけ見れば「フェルナンの妻なのに」「アルベールの母親のくせに」「エドモンの恋人だったのに」と、言われてしまうだろう。けれどもこの三つはよく見れば『三すくみ』の状態であって、どれか一つを取れば、他の全てを諦めなければならない。

そのあたりを考えた上で、なお「メルセデスは都合のいい女」などと言えるかというと、そうでもないんじゃないかな、と。どうにも動きが取れない中でも、なんとか行動を起こそうとしてるところは、なかなか立派じゃないですか。
メルセデスがフェルナンを誇りに思い、アルベールを愛し、エドモンを想い続けることは全く矛盾していないと思う……たとえ状況が、どれかを選ぶことを強要したとしても。

原作では、最終的にフェルナンを見限ってしまうわけですが、アニメ版ではなんとかしてフェルナンにも(ちょっとでいいから)「やさしさ」ってやつを分けてあげてほしいなあと、思います。
人間の心ってものは、ただ一つの価値や感情しか持てない、単純で簡単なものじゃないですよ、ね?

<WE WERE LOVERS>
WE WERE LOVERS……伯爵とメルセデス。私はこの二人がとても好きなんだな。
この二人が離れ離れになっていた二十五年間というのは、実に対照的で――片方は全てを奪われた男、もう片方は様々なものを手に入れた女。男は女を思うことで生き長らえ、女は男を忘れようとすることで心の平安を得ようとした。

伯爵とメルセデスが再び巡り逢った時、そこにあったのは昔日の情熱ではなく、お互いの限りない隔たりだったんじゃないかなと、私は想像する。
それでも二人の胸の中には、あの日のマルセイユの青い海があるのです。
……その水底に、真紅に輝くただ一つの宝石を秘めたまま。

星6つ。★★★★★★。

【2005/2/15】

第十八幕『決闘』

心臓を貫かれて

<あらすじ>
早朝のブローニュの森に、剣戟の音が鳴り響く。
伯爵とアルベールの決闘の行方……そしてその結末。


なかなかキツい回でしたが、私は「うーん、良くやったなぁ」と感心いたしました。なかなかここまで思い切ったことは、あまり出来ないんじゃなかろうか……しかもテレビアニメで。
フツウ思いとどまるよなぁ? もっとソフトな表現にするとかね。やろうと思えば、もっとぼかすことも出来たはずなんだけど、徹底的にやっちゃいましたね!

実際のところ、キャラクターに直接危害が加わるシーンは最後だけで、途中「切り刻まれ」ているのは甲冑(という名のロボ)であって、吹き出す紅い液体も「血」ではなく、潤滑油か冷却液か、ということなんですが。
とは言っても、甲冑=身体のメタファー(隠喩)だってことなんざ、誰だって解るわけですよ。しかも声優の平川氏(フランツ役)の、あの絶叫……うーん、残虐だよなぁ。
視聴者にこういう、ある種の苦痛を強いる表現は――そのせいで、少なからず引いてしまう人がいることも解っていて、それでもあえてやって見せてるんだろうけども――それ相応の理由があるのだ、と思いたい。そうでなきゃ辛すぎる。

何にせよ原作既読組としては、フランツというキャラクターをここまで膨らませて、こんなふうに使った(あえて「使った」と言うぞ)ってのは確かに衝撃だったけど、「あー上手いな、やられたな」とも思えたのです。
私達が彼の行動にそれなりの理由があること、そしてそれ故にもたらされた悲劇に愕然としてしまうのは、フランツが確かにこの話の中で「生きていた」確かな証拠でもあるのだし。

しかし……これはやっぱりなんだ、「視聴者も心底アルベール視点になってくれ」ってことなのだろうか。
視聴者はあくまでも「視聴者」だから、外側から見て「アホだなー、アルベールはー」とか、「フランツ、いい人すぎ!」とか、「エデ……萌え」とか、「伯爵ー伯爵伯爵〜うほぁqすぇf」とか言ってるだけなのが普通なんだけど、こういう描き方されちゃうとなぁ、もう普通に見てらんない。無理やりキャラクターと同じラインまでひきずりおろされたような、この感覚。
もう気楽に「伯爵カッコイイ〜」とか、言えない。それこそアルベールのごとく、愛情余って憎さ百倍みたいな……元気ハツラツ怒りバクハツみたいな……いや、私はそれでも全然好きですよ、伯爵。むしろ好きを超越しました。

で、伯爵なんですけど。ダメかなあ、あの人は。救われませんかね。なんだか弱気になってきました……。
伯爵が救われるには、アルベールが許すしかないと思うんだが、今回でかなり難しくなったと、思わざるを得ないわけで。それでも、そこをなんとかヒトツ! なりませんかね。なりませんか?
だって……伯爵は悪くないよ。知らなかったんだし……ヤツの復讐はある種の生存競争なのでありましてー伯爵だって必死なんだよ、ね。ね。 そこ、ヒトツよろしくお願い申し上げます。

……で、地震っ!? じ、地震だっ! ふ、フランツ!? ふ、フラ……[※注1]

今回の評価星★は付けようが無いので、無星です。


[※注1]
放送日の明け方、地震があったのですよ。


【2005/2/16】追記

<フィクションは、現実を侵襲する>
ちっ。巌窟王は「エンターテイメント」だって監督さんが言うからさ。そういう風に見てたわけですよ。ね? そうでしょ? エンタメだって言ったら、「おお、そうかそうか、エンタメか! よし、なんでも来い。テクスチャーどんと来い! 萌えもどーんと来い!」と、なるじゃないですか。

ところがなんじゃこりゃー! 巌窟王、第十八幕!、って話ですよ。……ね?
十八幕放送終了後の本日は、「一日仕事にならんかった!」とか「授業受けてる場合じゃなかった!」とか「バイトが云々!」とかおっしゃる巌窟ファンの方々は沢山おられたでしょうに、かく言う私も、そんな方々と似たような一日を過したわけです。
「物語」には多かれ少なかれ、現実を侵襲するほど強烈で暴力的な力が秘められているけれども、今回のはなかなか強烈だったですよ。

まあこういうのはね、作り手からすればもう凄い誉め言葉なんだろうなぁ。「よーし、してやったり!」って感じなのかもしれない。くそう、なんか……悔しい。


【2005/6/23】追記

※これ以降は最終話まで見た後の感想になります。未見の方はご注意ください。

<ターニング・ポイントとしての第十八幕>
さて、あらためて「巌窟王」全二十四話を見終わってみると、やはりこの第十八幕は全体のストーリーのターニング・ポイントだったことがよくわかるわけで。

実際「巌窟王コンプリート」(編:パルプライド)でも、構成・脚本担当の神山氏のコメントとして、『「巌窟王」を起承転結で分けると、十八幕は「転」にあたる』というような内容のインタビュー記事が掲載されている。
つまりこの「転」=「主人公アルベールの劇的な成長」にフランツが絡んでくることは、主人公が伯爵からアルベールに変更された時点(つまりは企画の段階)で、七・八割方決まっていただろうと思う。(注:原作小説の主人公は伯爵です)

とは言っても、そのフランツ君の「運命」とやらが随分過酷なものになってしまったのは、彼というキャラクターが思いのほか成長してしまって、単なる「起爆剤」以上の役割を負わされたためだと考えると、なんとも悲喜こもごもな話ですよ。

さてさて、第十八幕の作りそのものとしては、ロボの決闘シーンは残酷かつかっこよく、アルベールとフランツのシーンも辛せつなく、申し分ありませんよ! というかんじだけれども、やっぱりここは言わせていただきたい。
……で、伯爵はあの決闘について、どう思ったんですかね?」ってことを。

「Comickers 季刊コミッカーズ春号」(出版:美術出版社)の監督のインタビューによると、『決闘後の伯爵は、立ち直れないぐらい落ち込んでいた』らしいのだけど、今幕でも、そして実はその後でも、それらしいシーンはほとんど無かったりする。

んー、これはちょっと問題な気がするな。確かに「巌窟王」はアルベールの視点で進む物語だけれども、視聴者はそのアルベールの視点を中心としながらも、また一方で「神の視点」というモノも持っているもの。
その神の視点、つまり「ストーリーを把握する視点」からすると、決闘直後の伯爵の心情はかなり重要な要素のはずだ。
(実際この時、伯爵の心理描写がほとんど無かったので、私は「伯爵はまた何か企んでいるんじゃないかとか」いろいろ勘繰ってしまいましたよ……)

ここで伯爵の心情をあえて隠したのは、アルベールの物語を際立たせるため、という狙いがあったのかもしれないけれども、やはり一瞬でも伯爵の内面描写が欲しかった。
それがあったなら、これ以降の怒涛のクライマックスへ向かっていくアルベールと伯爵の行動について、もう少し理解し易かったのにナ……と思うと、この十八幕、ちょっと惜しかったかも、と思ったりするわけです。

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