十六章 白の城
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翌日、名読みの儀は天井の崩れかけた謁見の間で行われた。この場所は七百年間ずっと使われていなかったが、今や百人余りの石人達が石杯の前に並び、自分の名が書かれた紙が火花を散らして消え去るのをかたずをのんで見守っている。ブレイヤールは儀式の衣装に身を包み、厳かに次々と名札を杯にくべていく。名前の中には、不吉な神に由来するものもあった。本来であれば、こうした名を持って生まれた石人はその場で神殿へ引き取られる。不吉な名は石櫃に封じられた創世の闇に属すために、石櫃に返さねばらないからだ。引き取られた石人は神殿で名を取り上げられ、大巫女様に仕える神官として育てられる。彼らはもはや名を持たず、神殿において柱の影や水面の反射と同様に扱われ、他の者と口をきくことも許されない。名のない者は存在しないのと同じだからだ。
ブレイヤールは火の消えた杯の底に、そっと片手を当てる。杯は熱かったが、燃え残った名札は一つもないようだ。彼は短い安堵の息を吐く。城は名によって石人を拒んだりはしない。ならばおかしいのは、不吉な名を持つ石人を神殿に封じようとする神官の方だ。その神官を止めようとしない王の方だ。
「我が城はそなた達を受け入れ、守り、応えるだろう」
ブレイヤールの言葉は、新しい城民達の喜びの声にすぐさま飲み込まれた。ブレイヤールは唇を結んで杯に乗せた腕をぐいと引き戻す。城があらゆる石人を受け入れる意思は、どこから来るのか。城に魂が宿っているのか、それとも魂も何もない空っぽなだけなのか。そんなことを思いながら。
儀式の前によく磨かれたはずの杯だが、指先に何かがざらついた。ブレイヤールは動作を止めることなく、灰で汚れた指を握りこんで白い王衣の下へと戻す。
何事も、そう易々とは行かないようだ。城が受け入れなかった名は、王が守ればよい。灰に触れた瞬間、彼はそう悟っていた。
それからの十四日間は、かつてないほど白城に活気があふれた。キゲイは依然行方が分からないままだったし、クラムアネスも捕まらない。ブレイヤールは心配に心配を重ねながらも、石人達が城に町を再建する手助けに奔走しなければならなかった。痺れを切らした神殿からの使者が、自らブレイヤールを神殿へ連れ帰ろうと白城に居座ったが、ブレイヤールは城が広いのをいいことに、何とか出会わずにやり過ごしていた。グルザリオも連日、兵士として選び出した石人達に城内を案内して回り、通路のつながりを覚えさせる。
十五日目の早朝、ブレイヤールは城の南に足を運び、塔の天辺から、地平線を縁取る境の森を眺めていた。ディクレスの手紙を受け取って、日にちが発ちすぎている。短い文面からは感じ取れなかったものの、内容はかなり逼迫した状況を伝えるものだったはずだ。毎朝こうして塔に登っては、次の便りか、あるいは何か変化の兆候が見えないかと気を揉んでいた。一方でレイゼルトに関する神殿の便りも、一向に進展はない。神殿からの使者が彼を探して城内をうろうろしているだけで、第二報が来たという話もない。
空を見上げれば、朝焼けに色づく空は薄雲に濁っている。雲は、冬の名残を思わせる冷たい風に乗って、南から北へ運ばれている。
「こんなところにいらっしゃったのですか!」
この日は悪いことが立て続けに起こったが、その最初は神殿からの使者にとうとう見つかってしまったことだ。ブレイヤールは仕方なしに振り返って、あいまいな笑顔を見せる。散々じらされていた使者の方は、笑顔どころではなかった。
「星の神殿へお立ちくださいませ。先の書状はルガデルロ大臣までは届いたようですが、いったいその後、殿下には拝見いただけたのでしょうか」
「……いや。そういえば大臣も、このところ姿を見ないな。平原の人間達のことで、忙しいんだろう」
「人間に気を取られている隙に、レイゼルトに寝首をかかれます」
使者に詰め寄られたが、ブレイヤールは口を閉ざして答えないことにする。そのとき塔の上に影が射したかと思うと、耳を打つ羽音とともに二人の間に大きな黄色いフクロウが落ちてくる。羽音が収まると同時に、それは恰幅の良い老人の姿になった。ブレイヤールと使者は目を丸くして、この老人を上から覗き込む。ルガデルロは目をしょぼつかせ、尻餅をついた格好のままブレイヤールに怒鳴った。
「ご用意くだされ。人間と馬が群れを成して、蟻のような大群でやってまいります!」
「いつ?」
「お許しくだされ。あと半刻もありません。あの姿で昼夜飛び続けるのは、無理がございましたわい」
ルガデルロは腕を上げて指し示す。ブレイヤールは再び森へと視線を向けた。背後で大臣が塔から駆け降りる足音が鳴った。ブレイヤールの隣に使者が並んだ。ブレイヤールはまた神殿への出立を催促されるのかと思って身を引いたが、使者の視線は森へある。その横顔を見ると、この使者もおそらく猛禽の類に姿を変えられるのだろう。どことなく鷹を思わせる鋭い目つきだ。
「もう森を抜けています! まるで大河だ!」
やはり遠目が恐ろしく効いたらしい使者は、森に向かって指をさっと突き出した。まだ何も見えないブレイヤールは、彼の言うことが分からない。
しばらく見ているうち、絵のように静かだった森の黒い影へ、突然うごめく白いものが重なった。森と白城との間に横たわる荒野に、その白いものがざらざらと溢れ出す。丘を越えて駆け下りる、何千もの人と馬の姿だった。
初めて見る人間の大群に、ブレイヤールは目を疑うばかりで動けなかった。大都市の石人を一人残らずかき集めても、あれだけの数にはならないだろう。その間にもなお荒野には人間達があふれ、途切れることのない縦列はまっすぐにこの城を目指している。雲に濁るどんよりとした空の下、わずかに注ぐ陽光を受けて、縦列は白銀に輝いている。美しいと同時に、刻々と白城の危機を刻む光景でもある。
「あれが城を荒らした人間達なのですか!」
使者がかすれた声で叫ぶ。ブレイヤールは頭を振った。
「違う。数が多すぎる。それにあの数では、今度は荒らされる程度では済まない」
峡谷が開くというディクレスの手紙は警告であったのか、忠告であったのか、それとも脅しであったのか。荒野を近づいてくる白銀の閃きとともに、ぱっと疑念も閃いた。ブレイヤールは再び頭を振って、混乱を振り払う。今は考えている暇などない。
「とにかく黄緑の城へ知らせを! 頼んだ!」
ブレイヤールは使者にそう言い置くと、塔の階段へ向きを変える。そのとき目の端に、さらに信じられないものが映る。荒野の起伏に見え隠れして進む、もう一つの銀の大軍隊だった。それは石人世界の奥を目指している。あのまま進めば黄緑の城に行き当たるだろう。ブレイヤールは胸の奥底が凍りつくのを感じながら、塔の階段を数段跳びに駆け降りた。
城内へ通じるアーチをくぐったところで、彼は壁に掘り込まれた小さな偽窓の前に立つ。手のひらほどの小さな窓は、浮き彫りのサンザシの花と枝葉で囲まれている。窓の奥にはなめらかな闇の面があった。
王族がひとたび王座に身を置けば、城の力を存分にふるい、城の侵入者達を撃退するなどわけはない。ところがブレイヤールはまだ戴冠の儀を行っていなかった。これでは王座はまともに使えない。儀式の間へ達する道筋も、七百年の間に忘れ去られている。王座が使えないなら、別の方法で力を引き出さなくてはならない。
呼吸を整え、窓の奥の闇に手のひらをそっとつける。石よりも固く、石ほど冷たくはない。窓の奥には城の基礎石がむき出しのままあった。手窓と呼ばれるそれは、城の各所に設けられている。王座以外で城の力を直接引き出せる、唯一の手段だった。
意識を闇の向こうへと集中する。やがて、自分の魔力が基礎石の向こうに流れる城の魔力と交わるのを感じる。城の魔力は渦の柱をなし、外側は下から上へ、内側は上から下へと激しく逆巻いて城の中枢を貫いていた。すさまじい力の奔流は、下手に近づくと自分の魂ごと巻き込んで粉々にされそうだ。これが恐ろしくて、今までほとんど、ここまで深く基礎石の奥に集中したことはなかった。
突然目の焦点を失い、ブレイヤールはぐっと瞳を閉じた。目に映る光でとらえた世界と、基礎石を通して魔力で見たもう一つの視界が、瞳の裏で重なったのだ。いつのまにか激しい魔力の渦は消え、冷え冷えとした巨大な城のシルエットが脳裏に刻まれる。城の影にはさらに細かいいくつもの影が重なり、その色を濃くしている。ある影は四角く、ある影は尖塔の鋭い頂点を持つ。影の馬蹄にくりぬかれた部分は、光を通す窓の輪郭かもしれない。
城の中層では、まだ何も知らない石人達が、廃墟の町をせっせと片づけていた。建物の影の中を彼らが横切るたび、その気配が指先に感じられる。城の別のところへ意識を移すと、薄暗い部屋でルガデルロがグルザリオに何かを命じていた。そして、白城を目指していた大群の最初の一人が、大回廊の影落ちる石畳へ恐る恐る片足を乗せたのを知る。
――あの銀色の装備は、ハイディーンだろうか。アークラントの残党を追って、峡谷を抜けたのか。だとすれば、アークラントの残党はこの城のどこかに隠れているんだろうか。
指先に感じる気配が、徐々に濃くなる。次々と人間達が城の中に入り、城の大回廊を奥へと進んでいるのだ。ブレイヤールは他の場所へと意識を移す。アークラントの人間達が隠れているのかどうか、探さねばならない。ハイディーンの者達はしばらく放っておいてもよさそうだった。城は広大だ。迷うだけで、石人達がいる場所までとてもたどり着けはしないだろう。
ふと、非常にかすかではあるものの、いつか感じたことのある魔力の気配が城のどこかで灯った。ブレイヤールは魔力の場所を定めようとしたが、まるで小さな流れ星のように、あらわれたのに気付いた時点で消えている。
――レイゼルト? まさか。あれだけの力を持った奴でも、城の目から隠れることなんてできない。
ひどい目にあった過去が思い出され、集中が途切れる。ブレイヤールは瞳を開け、手窓から体を離した。壁に自分の影が長く伸びている。城内に意識を沈めている間に、日が傾き始めていた。辺りは風の音が鳴るだけで、廃墟の静けさが支配している。
ブレイヤールはその場を離れ、大臣達のいる部屋へ足を運ぶ。彼が姿を現すと、不安げな顔つきの家臣達が彼を取り囲んだ。ルガデルロが口を開く。
「本隊は城外に駐屯しているようですが、城内を探索する者達もおります。あの者達は城主に『いるなら姿を見せよ』と怒鳴っておりますが、いかがされまするか」
「人の城に無断で入ってきて、そのうえこちらから彼らの前に出て来いなんて、ずいぶん勝手だ。しばらく城を彷徨ってもらおう。手窓を使っていくつか石扉を落としてきたから、彼らが行ける場所は限られている。それより……」
ブレイヤールはそこで深く息を吐いた。
「他の侵入者達が城の東側から入ってきている。僕に会いに来たんだろう。服を用意してくれる? 今から出れば、夜中には彼らのいる場所に行ける」
「やれやれ、忙しくなりそうです」
グルザリオは正装一式を用意しに走り去る。ブレイヤールは大臣に向き直った。
「あの気配は人間だと思う」
「お供しましょう。万一に備えて、弓手達も潜ませまする」
「そこまで警戒しなくても」
「甘いですぞ。人間と会う際にはそれなりの形が必要なのです」
大臣はぶんと強く首を横に振って、ブレイヤールのぼやきを跳ね除けた。城の基礎石より崩すのが難しそうな頑固な返事だ。ブレイヤールはその理由を考えて、ようやく頷く。しかし突然、今まで必死に忘れようとしていた後悔の念が胸の内に蘇り、彼は頭を下げ両手で額を覆った。
「最初から、アークラントの人間達に境界の森を越えさせなければよかったんだ! もっと強い魔法を森にかけていれば……!」
「どんな魔法がかけられていようとも、アークラントの者達は命を懸けてあの森を越えようとしたでしょう」
大臣は厳しい声で続ける。
「ブレイヤール様、あなたは、そんな恐ろしい魔法を森にかけられましょうか。わしはそんな冷酷な王になるよう教育した覚えはございませんぞ。そもそも、十二会議であなたお一人に、人間の対処を押し付けたのが間違いなのです」
「いいや、残酷だからあんな軟弱な決断をしたんだ。人間の侵入をきっかけに、白城の復活ができるかもしれないと考えていた。なんて卑しい考えだ! レイゼルトは境の森にかけた中途半端な幻術で、それを見破っていた。ディクレス殿もそうだったかもしれない。つけ入る隙を与えてしまったんだ」
「我々の期待を重荷としてそのような行動に走られたのであれば、お恥ずかしいことです。この顛末の責任は、共に取らねばなりませぬな」
ブレイヤールは両目を拭いながら顔を起こす。
「覚悟を決めよう。白城の王として、恥じない行動をする。相手も、こちらにそれだけのものを期待しているだろうから」
大臣は難しい顔のまま無言で頷いた。
日が落ち、城内に闇が満ちた頃、ブレイヤールはグルザリオを後ろに従え、東の大柱廊へとたどり着く。ルガデルロも弓兵を従え、柱廊の上階に待機する手はずになっていた。月が落ちて星明りが射し、色のない世界に動くものは彼ら以外にない。空虚な廊下はやがて歩を進めるごとに、張りつめた生き物の気配が濃くなる。柱廊の終わりには、影よりも黒い一団が、来るともしれない白城の主を当てどもなく待ち続けていた。
もし今夜城の主が現れなければ、彼らは何も言わずどこかへ去っていたかもしれない。しかし彼らを率いる老王は、ゆるぎない確信を持って先頭にまっすぐと立っていた。その確信とは、運命の重たい一撃に打たれて飛び散った火花のようなもので、本人しか理解できない類のものだ。老王は自分の感覚を信じていたし、後ろに控える長年の兵士達は彼を信じていた。
「お待ちしていた」
老王の影が動き、石人式の一礼をした。ブレイヤールはこれに対し、アークラント式のお辞儀を返す。
「以前の私の煮え切らない決心を利用して、我々白城を見事、策に落とし込んでくださいました。あの拠点はあなたがアークラントの民を逃がすためにあらかじめ築いていたもの。それ以上のものだとは考えもしなかった」
ブレイヤールは頭を下げたまま静かに囁き、厳しい表情で体を起こす。老王の影が一歩前に出て、星明りに顔半分をさらした。老王は、自分を打った運命が同じように目の前の若者を打ち、彼もまた同じ火花を見たのを知ったのだ。
「私とて、最初はそのつもりでした。しかしハイディーンは我が国の終焉をすら駆け抜け、この城をまっすぐに目指したのです。かつての王として冷徹な言い方だが、アークラントを貫いた雷光は、封じられた希望の殻をも打ち砕いた」
深い皺が刻む表情は、厳しい一方で穏やかだ。しかしそこには壮絶さが秘められている。
「ハイディーン王率いる第一陣はこの城に。第二陣は石人世界の奥を目指しております。第三陣は森の平原側に陣を張り、守りを固めています。仔細は存じませんが、ハイディーン王の傍には、翠銅石に似た青緑色の髪を持つ魔術師が仕えている。石人のように見受けられます」
その言葉にブレイヤールは眉をひそめる。
「……その魔術師の存在は、いつからご存じだったのですか。本当に仔細をご存じないなら、ハイディーンがアークラント獲得ではなく、初めからエイナ峡谷を狙っていたと予測できるはずがありません 」
「それはあなたにも同じことが言えるでしょう。境界の森に初めて足を踏み入れたとき、私は拒まれているのではなく誘われているように感じました。私には石人の神殿や城のことは分かりかねますが、あなたは確かに人間を見くびりすぎました」
ディクレスは低い声できっぱりと言った。
「石人のことも油断されないよう」
ブレイヤールはとりあえずも言い返す。しかしすぐに視線を外し、小さくつぶやいた。
「我々はさらに大きな策の中に捕えられようとしているのかもしれません」
「ならば今しばらく捕えられておきましょう。我々を捉える網は、お思いになっているほど大きくはないかもしれません」
ディクレスはこともなげに答える。ブレイヤールは何も言えなかった。ディクレスは、自分には見えない先のことを見ている気がした。
彼が黙っているうちに、ディクレスは最後の言葉をつづける。
「我々はハイディーンの二陣を追います。あの者達を止めるのは、我々の使命だ」
「それでは……」
ブレイヤールは重たい気持ちで口を開く。
「私はこの城に侵入した第一陣とハイディーン王に対峙し、人間に堺の森を越えさせた償いをすることにいたします」
二人は再び礼を交わす。ディクレスは控える兵士らを連れて柱廊を後にしはじめる。ブレイヤールは彼らをその場に佇んだまま見送り、最後の一人が柱廊から姿を消すと、踵を返した。
「あの兵士連中、ディクレス殿より年が多い者もいたかもしれません」
グルザリオが背後で呟いた。ブレイヤールは厚手の白いマントを体に巻きつける。夜気が石の城をよけいに冷やしている。
「キゲイの話だと、老人と少年しか連れてこなかったらしい。少年達は他のアークラント国民と一緒に、平原のどこかに隠したのかもしれない。地読みの民がいれば造作ないだろう」
しばらく歩くと、柱廊の上階に待機していたルガデルロ達が合流してくる。
「いったいどこに本当の敵がいるのか、分からなくなってきた」
ブレイヤールは足早に帰り道を急ぎながら、弱音を漏らす。
「クラムアネスに通じていた神官は、本当に九竜神官様達なんだろうか。ハイディーン王の傍にいる魔法使いが石人なら、そいつはいったい何が目的なんだ」
「クラムアネスの話はどこまで本当なのか。そもそもあの女自体、信用できゃしませんし……」
グルザリオが歯切れ悪く口ごもる。ブレイヤールが立ち止ると、グルザリオとルガデルロも立ち止り、顔を見合わせた。
「ブレイヤール様」
大臣の目が、薄闇を隔ててきらりと光る。
「悪人同士でもだまし合うことがあります。クラムアネスも騙されて、相手を神官だと思い込んでおっただけやもしれませぬ。いずれにせよ、今はこんなことに気を取られている場合ではございませんぞ」
「なるほど。大臣もディクレス殿と同意見ってわけか。それって、年の功?」
ブレイヤールは身をひるがえして再び歩きはじめる。
七百年もの時が廻り、石人達の世界に再び人間が足を踏み入れようとしている。レイゼルトが初めて白城に姿を現したときから、まるで時が鏡に跳ね返されたように、役者こそ違えど、すべてが七百年前と逆の順序で動いていた。かつてはレイゼルトが倒されてすべてが終わった。今は彼が不気味に姿を消したところから、すべてが始まりつつある。
――最後には、石人と人間の間に戦が起きるんじゃないか。そうならなきゃいいが。そうならないようにしなければ。