4. 閣下





 人には2種類いる。
 旅行自体が好きな人間と、旅行の準備が好きな人間だ。
 後者は、旅行の当日前までにあれこれ想像して必要なものを揃えて、1日前にきっちりと用意してしまうと、もうそこで旅行が終わってしまったような気がするのだという。だから、旅行はおまけみたいなものだと。準備までが楽しいのだと。
「そーゆーひとの気持ちって、いまいちわかんないのよねぇ」
 つぶやいたのは、白いスーツの女性だった。真っ赤な唇をつんと尖らし、ふうとため息を吐くと、ベージュのような金髪をがしがしと右手でかき乱した。左手はほっそりした腰にそえられている。
 そこは豪奢な部屋。天井は高く空間は広く、高級な調度類が並んでいる。女性のはいている高級そうな靴のヒールはだいぶ高さがありなおかつ細いのだがが、そのヒールは分厚い絨毯に埋もれてしまっているのでわかりにくい。
 だが、その部屋が私室だろうということは、一目見れば容易にあたりがつけられそうだった。
 そのへんに脱ぎ散らかした服や靴が散乱し、その他の私物――高級そうな化粧品やら一見して高価とわかるごてごてと宝石のついたアクセサリー、繊細な手編みレースの手布なんかも惜しげもなく散らばっている。
 なんというか、綺麗な部屋なのだが、それをとても奔放に使用している、という趣だ。
「言われたものを一通り揃えました。靴、帽子、ドレスも昼用、夜会用、カジュアルとフォーマル別々に。どれを持って行かれますか?」
 声は、その部屋の女性のものではなかった。
 自分の頭よりも高く積み上げた箱を抱えて、ひとりの男がウォーキングクローゼットから出てきた。レディの部屋の扉をノックすることは、両手いっぱいの箱のために諦めたようだ。箱の塔の陰に隠れているので今は見えないが、男は白い糊の利いた軍服を着ている。若い将校だ。秀でた額、鋭い瞳。詰襟に光る階級章。だが癖っ毛の金髪が、どこか彼にあどけなさを与えている。
 スーツの女性は考えるようにひとつ自分のあごを撫でて、
「ぜんぶ、持って行くわ。荷物に加えておいてちょうだい」
 若い将校は抱える積み上げた箱の塔を倒してしまわないように苦心しつつ、了解しましたと声をあげ、
「しかし、閣下。本当にあの学院……セドゥルス学院に行かれるのですか?」と聞いた。
「何をいまさら。もう招待状の返事は出してしまっているわよ?」
「しかし、閣下のように国の重責を担うお方が、わざわざあのような辺境に出向かれることもないのではないでしょうか」
「たまには良いんじゃないの? 王都の籠の鳥じゃ、退屈するでしょ?」
 言って、閣下と呼ばれたスーツの女性は傍らにあったギヤマンの置物を紅い爪ではじく。チーンと深みのある高い音が部屋に響く。
 しかし、と若い将校はつぶやくようにいう。
「彼奴等がどんな企みを持っているのか、わかりません。そんなところへ赴かれるなど、虎の口の中に、自ら飛び込むようなものです。そうだ、あんな学院、先手を打ってつぶしてしまったっていいんだ、誰も困りはしない……」
 後半はまるで独り言だった。
 スーツの女性はくすりと笑い。
「いまは、彼らが飢えた虎かどうかもわかっていないわ。そして、獲物を狙っているとしたらそれは何か。そのことを確かめるのが、任務ではなくて? 賢い貴方なら良く知っているでしょう?」
「ですから、閣下ご自身がそんな斥候のような役目をされる必要がないと、私は思っているのです」
 そこでスーツの女性は動きを止めた。言葉を発した若い将校のところへ、注意深い足取りで近づく。もちろん、彼が抱える衣装箱の塔を上手に迂回しながら。そして、彼女は若い将校の右頬にそっと手を触れさせる。
「かわいいぼうや。貴方は、私のことを心配してくれているのね?」
「私は、いつでも、閣下、貴女のことを想っております」
 軍人らしいはっきりとした言葉だ。淀みと言うものがない。
 また一歩。スーツの女性は、若い将校に近づく。
「今回、貴方がわざわざ志願して同行の護衛隊に加わってくれると聞いたときは嬉しかったけれど、ここまで想っていてくれたなんて、知らなかったわ」
「閣下。私は……」
「貴方は私のモノ。私の言葉に従い、私の意に沿って動く。忘れていないわね?」
「はい。すべての忠誠を敬愛する閣下に」
「忠誠だけ?」
「あ、いえ。……私の凡てを、閣下に捧げます。これまでも、これからも、未来永劫」
「よろしくてよ。ぼうや……」
 閣下と呼ばれた女性はぼうやの頬に手を添えて、そして顔を近づける。
 薄曇りの空から注がれる光が窓を通り抜け、部屋を白く照らしている。



                    □■□



 そのとき、冷たい雨が降っていた。会議室のギヤマンの窓を、大粒の雨が、やる気のない楽団のように不規則に叩いている。
 朝は晴れていたのだが、午後になって雲行きが怪しくなり、日が落ちるころに雨が風と共に降り始めた。秋、学院がある地域には晴れの日が多いが、山岳地帯にあるため、急に天候が変わることがある。色づいた葉も雨に濡れそぼっている。翌朝には葉を散らすのだろう。こうやって季節は少しずつ冬へと近づいていく。
「そのとき、僕の意識はかなり薄れていました。けれどその、黒外套の男は言ったんです。『私が、ピエトリーニャだ』と……」
 そこまで話して、アッシアは言葉を切った。相手の反応を見たかったためだ。というよりも、自分の話している内容に自信が持てなかったからだと言ったほうがより現実に近いのかもしれない。
 外がすでに暗くなっているので、学院の会議室には魔術灯が点けられている。調整された暖色が部屋を満たしている。
 その部屋にはふたりと一匹。ちょうど今話を終えたアッシアと、黒猫レイレン、そしてエマ教師。
 ふたりは会議室の長卓に向かい合って座り、そしてその間に、ちょこんと黒猫が座っている。まるで机の上の置物か何かのように。
 夏にベルファルト王国を訪れたときに、アッシアが炎上する砦で体験したことをそのまま説明した。つまり、戦闘の後で突然現れたレイレン=デインに似た男が、意識が朦朧としていたアッシアに対して、自分がピエトリーニャだと告白したことを。それについて、アッシアは意識が朦朧としていたから自分の空耳かもしれないことを強調した。しかし、黒猫とエマ教師は、アッシアの話を実際に起こったこととして受け止めたようだった。
 エマ教師も黒猫も無言だった。エマ教師は、何かを考えるようにじっと長卓の一部を見つめている。彼女の樺色の髪は、暖色の光を受けて、葡萄酒のような深い色合いの赤になっていた。おそらくは、何かを迷い、逡巡しているのだろう。アッシアはその迷いに同意するかのように、彼もまた沈黙した。自分の黒縁眼鏡を片手で挟むようにして押さえ、表情を隠すようにしている。
「その黒外套の男が」永遠のような沈黙を破ったのは、エマだった。「ピエトリーニャだというのは、きっと間違いないのでしょうね」
 ぽつりと吐き出されたその言葉のあと、少し間があった。エマは続ける。
「アッシア教師が瀕死になっている、そんな場面で嘘をつく理由もありません。騙そうとするのであれば、もっと別の状況を作るはず。いえ、意味の無い嘘を言うひとなのかも知れませんが……」
「でも、僕の聞き違いかも知れません」黒縁眼鏡のアッシアが言う。
「聞き違いというには、手が込みすぎていますよ」エマの微笑。「もしくは、アッシア教師のつくりごとというならともかく。けれど、アッシア教師はそんな方では無いでしょう? わたしを騙すにしても、わたしは大金なんて持っていませんし」
 まるで慈愛あふれる教師のように――いや、まさにそのとおりなのだが――彼女の諧謔を交えた言葉、そして静かな微笑み。
「いろいろな不確定な事項を考え合わせても、アッシア教師が話してくれたことは、価値のある情報だと思います」そこでちょっと言葉を切り、何かを考えるように彼女は息を吸った。「いまは、ピエトリーニャの正体自体が謎ですが、その謎にひとつのヒントが与えられたことになりますね。ピエトリーニャは150歳を超えた老齢の男性のはず。しかし、アッシア教師が会ったピエトリーニャは若い男性、しかもレイレン=デインと同じ姿をしていた。これは、何を意味しているのか」
 そういう――ことになるのか、とアッシアは半ば混乱しながら頷いた。自分の話を信じてもらえたのは素直に嬉しいが、責任も重いと彼は感じていた。
「僕の仮説ですが」思い切ったように、アッシアは言った。「ピエトリーニャは、精神を入れ替える魔術を使っているのだと思います。ピエトリーニャとレイレン=デイン、ふたりの精神と肉体とを入れ替えているのです」
「それは、ピエトリーニャの精神が、レイレンの肉体に宿っている。そういうことですか」
「ええ」エマの質問に、アッシアは頷いて答える。「精神がそんな風に入れ替えられるものなのか、という議論はひとまず置いて、ピエトリーニャは精神入れ替えの魔術を開発したのだと思います」
「精神入れ替えの魔術……ちょっと技術的な想像がつきませんが、ピエトリーニャならば可能なのでしょうか」
 エマは考え込むようにして、親指で唇を軽くなぞった。指の白さと口唇の淡い桜色。
 そして疑問を口にする。
「ですが、精神を入れ替えるのであれば、レイレンの精神はピエトリーニャの肉体に入っていなければなりません。しかし何故、レイレンの精神をピエトリーニャの肉体に移さず、黒猫の肉体に入れたのでしょう」
「そこはわかりません」
 アッシアは素直に答えた。
「しかし、そう考えると、レイレンの姿をした男がピエトリーニャを名乗っていることに、説明がつきます」
「そうなると、ピエトリーニャの精神がレイレンの肉体に、レイレンの精神が黒猫の肉体に、そして黒猫の精神がピエトリーニャの肉体に入っていることになります。普通は、猫の精神を自分の体に入れようとは考えないのでは?」
「そこも不思議な点ではありますが……」アッシアは少し間をおいた。「ひょっとしたら、ピエトリーニャの肉体は、もう死んでいるのかも知れません」
「自分の肉体が使えないから、黒猫を媒介として精神入れ替えを行った? しかし、レイレンの精神を残す意味がよくわかりません。魔術発動の条件にかかわっているのかもしれませんが、魔術の内容がわかりませんから、これ以上議論しても仕方が無いかもしれませんね」
「そうですね。僕の精神入れ替えの話は、ただの想像です。あまり有益ではないかもしれません」
 そう。仮定に仮定を重ねた議論をしても意味がない。
「謎が多いですね」エマは言う。「ジュリアス殿下が送ってくれた報告書の写しは、私のところにも届いていたので読みました。なんでも、夏に探したピエトリーニャの隠れ家の施設には、100名あまりが収容できる施設があり、生活の痕跡もあったとか。しかし、その100名の行方がわからない。それだけの数であれば、何かしらの痕跡や手がかりがあってもおかしくないのですが」
「100名あまり全員が隠密行動の訓練を受けていたのかも知れません。しかし、靴の燃え残りがあったという報告が、僕は気になりました」
「というと?」
「移動をするのに、靴を残していくでしょうか」
「それは……長距離を移動するために、皆新しい靴に履き変えたのでは? 古い靴は残るはずです」
「そうなのですが、何か違和感が残るのです。他の手がかりになるようなものは念入りに焼き払っているのに、靴は燃え残っている。まるで日常のゴミ処理であったかのようです」
「彼らの行動に整合性がないということでしょうか?」
「そう、整合性、それです。彼らのような痕跡を根こそぎ消してしまう秘密主義者が、隊員の靴を残しておく、そこがひっかかるんです」
「そうですね、隊員の靴は、彼らが消し忘れた手がかりになるかも知れませんね」
「自分でも考えすぎのように思うんですが、ひっかかるんです。ジュリアス……殿下には、詳報を求める手紙を送っています。
「わかりました。何かわかったら私にも教えてください」
 もちろん、とアッシアは了解する。
 そして、何かを考えるように間をおいたあと、エマは静かに決意を告げた。
「今後の方針ですが、私は、そのピエトリーニャと名乗る男を捜しだし、また会うべきだと考えています。そして、直接、今の疑問をぶつけてみたい」
「えっ?」アッシアは驚いた。この目の前の可愛らしい女性は、こんなに大胆なことを言う人だったのかと。「ですが、前に一度、殺されかけているのですよ? 今回も戦闘を交えています。あの男には、直接かかわるべきではありません。危険です」
「でも、会うにしてもいろいろです。つまりはこちらが安全に会える状況を作り出せれば良いのです。要は危険なことがわかっているならば、対策して臨めばよいのです。
 いずれにしろ彼の所在がわからないので、再び探すことから始まりますけれど」
「それは、そうですが……」
 不安な相槌をうったアッシアに向かい、エマ教師はにこりと魅力的な微笑みをつくって見せる。
「わからないことが多すぎるんです。わからないことがあれば、本人に聞いてみるのが一番でしょう?」
 そして彼女はひとつ頷き、
「きっと話を聞いたあとは、交渉になります。でも、相手の情報がなければ交渉することもできない。交渉の前に、一度会わないことには、どうにもなりません。間接的な接触から、交渉に役立つような情報が得られるとは思えません。
 ……大丈夫です。いろいろな人が、ピエトリーニャを探しています。そのネットワークをたどれば、再びめぐり合うこともできるでしょう。現に、アッシア教師は二回も会うことが出来たのですから」
 後半は、アッシアの不安そうな表情を読み取ってのエマの言葉だったのだろう。黒縁眼鏡の教師は、ごまかすように咳払いし、
「二回が二回とも、命がけでしたけどね」
 眼鏡をかけなおすアッシアの表情は、まだ少しひきつっていた。彼なりの精一杯のジョークだったが。
「レイレンも……いいかしら?」
 エマの言葉と視線は、黒猫に向けられる。アッシアも、机の上に座る黒猫を見遣る。黒猫は、
「こちらは協力を頼んでいる身だ。ぜひも無い。他に手がかりも妙案も無い。お前の案に従おう」
 うん――とエマが頷く。そして続ける。
「アーンバル従軍時代のつてを、頼ってみようと思っています。ひょっとしたら誰かが、そのピエトリーニャを名乗る男を知っているかもしれないですから」
 そうか、とアッシアは思う。エレ=ノアの妹分であったエマ教師の従軍時代のつてであれば、魔術師同士のコミュニティ、しかも高位の魔術師のコミュニティの者だろう。ピエトリーニャを名乗る男も、あれだけのスキルであれば、かなり高位の魔術師に違いない。それであれば、ピエトリーニャを名乗る男を探すには、魔術師のコミュニティを頼るべきだろう。むしろ、エレ=ノア当人に聞けば、ピエトリーニャを名乗る男ないしピエトリーニャの行方もわかるかも知れない。人づてという単純な方法だが、効果はかなり高そうだ。何故今まで思いつかなかったか疑問なほどだ。
 そしてアッシアは、思い巡らせる。自分にもそんなつてがあっただろうかと。自分の旧家のつては使ってしまったし、あと魔術師関連のつてといえば――。

 そして、アッシアが考え、エマがさらに話を進めようとしたそのとき、会議室の分厚い木の扉がノックされた。
 ややあって、重たげな両開きの扉のうち、ひとつだけ扉が少し開き、ひょこりとひとりの女性の顔がのぞいた。彼女の特徴のあるウェーブの髪がふわりと揺れる。シアル教師だった。
「お邪魔だったかしら? エマ」
 手で口元をおさえながら、シアル教師が尋ねた。押さえた手の銀の指輪が、魔術灯の光を映してきらりと光る。
「いいえ。ちょうど今、終わったところよ。今後の指導要領について、ちょっと相談していたの」
 エマはさらりと言い訳を口にする。これはつまり、黒猫レイレンのことは学院関係者には秘密にしておくというアッシアへのサインでもある。エマとアッシアとの、事前の合意事項でもあった。
 そう、それなら良かったと言いながら、シアル教師は会議室へと入ってくる。
「降ってきましたね。この時期の雨は寒々しくて、気分が滅入りますね」
 これはアッシアに向けたシアル教師の言葉だった。
 そうですね、と彼は相槌をうつ。
 エマは小さな懐中時計を取り出して時刻を確認する。
「もう時間ですね。シアルさんごめんなさい。ちょっと遅刻かしら」
「いいのよ。夕食の約束と言ったって、どうせ学院の食堂なんだし……それよりも、エマ教師に見せたいものがあって」
「見せたいもの?」
 小首を傾げると、彼女の特徴的な樺色の髪がさらりと揺れる。
「これ。ついさっき、生徒が配っていたビラなんだけれど」
 シアル教師が渡す紙片を受け取り、エマはそれに目を落とす。
「びっくりの内容でしょう? エマさん、エレ=ノアさんと親しいのよね? このこと、知っていました?」
 エマはすぐには答えず、木版刷りのチラシを見つめている。持つ指に、わずかにちからが入った。そして、いいえ、とだけ彼女は答えた。
「セドゥルス学院長と、エレ=ノアさんが、学院祭で模擬試合をするそうですよ」
 シアル教師は、チラシが見えないアッシアに向けて、そう説明してくれる。
 へぇ、と声をあげて驚くアッシア。そして、彼はシアル教師と雑談をはじめる。
 

 黒猫のレイレンは、会話を邪魔しないように気をつけながらゆっくりと、会議室の長卓からおりるべく立ち上がった。
 ふたりの高名な魔術師の模擬試合の意味するところ、重大さがわからなかったわけではない。
 けれどその情報を聞いても驚かなかったのは、さきほどのアッシアとエマが話していた仮説が頭にこびりついていたせいだった。
 精神を入れ替えるという魔術によって自分は猫になった。
 その仮説が正しいのだとすれば、それでは自分が元の姿に戻れる可能性が高いのか低いのか。
 また、元に戻るために、ピエトリーニャの協力が得られるのかどうか。
 どうも、なかなか難しい問題のように思えた。
 だがもとより、簡単な状況だったわけではない。糸のように細い、一縷の望みをつなぐようにして、手がかりを探しているのだ。
 仮説が出てきただけでも前進だ。

 黒猫レイレンはひたひたと長卓の上を歩きながら、樺色の髪の女性の表情を横目で見る。
 木版刷りの紙片をのぞきこむ彼女は、物憂げというよりもどこか怯えているような表情。驚いているという表情には見えなかった。
 けれど、それも、ほんのわずかの間。
 彼女は表情をくるりと変えて雑談に加わった。表情はいつもの明るいそれ。なんの心配もないように思える。
 けれど、ほんのわずか浮かんだ感情を、彼女が無理やり遮断したのが、ありありと黒猫レイレンにはわかってしまった。なにかしらの負の感情を、あるいは何かの不安を、彼女は、姉とも呼ばれる人間に持っているのだろう。
 黒猫はふぃと視線を足元に戻す。年季の入った長卓の木目は暖色の光に黒光りしている。
 耳を澄ませば、まだ外では激しく風雨がうなりをあげていた。