●TOP 
立ちごけ防止策1:バンパー  瞬間的な「バランス」
バイク自身の起き上がり現象   路面擦りでの転倒経験
  安全性解析の再チェック
  徐行・停止時の落とし穴  計算の楽しみと重心の算定
立ち転けと       引き起こしの力学転ばない2輪車 作成者:個人     名前:山中
作成:2012.12.25  改定:'23.1.22
対象バイク : オートバイ・タイプ

  ようこそわたしのHPへ
このホームページの目的 自己紹介
 人は長い文章を目の前にすると、読むかどうかを決める前にその著者の信頼性をチェックします。
 ですからマナーとして、技術的な略歴を書いておきます。
 私は地元の大学の電気工学科を卒業して38年間、現役エンジニアとして測定器の設計を担当してきました。
 このHPに書いてあることはメカ的な事ですが、エンジニアに「メカ屋」も「エレキ屋」もありません。工学部を卒業して それぞれの仕事をしていてもエンジニアである人とない人が居るだけです。
 「物性」の様に難しい分野はそうは行きませんが、その技術屋にとって新しい分野は勉強すれば何とかなるものです。会社は「○○電機」でしたが、会社の「メカ屋」さんがメカ的な微分方程式を解いている事を見たことが有りません。そういうメカ屋さんより優れた機械設計もしてきました。
 このHPを見て下さった、バイクに御興味の無い方でも、ことによったら御自分の中に例えば計算することの楽しみ等、新分野に踏み出す面白さを発見なさるかもしれません。
 また、このHPの作成者は、この他に次のHPも開いています。
 「エルミタージュ、ルーブル美術館を全部観る
 「階名の読み替えと純正調
ご使用のブラウザとOSについて
 このHPは 嘗て文字と文字や写真等が重なってしまう問題が有りました。
 しかし、今回の編集モードの切り替えによって、どのブラウザで見ても正常になる様にしました(全てのブラウザや OS で確認していません)。
 ただし、
  ε-α* t
などの表現は、ブラウザー:Google Chrome では判りずらくなります。
 
Internet Explorer をお勧めします。

*0 この「立ち転けが、バイク転倒で一番多い」ことは JAFも言っています《現在ではそのサイトで「ベテランライダーであっても、うっかり立ちゴケすることはめずらしくありません」と言っています》。
 バイクは、電車に乗るのが面倒になる位 便利でエコな乗り物。
 一般に思われているより安全で、或るとき高速道路で接触を避けるため左に転倒し、それから前・後のタイヤを中心にして車体が裏返り、ハンドルの右がグニャリとタイヤ側に曲がってしまった事が有りましたが、路上に「避難」した私自身は怪我一つしなかった位です《時速120km位でした》。
 しかしこの様に走っているときに転倒するというのは例外中の例外で、走行中に一回も転んだ事が無い人でも 急カーブを徐行中ブレーキを掛けた途端転んでしまう事が有ります。
 そういうのを「立ち転け」と言って、これは「偶々バランスを崩した為」とされてきましたが、このHPではバイク転倒の殆どである立ちごけ《→*0》のメカニズムを数学的に解明して「転ぶべくして転んだ」ことを明確にし、且それを完全に防止する為の注意と「踏ん張り棒」を提唱し、また事故などで完全に転倒してしまったとき、例え90歳になってもそれを引き起こす方法を紹介しています。
 更に、計算する過程で「立ち転け無しバイク」を考案しました。これは前輪タイヤの断面形状を変えなければなりませんが、250cc以上の重いバイクに乗る人にとっての宿願であるバイクを提唱しています。
        
                                                図1             
白バイのバンパーの役目
 ご指摘、ご意見を頂ければ幸いです。それをお寄せ下さる方は右の「MAIL」をクリックして下さい。
 【図1】は私の家の前で速度取り締まりをしていた白バイを、許可を得て撮影したものです《ナンバーと警察官の顔を写さない様に 言われました》。
   一般には「エンジンガード」と呼ばれている、車体前部の鉄パイプをこのホームページでは「前バンパー」と言うことにします《→》。
 上図の中の × 印で示したGは車体の重心の推測位置です。この車体を前から見て「前バンパー」の点Aと「後ろバンパー」《仮名》の点B及び前輪の接地点Cが同一平面になる様に《前から見てABCが直線上に並ぶ様に》撮影し、路面に倒した様に画面を回転したものが【図2】です。
 その、バイクを転倒させたとき、車体の重心Gから【図2】の様に、面ABCに下ろした垂線が、【図1】の三角形ABCの中に在れば、このバイクはA,B,Cの3点で路面に接し、安定して「転倒している」と言えます。
 このとき、やはり前から見て前輪と後輪が両者とも見える様に撮影した写真【図3】から判断すると、前輪・後輪ともそのサスペンション《車重を支えるバネ等による支持機構》が伸びるので前輪・後輪とも路面に着きます。
 そのとき後輪の接地点をDとすると、バイク全体の接地面はABCDとなります。
 この転倒状態で、バックミラー《【図2】の中のE》も前ブレーキ・レバー《同F》も、路面ABCDより上に在るので、白バイは立ちごけ程度では何処も壊れることがない訳です。

 しかし、この【図2】の2つのスピーカの上端を結ぶ線と接地面ABCとの角度を測ると、直立状態からの傾き角度は59°なので、この状態からバイクを引き起こすのは、余ほど力学的に考えた起こし方をしないと血気盛んな白バイ隊員以外は無理でしょう。
   この鉄パイプはエンジンだけではなく、ライダーの足やバックミラー等を守り、形 次第で転倒も防止するので、このホームページでは「バンパー」の方が相応しいと思います     
  以下細かい事付随的な事は小さい字で書きます。
 実際の転倒状態では上記サスペンションが伸びるので、引き起こしのときの回転軸《てこの原理で言う支点》CDは、引き起こす人からこの写真よりも遠ざかってしまい、引き起こしは更に困難になります。【図2】と【図3】の写真は往復4車線道路の反対側から《つまり遠くから》撮影しています。

                   図2                    

図3
 ただし、この図の様にバイクが倒れているとき、ハンドルが斜め上空を向いて倒れている状態は、現実には有り得ません《左の【図2】も同様》。白バイが実際に倒れている動画などをよく見ると、確かにやや下を向いています
 特に、倒れる過程ではまだ車体は着地していないのでハンドルが確実に下《地面の方》を向こうとする大きな力が発生しています。この頁最後の*18及び次ページの【図35a】参照。


            図4
●立ちごけ防止策1:バンパー
        改造バイクはホンダのホーネット (250cc)
 直立状態からの傾き角を、上記59°ではなく、【図5】の様に30°位に小さくすれば、バイクはぎりぎりながら「立っている」と言えます。唯物論哲学で言う「量この場合車体の傾き角の違いから質転んでいるのか立っているのかの違いへの転換」という奴です。→*01
 私がもう少し若かった頃は峠道を45°近く傾けて走っていましたが、今は高速道路を走る方が多くなったので白バイ程のバンク角→*02は必要無く、峠のヘアピン・カーブでも精々30°弱バンク出来れば十分です。
 そこで、車体を30°傾けたとき、本体中心面から極力遠い点で前バンパーの一部が接地する様にします。その接地点を【図4】《この図は35°傾ける前の図》の様にPとして、そのときのタイヤの接地C,Dを結ぶ線《以下「接地線分」と言います》とPからなる三角形PCDの面に対する重心Gからの垂線が、その三角形の中(内側)に在れば、そのバイクは30°傾いて「立っている」筈です。
 しかし【図4】の様な形の前バンパー(エンジンガード)は売っていません。その為、バンク角30°を確保できる様にする為に車体の、“出来るだけ低い位置に”丸みを帯びた普通のバンパーを取り付け、その丸みを帯びた部分に突起物《【図6】のP》を取り付ける事にしました。
 その突起物Pを取り付けない場合には、30°の傾きになってバンパーの一点《【図6】の中のPbとします》が接地してもPbは車体中心面に近い為、Gから路面に下ろした垂線の位置《幾何学で「垂線の足」と言い、以下その位置をGhとします》は接地三角形PbCDの外に来てしまうので、更にゴロンと倒れてゆき、直立状態からの傾き角は90°以上になって、ゆっくり倒れても車体の重みでバックミラーが壊れてしまいます《ただし倒れる過程で、前輪タイヤの後部に掛かる力に逆らってハンドルを上の方(つまり左に倒すときはハンドルを右の方)に向けながら倒す場合にはバックミラーは壊れません》。
 ところが【図6】の様な突起物P《M10(ねじ径10mmのミリねじ)のネジ頭》を付けると、【図5】の様に見事“立ちます”。ただし【図5】の場合にも、【図4】及び【図1】,【図2】で述べたGからの垂線に関する条件を全て満たしているものとします。
 しかし、Gから下ろした垂線がギリギリ三角形PCDの中に在るという場合《つまり、GP点より後方に在るので、上記垂線が線分PDの直ぐ近くに在る場合》には、バイクはちょっと触っただけで線分PDを回転軸として完全に倒れてしまいます
 今回の改造の結果では《下の【図6】でも》、意識的にバイクを倒そうとしなければ、それ以上倒れません↗*03

                 図5
*01 【図5】では左側のハンドルに、偶々パイプが差し込んで有りますがそのパイプは何処にも触っていません。また図中、関係ないものはぼかしてありますが、「種」とか「仕掛け」を隠している訳ではありません。無論サイドスタンドは出していず、本文の中のP点とタイヤだけが地面に接しています。


*02 白バイの場合には犯人の車を追い駆けたりするのにバンク角《曲がる為に車体を傾ける角度、後述》を 45°以上にする必要があるし、転倒した場合車体を起こす人の力も問題無いなので、バンク角優先でバンパーの形が決まっています。



 このバイクはガソリンを12リットル入れるとバンパーやカーナビを取り付ける為の金具等を含め、重さは180kg位になります。
 従って作業中、車体が予期せぬときに倒れると死に至るので、何重もの安全対策(フェイルセーフ)が必要です。つっかえ棒や紐などで6重にしたことも有ります。
 地震と津波の、たったの1セットが来ただけで放射能を撒き散らす様な、儲け優先で素人臭い原発業者とは違います。
 しかし、そうしても野田元総理が言っていた様に「絶対に安全」ということはありません。安全対策の一つとしてバイクが右に倒れない様に、庭の植木の幹とハンドルの左グリップとを長い紐で結んでいました。
 そしたらスピードを出して走って行ったトラックの荷台の鉄枠の上部が、道路に少し出ていた植木の枝に引っかかり、バイクは勢いよく左に倒れてしまいました。
 幸い、私は家の中に居たので助かりましたが、「想定」を我が家の庭の中に限定していた事を反省しています。
*03  【図7】()は改造前の“倒れてしまう”バイクです。
 
実際の道路のカーブを“走る”ときはハンドルは殆ど真っ直ぐに近いです。「バンク可能角」を比較的正確な値にする為には、【図19】とその左上の注*4 に基づいた、突起Pの取り付け方をする必要があります。実際の作業としては【図8】の様な冶具を作り、突起P《あるいは【図9a】のPc》の、【図19】に示す位置合わせをします。5の撮影に際しては、P点の下には園芸用で金属製の手シャベルの平らな面を敷き、P点が地面に食い込まない様にしています 

                       図6 
 【図6】の中の、突起Pを取り付けた締め金具のネジにΦ13のパイプを「つっかえ棒」として補強する方式では、確かに立ちごけ程度にゆっくりと転ぶときには問題ありません。しかし、最近('13.2月)私が体験した様に、トラックに後ろから激突されて勢いよく転倒した場合には、その転倒時の衝撃でΦ13のパイプは裂け、突起Pは引っ込んでしまので完全転倒します。
 そこで、もっと強度の有る方式に改良したものが【図9a,b,c】です。図中の「踏ん張り棒」はΦ19のオール・ステンレスパイプの中にΦ16とΦ13のオール・ステンレスパイプが入っていて、バイク本体の窪みやネジに合わせて削ってあります《次頁【図26】の踏ん張り棒の左端》。
 

              図7

   図8 ↓
 右の【図8】の分度器の裏側には水準器が貼り付けられていて、別の水準器でバイクを正確に直立させておき《後輪タイヤの上部と下部の左端又は右端で合わせます》、【図8】の治具を使って【図9a】のタイヤの接地線分CDに対する踏ん張り棒の先端Pcの位置決めを、【図19】に従って行いました。 
               図9b
 この写真は
C,DPcとで「立っている」写真ですが、垂線の足の位置Gh等は三角形PcDQ《後述》で接地しているときの位置です。
 また、車体が左に傾いているとき、図では右のハンドル・グリップを白い2本のロープで車体後部・下方向に引っ張っているので ハンドルは直進方向を向いていますが、ロープが無い場合には ハンドルは左に向きます《もしも次頁冒頭の【図21-a】のキャスター角が負の値であれば、ハンドルはこれと反対に向きます》。
 【図9b】の様に車体が左に傾いた場合、ハンドルを右向き《上向き》にすると、身体を斜めにして腰をガソリン・タンクの側面上部に押し付ける事が出来、足の屈伸の力使う事が出来るので楽に起こせます。
        図9a  この「踏ん張り棒」の先端PcにはM10の袋ナットが有り、その内側の窪みに合わせて丸く削ってあるM10のネジ()がネジ込まれています《次ページ「徐行・停止時の落とし穴」の【図26】の踏ん張り棒の右端》。そうしないと、1回の「P点立ち」で袋ナットはグチャグチャに潰れてしまいます。このP点立ちをしたときの本体傾き角を【図8】の冶具で測ったら37.5°でした《【図15-a~d】の下の計算値は37.09°》

                                          図9c
          図10 《↘*04 

 【図11】は突起Pの下に木の板を敷いてその部分を見やすくしたものです。いま、線分GhDGhGから下ろした垂線の足》の延長線と、線分PPbとの交点をPgとします。
 前述の様に突起Pが無く「Pbで接地するとバイクは倒れる」という事は、“線分PbDの外側にGhが在る”という事であり、且つ「Pで接地すると倒れない」という事は“線分PDの内側に
Ghが在る”という事を意味しています。従って、GhDの延長点Pgは【図11】が示す様に、PbPとの間に有ることが判ります。
 PbPとの間の横方向《バイクの左右方向》の距離は約110mmで、Pからタイヤの接地点C,Dを結ぶ線《【図6】の線H》までの距離《これをLpとします》は約320mmです。仮に上記Pgが【図11】の様にPPbの真ん中に在る場合には、突起物P(M10のネジ頭)には、ライダーが乗らないときでも
  180kg×(320 - 110×0.5)/320×0.89 = 133kg 
                  《 “/”は “÷”の意味》
という、極めて大きい荷重が掛かります。ただし、式中 0.89 という値は
     (GhD間の距離)/(PgD間の距離)
の値であり、180kgは【図7】の上で述べた車体の全重量です。

 上記の【図11】の様にPg の位置がPPb の真ん中に在って「安定して立っている」バイクでも、例えば左の方に 5°傾いている地面《左側が谷側になっている 5°の斜面》にバイクを突起Pで接地させると、バイクは転がってしまいます《【図11】の位置関係の場合》。その転がる前の図が【図14】です。 5°と言えば明らかな「斜面」ですが、その場合には同図の様にGh の位置が線分PD の外に出てしまうからです。しかし、【図9a】の新たな改造で改善されました。《↗*04》

 アメリカが月面着陸成功のときのパレードの先導バイクは、当然ハーレーだったと思いますが、遠くから撮影したTV画像によると「バンク可能角」は30°↘*1弱しか採っていませんでした。しかもハーレーは横幅が広く、重心も低いので、バンパーのちょっとした改良で転倒しないバイクを生産する事が出来る筈です。
 しかし、それどころか「バイクは倒れるのが当たり前」とばかりに「引き起こし体験」の講座まで開いています。その講座の体験談によれば、その体験をする為に女性が「長蛇の列」を作るそうです。
 アメリカの麻薬捜査のアクション映画「フレンチコネクション2」の中に出てくるフランスの白バイ相当のバイクは、バンパーがお多福型というか、下の方が幅広の形をしていたので、「これは倒れないかもしれない」と思って録画画面に定規を当ててみましたが、あれも倒れます。「バンク可能角」を44°↘*1弱も採っているので、有り得ないほど低重心でなければ、ハンドルが地面に着いてしまう位に倒れます。
 ハーレー社が、バイクが倒れない為のバンパーにしないのは【図4】の様なバンパーは角張っていて格好が悪いからだと思います《あんな重そうな物が、あんな角張った部分で支えると思うと、美しさとは逆の感覚を人に与えます》。
 それなら【図12】の様な形にするのはどうでしょう。これなら角なしで、遠方・真正面から見ると【図4】と同じになり、効果も同じです
 図11 
*04
 【図9c】の車体の重心の位置Gは推測位置ですが、改善前の【図6】の突起Pは重心位置Gよりも大きく前の位置に在った為、Gからの垂線の足Ghが線分PDに近く、線分PDを回転軸として倒れ易いという欠点が有りました。
 しかし、改善後は踏ん張り棒を取り付けているバンパーの位置を車体のほぼ中央にした事により、踏ん張り棒の先端Pcの位置も、【図9c】の様に車体の重心の位置Ghの近くに来ています。
 その為、Ghから線分PcD及びPcCまでの距離が大きくなり、倒れにくくなっています。後方が5°位下り坂になっている場所でも、この立ちごけ防止策は多分有効だと思います。しかし、倒れそうになったとき何もしないでいると慣性力に因って倒れてしまうかもしれません《次頁》。

 【図6】と【図9a】のPaは、カーブの走行中 上記突起PまたはPcが路面に触れそうになったとき、Paが路面を軽く擦っただけで音を出す“アラーム”です。地面の細かい凸凹を振動として伝えるステンレス板に、薄くて軽いアルミ板を取り付けています。
 【図6】の、右の半透明の箱の中にはPHS(ポケット電話)を入れてあり、そのPHSに取り付けた手作りの小さな機械が、バイク盗難時にPHSのボタンを押して私が持っている別のPHSに電話を掛け、【図10の様なメッセージを送ってくる様にしていました《「電話機の中を改造する事は違法だ」と聞いていたので、ボタンを機械的に押す様にしました》。
 しかし、センサーが泥棒を検知したとき《例えば泥棒が警報回路への配線を切断したとき等》、非常に大きな警報音(110デシベル:戸締り防犯用)だけで十分である事が分ったので現在はPHSを外しています。

                 図12
 【図12】の様なバンパーであれば突起物などは必要なくなります。更に、原っぱ程度の地面の柔らかい場所でも倒れないバイクにする事が出来ます。
 現在私が使っているバンパーは、上野のハーレー用品店で3万円位で買って来た物ですが、鉄工所に【図12】の様なバンパーを作って貰うと、とてもそんな金額では済まないと思います。
 ハーレーのバンパーは実に頑丈で、そのバンパーをバイクに固定する為に溶接されている鉄板《3.2mmの厚さ》は、今回の改造の為に切る必要が有りました。バイク屋さんの話によると「焼入れしてあるので普通は切れない」とのことですが、私は休み休み3日位かけて切りました。メッキも立派なもので、傷が付いても硬いので極く浅い傷しか付かず、その傷の周辺には錆が広がりません。
 そのバンパーを買う前は安物で、左・右に分かれていたので強度的に無理が有り、走行中 転倒したときに役に立ちませんでした《左半身、総かすり傷》。バイクは古くなって買い換えるとき、大概製造中止になっているので機種を変えなければなりませんが、上記のハーレーのバンパーは「一生もの」として工夫して取り付けています。


 この、バンパーあるいは車体の一部を出っ張らせて立ちごけ防止をする方法は、ライダーや同乗者が暢気にシートに座ったままでは 車体ごと倒れてしまいます。ライダーや積荷を含めた重心はマシーンだけのときの高さより上に上がってしまい《人は車体の重心よりも上の位置に乗る為》、更に同乗者がいる場合にはその体重次第で重心が後ろにも移動してしまうので、上記Gh の位置が線分PDの外側に移ってしまうからです。
 この立ちごけ防止策1では、転けそうになった時ライダーは腰を浮かして、自分は倒れそうな方の足で立つ事を前提にしています。

 しかし同乗者が乗っている場合でも、突起Pが接地していれば、少なくとも車体が倒れる事に因る力の分は“突起Pが受け持ってくれる”ので、同乗者が乗っている事に因る力の分だけをライダーは頑張れば良いのです。そのライダーが耐えている間に、同乗者はバイクが傾いた方と反対側にゆっくりと体重を移動してから、ライダーにバイクを立て直して貰えば良いのです。しかし、このとき同乗者が急に体重移動をすると、その反作用の力で倒れてしまいます。↗*2
 以上は、これは地面が平らであることが前提ですが、左右方向に傾いている斜面で同乗者がいる場合には絶対に転ばない様、次頁の停止時転倒の予防策を守るべきです↗*3
*1 左記の30°とか44°の「バンク可能角」は、遠くから撮影した映像で車体本体の傾き角を分度器で測ったものです。サスペンションのバネの硬さが無限に硬い場合にはそれで良いのですが、実際には遠心力でバネが縮んだ分だけバンク可能角は小さくなります。
 タイヤの太さをも考慮した正確な計算は最後の頁の 見掛けのバンク角と真のバンク角
に書いて有ります。

*2
 その体重移動では、移動し始めが肝心なのですが、1秒以上かけて「ゆっくり」体重移動する積もりであれば反作用の力は無視出来るでしょう。
 また、突起Pに、前述した“つっかえ棒”など、十分な強度を持たせない場合には、大きな力が突起Pに加わった途端、「倒れるバイク」に戻ってしまうので安心しているのは危険です。

*3 斜面の下側《谷側》に倒れるのは非常に危険ですから、谷側に倒れそうになったら、先ずは谷側の脚を上げて脚が挟まれない様にしながら直ぐに逃げるべきです。
 山の中の美術館や都内の土地の狭いホテルなどでは、斜面になっている所を駐輪場に指定している場合が有りますが、それはバイクにとって危険なので、指示に従わず平らな所を見つけて駐輪しましょう。
 また、たとえ地面が左右方向に水平になる様にバイクを向けたとしても、急な上り坂の場合にもGhは線分PDの後ろに来てしまうので、この立ちごけ防止策の効果は小さくなります。ただし、【図9ac】の方式で大分改善しました《【図9c】の下の*04
。 

      傷(後述)    13
 下の【写真】の前ブレーキのレバーに何重かの輪ゴムを嵌めていますが、これは引き起こしのとき前輪が動き出さない様にする為です。この輪ゴムの代わりにギアを入れておくのも一策です。
 この輪ゴムは、例えば左に倒れているときハンドルを上向きにして両手で左ハンドルを持って力を入れ、同時に、腰をガソリン・タンクの上部に押し付けて足の力も使うときに、必須です。
 引き起こしの力を最小限にするには、引き起こすときの回転軸CDを中心とする円周の接線方向《つまり斜め上》に力を入れなければならなりません。ということはその力の水平方向成分の力に因って、《その輪ゴムが無いと》バイクが、ハンドルを向けている方向に動いてしまうからです。

◎瞬間的な「バランス」        TOPに戻る
 
バンク(bank)というのは飛行機でも同じですが、カーブを曲がるときライダーや積荷を含めた総重心の遠心力と地球の引力との合力の作用線《この場合 総重心の位置からその合力の方向に引いた直線》が、接地線分CDを通る様に、カーブの内側に車体を傾けることを言います【図16】。
 この状態の、【図16】に示す上記合力が重力の方向となす角:θ を、カーブ走行時の車体中心面の傾き《普通に言う「バンク角」》とは区別して「真のバンク角」と言うことにします。
 この【図16】ではライダーは乗っていませんが、ライダー等を含めた重心をGrとします。
 バンパーにP点を付ける事によって立ち転けを防止する場合、「P点立ち」のときの傾き角を余り大きく取ると、それだけ車体を直立させるのに大きな力を必要とするので、「P点立ち」の傾き角を小さく取りがちになります。
 その為、速いスピードでカーブに入ってしまった場合P点が路面を擦ってしまい、そのとき安全なのか危険なのかを確かめます。それを確かめる為、先ずは実地で、バンパーが路面を擦る程バンクしてみました。
 山梨県の「本栖みち」のヘアピンカーブで、左右1回ずつだけですが、0.50.7秒位、バンパーにP点として金具を付けて擦ってみたのが【図13】の傷跡です。たった1回の擦り:つまり走行中の点の接地でこれだけの傷。「ごーっ」という、小さいながら不気味な音でした。勿論、対向車も後続車も無い、見通しの良いカーブで擦ってみました。
 そのときにはまだ前記M10のネジ頭による突起ではなかったので点は現在より内側に在った《:前輪が浮き上がり安いので危険》のですが、転倒に結びつく様な不安定な動きは有りませんでした。しかも、「立ちごけ防止策2」で述べる、「サスペンション(バイク本体を支えるバネ機構)の不必要な伸びを制限」している状態《:これも前輪が浮き安く、危険度が増す》での実験でした。
 バンク走行をしているとき金属製の点《以下、Pcを区別せずに で表します》が接地して路面を強く抑え、前輪の接地点Cが路面から浮いてしまうと、バイクはカーブのほぼ接線方向に直進してしまいます。しかし、そうならなかったのは前・後輪のサスペンションが伸びてタイヤが路面をグリップして(掴んで)いたからです。
 点に重力が掛かって、その分タイヤの接地点CD
掛かる重力が少し減った程度では、サスペンションのバネ
の伸びに応じた力がまだ残っています。

 この定性的な解析では私自身も安心出来ないので、以下の様にP点が路面を擦ったときの力の状況を、実際の数値も使いながら定量的に解析しました。
 私がその解析に到達するのに、1
月以上の時間が掛かりました。「シンプル・イズ・ベスト」を信条として複雑な事は「嫌いだ」という方は読み飛ばした方が良いでしょう。

              図16

              図14


このスライドショーの黄色のボタンは、ActiveXコントロールを実行しない様に制限されている場合には動作しません。
 ライダーの体重や積荷を含めた総重量:240kg(これを Mr とします)の重心Grに掛かる重力をFg →*a》とし、実際にライダーが乗って、路上で上記「真のバンク角」 θa 《バンク可能な目標値を θa=30°とします》になる様なスピード《このスピードのことを以下バンク角30°相当のスピードと表します》でカーブを曲がったとき、【図15-a】は、そのときの力の方向などを示しています。図中のFa はそのときの遠心力です。図から
  tan θa=Fa/Fg        ( =tan 30°=0.577 )

となり、バイク本体がサスペンションのバネに掛ける力《Fd とします》は、重力と遠心力との合力だけなので
  Fd=SQR(Fg2+Fa2)=Fg*SQR( 1+tan2θa )    (1)
               ( =1.155*Fg )  。

 「tan」は“タンジェント”の意味、「tan2θa」は、“(tan θa)の2乗”の意味 、「SQR(・・・)」は“(・・・)の平方根”の意味 、 「 * 」 は “×”の意味、「/」は“÷”の意味です。また、この時点では単純化する為にタイヤの重量はバイク本体に含めてしまっています。

 この、バンク角 θa のとき上記突起Pは、スレスレで路面を擦らない様に取り付けます*b》
 ここでは、計算式や図形を簡単にする為、タイヤの幅を自転車の様に幅の狭いものと仮定しています。

 次に同じカーブを、スピードを上げて“Pの突起が無い”と仮定したときに真のバンク角が 35°《この角度を θc とします》になる様なスピードで曲がった場合を考えます。そのとき、遠心力が増えて値Fb になったとしますc 》。【図16】のところで述べた「真のバンク角」の定義から
   Fb/Fg = tan θc  (=tan 35°= 0.700)     (2)

となります。
 そのとき、FgFb は【図15-b】の様になります。
 次に再び“突起Pを付けて”バンク角が同じ 35°になる様なスピードで同じカーブを曲がると*d、ライダーは車体を30°以上に傾けるので当然P点は路面を擦り、路面から上向きの力《バイクを引き起こそうとする力:これをFp とします》を受けます。
 そのときの傾き角が【図15-c】の様に θb になっていたとすると、バイクを起こそうとする「モーメント」e》は次の(3)式の第一項と第三項の値となり*1A、バイクを倒そうとするモーメントは同式の第二項となります《式中 Lg は【図15-c】の様に重心Gr からタイヤの接地線分CD までの距離であり、Lc は突起からバイクの中心面までの距離です。また、この時点では単純化する為にサスペンションの伸び縮みはなく、Lg は変わらないものとします》↘*1a
 上記3つのモーメントの和がゼロになったとき、タイヤの接地点,を回転軸にして倒れたり起き上がったりするモーメントが無い状態になり、Fd の作用線は接地線分CDを通り、瞬間的であるかもしれないけれど「 」付きの「バランス」がとれた状態になります↘*1b
 この状態のバイクはサスペンションの力不足であることが直ぐ後の計算で分るのですが、そのときどういう現象がおきるかは、この「バランス」状態を計算した後で明確にします。
 また、この「バランス」状態の瞬間にはタイヤがどの位の力で路面をグリップしているのか等、安全性の確認の為にも計算が必要です。
 Fb*Lg*cos θb-Fg*Lg*sin θb+Fp*Lc/cos θb=0 。(3)

 両辺を Fg*Lg*cos θb で割ると
 Fb/Fg-tan θb+Fp*Lc/(Fg*Lg*cos2θb)=0  。 (4)

 (4)式と(2)式から
 tan θb = tan θc + Fp*Lc/(Fg*Lg*cos2θb)
 
*a
 この重力(地球の引力)や次の遠心力等、力の単位として「kg重」を使うと便利で、[kgw]又は[kgf](“f”はforce)で表します。本HPでは[kgw]を使います。
 つまり、質量240[kg] に掛かる地球表面での引力は240[kgw]です。
 この「kg重」を、理論計算などに使われる「M.K.S.」(メートル・キログラム・セコンド)単位にするには、kg重の数値に重力の加速度 9.8[m/sec2]を掛ければOKです。
  1[kgw]=9.8[kg*m/sec2]

       =9.8[N] (ニュートン)


*b このときサスペンションのバネには重力と遠心力の合力が掛かるので、直立状態に比べ、バネに掛かる力の大きさは
   SQR 〔 1+tan230°〕 ≒ 1.155
倍に大きくなって、車体が直立状態よりも沈みます。
 従って、そのバンク角でカーブを曲がりたい場合には、静止状態で取り付けるとき、そのバネの縮みの増加を考慮して突起Pを少し引っ込めて取り付ける必要が有ります《下の注*4と【図19】参照》。


*c 遠心力と重力だけで決まる「真のバンク角」が35°のときと、30°のときとでは、遠心力の比は
   Fb/Fa = tan 35°/tan 30°
となっているので、「真のバンク角」が35°のときと、30°のときのスピードをそれぞれVb、Va とすると、同じ曲率半径のカーブでは、遠心力は速度の2乗に比例するので
   Vb/Va
    = SQR (tan 35°/tan 30°)
となります。


*d カーブを曲がっているとき、より車体を寝かせたい場合にはハンドルを、極く短時間だけ、カーブの僅かに外側に切れば、バイクはバランスを崩してカーブの内側に倒れ掛かります。バイクがバランスした傾き角になったときライダーはその傾きを保持しながらカーブを曲がります《「自転車に乗れる人」は意識しないでその操作をしています。
 ただし、突然ではなくカーブの前でカーブを「見た」場合には、上記の「極く短時間だけ、カーブの外側に切る」動作をしなくても、“自然に”:と言っても無意識的に少しずつ車体を傾けます。



*e 「モーメント」は、この場合、固定された回転軸《てこの原理では「支点」》から距離 L だけ離れた位置に、力 F を加えたときの、F × L をいいます。
 バイクを倒したり起こしたりするモーメントを計算している(3)式は、計算を簡単にする為 単純化した計算をしています。重心位置を示すLg は、タイヤの接地線分からの距離としているので、タイヤに幅が有る場合には正確ではなく、また、サスペンションの伸び縮みも計算されていません。
 ここでは「走行中P点が路面を擦った場合どうなるか」という手荒な事を計算する為、ここでは簡単な計算で済ませます。


*1a 【図15-c】に示す(Ft) の大きさはFd と同じ大きさに画いてありますが、この時点では未決定。後述します。


*1b 【図15-c
(Ft) Fd とは大きさが同じとは限らないので、サスペンションの方向の力はバランスしていませんが、仮に、もしもその方向の何らかの力が働いてバランスさせたとしたら、バイクはP点で路面を擦りながらθbの傾きを保って走り続けます。
P点立ち」の安定性について
 この頁の改定前はここで、【図9b】の「P点立ち」についての傾き角計算をしていました。しかし、最後のページの重心の算定の項で、車輪の重量やタイヤの幅方向の曲率半径を計算に入れ、「P点接地で立たせたら37.5°傾いた」という実測に基づいて車体の重心の高さ等を算定した、簡明な計算をしているので、ここでの計算は削除しました。そちら《最後の頁》の方を御覧頂ければと思います
 θd=37.09°(実測は37.5°) Ld=82.53mm
 Fp=149.6kgw         Fu=30.37kgw 。

 「P点立ち」の安定性を確認する為に、先ず接地している線分PD点を回転軸として車体をより倒す様に車体を手前に引っ張ってみると、まあまあ大きい力でないと前輪が浮き上がりません。
 次に、接地している線分PCを回転軸にして斜め左前に車体より倒そうとしてみましたが、後輪のバネが少し伸びるだけでタイヤはビクともしませんでした。この二つの比較実験から判断すると、車体の重心Gは【図11】の様にP点より後ろに在る事が判ります。















*1A
 (3)式の第三項は「+Fp*Lc*cos θb」の間違いではないかと、私も一瞬ヒヤリとしてしまいましたが、「本体中心面から直角に伸びた長さ Lc の棒に対して」バイクを起こそうとするモーメントは確かにそうなります。
 しかし、今計算しようとしているモーメントは接地線分CDを回転軸とするモーメントであるので、CDからPまで伸びた 長さ
  Lc/cos θb
の架空の棒に対するモーメントであるので、
  +Fp*Lccos θb
のままが正しいのです。 
 θb = atn〔tan θc + Fp*Lc/(Fg*Lg*cos2θb)〕    (

となります《 “atn〔・・・〕”はアーク・タンジェント: tan-1〔・・・〕
 知りたいのは θb ですが、その値はFp の値によって違います。従って例えば「Fp としてFg の1割の力(24kgw)を受けた場合の値を求めます。それには、(5)式を解けば良いのです。式の中および【図15-c】の中の Lc や Lg は次の様な値を代入して計算します (Lg は推定値)。
 Fp=0.1*Fg   Lc=277[mm]   Lg=697[mm] 《→*1c
 (5)式を解いた《→*2a,→*2b》結果は
    θb=37.35°
となります
 このときの、タイヤの接地線分CDを中心にバイクを回転させようとする3つの力を【図15-c】に示しますが、図中のFd 《赤い線》は Fg ,Fb ,Fp の3つの力の合力です↘*3a
 そのFd は【図15-c】と(2)式から
   Fd =SQR〔(Fg-Fp)2+Fb2〕              (6)
   Fd/Fg = SQR〔(1-Fp/Fg)2+tan2θc〕      (
                          (θc=35°)
となります。Fp/Fg = 0.1 のときは、(7)式の値は
   Fd/Fg = 1.1403

となります。
 また、傾き角が30°以上のバンク角 θb でカーブを曲がっているとき、上記バネの伸び*3bが、バンク角:30°で曲がっているときのバネの長さから Ld[mm]だけ伸びるとします*4。その伸びの値は、【図15-c】と【図15-a】との比較から
  Ld = Lc*tan θb-Lc*tan θa
     = Lc*(tan θb-tan θa)   ( θa=30°) (

 この場合(上記 θb が37.35°の場合)は、Ld = 51.45mm となります。
 以上、Fp/Fg =0.1 の場合を計算しましたが、この Fp/Fg の値を 0.0 から 0.3 まで変え、そのときの傾き角 θb やサスペンションのバネの伸び Ld,Fd/Fg を計算したのが次の【表1】の adで、この表の Ld と Fd/Fg との関係をグラフにしたのが【図17】の adで、【図17】の aは Kp=0 のとき、cは Kp=0.2 のときです。
 また、【図18】の Kp=00.2の点は、【図17】のそれぞれ acに対応し、【図18】のバンク角30°の折点は【図17】の「30°バンク時」の e点に対応します

 Fp/Fg  0  0.0  0.1  0.2  0.3
 θb [°] 30 35 37.35 39.87 42.63
 Fd/Fg 1.155 1.221 1.140 1.063 0.990
 Ld [mm] 0 34.03 51.45 71.40 (95.04)
 Fh [kgw] 277.1 175.0 122.7 62.82 -8.04
【図17】の点  e  a  b  c  d
             表1 d点は危険→*5a参照 《↙*5》

*5 Fd を計算するとき、(6)式ではなく、バイク中心面方向《タイヤ幅は 0 としています》の力の成分という考え方で、
  Fd=Fb*sin θb+Fg*cos θb-Fp*cos θb
     =Fb*sin θb+(Fg-Fp)*cos θb
で計算してみましたが、表1のFd は同じでした。
 【表1】の a の意味する事は、或るカーブをバンク角35°相当のスピードで曲がるとき、本体傾き角 θb が35°である瞬間には幾何学計算で“タイヤが 30°バンク時のタイヤ位置よりも34.03mmだけ多く出ているので”、P点はスレスレで路面に接しそうになり Fp はゼロとなり、『 』付きの『バランス』がとれているという事を意味しています。ただし、bcdも同様ですが、その状態(a)を持続して走行出来る訳ではありません。【表1】の中で状態を持続出来るのは e点だけです。
 以降、Fp/Fg=Kpで表します。
 【図18】の、「Kp=0」 の点より下で、且、傾き角が30°を上回る領域では、バンク角35°相当のスピードでカーブを曲がっているときには「瞬間的なバランス状態」も存在しない様です。
*1c 重心Grの路面からの高さはバイクの「サーヴィス・マニュアル」の図と私の体重から推定しました《Lg=697[mm]》。つまり、直立静止時の重心位置をそのまま、バンクしながら点で路面を擦って走行している時の重心位置として(3)式の中で使っています。
 しかし、Lgは後述のバネの伸び(Ld)の変化が加わるので、厳密には傾き角θbによって変わる変数ですが、このページでは無視して定数としています。



*2b
 【図15-d】の接地線分CDを回転軸と見なしたとき、点に掛かった力:Fp を、点 Gr に掛かった力に換算すると、その換算した力は Fp*(Lc/cos θb)/(Lg*sin θb)であるので、バイクを起こそうとするモーメントFb*Lg*cos θbと、倒そうとするモーメント[Fg-Fp*(Lc/cos θb)/(Lg*sin θb)]*Lg*sin θb とが等しくなったとき左記の「バランス」状態になります。そのときは
[Fg-Fp*(Lc/cos θb)/(Lg*sin θb)]*Lg*sin θb
 =Fb*Lg*cos θb 。
Fg*[ 1-(Fp/Fg)*Lc/(Lg*cos θb*sin θb)]*sin θb
 =Fb*cos θb 。
 両辺を Fg*cos θb で割ると、(2)式から
tan θb
 =tan θc/[ 1-(Fp/Fg)*Lc/(Lg*cos θb*sin θb)] 。
∴θb
 =atn{ tan θc/[ 1-(Fp/Fg)*Lc/(Lg*cos θb*sin θb)] } 。
 この式は(5)式と似ても似つかぬ形をしていますが、この式によって得られた解と、(5)式によって得られた解とでは、全く同じ値のθb が得られます《Kp/Kg=0.1 のとき θb=37.34694°》。


*3a Fg とFp の力が作用する点の水平方向の位置が異なっている場合には、その2つの力の合力が単純にFg-Fp とすることは出来ないのですが、ここではFg とFp の水平方向位置はほぼ同じと見做して単純に「Fg-Fp とFb との合力が Fd である」としています。


*3b 実際のバネは、力の加わらないときの「自由長」よりも常に“縮んでいる”のですが、バイクを横倒しにしたときバイク本体から車輪が「出て来る」ので、例えばカーブを走行していて重力と遠心力でタイヤが引っ込んでいる状態からバネが「伸びる」と表現するのが実感に合うと思います。


*4
 バンク角が30°相当以上のスピードでカーブを走行しているとき、本来ならば遠心力が増えるので突起が無ければバネは“縮む”のですが、突起が路面を擦って走行しているときには、【図15-a】と【図15-c】とを比べてみれば分る様に、幾何学的制限でバネは逆に、“伸びます”。その為、【図18】の様にバネの伸び Ld のグラフは、傾き角に対して折れ線になります。
 グラフの30°未満の横軸は「本来のバンク角」であり、そのバンク角に対する縦軸の Ld はバネの硬さが【図17】のAの場合の値です。
 30°以上の横軸は車体の「傾き角」ですが、その傾き角に対するバネの長さは本文の()式について書いてある様にバネの硬さに関係しません
 Ld はバンク角が30°のときのバネの長さを 0 としているので、バンク角が30°未満の値 θ のとき、P点が路面から力を受けていない為、Fh=Fd となり
  Ld=Fg*[SQR(1+tan2θa)-SQR(1+tan2θ)]/Kh
となります。ただし、θa=30°です。
 直立走行時あるいは直立停車時は、Ld=12.4mm《上式に θ=0 を代入すると得られます》であるので《↗*4a》30°バンク時よりもタイヤは 12.4mmだけ車体から出ています。従って、直立停車時に突起Pを取り付けるとき、ライダーがシートに自分の体重を掛けた状態で、12.4*cos30°=10.7mmだけP点を引っ込めて取り付けなければなりません。
 しかし、体重を掛けながらPの位置決めをするのが困難で、しかも危険な為、体重を掛けないでP点の位置決めをしなければなりません。その場合には、P点を更に“体重60kg相当のバネの伸び 60/Kh=20mm” に cos30°を乗じた値を加えて引っ込めなければ込めなければなりません。つまり、車体を直立・静止状態にしてP点を取り付けるとき、引っ込める長さは【図19】の様に
   10.720*cos30°=28
[mm]
でなければなりません。
*2a 【(5)式を解く為の注】
 ここでは確実で簡単な方法で解きます。
 まず、(4)式の中のFpその他の定数に実際の数値を代入し、θb にはおおよその推測値(35°)を代入して各項の値を求めてみます。すると、(4)式の中の θb を含む項の中では辺第二項が大きい《極く大雑把な比較でOK》ので、(4)式を(5)式の様に書き換えて、上記大雑把な推測値を代入して得られた θb を求め、その得られた値を(5)式の〔 〕の中の第二項の θb に代入して、より正確な θb を(5)式により求めます。これを繰り返して答えが必要桁数で同じになるまで繰り返します。 
 こういう職人的な解の求め方は純粋数学では使われない様ですが、これは万能な手法です。純数学的では式の形によっては解く事が不可能な場合が有り、仮に可能な場合でも手間も掛かります。
 (3)式とは別の考え方で左記の「バランス」状態の θb を求める方法を*2b に示します。しかし、得られた答えの数値は同じなので式を辿る必要は無いでしょう。
 (5)式を解くのには、(5)式を“=”を含めてそのままの形でキー・イン出来る「ポケット・コンピューター」《カリキュレータをちょっと大きくしたもの》が便利です。



↙*4a《 左の*4の中ほど Ld=12.4mmは「上式にθ=0 を代入すると得られます」と書いてありますが、式で求める事が出来ても感覚的には合点がいくものではありません。しかし、次の様に解釈すると納得がいきます。
 総重量240kgwの車体がバンク角30°のスピードでカーブを走るとステアリングのバネの力は、本文の(1)式によれば、遠心力Faがゼロの直線コースを走っている場合に比べて0.155×Fg=37.2kgwだけ増えていますが、その状態を Ld=0 としています。
 その後、直線コースに戻るとバネの力は37.2kgwだけ減り、従ってステアリングのバネの硬さが下の図のAの場合、バネは、30°バンク時に比べ、37.2kgw/(3kgw/mm)=12.4mmだけ伸び、Ld=12.4mmとなります。


*5a 【表1】は例えば Fp/Fgが0.2のとき θbが必ず約40°になる事を意味してはいません《瞬間的な「バランス」の時だけの関係です》。Fp/Fgの値よりも大きく事態に影響するのがθbです。
 【表1】のFp/Fgが0.3で、θbが 42.63°(約43°)のときは、【図17】の
点の様にバネが伸びきってタイヤが浮くことになります。 【表1】の Fh=-8.04 というのはタイヤが路面を押すのとは逆に、路面を引っ張る事を意味しますが、タイヤに吸引力が有る筈がないので、現実にはタイヤが路面から浮いてしまいます。このとき、「前・後輪のどっちのタイヤが浮くか」というと、次ページ【図34】の様に車体の重心Gは点Pcよりも後方に在り しかもライダーが乗っているので重心GrGよりも更に後方に来るので、PcDを回転軸の様にして前輪だけが浮き上り、後輪とP点だけが路面に接しカーブの接線方向に 前輪は浮いて、その時点からライダーを含む総重心は直進してしまい、危険です。
 こうなったら前輪が浮いているのですから、足で路面を素早く『ドン』と叩く様に蹴って立て直すしかないでしょう。この車体が傾いたとき「路面を蹴る」などという事は自転車でしか実体験していませんが、P点が擦り始めたときの傾き角が浅いこのバイクならではの事で、普通のバイクで実行すると足を挟まれて大けがをしてしまいます。
 この、本来バンク角30°相当のスピード以下にしなければならないカーブなのに、35°相当のスピードで c点の様に車体の傾き角θbが40°位まで大きく傾け過ぎてしまった場合、減速して30°のスピードに落とすのが安全ですが、カーブの外側にゆとりが無い場合ハンドル操作などで b点の37.35°近くまで車体を起こし、P点が磨り減るのを覚悟の上でバンク角35°相当のスピードのままでそのカーブを曲がり切る事も可能です ではあります
 しかし、そのとき b点ではなく Kp=0.2c点の状態のままにするのは安全とは言えません。何故ならば、その状態ではタイヤが バネ方向に路面を押さえ付ける力が前・後輪 合わせて約63kgw という、十分ではない状態になってしまうからです《総重心Gの、前後方向の位置がP点よりも後ろに在る場合、前輪タイヤが浮いてしまい、バイクはほゞ直進してしまいます》
 また、次の項で述べる「バイクが30°まで起き上がる」のを防ぎ続けるハンドル操作をしなければなりません。このハンドル操作をしないと、車体が30°まで起き上がり、スピードがバンク角35°相当なので、そのカーブの曲率半径よりも大きい曲率半径になってしまい、道路の外に出てしまう可能性も有ります

 

◎バイク自身の起き上がり現象    TOPに戻る
 問題は、【表1】の中のFd の力をバネが受け止めてくれるかどうかです。バネの伸び Ld によって決まるバネの力をFh とし、バネの硬さを示す係数を Kh とし、上述の伸び Ld がゼロのとき(バンク角 θa=30°のとき)のバネの力を Fo とすると、
  Fh=Fo-Kh*Ld                 (

となります。前述の様に、バンク角 θa で走行しているときは突起がギリギリで路面から力を受けていない為、バネは(1)式のFd の力をそのまま受けているので、
  Fo=Fg*SQR( 1+tan2θa )         (10)
                        (∴ Fo=1.155*Fg )=277.13 kgw
です。このLd と()式のFh との関係をグラフにしたのが【図17】のピンクの線で、図中ののグラフの例はバネの硬さ Kh が Kh=240/80=3 [kgw/mm] の場合であり《*6》、はKh の値がその2倍に硬い(強い)バネの場合です。
 【図】中の、上述したa,b,c,dの各点は、グラフよりも上に在ります。それが意味する事を、Fp/Fd=0.1( 図中のb 点 )の場合を例に説明します。
 【表1】によると Fp/Fg=0.1のときは、遠心力などによる合力:Fd 《Fd は Fg,Fp,Fb の合力》は、
  Fd=1.140*Fg                 =273.67 kgw
です。そのときのバネの伸びLd は【表1】により 51.45mmなので、その伸びのときバネが出す力Fh は(9)式と(10)式により
  Fh=1.155*Fg-240/80*51.450.512*Fg =122.78 kgw
となり、上記合力Fd のうち、この力を受け止めてくれる力はバネのFh だけなので、差し引き《1.140-0.5180.628
  Fd-Fh=0.628*Fg                   =150.89 kgw
の力が余ってしまいます。
 一般に、物には質量(重さ)が有りますが、仮に宇宙船の中に浮かんでいて全く摩擦が無く静止している物でも、それを動かし始めようとするときには力が必要です《*7》。
 その“物”:今の場合、ライダー込みのバイクの240kg を斜め下の方《タイヤの接地点方向》に動かし始める(加速する)為に上記の余った力(Fd-Fh) が使われ《→*7a》、車体は斜め下の方向に沈んで行こうとします【図15-d】。
 この「ライダー込みのバイクを斜め下に加速する」力が使われているときにも、タイヤはあくまでも【図17】のバネの強さだけで決まる 上記0.512*Fg (≒123kgw )という大きな力で地面を斜め下方向に押さえ付けています《→*5b。このときタイヤがスリップしない為には、“タイヤが路面を垂直方向に押さえ付ける力(Fh*cos θb)”に対する“路面と平行な力(Fh*sinθb)”《→*5cの比が、タイヤの摩擦係数《これを μh とします》よりも小さい事が必要です。つまり
 μh >(Fh*sin θb)/(Fh*cos θb) 《=tan θb =0.763
                             (11)

の不等式を満足する必要があります。
 タイヤの摩擦係数は或るサイトでは「0.7以上」 ,他のサイトでは「普通1.0前後~1.6以上」とあり、この2つのサイトでも千差万別ですが、別のもう一つのサイトのデータ(その論文の中の48ページFig.5-2)は、タイヤが路面に対して極く僅かづつずれていく状態の最大摩擦を、KKブリジストンのデータを基に紹介しているので、これが最も信頼性が有り、一番相応しいと思います。それによると摩擦係数 μhは“1.1”以上とみなせます《路面が濡れていれば違いますが》。


             図 18


「真のバンク角」について
 【図9ac】の「踏ん張り棒」方式ではマフラーの下にバンパーの水平部分を通すので、バンク可能角は少し小さい角度しか採れませんでしたが、それでも【図8】の取り付け治具を使った【図19】の位置合わせ方法で、左28.4°、右27.7°《約28°》を確保しました。
 しかし、実際にP点でバイクを立たせたときの傾き角が【図9b】の様に実測値で37.5°であった事に基づいて算定した重心の高さを計算に入れ、また、タイヤ幅,車輪の重量やバネの非直線性をも計算に入れて、バンク可能角を正確に計算し直しました。その結果、約「28°のバンク可能角にした」積りが、実は25.4°だった事が分りました。最後のページの見掛けのバンク角と真のバンク角をご覧下さい。


*5b 【図15-d】を見ると、「タイヤが路面を押さえ付ける力は
Fg-Fp ではないか」と考えがちですがそうではありません
。いま瞬間的な「バランス状態」を解析しているのですからFd の作用線はサスペンション方向である為、サスペンションには それと直角方向の力は存在していません。
 従って、サスペンションがタイヤに対して出している力はバネの力Fh だけです。その為、タイヤが路面を押さえ付ける力は飽くまで
  Fh*cos θb
であり、横方向の力は
  Fh*sin θb
となります。【図15-d】のFd-Fh はライダー込みのMrの慣性力に打ち消されます。更に車体が斜め下に沈み込み始めると、《*7a》に書いて有る様にダンパーにも使われます

*5c 上の*5bに書いた様に、路面と平行の力は Fb ではなく
  Fh*sin θb
です



 上のグラフのAは、最後のページ見掛けのバンク角と真のバンク角の中で、実際のバネに取り入れられている非直線性を加味したグラフに改訂し、更に実際にはバネに対しては荷重されないタイヤ等 車輪系重力を除いたグラフに改訂させて頂きました《最後の頁の【図45】の折れ線グラフ》

 

         図 19 《*4 参照

*6 バネの硬さを測定してみました。60kgの体重を掛けると、車体の中央部分が約20mm沈みます。したがって、無重力状態から総重量の重力240kgwが掛かったときバネの伸びは80mmだけ小さくなりますが、そのバネの硬さを示すグラフが【図17】のです。

*7
 宇宙船の中の映像には、何時も水の玉の様な軽い物しか写されていないので、止まっている物を動かすとき「全く摩擦が無くても力が必要」という事は納得して頂けないかもしれません。しかし、宇宙船の中に重そうなオートバイが浮かんでいたら、「それを動かし始めるのには力が必要だ」と気が付いて頂けると思います。

*7a 左記の“余った”力(Fd-Fh)もバネ方向の力なので、車体を斜め下に押し下げる《加速する》のに使われますが、バネが縮み始めるとバネ機構の中のオイルによる「制動」にも使われます《オイル制動機構は次ページで図付きで述べます》。この「制動力」が無ければ車体はいつまでも上下に振動し、路面からの振動エネルギーが蓄積して、ライダーは空中に放り上げられてしまいます。
 従って、少なくとも車体が θb=37.35°だけ傾いているときには、P点が路面から 240*0.1=24 kgw という力で車体を浮かそうとする力を受けていても、タイヤが路面をグリップするかどうかを示す(11)式を十分に満足しているので、タイヤの接地点C,Dがスリップして横方向に動く事はありません。
 そのとき、上記の様にバネの力 Fh が Fd よりも小さいのでバネが縮み、車体は沈んでいきますが、P点は路面以下にはならいので、点が路面上を接地線分CDの方へ引きずられて行き、それに連れてバイクの傾き角が小さくなっていきます《バネが縮むのでPCD間距離が小さくなり、本体中心面からPまでの距離 Lc は変わらないので、本体の傾き角は小さくなる 》。
 つまりライダーが「バイクを起こそう」と思ってハンドル操作をしなくてもバイク自身が「起き上がって来て」、そのときの傾き角 θb(37.35°)よりも小さい傾き角になります*8。カーブに入るスピードがバンク角 35°相当のスピードだったので、35°よりも小さな傾き角になってしまうと曲がる曲率半径が大きくなって、コースから外れそうになります。
 そこでライダーは少しスピードを落として、バンク角が小さくて済むスピードで走らざるを得なくなり、バンク角 30°相当のスピードになって《従って実際のバンク角が30°になって》カーブを安全に曲がる事が出来ます。*9

 (11)式に拠れば、バンク可能角をオーヴァーして点が路面を擦りながら車体が沈み込むとき、タイヤがスリップしない為には、そのときの傾き角θb を小さくして tan θb の値がタイヤの摩擦係数よりも小さくなる様にすればスリップしない事が分ります。
 つまり、バンク可能角を小さく採っておいて点が路面を擦ったとき、「それ以上にバイクを傾ける」などという乱暴な事をしない限り、バイクは(11)式を根拠にスリップせず、【図17】の中のFdFh のグラフの上下関係を根拠にバイクは起き上がって来るということを意味しています*10

 それに対してバンク角を大きく取っている白バイの様な場合には、バンク可能角が59°弱なので、バンパーが路面を擦り始めたときの傾き角 θb が例えば60°位からバイク自身がスリップせずに「起き上がって来る」為には、(11)式に拠るとタイヤの摩擦係数 μh
  μh>tan θb=1.73
である必要が有ります。しかし、それは普通のタイヤでは無理なので、タイヤがスリップしない事を期待するのは難しいでしょう。
 つまり、バンク可能角を大きく取っているバイクはバンパーが路面に接触する前までが勝負で、路面を擦ってしまったら多くの場合タイヤがスリップしてバイクは倒れてしまうという事を(11)の不等式は示しています。

 以上、バイクがカーブの外側にスリップしてしまうかどうかを調べる為に、【図15-d】の様にFp を含めた合力Fd の方向がタイヤの接地線分CDに向いている一瞬《瞬間的に「バランス」している状態》を代表して調べましたが、その後、その一瞬から上記の様に“車体が起き上がってきて車体の傾き角が θc が 30°になるまでの「起き上がってくる」過程ではスリップするかどうか”考えます。
 車体が路面を擦って「バランス」している【図15-d】の状態《例えば Kp=0.2の θb≒40°》から起き上がってくると、【図15-e】《》の様にFdFh 方向 作用線のずれが生じて、車体が起き上がろうとするモーメントが増えます《【図15-e】の中の青黒の線で示したFd の作用線が、その力を受け止める接地線分CDと交わらない為 》。
 また、車体が起き上がってくるとサスペンションのバネが縮むのでタイヤが路面を押しつける力 Fh*cos θ 《 θ はそのときの傾き角》も大きくなり、よりスリップしにくくなります。

 【表1】では、バンク角 30°相当のスピードであれば P点が路面を擦らない様な曲率半径のカーブに、バンク角 35°相当のスピードで入ってしまったとき、「 」付き「バランス状態」の幾つかの傾き角の例《a:35°,b:37.35°,c:38.87°,d:42.63°》について計算しました。上述の計算による「バランス」した状態には関係なく、最も有り得る傾き角でカーブに入ってしまった場合のうち、比較的最悪の事態の例を注*11に、数値例として示しておきます。

 以上、P点が路面を擦り始めたとき、車体が上記「瞬間的なバランス状態」《傾き角 θb》 から「起き上がる」までを解析してきました。
 次に、その傾き角 θb よりも大きい傾き角に車体を寝かせ過ぎてしまった場合どうなるのか考えます。
 この事態は【表1】のdの例の様に傾き角θb が42.63°という大きな傾き角になってしまった場合に相当し、【表1】のdが示している通り、グラフAのFh がマイナスの値になってしまいます。ということは注*13にも書いて有る様に、タイヤが浮いてしまう事を意味し、バイクは直進して遠心力が無くなるので起き上がっては来る事はありません。
 しかし、「転倒してしまった」と言える様な、41.63°という大きな傾き角になってしまわない限り、確実に「起き上がって」きます。P点を付けたときバンク角 30°相当のスピード以下で曲がらなければならない急カーブにバンク角 35°相当のスピードで入って、しかも車体を 40°以上に倒してしまうのは、最早運転ミスです。
*8 「バイク自身が起き上がって来る」等という事は、いかがわしい説の様に思われるかも知れません。
 冒頭の「このHPの目的」のところで述べた私の高速道路での転倒で、“バイクの両側”に擦痕が付きました。という事は、バイクの片側が擦られてから反対側が擦られる迄の間に「バイク自身が起き上がって、直立状態の瞬間が有った」という事を示しています《逆に、考えるのも恐ろしい事ですがもしも車体上部を中心に回転して裏返しになったとしたら、両側のバックミラー等ハンドルの上部が目茶目茶になった筈です》。
 その、バイクがタイヤを中心にして裏返しになったのは単なる慣性力とタイヤの横方向の摩擦力で瞬間的に直立状態になったのですが、今述べている「起き上がって来る」というのは、遠心力と重力等による合力 Fd に対してバネの力 Fh が弱い(小さい)ので車体が沈み込み、“傾き角が小さくなった”のです。傾き角が小さくなればそれは「起き上がる方向の動き」と言えます。


*9 ただし、スピードを落とす前にカーブの外側の端に来てしまったら、後輪をスリップさせて方向を変える等しなければなりませんが、同じカーブで、バンク角 35°のスピードから 30°のスピードに落とすには、スピード比が
  SQR(tan30°/tan35°)=0.90810.092
にする、つまりスピードを9.2%だけ落とせば良いのです。
 このスピードを落とすときはエンジン・ブレーキか 後ろブレーキを使うべきです。後輪がブレーキ操作で少しだけスリップした場合にはバイクはカーブの内側に向きを変えるので、カーブの外側に出てしまうことからは免れる方向です。

 しかし、スリップは極く短時間にしないとバイクが横向きになって、最悪横転してしまいます。スリップしないでスピードを落とすのが最良です。
 更に安全な運転の為には、バイクが傾いてからブレーキを掛けるのではなく、カーブに入る前の、バイクがほぼ直立しているときにギア・ダウンしてエンジン・ブレーキでスピードを落とすのが理想的です。そうするとカーブを出るときの加速が容易です。

 また、見通しの良いカーブ等では、よく言われる様に、カーブの外側から入ってカーブの内側を通り、外側に抜けて行く様な走行が、曲がる曲率半径も大きくなってバンク角も小さくて済みます。
 しかし、見通しが悪い等カーブの状況が分からない場合には、カーブの内側から入る事が必要です。そうすれば、「カーブの途中で急カーブになった」場合にも対処できます。
 因みに、真のバンク角 θ を 25°と 35°にして曲がったときの秒速と時速を次の表で示します。V=SQR(9.8*tan θ*R)
         V は速度[m/s]、R は曲率半径[ m ]、
         9.8[ m/sec2]は重力の加速度

 真のバンク角    25°    25 °    35°   35°
 曲率半径[ m ]   25     500   25   500
 秒速[ m/sec ]  10.7   47.8   13.1  58.6
 時速[ km/時 ]  38.5   172   47.2  211

 この表を見ると、高速道路ではカーブの曲率半径が大きいからと言って、カーブを表の様に時速172kmもの高速で曲がる筈がないのでバンク角可能は 25°近く採っておけば十分である事が分ります


*11
 バンク角 35°相当のスピードでカーブに入ってしまったので、カーブの曲がり具合を見てライダーのそれまでの経験から左記(本文)の「瞬間的なバランス状態」ではなく車体を 35°くらい傾けてからカーブに入った筈です。
 仮に、そのときP点が路面から受ける力が、【表1】の Fp=0 ではなく、かなり大きい値 例えば 0.3*Fg になってしまった《→*12》としても、バネの伸びはそのときの実際の本体傾き角 35°の値によって決まるので、()式によって Ld は34.03mm となり、タイヤが路面に対して斜め下方向に出す力 Fh は、 175.0kgw という値となります。その力による路面を押さえ付ける力に対するスリップさせようとする力の比の値《 (11)式右辺》は tan 35°= 0.700 となるので、すれば、タイヤが路面を抑える力は、総重力から0.3*Fg を差し引かれた値であるので
  240*(10.3)=167 kgw
です。一方、車体をカーブの外側に出そうとする遠心力は
  240*(tan 35°)=196.70 kgw
であるので、タイヤがスリップしない為に要求される摩擦係数は、
  196.701671.170
となって ギリギリですが(11)の不等式を満足します。
 つまり、P点が 0.3*Fg (=72 kgw)という大きな力を路面から車体が浮き上がる方向に受けた場合でも、ギリギリ
 タイヤはスリップしないという事が分かります。
 そのとき「起き上がる」かどうかについては、計算をしてみなくても【図15-a】と【図15-b】と【表1】から分かります。
 【図15-b】ではP点を消していますが、上記35°でカーブ走行中の図です。その、P点が有るときどうなるかというと、車体を30°傾ければ【図15-a】の様にP点をギリギリ擦らないのですから、35°傾ければ当然P点を擦り、バネが、30°バンク走行時に比べ()式によって34.03mmだけ伸びます。バネの力 Fh は、Fp に関係なくバネの伸び Ld のみによって決まるので、【表1】により Fh=175.0kgw ,Fd=0.990*Fg=237.6kgw であるので
  Fd>Fh
となって車体は沈みこみ、「起き上がる」という事になります。
更に細かい事を付け加えると、Fg,Fb (遠心力),Fp の合力:Fd の作用線が接地線分CDを通っていないので、更に「起き上がる」モーメントも発生します。
  *10 この「立ちごけ防止策1」は突起Pが有ったり、「それで路面を擦ったりしても転倒しない」とか言うのですから、特殊な力学が働いているのでしょうか?
 いいえ、バンク可能角を決める積もりの突起Pなど無くても、バンク角を大きくしていったとき最初に路面を擦るのが、「バンク可能角を決める」突起Pなのです。
 その点をP点と見なせば、上述の各力やバネの伸びとバイクの傾き角などとの関係を示す式は、全て普通のバイクでバンクさせたときに路面を擦る一般的な場合にも、なんら修正することなく適用されます。
 その一般的なバイクのバンク時には、ライダーが足を乗せている状態の「ステップ」が、バンク可能の限界に近くなった事を警告する「アラーム」の役目を果たしています。しかし、意図的にP点を設けて結果的にバンク可能角を小さくしたバイクでないと、車体が大きな傾き角で路面を擦ってしまい、後述する様にタイヤの摩擦係数から判断して危険です















*12 《*11の中程 そんなに強い力で路面を擦ると、1回の擦りでP点はかなり擦り減ってしまいます。
 また、【表1】の Fp=0 の「バランス」状態に対して、Fp=0.3*Fg という大きな力を路面から加えられたのですから、バイクはより速く「起き上がろう」とします
◎「路面擦り」での転倒経験
 昔、私が試験場のコースで受けた交通安全の講習会で、私がバイクのサイド・トランクをコースの路面に「ガー、ガー」と擦りながら走っていたら、その先生に皆の前で「いつ転倒しても可笑しくない」と言われました。
 その先生の仰ったことは、バンク可能角を大きく採っているバイクの場合には通説であり、正しいと思います。
 その通説を、それ程大きなバンク可能角を採っていないバイクにも画一的に適用するのはどうかと思います。バンク可能角 θa を大きく採っているかどうかに、車体の一部を擦ってしまったとき「転倒」かそれとも「起き上がるか」の分かれ道が有るのです。*13
 私の経験でも路面が特別滑りやすい状態でない限り、バンク可能角をそれほど大きく採っていない場合、軽く擦った位では転倒はしません。嘗て峠道でサイド・トランクが路面を擦ったとき、一度だけ転んだ事があるのでその路面を調べたところ、コンクリートのセメントが磨り減っていて、中の丸い玉砂利が表面に出て、しかも路面が少し濡れていました。


 【図15-e】の“Fd-Fh ” は正確には“Fd -(-Fh)”と書くべきかもしれません。
 しかし、感覚的には現状の表現の方がぴったり来ます。その場合“Fd-Fh ” の“Fh”は、タイヤが受ける力の、向きを変えたものと考えます。【図15-d】についても同様。
*13  2輪車で「車体の一部を路面に擦りながら走る」などと言うのは言語道断と仰る方がいると思います。
 しかし、上述(*5a)のKp=0.3と言えば不気味な音と共に大きな振動が伝わって来ます。そんな大きな力で路面を擦り続ける人はいません。というか、車体を意識的に強く路面に擦り付ける意思が無い限り、それは不可能です。何故ならば Kp がそんなに大きくなる前に車体が起き上がって来てしまうからです。
 「Kpが0.3程度」程度の強い力で路面を擦ってしまっても、今まで何重にもチェックした様に、最も有り得る例として 例えば*11の場合の様に傾き角を 35°以下にしていれば“安全”に起き上がることは可能です。
 これも「量から質への転換」の法則が適用される事なのですが、「車体を擦ってしまった」という現象《“質”の現れ方の一つ》だけで判断すべきではなく、【表1】のdの様に、「車体の傾き角 θb という“量”を 42.63°も大きくしてしまった」かどうかを問題にすべきなのです。その様な大きな傾き角を避ける様、“アラーム”まで付けています。
 それにバンク角 28°(~25°)と言えば結構な傾き角です。むしろ、「知らない間にバンク角が 60°になっていて、車体の何処かを擦ってしまった頃には転倒していた」という普通のバイクに比べたら、このバンク可能角を 28°以下に制限した「踏ん張り棒」方式は「安全なバイクだ」と言えるのではないでしょうか。
◎安全性解析の再チェック       TOPに戻る
 以上、バンク可能角 θa を小さく採っておけば「安全」なのですが、安全性は自車だけの問題ではありません。
 バンク角を余り大きくとっていないとき、暗くて初めて通る様な田舎道ではカーブのスピードを落とさなければなりません。そんな時、その道に慣れた地元の後続車が「イライラ」する前に、早めに見通しの良い所《カーブを曲がり終わって直線コースに入った所など》でウィンカーを出して道を譲る様な配慮が必要です。

 バンパーなど無く いくらでもバンク出来るバイクに比べ、バンク可能角を比較的小さく取っているバイクは峠道ではどうしても遅くなってしまいます。
 それを少しでもカヴァーするのは「リーン・イン」と呼ばれている乗り方です。お尻と上半身をカーブの内側にずらすと車体と体との総重心:Grによる真のバンク角が、車体の「P点擦り」によるバンク制限角の 30°を超えても突起Pが路面を擦らない様にする事が可能です*14。この*14の計算では3.6°余分にバンク出来るので、その分
  SQR(tan 33.6°/tan 30° )-1
                 =7.2%
だけカーブを曲がるスピードを上げる事が出来ます。
 更に、カーブでスピードを落としたとき、遅くなったスピードを取り戻すには軽くて馬力のあるバイクを選ぶ事も必要です。排ガス規制の為かどうか知りませんが、同じ馬力では年々新機種ほど重くなっています。
 私のバイク「ホーネット」は乾燥重量151kgで、40馬力が出ます。しかも4気筒なので急な坂道を登るときも安心です。単気筒では軽いのが有りますが馬力が小さく《例えば20馬力》、急な上り坂で「エンストしたら・・・」と思うと怖くて乗れません。

図20削除



 図20a
*14 ヘルメットや背負ったリュックサックを含めて体重 60kgの重心位置を、車体の中心面から130mmだけカーブの内側に体重移動したとき、総重量の重心:Grの位置が車体中心面から a [mm] だけ移動したとすると、その位置での左・右のバランスを考えると、車重が 180kgの場合
  60*(130-a)=180*a
なので、Gr の移動距離:a は
  a=43[mm]

となります。Grの高さは697mmとしているのでGrの移動をしない場合のバンク可能角よりも
  atn(43/697)=3.6°
だけ余分にバンク出来ます《タイヤの太さを無視した計算》。従って体重移動をしないときのバンク可能角が30°の場合には、総重心の傾き:33.6°までバンクが可能で、バンク角33.6°相当のスピードを出せます。
 この計算で分る様に、大型バイクで、且つ体重の軽い人の場合にはあまり「リーン・イン」の効果が有りません







 左の写真では左のサイド・トランク(布製)を外していますが、それを付けるとパイプは目立たなくなります
◎直立状態への引き起こし
 【図20削除は左に約30°傾いて立っているバイクを直立状態まで引き起こすのにハンドルにΦ16のオール・ステンレス・パイプ《→*15を差し込んで、小さな力で直立させるときの、力の測定方法を示して います。 ・・・・・・削除しましたいましたが、Φ16のステンレスパイプの強度は微妙で、【図9b】の状態から引き起こしたときには少し曲がってしまいました《ハンドルを上に向けましたが》。
 P点立ち(【図5】)からの引き起こしの場合、【図9a】の下に書いておいた引き起こし方が意外と楽に引き起こせます*18



*15
 削除しました。



*16 削除しました。


*17 削除しました。

*18
 ハンドルを持って車体を引き起こす途中では、車体が斜めになっているので、意識的にハンドルを上に向けないとハンドルは下を向いてしまいます。【図9c】の中の、ハンドルの右グリップを斜め下へ引っ張っている、2本の白くて細いロ-プは、ハンドルが下に向こうとしている、かなり強い力に抗してハンドルを真っ直ぐに向けています《【図9b】も同様》。
 これは、次ページ冒頭の図に付いての注“*0
”にある様に、ハンドルの回転軸の延長線の後ろ側にタイヤの接地点Cが在る為です。
 その自然なハンドルの動き(力)に逆らってハンドルを上に向けると、ハンドルの回転によって 引き起こす人が力を入れるハンドル・グリップ《地面に近い方のグリップ》とこの場合の支点に相当する接地線分CDとの間の距離が大きくなり、加えて、車体の重心Gから路面へ下ろした垂線の位置Ghに対して上記CDが近づくので、梃子(てこ)の原理で引き起こし手の力が小さくて済みます。
 嘘だと思ったら自転車を45°位 左に傾けた状態で、大きく右に《上方に》ハンドルを切ってみて下さい。真上から見て、接地線分CD《支点》が、車体の重心と思われる辺りに近づくのが分ります。

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