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     スイカ
 
 
(2)

  中途でからくも停止した補完計画-それは後年、サードインパクトと呼び習わされた-によって、人類の棲家である地球は、15年前のセカンドインパクト以上に壊滅的な様相を呈していた。サードインパクト直後の混乱の中、、アスカとシンジは、辛うじて冬月と彼がまとめていた旧NERV職員達と合流を果たし、以後、彼らと行動を共にした。アスカとシンジは、旧NERVに所属し、その中で、彼らに出来る種種の仕事をこなしていた。彼らは、世間的に言えば両親のいない未成年者であるから、言わば、冬月は彼らの保証人であった。また、旧NERVは、サードインパクトによって再度損なわれたこの世界の秩序を辛うじて保つ主体となったMAGIを管轄し、以前ほどではないにせよ、ある一定の影響力を世間に対して持っていた。

  サードインパクトからそう長くは経っていなかったそんなある日、アスカは冬月に呼び出された。
「司令」
「ああ、アスカ君か」
碇ゲンドウがいた頃とは比べ物にならないくらい手狭でこじんまりとした執務室で、旧態依然としものではあるが、しかし、ワンランク上の肩書きとなった冬月は、デスクの書類から顔を上げた。
「どうだね、今の仕事は」
アスカは、MAGIのオペレーションチームの一員として、伊吹マヤの下で見習をしていた。
「ええ、何とか。やっぱり、MAGI程のコンピューターとなると、結構、いろいろ難しいですね」
「そうかね。まあ、ぼちぼち続けてくれ。伊吹君は、やはりなかなか飲み込みが良いと言っていたぞ」
「そりゃー、まあ。ははは」
その位、出来て当然なのだが、誉められるのは、悪い気はしなかった。
「それより、司令。呼び出された用件は」
「ああ・・・」
冬月は、一瞬口篭もった。
「頼みがあるんだが」

  アスカは、黙って聞いていた。冬月を、せかせても無駄だと言うことは、最近接する機会が多くなり、いかにせっかちな彼女と言えど、判らざるを得なかった。
「三崎の方に、赤木博士の祖母を迎えに行ってくれんか。養老院に入ってもらわねばならんのでな」
「赤木博士って・・・赤木リツコ博士のお祖母さんですか?」
アスカは驚いて聞き返した。
「生きていらっしゃるんですか」
「ああ、三崎の、半分廃屋になったマンションに、未だ一人で居るらしい。赤木博士が死んだので、身寄りが無くて、引き取り手が無いのだ。幸い、マンションの組合が残っていたらしくて、廃屋に住ませているわけにも行かず、そちらの方からつてを辿って、うちに連絡が来たと言うわけだ」
「お年よりのお迎えですかぁ。そんなの、シンジの方が適役だと思いますけど」
いつもの調子で、思ったことをずけずけと言う。まあ、この場合、客観的に見て、妥当な意見だろう。
「いや、それは・・・少し訳があって、この場合、シンジ君よりも君の方が適当なんだ。諜報部の人間を一人付ける。説得には、その人間に加勢して貰うことも出来るだろう。諜報部の人間だけに迎えに行かせるわけにも行かないのでな。赤木博士のことを、少しでも知っている人間が行ったほうが、事が穏やかに収まるだろう」
 何やら奥歯にものの挟まったような言い方で、納得がいかないが、司令と言う肩書きを持つ人間の命令である。従わないわけには行かないし、まあ、別にそれくらい、大したこと無いか。
アスカは、軽い気持ちで、その役目を引き受けた。

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