ホーム > 光学コラム > 効率の良い光学設計をめざして(3)
それでは「高難易度の光学仕様に対応するには」について実施例を紹介します。
実施手順は「問題解決型QCストーリー」にそって進めていきます。
今回はタイトルに「高難易度の光学仕様に対応するには」を挙げているので、これをテーマにします。
会社勤務経験も含めた設計状況について、光学設計工程も生産現場に倣い「4M」を考えてみます。
生産現場の「4M」を光学設計業務に当てはめると下の通りになります。 現状全てをピックアップして記載できればよいのですが、ここでは問題点を抽出したいので短所を中心に記載します。
「光学設計」は光学業界という比較的狭い業界の中で行っている設計業務で、光学設計者の数は機構や電気等の設計者数と比較すると少ないと言われています。
そのため設計者を育てるには、各光学関連会社の社内教育(OJTおよびOFF-JT)の充実が必要とされますが、近年の不況により、社内教育に関する経費の削減だけでなく、業務内容の単一化による設計者の視野の縮小、リストラによる人員の削減等があるため、光学設計者のスキルを向上させる手段が減少してきています。
光学設計業務時間の大半は、パソコンを使用した計算作業です。特許検索、収差補正、各種シミュレーション等パソコンを使用する作業が多いので、パソコンの処理スピードが速いほうが、遅いものより断然有利です。
ただし、パソコンの処理スピードと設計作業スピードは必ずしも比例関係ではないと考えられます。
開発作業を進めるには、まず製品コンセプトが決められ、それに対応した設計仕様が設定されます。しかし新規開発の場合、着手初期はシステムとして不明な点が多く、明確に設計仕様が設定できないことが多々あります。
次に、光学設計に着手するときは仕様の確認を行いますが、最初に確認する内容は画角と明るさです。その次に使用用途に応じた特徴となる仕様内容を確認しますが、その特徴と画角・明るさからどのようなレンズ構成になるかを考えます。
たたき台となるレンズ構成は特許データや既存の光学系を使用するのが一般的でありますが、仕様に適すると考えられるレンズ系を探すことは容易な作業ではありません。
また数学的な観点から考えると、レンズ設計最適化計算は制約付き非線形多変数関数の解を求める事と同等と考えることができ、このような非線形関数は初期値によって解が変わる事が多々あります。レンズ設計では初期値はたたき台のことを指しますが、たたき台の設定によって仕様を満足しない光学系になることは珍しい事ではありません。
光学設計作業は、一般的には光学設計ソフトを使用し、最適化自動設計をさせるために収差目標値とウエイトを設定・計算させ、その計算結果を評価するという工程に相当の時間を費やします。収差目標値は仕様値またはそれに相当する値を設定し、ウエイトは仕様の優先順位や目標値への収束度合に応じた値を設定します。
設計方法について、収差目標値やウエイトの設定は設計者のノウハウが活かされますが、ほとんどは設計ソフトに依存することが多いです。しかし評価方法については標準化された方法を確立していることが少なく、個人差が大きく且つ経験に依存した評価がされることが多いよう感じます。
特に新規レンズ系の設計完了の見極めは、新しい要素が含まれているため非常に難しい作業です。また一部の要求仕様を満足せず暗礁に乗り上げた場合、次の工程へ進むための対策案を考察しなければならないのですが、設計状況を評価・把握する方法もまた難しいものです。
「4M」という観点から光学設計の実状を挙げてみましたが、次に光学部署(設計者)が設計業務に対して管理する項目に着目します。
生産現場の管理項目を光学設計業務に当てはめると上の表の通りになります。ここでも問題点を抽出する目的で、短所について考察します。
一般的にはQCDの3つが注目され、なかでも品質の維持・向上が最優先、次にコスト削減、納期厳守・作業時間短縮の順番に重要と考えられています。
品質が最優先になるのは当然の話ですが、品質にはコストの要素が含まれ、コストには納期の要素が含まれるので、この3つの中で最も重要なのは納期であると考えることができます。同様に考えると、QCDPSMEの中で最も重要なのは「環境」であると言えます。
マイナス思考で例を挙げると、「設計環境の不備は、設計者の意図が反映されにくい環境でもあるので設計者の士気が下がりやすく、効率の悪い作業が改善されず残業が多くなって体調を崩していく。また設計業務としての生産性がよくないために設計時間が長くなり、その結果コストアップに繋がる。このような状況下で単純なコスト削減を行うと、品質が低下した設計になるためトラブルが発生し、かえって利益が確保できず、設計環境の不備が改善されない。」となり、負のスパイラルが発生すると懸念されます。