魚菜王国いわて

エネルギー産出比

エネルギー産出比の目的
エネルギー産出比については、すでに「太陽光発電、風力発電に対する幻想」で説明しましたが、再度記述しておきます。

エネルギー産出比とは、あるエネルギー供給システムに対して、投入されるエネルギー(資源)量に対する出力として産出されるエネルギー(資源)量の比率によって表される。
http://www.env01.net/ss02/ss022/ss0225/ss02251.htm#n01

エネルギー産出比>1が、そのエネルギーシステム自身を再生産できる最低条件であり、これが1以下だとそのエネルギーシステム自身を再生産すらできませんから、エネルギーとしての意味がなくなり、そのシステム設備時の投入したエネルギーが無駄になる、ということになります。
現在、エネルギーのほとんどは石油エネルギーですから、石油の浪費したことになり、もしかしたら、余計に二酸化炭素を排出することになるかもしれないわけです。
エネルギー産出比は、エネルギーとして存在価値があるかないかを示す指標なのでしょう。

Googleで「エネルギー産出比」を検索すると、たったの5件しかなく、しかも「環境問題を考える」と私のこのサイトで3件を占めていて(もう私のページがヒットするんですねえ。ビックリしてます)、エネルギー産出比は、新しい概念なのかな、と思ったところが、違うんですね。
太陽光発電には、エネルギー・ペイバックタイムというのがありまして、これは「地球温暖化問題に答える」という小宮山宏東京大学副学長さんの著作に書いてありました(「太陽光・風力発電トラスト」管理人さんのご指摘によります。参考文献の中にあり、私は読んでいるはず。苦笑いです。)

問題は、太陽エネルギーシステムを構築し運転するためのエネルギーである。何年発電しても、つくるのに使ったエネルギーを、太陽電池からでてくる電気エネルギーを取り返せないのではなんの意味もない。太陽電池をつくるために費やしたエネルギーを、太陽電池からでてくる電気エネルギーの何年分で取り返せるかをエネルギー・ペイバックタイム(EPT)と呼ぶ。
(「地球温暖化問題に答える」p76)

エネルギー・ペイバックタイム(EPT)からエネルギー産出比を求める
ここで、「太陽光・風力発電トラスト」の管理人さんの「3年で太陽光発電のエネルギー投入量は自身の発電で回収できる」という説から、EPTを3年を仮定し、データとして、「ようこそ我が家の太陽光発電へ」の「粗っぽい計算による勘ぐり」(←リンク切れ)の具体的な数字で、エネルギー産出比を算出してみます。
「SUNRISE1号は年間平均3,130kWh発電し、年間平均1,020kWhの余剰量を産みだし」の数字を用いて、3年間のエネルギー産出量を計算すると、は3,130×3=9,390kWhで、これが太陽光発電設備生産時のエネルギー投入量ということになります。
耐用年数20年間とすれば、そのエネルギー総産出量は62,600kWh、これを9,390kWhで割れば、エネルギー産出比は、約6.6になります。
簡単な計算方法は、耐用年数をEPTで割れば、エネルギー産出比がでます。
つまり、20年÷3年≒6.6で、同じ結果となります。

エネルギー産出比が6.6というのはものすごい数字で、効率の悪いバックアップ電源を用いても有り余るくらい。
石油エネルギーなんて、すぐにでもやめた方いいというくらいのエネルギー産出比です。
そして、SUNRISE1号の場合、エネルギー投入量が9,390kWh、年間余剰電力が1,020kWhですから、余剰エネルギー9年分で、新たな太陽光発電を生産できることも示しています。
しかしこれらの数字は、発電施設を作る原料の掘削エネルギー、運搬エネルギーなどを考慮に入れていないのではないか、という疑いを持たざるを得ません。
そうでなければ、「石油代替エネルギー供給技術の有効性の検討」の論文は、まったくのデタラメであることになります。

それにしても、 私の頭って、この程度だったんですねえ。
一度読んだ本なんて、1年も経てば、ほとんど頭から抜けているんですから(赤線はしっかり引いてありました。笑)。

EPTにはいろいろな説がある(ありすぎる)
太陽光・風力発電トラスト」の管理人さんは、EPT3年という数字をメールで教えてくれました。

小宮山宏さんの書いた「地球温暖化問題に答える」では、大体5年〜6年としています。
しかし、これは1995年出版ですから、今から10年も前の話なんです。
これを考えると、10年でEPTは約半分になっていますから、かなりの進歩です。

Googleで「エネルギー・ペイバックタイム」で検索しますと、出るわ出るわ。
ほとんどが約2年というところでしょうか。
恐らく、これは他からの学習?で載せたものでしょう。
ほとんど、EPTという言葉の説明と、何年か、ということしか書かれていません。
メーカーのサイトだと、このEPTは、2年を切っています。

これで検索をやめようかと思ったんですが、同じくGoogleで今度は「エネルギー投入量 太陽光発電」で検索しますと、最初のページで2点、専門的なようなものがヒットしました。
一つは大規模太陽光発電実験をゴビ砂漠で行ったもので、「ゴビ砂漠における大規模太陽光発電システムのライフサイクル評価」。
これによると、10万キロワットの太陽光発電のEPTは、1.8年としています。
耐用年数を20年と仮定すれば、エネルギー産出比はなんと11という数字!
このPDFファイルのリンク元を探したら、「黒川研究室 太陽光発電システムの研究」というサイトにありました。
その親サイトは東京農工大学で、私も一時頑張って行こうかなあと思った大学でもあります。
行っていたら、きっと漁師にはならなかっただろうなあ。

もう一つは、「4.3 節 太陽光発電のエネルギー効率」(←リンク切れ)というページで、ここによると、EPTは17.85年としています。
それに続く文章を少し転載します。

この、17.85年のエネルギー回収年は、単なる太陽電池パネルだけでなくトータルな発電システムを考慮し、そして間接的なエネルギー投入のすべてを考慮しながら通常の設備の耐用年数と比較可能な範囲に収まっている点で画期的な数字といえる。すなわち、一般に太陽光発電設備の耐用年数は、20年と議論されている。したがって、このことを前提にすれば、われわれの測定した太陽光発電システムは耐用期間内に、自らの設備に必要なエネルギーすべて回収しうることになるのである。化石燃料による発電システムでは、エネルギーは永久に回収できないにもかかわらず、この太陽光発電システムの場合、設備の耐用期間内にすべての投下間接エネルギーを回収できる可能性がある点で、画期的なものなのである。前節で定義した、太陽光発電の正味エネルギー効率は、20/17.85=1.12で、112%ということになるのである。
(「4.3 節 太陽光発電のエネルギー効率」←リンク切れ)

ここでは、エネルギー効率1.12という数字をはじき出していますが、エネルギー産出比と同じですね。
このページは「わしだネット」の中にあり、鷲田豊明さんの著書を公開してあるページでもあります。
私はこんなサイトが大好きです。
きっと、著作権なんて、あってもなくも良い、なんて言っているような気前のいい人柄なんでしょう。

学問上で解決してほしい
EPT比較でも、いろいろな説があり、また「環境問題を考える」サイトのように、太陽光発電はまったく話にならないという説まであるくらいですから、こりゃ、大変ですよ。
どうやったらいいのかなあ、と考える人にとっては、ホント、大迷惑。
実際に政策立案する人たちだって、これじゃあ、世論に押し流されるしか手はありません(笑)。

せっかくゴビ砂漠で10万キロワットの太陽光発電実験をしたのですから、10万キロワットの石油火力、というのはないでしょうから、キリのいいその数倍の石油火力発電設備と、建設時投入エネルギーを比較してみても面白いと思います。
発電出力を同じ規模に換算した建設時投入エネルギーがそんなに違わないのならば、これは、本当に太陽電池の原料を石油エネルギーで日本まで海上輸送し、あとは、国内で、太陽電池をジャンジャン作れば、最低でも石油延命エネルギーとして有効であるといえるのではないでしょうか。
さらに、供給の不安定な太陽光発電のバックアップ施設の効率がアップし、それを含めたエネルギー供給施設のエネルギー産出比がとにかく1を上回れば、これは使える発電方式なのです。
あとは、発電設備の価格の問題で、これは賢明な政治家がいるならば、政治分野で解決できます(例えば「自然電源促進税」などの反比例型目的税を用いて)。

エネルギー産出比、あるいは、EPTの数値が、学問上で決着がつくことは、情報を得る側にとって非常に有益なことであり、その数値よって、各発電の必要性が違ってくると思います。

政治家への説得材料
エネルギー産出比は、非常にわかりやすい指標だと思います。
ということは、政治家その他の提灯記事を書く新聞連中にもうってつけ。
特に目をひくのは、原子力発電の石油代替性の無さ、そして延命性もない(「石油代替エネルギー供給技術の有効性の検討」2-2 原子力発電)。
コスト面でも原発がダメなことは、いろんな場所でどんどん指摘されてますが、石油延命エネルギーとしても使えないのならば、それは、すなわち、石油エネルギーの無駄遣いでしかない。
ということは、ものすごく説得材料として優れている、と私は思います。

「自分の頭で考えよ!」
今回も「自分の頭で考えよ!」ということを、またまた痛感しました。
初めて「石油代替エネルギー供給技術の有効性の検討」を棒読みした時は、何も考えずに疑わずに正しいものだと思い、「太陽光発電、風力発電に対する幻想」を書いてしまいました。
しかしよく読むと、この論文の「2-3-2 太陽光発電」の「e.エネルギー・コストないしエネルギー産出比(対石油消費)」には、理解できないところがあります。
エネルギー産出比を算出するにあたって、石油火力とのエネルギー・コストとの比較値をそのまま用いている点です。
石油火力は設備後にも石油エネルギーのインプットが必要ですが、太陽光発電は設備の保守以外には、設備後の石油エネルギーインプットはありません。
ですから、冒頭の定義どおりならば、簡単に石油火力とのコスト比較では、エネルギー産出比は出ないのです。

エネルギーコストを用いるエネルギーの価値判断は、すでにあちこちで語られているものであり、コストは金額換算です。
ところが、このエネルギー産出比というエネルギーの価値判断法は、飽くまで投入エネルギーと産出エネルギーの比ですから、人為的政治的な“コスト”の入る隙間はないはずです。

また、 「石油代替エネルギー供給技術の有効性の検討」の論文は、各発電方法単独で書いてあり、そこで再生産できないから、まったくダメだ、とばっさり切り捨ててしまっています。
ここでちょっとバッサリ切り捨てることをしないで、少し考えてみます。
石油火力発電施設を作る原料とて、海外産、太陽光発電施設を作る原料と同じ海外産。
日本に輸送するまでは、同じエネルギー投入量と考えていいはずです。
ということは、国内でだけの(発電施設原料の海外での生産エネルギーから日本への運搬エネルギーまでを考えない)エネルギー産出比で比較し、同規模の発電量比較で、石油火力発電を太陽光発電が上回れば、石油代替ではなく、石油延命エネルギーの役割として有効であると言えます。

国内でだけのエネルギー産出比を太陽光発電で考える場合、太陽光発電のエネルギー産出比の簡単な計算方法は、先ほど書いたように、耐用年数を掛けた総エネルギー産出量を太陽光発電設備生産時のエネルギー投入量、そしてメンテナンスに掛かるエネルギーの総量で割れば、出てきます。
(2005年1月10日)

加筆
EPTについてですが、この数値が2年前後のものは、国内でのエネルギー投入量だけから算出されていると思われます。
その計算方法の詳細は、残念ながら見つけられませんでした。
現在、海外からの鉱物資源輸送において、動力は石油エネルギーに頼っています。
これを例えば水素エンジンなんかが開発され、太陽光発電で起こした電気で水素を生産するとなると、膨大なエネルギーとなります。
このような計算すらできないような数値は、現在語られているEPTでは勘案されていません。

鷲田豊明さんのデータは古い(1992年出版「環境とエネルギーの経済分析」)ようですが、海外分の投入エネルギーまで考えて総投入量を計算しています。
このようなものは、他になかなか見つけることができません。
しかし、これとて、エネルギー換算して算出しているものですから、現実の代替エネルギーとしてどうなのか、ということを判断するEPTやエネルギー産出比とは言えないわけです。

さらに「環境問題を考える」サイトでは、何度もバックアップ施設のことを持ち出しています。
現実的に使用できる電気エネルギーを考えるならば、当然これも考えなければならないでしょう。
その点も、ネット上に散乱するEPTは、まったく考慮にいれていません。

環境問題を考える」サイトの管理人近藤邦明さんは、今回のことで他からもいろいろな指摘、助言を受け、ダメなところは書き直そうとしています。
私はこの姿勢がものすごく大切だと思います。
いろいろな理論を展開するにあたって、その中身をしっかり公開し、クレームを受け、修正していく。
ネット上ではこれが簡単にできます。
こんなサイトは期待できます、きっと。
(2005年1月11日)



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