魚菜王国いわて

「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」を読んで

今の経済学は、ものすごく複雑らしく、過去の単一で存在する経済モデルで経済政策を押し付けるということは、不幸を生む元凶となっているようです。
そのことが、ジョゼフ・E・スティグリッツ著「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」に書かれています。
この舞台主役は、IMF(国際通貨基金)であり、はっきり書けば、このIMFが東アジアや東南アジア、アフリカ、ラテンアメリカなどに施した政策はすべて失敗し、逆にIMFの言うとおりにしなかったボツワナ、マレーシア、中国などの国々のほうが危機の際に被害が少なく、その後の経済復興も早かった、ということです。

IMFの主張は、何度失敗しても、自由化政策を発展途上国に押し付け、特に金融市場の自由化についてはひどいものです。
この金融市場の自由化は、先進国の日本でさえ、アメリカに痛い目に遭っているのは周知であり、今でも竹中小泉内閣で推進中です。
いったいいつまで、日本の金融資産を、順次アメリカの金融業界に廉価で売り飛ばすのでしょうか?

ちょっと脱線しましたが、この発展途上国に押し付けられたIMFの政策には、アメリカ合衆国の国内で認められなかったものを実行したものもあるそうです。
開いた口が塞がりません。
すでに失敗した経済モデルを、経済の弱い地域に押し付けるんですから。
これはトリックル・ダウン経済学と呼ばれているもので、貧困層を助ける最善の方法は、経済を成長させ、最終的にその恩恵が貧困層までしたたり落ちる(トリックル・ダウン)ということなのだそうです。
スティグリッツ教授に言わせれば、これはただの仮説・信条にすぎず、19世紀のイギリスや1980年代のアメリカの経済繁栄でも貧困層は拡大し、しかも、それらの収入は低下していたのです。
日本でもそうですよね。
いろいろ経済対策を実行しても、実際には貧乏人への恩恵はほとんどないですから。
ホント、日本の経済政策は、トリックル・ダウン経済の信仰のしすぎですよ。
まあ、世界中の先進国も同じようなものでしょう。

これを民主政の未熟な地域に押し付けたらどうなるか?
汚職が横行しますから、ほとんど上層部だけでIMFのカネは巡回するだけです(日本でもそうなっています。だから権力を身近におく地方主権が望ましい)。
IMFという組織は、他所の言うことに全く聞く耳を持たないらしく、しかも秘密主義。
せっかく助言が多数あっても、単一の政策しか押し付けず、しかも上記のようなトリックル・ダウン経済学の信者ですから、どうにもなりません。
しかもこれがアメリカ財務省やWTO(世界貿易機関)と呼吸を合わせたら、アメリカが各地を略奪し世界中に悲劇が蔓延します。
タイで起きたものすごく簡単な搾取を少し引用します。

ある投機家がタイの銀行へ行って240億バーツを借りたとしよう。もとの為替相場だと、これは10億ドルに交換できる。1週間後、為替相場が急落する。1ドル24バーツだったものが、いまでは1ドル40バーツになっている。かれは6億ドルをバーツに換え、その240億バーツで借金を返済する。残りの4億ドルが彼の儲けだ。1週間の仕事としてはかなりの収益である。そして、彼自身の資金はほとんど投資にまわしていない。為替相場が上がる(たとえば1ドル=24バーツが1ドル=20バーツになる)ことはないと確信していれば、リスクはほとんどない。最悪でも為替相場が変わらなければ、1週間分の金利を失うだけである。通貨の価値がいまにも下落するとわかっていれば、金儲けの機会は抵抗しがたいものとなり、世界中の投機家がこの状況に乗じようとして群がるようになる。
(ジョゼフ・E・スティグリッツ著「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」p143)

IMFの、金融市場の自由化と資本市場の自由化が早すぎて、結果は、先進国しかもアメリカの投機家がボロ儲けし、タイは危機に陥りました。
これとは別ものですが、ロシアは最も悲惨で、IMFの言うとおりにした結果、ソ連崩壊前の経済水準にもまだ達しておらず、しかも見通しすらたっていないというほどです。
そのほか、WTOがらみいえば、アメリカ自国の特定分野の自由化をしないで、他国の自由化を強制しようとするわけの分からない貿易自由化論をふりかざしているものがたくさんあります。
その結果、あのカンクンで行われたWTO総会は、途上国側が「譲歩」しませんでしたね(「欧米の傲慢」参照)。
ダンピングに関しても、アメリカの都合のいい解釈でしかなく、その記述部分を引用します。

過去のダンピング法の適用例からして、ダンピングをしていない場合でもその罪を着せられる可能性があることをオニール(アルミニウム会社アルコアの元会長:hajime注)は知っていたし、そのことは私にもわかっていた。アメリカが製造原価を見積もる方法は独特で、それをアメリカの企業に適用したら、おそらくほとんどの企業がダンピングしていることになるだろう。
(前掲書p249)

著者のスティグリッツ氏は、現在コロンビア大学の教授で、2001年にノーベル経済学賞を受賞しました。
また、1995年にはクリントン政権の大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長を経て、1997年から2000年までは世界銀行の上級副総裁兼チーフ・エコノミストと務め、発展途上国の開発のことで仕事をしてきました。
いろいろな地域をまわった結果、IMFの欠陥ばかり指摘でき、まともな仕事はしていないことをこの本で告発しています。
そして、こう言っています。

世界各地の経済構造はいちじるしく異なっている。たとえば、東アジアの企業はかなり高い水準の債務を負っていたが、ラテンアメリカの企業が負っていた債務は比較的小さかった。労働組合は、ラテンアメリカでは強力であり、アジアの大部分では比較的弱体である。また、経済構造はときとともに変化するものでもある?これは、ニュー・エコノミーをめぐる近年の議論で強調されたところだ。
(前掲書p313)
発展途上国が国際社会に要求すべきことは、たとえば誰がリスクを引き受けるべきかについて、自らの政治的判断を反映するかたちで途上国自身が選択する必要と権利を手に入れること、ただそれだけである。発展途上国は、先進国のためにつくった雛型を受け入れるのではなく、それぞれの状況に適した破産法と規制体系を自由に採用できるべきなのだ。
必要なのは、公正で民主的かつ持続可能な成長のための政策である。これが開発の動機である。(中略)開発とは、社会を変容させ、貧しい人びとの生活を向上させ、すべての人に成功のチャンスが与えられ、医療と教育を受けられるようにすることである。
(前掲書p351,352)

スティグリッツ教授が説いているものは、はっきりいえばケインズ型の経済です。
市場経済単一主義は否定しています。
日本はバランスシート不況と言っていますが、今の日本ですらも政府主導の拡大経済でなんとかして、経済が持ち直してから財政再建すればいいということになります。
まあ、私には難しくてわかりませんが、拡大経済にして景気がよくなって税収が増えて、そこで本当に財政再建すれば良いのですが、イマイチ今の自民党では、とても信用できたものではありません。

現在のアメリカ合衆国では、スティグリッツ教授のような柔軟な考えの人は少数でしょう。
そもそもアメリカは、卑怯にも他国を陥れ、経済的に搾取している国ですから、スティグリッツ教授らがグローバル経済の道筋を立てたとしても、それを悪用する輩はたくさんいるでしょう。
私は、どうせそんな方向に向かう人間がいるんだから、ローカルにはローカルの価値観で経済を行うべきだとホント思います。
歴史を振り返ってみれば、価値観の押し付けで、当地の原住民は利益を得たことはほとんどありません。
先進国には、あまり発展途上国には干渉せず、その経済発展を焦らずにじっくり見てやる、という大人の姿勢が必要です。
(2004年4月9日)



反グローバル(多様化・小規模化)関連

トップへ