魚菜王国いわて

「裁判の秘密」を読んで

山口宏弁護士と副島隆彦さんの共著で、「法律学の正体」の第2弾という位置付けの本です。
第3弾に「裁判のカラクリ」というのもあるんですが、特に「法律学の正体」と「裁判の秘密」は、ぜひ皆さんに読んでもらいたいくらいです。
で、この「裁判の秘密」は、たぶん一般の書店では、注文でも手に入らないかもしれません。
復刻版で、発行は副島隆彦事務所です。
ほしい方は、副島隆彦サイトに行って注文してください。

http://soejima.to/

さて、内容です。
最初に、山口弁護士の弁護士業の悩みから始まり、これが、全体の主題といってもいいかもしれません。
弁護士業の裁判に対する裏表を、一般人でも理解できるような独特の書き方で書いており、副島隆彦さんは「あとがき」で、山口さんの文章に敬意を表しています。
裁判官のいい加減さ、依頼人の弁護士に対する頼りすぎ、離婚裁判の女性有利、行政訴訟の無意味性、オウム事件、など多岐にわたり、裁判現場から社会生活に対して、鋭い見方をしており、法律と日本人の現実生活との乖離(これは「法律学の正体」でもすでに指摘しています)に関する鋭い指摘から、日本の法律のあり方を導いています。

「第4章 債務者の怖いものはない」では、債務者が弁護士に債務逃れを依頼するシーンを題材にしています。
そのすぐ後の章が「第5章 住専の法律学」で、それもまた、債務逃れが題材です。
結論から言えば、そもそも法律は債務逃れを手助けしている、と結論付けているんです。
そのシーンの端的な例をここで引用します。
「第4章」からです。

名前は言えないが誰でも知っている立派な商業ビルの一階の洋服屋なのだが、ある人の紹介でこの人から、この間電話がかかってきて、「店をたたみたい」という。このビルにテナントとして入って商売している人だから、私はてっきりビルのオーナーとの敷金の返還交渉だと思った。私が早とちりしてああだこうだと言ったら、「いや、そうじゃないんです」と言う。「えっ、ひょっとして買掛けを踏み倒すの」と言ったら、「そういうことです」と言う。
買掛けというのは、問屋やメーカーなどの仕入れ先から仕入れ材料とかの代金の支払い債務のことである。「じつはこれには保証人がいて、この保証人のほうにも、踏み倒してもいいと言っている」とのこの洋服屋は言う。この保証人は某大企業に勤めている人なのだが、「どうぞ踏み倒してくれ」という依頼を平気でしてくるのである。こんなことがふつうになったら、世の中みんな怖くて商売なんかできなくなってしまう。
この人はふつうの洋服屋である。場所が場所だから、水商売の人たち相手とはいえ、ものを売っているふつうの商人で、大企業勤めの連帯保証人をつけられている。だから、銀行も融資しているし、メーカーも品物を入れている。それを、なんと弁護士に法律の裏ワザを使わせて踏み倒そうというのだから、唖然とする。
(以上、「裁判の秘密」p121)
(中略)
ところが、たとえば債務整理という場面で私たち弁護士のやっているのは、実際のところ、依頼者の立場に立てば、法律の欠陥を利用しつつ、世間の規範に反することをやっているということになる。
(以上、前掲書p122)

山口さんいわく、法律が、そして、裁判制度が、悪質な債務者を守っている。
で、「第5章  住専の法律学」で次のように書いています。

いったい、誰が悪いのかといったら、借り手(債務者)が悪いに決まっている。いままでの世間の倫理だとそういうことだった。ところが今回はマスコミの論調がすべて、もっぱら大蔵省や政治家の悪口を言って、そこから騒ぎ始めた。借金を返せなくなった借り手のことはあまり言わなかった。問題の指摘の仕方がズレている。借り手は何百億もの資産を隠しているのに、いったい誰が、どういう制度が、それを許してきたのかということが、問題にはされなかった。
(中略)
まさに、正しく法律に守られてバブル不動産屋たちは逃げ回っているのである。法制度が「返せなくなった金は返さなくてもいい」という結論をもたらす。
(前掲書p131)

おやおや、ですね。
悪い法律はみんなで破りましょう!
ということを言ってしまってはおしまいですから、私たちが身近な政治家、あるいは、政治家の後援会の面々に声をあげるとか、宮古市だったら、熊坂市長に直に提言してもいいでしょう。
と奇麗事を書いてしまいました。
せめて、自分たちで決めることのできる申し合わせの類は、自分たちの社会を照らし合わせて作っていけばいい、ということですね。
(2003年6月24日)



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