魚菜王国いわて

タラソテラピーの政策評価

タラソテラピー施設利用の目的は、「シートピア なあど」のサイト(←リンク切れ)の「設備紹介」(←リンク切れ)よると、「健康増進、健康回復、美容や生活習慣病予防等、日々の健康維持のために」とあります。
このタラソテラピー施設について、先月(H15.12.1)の「広報みやこ」の「市長のひとり言」で、興味深い発言が掲載されていました。
市浦(しうら)村の医療費が、タラソテラピー施設を作ってから10%減少した、という高松隆三村長の発言です。
これを宮古市に当てはめはめて考えてみます。
国民健康保険と老人保健の財政負担の合計が約98億(一般医療費50億、老人医療費48億)で、これを簡単にして100億とし、仮に5%減少したならば、その減少額は5億です。
10%減少なら10億です。

市浦村のタラソテラピーは、平成12年11月にオープンしました。
市浦村の国保医療費を見るには、12年を起点としてその後をみるべきであり、平成12年度の老人医療費は2億3,718万円、一般医療費が2億605万円、退職者医療費が3,974万円で、計4億8,296万円です。
平成13年度は、老人医療費が2億3,492万円(-236万円)、一般医療費が1億9,547万円(-1,058万円)、退職者医療費が2,453万円(-1,521万円)、計4億5,492万円(-2,804万円)となり、単年度でみれば、一応医療費は減少しています。

市浦村では、村をあげて健康増進に取り組んでおり、ダンベル体操の普及や「地域包括ケアシステム」の推進などの成果が、この数字にかなり影響があると思われます。
さらに、村民の検診受信率が非常に高く、ほとんどの検診で青森県平均の2倍の受診率となっています。
その数値は、平成9年度から12年度まですべて60%以上で、つまり10人中6人は検診を受けているということになります。
これは、村民の健康に対する意識が高い証拠であり、それなりに健康維持の努力を各自しているのでしょう。
ちなみに、国保医療費の平成9年度の総計は5億523万円で、平成10年が5億1,794万円をピークに漸減しています。
特に注目すべき点は老人医療費であり、老人医療費は9年度の2億6,762万円からずっと減る一方です。
これは、村の「地域包括ケアシステム」の対象年齢が、高齢者を向いているからだろうと推察され、また高年齢層ほど、村の事業や取り組みに参加する度合いが高いのだとも考えられます。
一般の国保医療費は増減が比較的激しく、その年の流行疾病の状況で変化しているようです。
村の人口の年齢構成はわかりませんが、医療費から見れば、宮古市よりは高齢化しているものと思われます。
ということは、村の事業参加率の高い年齢層が多いわけですから、村の事業が結果に反映されるのは、ごく当然のことです。
それゆえ、現時点で、タラソテラピー施設の国保医療費への貢献度を計るには、無理があると思います。
せめて15年度ぐらいまでデータが揃って、なおかつ、タラソテラピー施設利用の年齢構成、そして村の人口の年齢構成から、見極めて初めて評価が下されると思います。

それにしても、タラソテラピー施設の利用によって、宮古市の国保医療費が5%減少するというのならば、これはものすごい貢献です。
仮に「なあど」の運営費用が赤字でも、市全体で見れば、医療費からの減少分より赤字分が少なければ、一応評価してもいいと思います。
利用して医療費が減少するくらいならば、それだけ市民の多数の人々がタラソテラピー施設を利用していることですから、運営も黒字になるか、あるいはそれに近くなるのでしょう。

ここでまた、少し考えます。
タラソテラピーをどんどん利用したとして、医療費が毎年5%ずつ減少するか?と問えばそうではないのは自明です。
必ず臨界点がでてくると思います。
その時、運営が赤字ならば、それはそれで仕方がないことと、認識しなければなりません。
いくら健康増進施設といっても限界があり、利用しても変な生活をしていれば病気になります。
そこを「医療費がもう減少しないじゃないか!」というのは、バカの言うことで、それ以前の減少分の医療費を合計すれば、ものすごい貢献度となるわけです。
これは、うまくいっての話ですが。

宮古市の場合、運営は「株式会社宮古地区産業振興公社」の第3セクター方式で、かなりの赤字をかかえたらどうすんだ?との問いには誰も答えられない方式です。
つまり、天下(転嫁)の税金となります。
これが第3セクターなのです(どうせ責任の所在が不明確で税金で穴埋めするのならば、第3セクターなんてなくてもよく、自治体でやればいいんです。出資した民間団体からは、カネを吸い取っただけと言えます、結果的にみて。これは過去に書きました)。
もしも医療費が、タラソテラピー施設のお陰で減少したのならば、この運営会社の赤字分を何らかの方法で市が穴埋めしても、別に問題はないと思います。
国保医療費は、市も負担していますから。
ここに、その運営会社単体の内容だけでは判断できない、政策評価の側面を、見出すことができます。

ここからは余談です。
市浦村の健康への取り組みは、診療所の経営にも貢献しています。
宮古市から頂いた資料をみると、高松村長が当選した平成3年度の市浦村診療所の単年度収支が1,589万の赤字で、累積赤字は1億7,538万円となっていました。
それが平成5年度以降からは黒字転換となっていて、なんと、平成13年度の累積赤字は3,771万円まで減少しました。
これは、村の政策が村民に浸透した結果と言えます。

市浦村は人口約3,000人で、人口が少ないために、村民1人あたりに対する配慮が行き届いている、という見方もできます。
これは、合併しなくても取り組み次第で小さな自治体でもやっていけるんだ、ということを証明する事例です。
要は規模ではなく、政策にあるのです。

今日のつぶやきは、本当は「広報みやこ」に、高松隆三村長の発言が載る前に思いついたことなんですが、先を越されてしまいました。
本当にうまくいけばいいですね。
(2004年1月5日)



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