あわ〜ストーンU

気ままに訪問記

この文章の著作権は「あわ〜ストーン」にあるので、無断で引用・改変等しないでね。寄稿者には了解済みです。
11.坑(あな)があったら入りたい
 子どものころ近くの山にあった防空壕によく出入りしていた。レンガでしっかり補強された物や地肌向きだしの物などいくつかあった。危ないから遊んではいけないと何度親に言われたことだろう。結局、最後は竹格子を入れられて入れなくなった。
 ネットで知り合った人の鉱山跡には大きな穴が開いている。それを見ているとまた入りたくなってきた。メールで尋ねたが危ないからダメと言われた。別のブログでは坑道内の探検記みたいな記事があった。かなり危険な場所まで入っているらしい。こっちはメールの返事もなかった。
 場所にバイクで何度も通ってやっと見つけた。そして入れそうだと思ったら装備を整えてもぐり込んでみた。リュックに飲料・食料・タオル・ビニール・カメラ・ランプの予備などを入れ、長袖長ズボンに長靴と軍手・ヘルメット・マスク・ヘッドランプを身につけて入った。
 坑道は涼しくて湿気が多い。穴蔵生活は快適と誰かが言ってたが本当だ。こんな近場に避暑地があるなんて驚きだった。でも湿気は想像以上で湿っぽい。岩肌に水滴が付いている。鉱脈の跡か褐色に錆びた筋がずっと続いていた。
 注意すべきは落盤と落とし穴。急に天井や壁から石が落ちてくる。足元に暗いところが見えたらそれは竪坑だった。古い坑内図を参考にしているが、それを100%信じると危険だ。間違っていることは多いし、自分も間違ったルートに入っていることもある。ときどき後ろを振り返りながら、向こうに白く見える開口部を確認する。
 マンガンの壁は黒くてとても固い。ハンマーでたたいてもビクともしなかった。銅山は雑多で硬いとも硬くないとも言えない。頁岩や石灰岩など堆積岩はもろいのでとても危険だった。ずっと何十年も補強されてないからどこも危なっかしい場所だった。入るときは危険だから躊躇するが、入ってしまうと度胸が付いてそのまま入ってしまう。
 中は虫が多い。カマドウマやゲジゲジとかそれを食べるコウモリも多い。キクガシラコウモリのようで天井は黒い塊になっているし、足元はフンだらけである。気持ち悪い人は絶対に入って来られないだろう。地下水がたまって地底池ができていたり、鍾乳洞になっている場所もあった。
 さて、今後はもう入らない。自己責任といっても、自分だけで責任取れるものではないことに気付いたからだ。気付かせてくれた人、ありがとう。
 
更新日時:
2013/07/29
12.ロシアの石の花
 ロシアの作家が「石の花」という児童文学を書いている。孤児だった主人公が石細工の棟りょうに引き取られ、その才能を開花させて師匠をもしのぐ一人前の細工師になる。ところが、山の女王に出合い石の花にみせられてそのまま神隠しになった。許嫁が彼を捜してその山へ出向くと素晴らしい石が落ちていた。それを持ち帰って店に売ったりしていたが、ついに彼女も山の女王と出合い問答の末に彼を山から取り戻す・・といった内容だった。
 そこに登場する石は緑色の孔雀石だ。銅の二次鉱物で、一般には黄銅鉱などの表面を薄い膜状に覆っていたりする程度だが、海外の産地では丸ごと1個の石がそれであったりする。鉱物の形成された層が同心円になったりして、うまくカッティングすればきれいな置物や細工品になる。一方で、緑青(ろくしょう)ともいって体内にはいると毒になるため注意が必要である。
 ロシアとの取引が盛んになり始めて早10年が経った。それまでは鉱物を入手するのがとても難しく価格も相当高かった。ウラルの水晶なんか小さい物でも万単位の値が付いていた。ショップで見つけてもすすんで買う気になれない。結局今日まで入手せずに終わっている。今はもう石を買わないからそのままになるだろう。
 今もときたま行っている産地で緑色の鉱物を見かける。キースラーガー表面の孔雀石以外に、緑簾石・透緑閃石・カンラン石・クロム雲母やごく稀にオンファス輝石・灰クロムザクロ石・灰バナジンザクロ石などだ。ときどきルチルを含む緑色片岩や緑泥片岩も緑色である。緑色の鉱物ばかり集めてセットにしても面白いかもしれない。
更新日時:
2013/08/09
13.別子型キースラーガー
 四国の銅山を探してる人に付き合って、3年くらい山中をはいずり回ったことある。銅を含んだ鉱物には黄銅鉱や斑銅鉱などあり、それを含む硫化鉄鉱の鉱石を独語で「キースラーガー」という。全体の4割くらいが鉄、4割くらいが硫黄で、残りの部分に銅が少し含まれてる。その銅を目的として採掘してた。
 四国の三波川帯(この言葉よくでてくる!)に沿って鉱床が分布してて、銅山も分布してる。東の端は徳島市の眉山から、西の端は佐多岬の突端まで、延長300kmくらいかな。結晶片岩という変成岩がずっと繋がってて、その中に鉱脈が走ってる。その中心に別子銅山があったので、それをまとめて別子型と言ってる。
 別子型の鉱石はけっこう見慣れたけど、ズリで見かける物はみな錆びてて真っ茶色になってて汚らしい。品位の低い「ガリ鉱」はたくさん落ちてるけど、割ってもスカスカの断面に所々銀色の星(鉱脈)が光ってるだけ。手に持つと錆が付いてしまうし、ちょっと力入れるとボロボロになってしまう。初めて来たときはそれでもマシな物を選んで持ち帰ったけど、今はもう要らない。
 何度かお供して通ううちにもっとマシな鉱石を拾うことできた。高越鉱山だったら、あれはズリが山頂にあるんだよね。索道跡に沿ってズリ残ってるんで、そこでトンカントンカン割るとキラッと金色とか紫色なんかが目を楽しませてくれる。結晶の粒が小さくものすごく密度が高くとても重い!新鮮な鉱石を発見した瞬間だった。
 別子銅山で今でも鉱石が拾える。銅山川流域とか銅山越えの手前とか、それ目的に探せばけっこう見つかるもんだ。余慶坑横のズリでは大きな石がゴロゴロしてる。傾斜が急角度なので足元は危険だから、それを承知で自己責任で採集してもらおう。藍閃片岩中にきれいな虹色に錆びた黄銅鉱の鉱脈が走ってる。金銭的には大した物でないけど自己採集品はお金に換えられないよ。稀にヨモギとか菜種バクとかニックネームで呼ばれてた鉱石が見つかる。
 基安鉱山は行くのが大変だ。行きは下りで帰りは上りでまさに楽あれば苦ありだ。夏と冬は無理だろうな。千町鉱山もしんどいけど面白いとこにある。目印は高圧線の鉄塔だし・・。九騎鉱山はほとんど石がなかった。途中からダートになるしね。でも佐々連鉱山には入らない。ウラから無断で入ってる人たくさんいるけどね。知己からもらったたった1個の古い標本があればそれで充分なんだ。
 もちろんまだ全部の鉱山を回ってない。あと20年もあれば回れるかな。でも痕跡がなくなって知ってる人もいなくなればジ・エンドだな。それがちょと心配なところだ。
更新日時:
2013/08/21
14.浅川型キースラーガー
 徳島県南部にキースラーガー鉱山が10ヶ所くらい点在する。そのうち比較的大きかったのが浅川鉱山である。本山の西川谷と焼尾谷・中山谷・金山谷の3つの支山をかかえ、神山町の次郎銅山と同じ人が経営していた。海まですぐの距離にあったので、掘り出した鉱石はそのまま舟で運ばれたそうだ。
 銀白色の硫化鉄鉱中に金色の黄銅鉱を含み、それが赤色のチャートに含まれていた。低品位の鉱石を「赤ガリ」といって棄てていたが、標本としてはそれが逆に面白い。ブーゲンビリアのような色の母岩に鉱脈が走っているのを見れば、まさにトロピカルな鉱石である。これを浅川型と言って四万十帯に属するキースラーガーである。
 浅川と双璧をなすのが宍喰鉱山である。こちらのガリも赤紫色の母岩に銀星が散りばめられているようで美しい。現地の川原にはたくさん転がっているので、今でも充分採集できる。しかし、石がきわめて硬いので大型ハンマーでも歯が立たないのが難点だ。力任せにたたいてもはね返されてしまうし、タガネもなかなか刺さらない。結局のところ、割るのに適当な大きさの石を探すのに手間取って時間がかかってしまう。
 これら以外の鉱山にはまだ行ったことがない。山中奥深くにありそこまで道がなかったりするからだ。猟師がイノシシを追いかけて2時間もかかるような場所まで行く気がしない。地元の古老に話を聞いて記録だけはしておこうと思う。
更新日時:
2013/08/21
15.秩父帯のキースラーガー
 祖谷鉱山や名野川鉱山の位置は秩父帯に属する。ここでも含銅硫化鉄鉱が採掘されていた。別子型とは異なるし浅川型とも違うタイプなのだが、このキースラーガーには○○型という呼称がない。周りの人も誰も知らないので勝手に「名野川型」と言っている。理由は別子が愛媛県で浅川が徳島県なので、四国四県に敬意を表して高知県の鉱山名を付けたのだ。
 この鉱石は錆びても汚くならない。厚みのある緻密な褐色の層が表面を覆って、内部もまた緻密な金色または銀色である。針鉄鉱が生じて虹色になっている物もある。とにかく素手で触って手が汚れないのはとても助かる。だいたい銅は金色の黄銅鉱として含まれているが、ここは銀白色でも銅の品位が高そうだ。また、母岩は緑色のよくわからない石だった。
 祖谷鉱山は秘境中の秘境、東祖谷の山奥にある。そこまで人が入ることはほとんどない。林道の終点間近にありせいぜい渓流釣りか林業関係者しか行かないような場所である。今はその林道も崩れて通行止めになっている。製錬も行われていたようでカラミ(鉱滓)がたくさん残っている。
 名野川鉱山は集落からほど近い場所にある。しかし、ズリはとても急斜面で降りるのはものすごく危険である。しかもズリには何もない!丸裸の赤土がむき出していて採集できる物はまったくないのである。強いて言えば、下の川原に何個か落ちているくらいであった。
 さて、別子型・浅川型・秩父帯のキースラーガーは互いに様相が異なる。初めて見る人でもすぐに違いがわかるだろう。含銅硫化鉄鉱というとつまらなさそうにする人もいるが、数多くの産地の物を並べてみると壮観な眺めになると思う。
更新日時:
2013/10/16

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Last updated: 2014/1/2
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