旧の麻植郡美郷(みさと)村菅草、今の吉野川市の南部山地に鉱山跡が残っている。国道192号線から美郷方面に南下し、吉野川市美郷支所付近で東進し、神山町との境に近い場所にある。道程のほとんどが舗装道となっているが、最後の500mの脇道がダートで雨後はぬかるんでしばしば落石もある。四駆であればズリ直下まで行ける。普通の車でも可能だが横腹を擦るときもあるので要注意だ。
鉱山跡は周りを低い山に囲まれた盆地にあり、差し渡しは1kmくらいだろう。ダートを進むと東側にズリが見えてくる。高さ30m以上にもなる徳島県下最大級のズリである。ズリの西側下部とダートを隔てた温泉の泉源、ズリの東側の杉林の中などに坑口が残っている。ほぼ崩れかけているので入ることはできない。
ズリは掘り出された脈石や土砂などを積み上げている。ズリの山頂まで登ることができ、かなり遠くまで見えて見晴らしがよい。頭上には送電線が通っており、下方にはさっき通ってきたダートが見える。ダートの延長がかつての鉱山街のメインストリートだった。家並みの跡や公衆浴場のタイルなどがあって当時の名残をとどめている。
道なりに進めばズリの北側まで行ける。そこに駐車してズリに登ったり、斜面をトラバースして石探しをすることができる。地元の方が杉の間伐や山菜・キノコ狩りに来たりする程度で、もっとも近い集落まで2kmである。咎められることはないと思うが、もし会えば挨拶くらいはしておくべきだろう。また、必要以上にズリを崩したりしないこと。
ズリの北側斜面の一部が少し崩れている。戦後間もなく閉山したので、長い間風雨にさらされて石がボロボロになっている。ざっと観察すると石英・藍閃片岩・石墨片岩・紅簾片岩・緑泥片岩など、鉱山稼働時に廃棄された脈石が積み重なっている。その中にミリサイズの黄鉄鉱粒子や細粒からなる細い鉱脈が見られる。また、緑簾石や緑閃石なども確認できた。
やや灰色で褐色にヤケた緑色片岩中にキースラーガーが含まれている。脈幅は1cm内外で太い物はほとんどない。戦争末期にはズリからも再度回収したそうで、あまり見つからなかった。一方で、黒くて緻密な磁鉄鉱の塊があり「黒ハク」と言われている。銅を採るには邪魔だったので廃棄され、ズリにはまあまあ残っている。
ズリの北側に貯鉱所の跡が残っている。ほとんどがカラミで高越や野々脇の物より小さめである。石英をつまみ上げると金色の黄銅鉱の脈が見えた。表面が風化して孔雀石になっていた。
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