あわ〜ストーンU

気ままに訪問記

この文章の著作権は「あわ〜ストーン」にあるので、無断で引用・改変等しないでね。寄稿者には了解済みです。
21.山野の虫に毒あり
 やっと暑い夏が過ぎ去ったような感あり。朝夕の涼風に心が落ち着く。虫の鳴き声も心にしみて早や晩秋の趣である。小生の庵にも枯葉混じりの秋風が吹きおりて、少しの寂しさと侘びしさを感じる今日この頃である。
 今年の活動では近年になく障害があった。まさかあれしきのことで健康を損ねるとは思いも寄らなかった。石を採取しながら保土野の奥まで数時間かけて往復した。途中で愛用の帽子を落としてしまって残念だったが、それなりの成果は得られた。
 この谷川は山頂付近から直接繋がっているため、様々な鉱物を散見できる良い場所だ。ただし、移動にはかなりの体力を要するため初心者には勧めない。大岩の上を猿のように飛び跳ねたり、猪のように藪を掻き分けて進むときもある。しかし、人があまり入っていないので、まるで我々が占有しているかのような錯覚に囚われる。
 帰りにマイントピア別子で入浴するのが日課である。バスタオルも入場料に付いているので、着替えさえあればとても楽なのだ。昼間は空いているので、いつものようにシャワーを浴びて身体を洗っていたときだった。頭頂部に手をやると、ナナカマドの実くらいのイボができていた。少し柔らかくて引っ張るとすぐに取れた。この黒くて丸い実のようなものは何だろうか。
 少し力を込めると潰れて赤い血が出て来た。それは小生の血を吸って丸くふくれたダニだったのだ。あわてて他にもいないか探ってみたがどうやらそれ一匹だけだったようだ。しかし、気持ちが悪かったのでいつもより丹念に身体を磨いて頭を洗った。
 その晩、熱が出た。悪寒がする。身体がとてもだるくて立ち上がれない。風邪でもひいたのだろうか。深夜の診療所へ家内に送ってもらって診察を受けた。病名は不明だった。とりあえず今夜は様子を見て、明日も調子が悪かったら病院へ行くことになった。
 そう言えばダニに噛まれている。もしかしてライム病とかややこしい病に罹患してしまったのか。少しだけ恐怖心が頭をもたげてきた。
 翌朝、熱は下がっていた。身体はまだ言うことを聞かないが、これなら小生の苦手な医者に診てもらわなくて良いだろう。そう思ってそのまま寝ていた。夕方になっても身体は石のように重い。何とか起きあがって夕食をとった。
 翌々朝、ようやく身体が動けるようになった。これで二日ぶりに野良仕事ができる。どうやらライム病ではなかったようで安心した。しかし、保土野へはもう行きたくなくなった。ダニのせいかどうかわからないが、どっちにしても気分は良くない。これをご覧の読者諸兄も充分気を付けられたい。
更新日時:
2013/09/29
22.ルチル協奏曲
 ルチルとよぶべきか、それとも金紅石と書くべきか。手持ちの古い標本ラベルには炭で「ルータイル」と記載されていた。スペルを読めばそう読めなくもない。昔の人はすごいな・・・と少し感動してしまいました。
 ルチルは二酸化チタンの結晶で、結晶片岩によく含まれています。地殻に遷移元素としては鉄に次いで2番目に多いので、どこにでも含まれる普通の元素です。国内のほとんどの地域ではミリ単位の結晶しか産出せず地味な存在ですが、四国周辺ではセンチ単位の大型結晶を産出します。それを求めてやって来る人も多くいます。
 主な産地を列記してみると、徳島の眉山・高越山、愛媛の銅山川・関川・五良津・瀬場谷・保土野谷・肉渕谷、高知の汗見川などたくさんあり、鮎喰川や佐多岬でも産出例があるそうです。最初に四国のルチルが世に知られたのは保土野か五良津らしいですが、その後すぐに眉山から大型結晶が見つかり、国内のみならず世界にも鉱物標本として輸出されました。
 私自身は幸いなことにいくつかの産地で自力採集することができました。連れて行ってくれた方々に深く感謝します。眉山のルチルは、古い時代に採集された物は黒くなってしまって断面が何となく二層になっているように見えます。ややくすんだ感じの石英や緑色片岩などに含まれ、白雲母を伴うことが多いです。また、割った石英から出たばかりの新鮮な結晶では透明な物は赤く、また不透明な物はやや赤味の強い桃色をしています。保育社の原色鉱石図鑑にもきれいな結晶が掲載されています。
 高越山の物は眉山とよく似ています。透明な結晶は赤く、桃色や薄い小豆色でメタリックな結晶も見られます。また、やや風化が進んでいる物は黒くて、藍閃片岩や緑泥片岩中に含まれていることが多いです。汗見川や銅山川下流で見られた物は黒い結晶が多く、多少湾曲したりして結晶が長く続いていたりします。石英や緑閃石中に含まれています。一方で、保土野ではやや青みがかった結晶が出るようです。
 五良津では黒い結晶が多いです。太さ1cm長さ5cmもある単結晶や、V字に交叉した双晶が見つかっています。その下流の関川では石英やチタン石中によく結晶が含まれています。最初は何も採れませんでしたが、粘り強く通ううちについに何個か見つけることができました。なんとザクロ石に結晶が含まれている物もありました。関川には大量のザクロ石があるので、全てを見るとなれば大変な作業になるでしょう。
 愛媛の産地は赤石山山系を中心とする周辺に偏っています。山頂部の岩体から転げ落ちてくるので、谷筋や沢筋をせめると見つけやすいでしょう。一方で、眉山は産地がセメントで塗りつぶされ消滅しています。たまに県外客がハンマーを持って山中をさまよったり、某病院周辺でうろついたりしているようですが無理です。病院から特別に許可をもらって警備員付き添いの元で産地を見てきましたが、わずかに残った石垣には何もめぼしい物がなく退散しました。
 これら以外の場所でも採取に成功しています。何でこんなところに・・・と思えるような産地もあります。地形図や地質図を見れば納得ですが、それでもここまでよくぞ流されてきたなあと思えるような場所がありました。同じ鉱物でもたくさんの産地をそろえるのも面白いと思います。
更新日時:
2013/09/30
23.ダム湖の水位が気になる
 ダム湖に沈んでいる鉱山跡は多いです。金属系の鉱物ならボロボロになってしまうことも多いですが、上手くいけば手つかずの石を拾えるので、新聞などのニュースは注意して見ています。例えば、東京石の白丸鉱山もダム湖が干上がらないと近寄れないみたいですね。もっとも隠された露頭があるとのことですが。
 さて、別に稀産鉱物が出る訳じゃないですが、高知県穴内鉱山の一部もダム湖に沈んでいます。湖底が露出してくるとあちらこちらに坑口が見えてきます。この鉱山はマンガン鉱物のマーケットと呼ばれるほど、多種の鉱物が見つかっています。各種二酸化マンガン鉱や菱マンガン鉱の他に、ばら輝石・ソーダ南部石・マンガン斧石・チンゼン斧石・ストロンチオ緑簾石・同じく紅簾石・オホーツク石・満礬柘榴石などマンガンに付随する物は数知れず。他に辰砂・黄鉄鉱・水晶など多数あり、全部揃えるのはとても難しいでしょう。
 東部のフキナロ鉱床・マンガン谷周辺はとても陰気な場所です。林道をずっと歩いていくのですが、草木がうっそうと茂って昼間でも何となく暗いイメージしかありません。冬季は凍っているし夏季は虫が多くて、石採りにあまり熱心でない私なら早々に退散してしまいます。坑口はほとんど塞がれているか潰れているかしており、見るべき物は少ないようです。しかし、辰砂がよく採れるのでそれ目的のお客が多いようです。
 中部の本鉱床や長川原坑・松株坑などでは、パカッと割れる鰹節鉱や一部で菱マンガン鉱が見られます。鰹節鉱はまるでカツオブシのような形状に割れやすいことから、その名が付いたそうです。ただし、見た目は黒い鉱物が散らばっていて汚い感じがします。金色の黄鉄鉱や赤い辰砂をしばしば伴います。菱マンガン鉱は見た感じくすんだ桃色をしています。でもそれ以上は記憶に残っていません。
 西部の鳳ノ森坑は、10年前にストロンチウムを含む赤い緑簾石が見つかって話題になり、県外の某ショップなどで販売されました。すると、みんなそれ行けって感じで大勢が押しかけて、普段は外部の人なんかめったに来ないのに正月からハンマーを振るう人がたくさんいるようです。林の中に坑口が多数開いており、うっかり侵入しようものならそのまま落ち込んでしまうでしょう。近所の方の話では、S大学の先生が奥さんを連れてここまで来て、本人だけ坑道に入り奥さんはお茶を飲んで待っていたそうです。坑口はかなり大きいですが、天井が崩落しつつあるので入るのは止めた方が良いでしょう。
 鉱山のズリは各所に少しずつ残っています。全部回ろうとすれば1日では絶対足りません。せめて3回に分けてじっくり踏査していったらと思います。なお、私が行ったときは地元のお祭りで社殿にいた方々に挨拶して入らせていただきました。後に続く人も、同じように挨拶くらいしてから入らせてもらってください。なお、販売目的なら許可が下りません。無法な行為はおやめください。
更新日時:
2013/10/07
24.自分が行くと他人が得する
 にぎやかなのは苦手なので、石採集に一緒に行く人はいつも一人か二人くらいです。しかも山道を並んで歩いていても特に話することもなく、何だか無言の行をしている気がします。たぶん相手の方にとって、僕自身がつまらない相手になってしまって申し訳ないと思っています。でも何となくだけども、どっちかと言えばよく誘われているような気がします。どうしてかって言うと、僕と行けば相手が石をいろいろ見つけられるからです。
 関川の奥に五良津(いらず)という場所があります。前に公開されていたページによりますと、中島公園という所から徒歩で70〜80分かかって砂防堤に着くそうです。長距離を歩くのはもっと苦手で行く気はまったくありませんでしたが、ときどき一緒に行く友人Nさんが「関川よりもっと新鮮な結晶が採れますよ。」と誘われたので渋々承知しました。
 当日は朝八時に待ち合わせしてバッグを担いで歩き始めました。道は未舗装ですがほとんど平坦で歩きやすいです。距離はとても長く、楽しくおしゃべりしながらだったら短く感じられるかもしれませんでした。途中の記憶はほとんどありません。会話した内容も覚えていないんです。気がつくと広い川原の前に立っていました、
 Nさんが「Sくん、気合いを一発入れよう。」とホットコーヒーを入れてくれました。そのおかげで僕は我に返り、その後石採集に取り組むことができました。アクチノライトの大きな石が転がっていました。表面に赤茶色の粒が付いていましたがルチルのようです。でも大きすぎたのでそれ以上どうしようもありません。次に菫泥石を狙いましたが四角い藤色をした物ばかりでした。石榴石はたくさんあります。見た目で気に入った石を適当に拾ってみました。
 僕の近くでNさんが何か割っています。それは水晶でした。ミリサイズはときどき見ますが、それよりもずっと大きな物でした。一時間もかけて思ったように割れました。途中で僕も手伝ったので一部をもらいました。他にもV字ルチルとかNさんがいろいろ採集して、そのお裾分けを僕がもらいました。帰りにNさんが一言、「君といると何だか運が向いてくるよ。」。僕とペアを組むといつもよりたくさん採れるのだそうです。だから、みんな僕を一緒に誘うみたいなんですね。
 何だか悔しいような良かったような不思議な気持ちです。一番良い物はもちろん見つけた同行者が採っていきます。僕の所に回ってくるのはその次か、次の次くらいの石ばかりなんです。最初に見つけたのが僕だったら良かったのにって思ってしまうんです。でも視点を変えたら、僕は他の人よりいろいろな石をもらっています。持っている鉱物の種類や産地の数はかなりあります。誘ってくれる人たちのおかげだと思います。
 また、次の休日に別の人からお誘いがありました。そう言えば車代も出していないからそれもお得だったりします。自分にも運が回って来ないかなと思いますが、このままでも良いかなって感じている自分がいます。何の心配もなくのんびりと石採集に興じれるなんて幸せなことだと思います。
更新日時:
2013/11/28
25.タタカイすんで日が暮れて
 先の週末2日間にわたり阿南市科学センターの催しに参加しました。友人やあわ〜ストーンメンバーの皆さんから、資料や展示物の提供をいただきましてありがとうございました。また、開催までブースの調整やパンフの作成などに関わられたセンター職員の方々、関係の方々もお疲れ様でした。
 「科学の祭典」への参加は初めてでした。知己からブースを出さないかと誘われたのが半年前で、それからは何をしようかとずっと考え続けていました。地学関係が少ないと聞いたので、石を使った何かをしようと思いました。最初は石を割って化石を取り出すことを思いつきましたが、それはセンターがするようです。当日は子どもたちが塩原の化石を割って果実や葉、小さな昆虫みたいな物が見つけていました。
 次に考えたのが、関川のザクロ石を割ってその粒子を取り出すことでした。今でもそこへ行けば大量のザクロ石が落ちているし、割って中身を採りだしている人もいます。しかし、ザクロ石は硬いので小さい子どもでは上手く割れないでしょう。割れ口で指を切る恐れもありました。そこで、ザクロ石はそのままで針金などを用いて石を飾れる台を作ることにしました。
 まずは、5〜10cmくらいの適当な大きさの石が必要になりました。それより大きいと机や本棚に飾るのがジャマになります。また、昨年度の来館者数が2500人だそうで今年も同様とすれば200個は必要でしょう。現地の川原に二度足を運んで、友人知人やたまたま石拾いしていた地元の方などの協力を得て、それだけの数がそろいました。ありがとうございました。
 今度は針金を使って石を展示できる台づくりです。試行錯誤の末、25cm程度の針金2本で何とか形になりました。また、サンプルとしていくつか試作しましたが、飾ってみるとなかなか見応えがありました(と他者からも言われたので自信を深めました)。
 初日の土曜日は8:30に来館して準備しました。そして、9:30開館となりお客さんが早速入ってきたようです。しかし、一階のブースばかりを回って二階には来てくれません。20分くらいは何事もなく開店休業状態でした。
 状況が一変したのはその後です。最初に親子3人連れの方がやって来て、袋から好みのザクロ石を選び針金を巻いて足付きの置き台を作りました。かなり器用な子どもさんでなかなか上手い出来映えでした。それからひっきりなしに次々とグループがやって来ました。先に作った子どもたちが吹聴して回ったらしくて、用意したテーブル3つでは足りません。スタッフ用の机も使ってそれからはフル回転になりました。
 二日目も朝から大盛況でした。食事する間も休む間もありません。休憩時間を設けようか思案しましたが、やりたい作りたいと言って来る子どもをほってはおけません。もう一人のスタッフとてんてこ舞いになりながら、飲まず食わず座れずの三ずのまま7時間もぶっ通しでした。
 残ったザクロ石の数から推定すると、初日が70人、二日目が90人で、合わせて160人以上(付き添いの大人は含まず。)がブースを訪れたことになります。小学生がほとんどで、幼稚園や保育所の園児たちもいました。正確な数は知りませんが、昨年並みの人が来館したのなら15人に1人の頻度です。初めてにしてはまあ上出来でしょうと、他からお褒めの言葉をいただきました。また、面白かったと言って友達を連れてきた子どももいました。
 これも皆さんからのご支援やごひいきがあったおかげだと思います。本当にありがとうございました。来年度もするかどうかわかりませんが、漠然と青写真のようなものがあります。少しだけご期待ください。
更新日時:
2013/12/03

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Last updated: 2014/1/2
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