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パリ・オペラ座バレエ鑑賞日記
〜名古屋発成田、ソウル経由パリ行〜
***以下文中1フランは約17円です***

7月3日4日5日6日7日8日

0705 Wed.
曇ときどき雨
この日の午前中は、パリが初めてな私が、とりあえず行っておきたいと主張したルーブル美術館に行くことにする。ガイドブックによるといつ行ってもすごい人だから、開館前に少し並んで入るのがいいとのこと。それを信じて開館30分前の8時半頃に、ルーブルの中央入口、ガラスのピラミッド前に到着。すでにかなりの人が並んでいる。それから並んでじっと待つこと30分。しかし、いっこうに列が動き出す気配がない。おかしいなあ、9時に開くんじゃなかったっけ? と思いつつさらに30分以上待たされる。さすがに列のみなさんがざわめき始める。たまに列を整理するおにいさんとかがそのへんを歩いていたが、どうして開館が遅れているのかの説明は一切なし。どうも職員のストらしいということだが、なんだかなあ…、フランス人ってさ…という感じである。観光客をいったいなんだと思ってるのかしらん。世界中からやってくる観光客のおかげで、国が多少なりとも潤ってるんじゃないの? ねえ、なーんて言いたくなります。結局入ることができたのは、10時半近く。私達の2時間を返して欲しいって感じ。
しかし、入ったら入ったで、またしても入場券を買う列が…! また並ばなきゃいけないのね、と思いつつしぶしぶ列についていたら、日本人のカップルの方がやってきて、券2枚余ってるんです、買っていただけませんか? とおっしゃる。なんでも、別々の窓口に分かれて並んでいたら、同時に買えてしまったらしい。わー、買います買います〜! というわけで、喜んで買い取る。(入場料45フラン)
入場待ちの行列!
さて、私達が目指したのは「ドノン翼」と呼ばれる場所で、ここには何があるかというと、古代ギリシャ・ローマ時代の彫刻とそれからルネッサンス期のイタリア彫刻があるのですね。そう、バレエとは浅からぬ関係があるとは思いませんか?(無理やり?)美しき彫像鑑賞なのよ〜、アポロンだ、ビーナスだ、アルテミスだというわけで、ギリシャ・ローマ神話はやっぱりバレエとは縁が深いでございます。私の一番のお目当て、「サモトラケのニケ」は階段を昇った所に置かれてあって、下から見上げる感じも美しかったです。イタリア彫刻はミケランジェロの悩ましい「瀕死の奴隷」などを鑑賞。あのどこがいったい瀕死なのかしらん? 全然苦しそうには見えないし〜、などと勝手な突っ込みを入れながら楽しむ。
サモトラケのニケ
お手洗いに行くついでの場所に超有名な「群集を導く自由の女神」があり、足早に歩きつつ鑑賞。
その後はカフェに入って一休みした後、お土産やさんを見て、ルーブル美術館をあとにする。
実にあっさりとした鑑賞だったが、私達の主目的はバレエなのよ〜、疲れるほど美術館にいるわけにはいかないのだよ、オホホ、というわけで、一旦ホテルにひき帰す。
ホテルにひき帰す途中で(だったのか別の日だったのか、このあたりちょっと記憶が曖昧。なんせ何回も行ってるもので)またしてもオペラ座のブティックによる。この日は、見ることができなくてちょっと(いや、かなり)くやしかったイレール・アブデラムのポスターを購入。(30フラン)
これは普通の大きさでございます。今このポスターはもちろん私の部屋の壁に貼ってありまーす。
うふふ。
さて、ホテルの部屋で遅い昼食をとる。この日のメニューは昨日のお惣菜の残りと、ホテルの朝食で出るパンの食べきれなかった分を持ちかえったもの(毎朝、大きめなフランスパンとチョコデニッシュとクロワッサンが出るのである)、と水(ヴォルヴィックかエヴィアン)である。
うーん、チープ。だがおなかは結構ふくれる。その後のバレエ観劇までの余った時間は、お昼寝したり葉書を書いたりしてすごす。
7時ごろにオペラ座に行くことができるように仕度を始める。事前に一応気候チェックをしていったのだが、思ったよりパリは涼しいのだった。夏服ばっかり持っていって、はおったりできるものをまったく持っていかなかった私(やっぱ無謀だよなあ、なにせ今回、荷物を少なくすることに命をかけすぎました)はあすわさんにステキなショールをお借りする(その節は本当にありがとうございました)。
歩いて5分で、もう自分にとってはお馴染みのガルニエ宮に到着。しかし今日は違うのよ、この中でちゃんとバレエを見るのよ〜、というわけで、ワクワクである。切符もぎのおにいさんに切符をもいでもらい、パンフレット売りのおじさんからパンフレットを購入して(『ジゼル』も同じく60フラン)、あのきらびやかな中央階段を昇る。うう〜、気持がいい〜。
以前よりはずっとカジュアルになってしまったとはいえ、ちゃんとドレスアップしたマダムもチラホラ見受けられる。それから日本の劇場よりずーっとおじさま客が多いのがいいですね〜。そして席につくまでの間に和服姿のお嬢様二人を発見。きちんと振袖(二人ともそうだったかどうかちょっと定かではないですが)でふくら雀に帯を結んだ格の高いお姿。おおーっすごい、気合が入ってるよな〜と感心することしきり。この日はギエムの初日、とあってどうやらお客さんの熱気もかなりな様子。席は一階の中央よりは少し後ろのあたりで、舞台に向って左側である。ちょうど傾斜が始まっているあたりなので見晴らしも十分である。しかし椅子の座り心地はさすがにあまりいいとはいえない。これはオペラ・バスチーユのほうがずーっといいです。
オペラ座中央階段に立つ
と、私達の席の斜め左後ろに和服のお嬢さん方が座っていた。彼女達の隣にいたフランスマダム達はきもの姿に感激して、一生懸命英語で話しかけている様子。あすわさんが通訳をしてあげる。そしてどうやら、フランスモード界の大御所、イブ・サン=ローランも観客席にいるらしいと判明。私も教えてもらって、少し高い場所の席(どういう場所なのかいま一つわかりませんです、ちなみに私達の場所は”ORCHESTRE”という場所です)に座っていらっしゃるご本人を確認する。おお、「ファッション通信」とかで見たことあるよ〜と思う。(縁がないので私は所詮この程度)こういう有名人が来てるということは、やっぱりギエムは特別なのね〜、と感心。
そうこうするうちに、客電が落ち舞台が始まる〜。
『ジゼル』
アドルフ・アダン音楽
ジョン・コラーリ&ジュール・ペロー振付 パトリス・バール改訂版
衣装・装置アレクサンドル・ブノア
パリ・オペラ座管弦楽団

配役
ジゼル…シルヴィ・ギエム
アルブレヒト…ローラン・イレール
ヒラリオン…ウィルフリード・ロモリ
ペザント・パ・ド・ドウ…クレールマリ・オスタ、ジェレミー・ベランガール
ミルタ…デルフィーヌ・ムッサン

ジゼルのチケット
キャストは予定通りギエムとイレール(やっぱり今日のために昨日休んだのかな〜?)ヒラリオンがロモリで、ミルタがムッサン。アルポ、ルグリの日はヒラリオンやミルタがスジェクラスだったそうだから、プルミエの今日はやはりギエムの為に脇を固めるという事だろうかと思う。そして会場の熱気もアルポ、ルグリの昨日よりも上なのだそうだ(あすわさん談)。
ギエムがパリ・オペラ座をやめた時は、国家的損失とまで言われたそうだけれども、見方を変えればそれほど愛してくれたフランスのファンを捨てていったわけで、それにもかかわらず皆彼女のことが好きなのだな、やっぱりギエムはそれ程の人なのだな〜、と思う。
さて、私がギエムの全幕公演を見たのはいつ以来だろうか、とちょっと思い返してみると92年の英国ロイヤル・バレエ日本公演の『ラ・バヤデール』以来だ。そういえばあの時は、ロイヤルのコールドがあまり上手じゃなくて、ギエムに合わないよな〜と思ったっけ。ギエムに合うコールドはやっぱりパリ・オペラ座しかないと思うのですが、どうでしょう?
久し振りのギエムの全幕。演目は『ジゼル』でしかもパートナーはイレールで、バックはオペラ座、ということで、私にとってギエムを見るのにこれ以上はないベストの状態というわけで、いやがうえにも期待が高まろうというものです。
前奏曲が終わって、イレール・アルブレヒトの登場。なんとはなく嬉しそうである。そして、ノリノリである…! さーっと舞台上を走ってきて、オケピットに落ちそうなぐらいのギリギリの位置に立って満足そうに観客席を見渡す(というわけではないのだろうが)のですよ〜。みんな、ギエムはもちろんだけど、僕のこともしっかり見ていってくれって感じ? いやあ、もうそんなアルブレヒト、初めて見ました(笑)。でもでも、もちろんオッケー。ギエム相手に踊るのなら、それぐらいでなきゃ目立たないし、つまらない。さすが、イレールね〜、うふふ、である。
お付きの人にマントを渡して、「どう? これでどこから見ても村人だろ?」「いやいや、お腰の剣をお忘れです」「ああ、僕としたことがうっかりしていたよ」とやるシーン(長かった? でも台詞つけるのって楽しい〜)も、舞台のまん真中なんです〜。(笑)
その後、ジゼルの家をトントンとノックして、さあ、ギエム・ジゼルの登場。そしてなんと、登場しただけで拍手はもちろんのことブラボーの声がかかる。ええっ? なんだなんだ、登場しただけじゃん、なのにブラボーなの〜? 昨日のオレリーちゃんなんか、登場シーンに拍手もなかったのになあ、えらい差だよまったく、としばしあぜんとする。でもまあそれほどみんなギエムを待っていたってことなんだろうなあ、と思う。
ギエム・ジゼルは髪をおさげにしてリボンや花飾りをつけた少女風のいでたちで、ひっつめみつあみ好きな私としてはちょっと残念でした。うーん、狂乱の場でひっつめ髪がばらりとほどけた方が、劇的でいいなあと思うのは、私の個人的な好みではありますが。
ギエムもしかし、非常に嬉しそうに踊っている。ギエムにとっても故郷に帰って踊るということはやっぱり嬉しいことなのかなと思ったりする。
しかしこのジゼルとアルブレヒトは、非常に若々しい感じでした。しょっちゅう目配せしあっては微笑みあってました。いわゆるラブラブってかんじ〜ってやつでした。それは見ていて楽しかったし、多分二人でそんな風にしようってことになったのかもしれないです。反面ジゼルの初恋の恥じらいとか、せつない感じとかはあんまり伝わってこないようでした。
踊りの方はギエムにしては簡単なピルエットでふらついたりなんかして、ギエムでもふらつくことあるんだなあと思ったりする。イレールは元気一杯で、やっぱ昨日休んだだけのことはあるか〜、とか思う。ペザントのオスタは可憐でかわいらしいが、ちょっと線が細すぎる感じがしました。そして男性はどうもベランガールじゃなかったらしいけれども、誰だがいま一つわかりませんでした。でもイレールに負けじと元気一杯でした。さてヒラリオンのロモリですが、連日大変だなあというところ。しかし彼は朴訥な感じがあっていてなかなかよいです。
群舞はこれはもう、いうことがないって感じです。もうほんっとよく踊る。踊る踊る。また音楽が結構早いんだこれが。すごいよな〜、上手いよな〜と感嘆する私。中にミテキ・クドーがおりました。1幕で私が個人的に非常に気に入ったのは、バチルド姫が出てきて、ジゼルの目の前でアルブレヒトが姫の手にキスをするところです。イレール・アルブレヒトは姫の手を取る前から、ジゼルの視線を気にしていて、手を取っていざくちびるを近づけるところで苦悩の表情をにじませておりました。
このシーンでこんなに苦しんでみせたアルブレヒトは私が見た『ジゼル』の中では、多分初めてでジゼルに対する愛情のまっすぐさを感じたのでした。そう、そして苦悩するイレールの表情ってのは『ル・パルク』でもお馴染みですが、やっぱり絶品〜。というわけでお美しかったです。
狂乱のシーンはこんなものかな、という感じでした。ギエムだからといって特別何か違っているというわけでもなかったです。
といったところで一幕の終わり。そして拍手とブラボーの嵐!
ではでは、ニ幕。『ジゼル』のニ幕は本当に何から何まで大好きな私。いろんな意味で期待がふくらむ。幕が上がると並木が遠近法で描かれていて、非常に奥行きを感じさせる舞台になっている。
これはバール版特有なのか、最初にジゼルのお墓付近で、サイコロ遊び(賭け?)をしている男達がいて、そこにヒラリオンがふらりとやってくるのですが、その場にウィリが突然出没してその男達をおどかしてヒラリオン共々散り散りにさせるというシーンがあるのです。しかしこれはあってもなくってもいいのになあとか思う。
ウィリは最初にザザっと並んで出てくるから、恐いと思うんだがどうでしょう?
さて、ミルタ登場。ムッサンはその少し冷たい美貌がミルタによく合っていていい感じである。
そして、ウィリになったジゼル登場〜。登場シーンの、舞台の真中でアラベスクでくるくる回るシーンが私はだーい好きなので、ギエムのそれはさぞかしスゴイかも、と期待して見る。しかしそれほど早くもなくて、映像にあるキーロフのメゼンツェワの方が早くて人間離れしてていいよな、とかちらりと思ったりする。どうやらこのあたりで私はギエムのジゼルに過剰な期待をしすぎているかも…と思い始める。でも、ギエムだったらしたくなるのが人情(?)ってもんでしょう。ギエム自身もジゼルは好きな演目らしいしなあ。うーむむ。そしてどうもギエムのロマンチックチュチュの背中の部分が間延びして見えて(もともとギエムってちょっと猫背ぎみの人だけれども)衣装のせいなのかなんなのか、私の好きなジゼルの背中のラインが見えてこなくてそれも寂しかったです。
アルブレヒト、百合の花をかかえて登場。無敵の黒マント姿である。オペラ座のエトワール男性陣はみんなそろいもそろってハンサムなんで、みなさんそれぞれにこのシーンはステキなんでしょうね〜。ミルタのソロ(ムッサンがなかなか素晴らしい)と群舞、私の大好きな列になってみんなでアラベスクになり、右と左が交代するところ(私はここでつい、拍手をしたくなるのですが、オペラ座のお客さんは誰も拍手しないのね)も終わりサクサクと進んでいく。
ヒラリオンがウィリに踊り殺され(ロモリ熱演)、次はアルブレヒトの番、というわけでジゼルとパ・ド・ドウ。ギエム、踊りは悪くないとは思うのだが、どうも背中のラインが気になっていま一つ乗り切れない私。イレールのソロはジャンプも素晴らしく会場をおおいにわかせる。しかし、リフトとかはあまりぴったり決まっていなくて、初日だしなかなか難しいかしらんと思ったりする。
アルブレヒトがウィリにガンガン踊らされるシーンはイレールもアントルッシャ・シスをやってました。ルグリもアントルッシャ・シス派なんですよね。ほかのエトワールのみなさんはどうなのかな?知りたいなあ。
そしてそして、踊らされた挙句にばったりと床に倒れるところ、イレールは本当にゴンっ! と大きな音を立てて倒れていました。脚とか腰とか腕とかどこか派手に打ってるんじゃないか、とこっちが心配になるぐらいでした。でもすぐ立って踊りだしてたから大丈夫だったんだよなあ。これも演技の内なのか、と感心する。
夜明けの鐘が鳴り、ジゼルとの最後のお別れシーン、何度見てもせつないですね。そして舞台中央で膝を折って罪を悔いるようにずーっと天を仰ぎ続けるアルブレヒト。それは更なる断罪を待つかのようで美しかったです。
そして幕。またしても、拍手とブラボーの嵐。これがちょっとやそっとじゃやみそうもなくスゴイ。アンコールにつぐアンコール。ギエムにはブラボーの文字通り嵐。それからちょっとびっくりするのがフラッシュもたかれ放題。日本は写真撮影にめちゃくちゃ厳しいのに、パリのこれは一体なんなのかしら? と思うほど。ギエムをはじめみなさん怒らないのかなあと思う。アンコールではまだしも、踊っている最中でも結構あったからなあ。これはしかし同じ舞台を鑑賞している身としては、やめてもらいたいです。
いつまでも続くカーテンコール、そのうち客電がついてみんなスタンディングになる。しかし明るくなってからはさすがに帰り始めるお客さんもいて、やっと終わりになる。みんな相当しつこいなあ。でも気持はわかる。次、いつギエムを見ることができるかわからないですもんね。
しかし、わたし的には、いま一つギエムのジゼルに乗り切れないものを感じたってのが正直なところです。観客の熱気もすごかったし、イレールのアルブレヒトもよかったけれども。
さて熱気あふれる舞台をあとにして、階段を降りていくとあすわさんが講義を受けている(大学で「バレエへの招待」という一般向けに開講されている講座)M先生がいらっしゃった。M先生はちょうど今パリに着かれたそうで、ガルニエにくれば誰かに会えるだろうと思っていらっしゃったそうです。ひとくさり今日の『ジゼル』について語ったあと、おなかがすいている私達は、先生と3人でご飯を食べに行くことにする。近くのビストロ(だったかな?)に入る。9時半頃だったが、まだ外は十分明るい。
そして今回初めて、お店で料理らしいものを食べる。といってもお肉のミックスグリルとジャンボサラダ(なんとスイカ6/1ぐらいつき)である。食べるのもしっかり食べたが、先生の講義の個性的な生徒さん達のお話を楽しく伺う。ほんとーにみなさん個性的。そしてバレエを愛する熱が半端じゃない。いいな、いいな、楽しそうでいいな〜と思う。名古屋でもぜひ、講義して欲しいなあと思うが、名古屋じゃ人が集まらないかしら、どうかしら。
さて、楽しいバレエ話はつきなかったけれども、11時半を回ったのでそろそろお開きにする。先生がタクシーに乗るのをお見送りして、私達もホテルに帰る。
お風呂に入って就寝。今日一日も無事に終わった〜。

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