0707 Fri. 曇一時雨 |
この日は歩いて行ける距離にあるギュスターヴ・モロー美術館に行くことにする。生前のアトリエ兼
アパートを改装した美術館なので、坂道を登った閑静な住宅街にひっそりとあって、なかなかいい感
じである。(入場料22フラン)完成品は有名な美術館にあるようで、ここには習作のものが多かっ
たけれど、あの幻想的な絵が壁一面に所狭しとかかっている様は圧巻である。
生前のままに残されているというお部屋も見学。ベッドが小さい感じ。背の低い人だったのかなあと 思う。(実際のモローのことは全然しらない私) |
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美術館のあとは、こちらも19世紀に作られたおしゃれなアーケード街(ギャルリーとかパッサージ
ュとかいいます)に行くことにする。美しい模様に石がはめ込まれた舗道といかにもな装飾をほどこ
した屋根。日本のいわゆるアーケード街とは随分と差がある。古本屋さんや有名な造花(というには
あまりにも美しいが)屋さんなどを見つつ歩いていると、いつの間にやら外はすごーい雨。傘を持た
ずに出てきた私達につらい仕打ち。なかなかやみそうにないので、とりあえずお昼ご飯を食べること
にする。
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パッサージュを歩いていれば雨には濡れずにすむ、というわけで点在するパッサージュを渡
り歩く私達。少し庶民的な感じのところ(ここはアーケードって感じ)をぐるぐる歩いていたら、偶
然カフェテリア方式のお店を発見。面白そう、というわけですかさず入る。あらかじめ皿にもられて
いるから分量もよくわかって嬉しい。サラダにおかずにご飯(パリに来て初めて)そしてデザートを
適当に取って、二人で食べる。一人あたりだいたい40フランぐらいだったと思うが、レシートをよ
く見るとVISITERSという料金を取られていて、どうもやはりここはどこかの社員食堂かなにかなのか
なと思う。ビジター料金がなければ本当にお安いんです。
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お腹がいっぱいになり、そろそろ雨もやんだかしら? と思って外を見るとしかしまだ無情にもザーザ
ー降りである。どうやら今日はすぐにはやみそうにない、とあきらめてそのままホテルに帰ることに
する。雨の中を15分ぐらい歩いて、濡れ鼠になりながらホテルに到着。
この日も結局結構な距離を歩いた私達。最後の観劇に向けて、恒例の一休みターイム。 | ||
今日でバレエを見るのも最後、ガルニエも最後なのね〜、と思いながら仕度をする。
雨はこの時間には無事にやんでいる。
名残惜しいガルニエ宮、最後にもう一度というわけで、階段や劇場内で写真をとりまくる。 開幕を告げるベルが鳴り、私達にとってのパリ・オペラ座最後の幕が上がる〜。 |
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『ジゼル』 アドルフ・アダン音楽 ジョン・コラーリ&ジュール・ペロー振付 パトリス・バール改訂版 衣装・装置アレクサンドル・ブノア パリ・オペラ座管弦楽団
配役 |
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カロル・アルボというバレリーナは92年のパリ・オペラ座日本公演で見ているのだが(トワイラ・
サープの『プッシュ・カムズ・トゥ・ショブ』の主役を踊っていた)、なにぶん昔のことなのであま
りよく覚えていないというのが正直なところ。その後は機会がなくて見ることができなくて、映像も
ピエトラガラとデュポンの『白鳥』のナポリの踊りがあるのみ。というわけで、私にとってほとんど
馴染みのないダンサーである。反対にルグリは86年の「デュポンと輝ける仲間たち」公演に始まっ
てバレエ・フェスで3回、パリ・オペラ座日本公演2回とこちらは、ほんとにお馴染みさんである。
(映像もいっぱいあるし)
ルグリの王子様役については、もう今更私なんぞが言わなくても、定評があるところだし、彼のバレ エを見るのはいつだってとても楽しみだ。 アルボについてはほとんど前知識なし、の状態だけれども『ジゼル』でエトワールに任命されたのだ からきっと得意なのに違いない、もしかしたら私好みなジゼルを踊ってくれるかも、と期待して見始 めた。 | ||
ヒラリオンのあと、アルブレヒトの登場〜。いやあ、ルグリったら本当に若々しい。ダンサーの皆さ
んは多分みんなそうなのだろうけれど、ルグリはまた格別そんな気がする。お付きの人に剣を渡すと
ころはイレールとは違って舞台の左側でやる。(普通はそうだよな)
さて、ジゼルの登場。おっ、ひっつめみつあみに清楚な花飾り、いいぞいいぞ〜、というわけでわた し的には、ここらあたりから俄然アルボに対する期待が高まっていく。 ジゼル、アルブレヒトの二人で踊るシーン、軽やかに弾むステップは本当に見ていて気持がいい。 そして、アルボとルグリがなかなかお似合いなのだ。これはちょっとアルボには悪いのだが、ルグリ のベスト・パートナー、ルディエールの風貌にアルボが似ているせいもあるのかもしれない。 | ||
アルボはジゼルの無邪気さと恥じらいと、そして一幕の最後には恋する一途さを過不足なく表現して
いて、もう、なんの文句もない感じ。ちょっと残念だったのは、せっかくのひっつめみつあみがゆる
かったのか踊っている途中で、髪の毛が一筋たらんと垂れてしまったことかな。しかし、これは後で
聞いたところによると、前日かその前かの時に狂乱のシーンでうまく髪の毛がばらけなかったせいな
のかも、ということでした。今日はちゃんとばらそうと思って、ひっつめがゆるめだったのかもしれ
ません。しかし、踊りだけじゃなく、こういう演出も細かく計算してチェックしていかなければなら
ないのだから、プリマバレリーナは大変なんだなあと思う。特にジゼルのような役はそういうことが
重要だし、おろそかにできないですもんね。
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もちろん、ルグリのアルブレヒトにはもう何もいうことはないって感じ。ほとんど足音のしない、美
しいステップも今だ健在だし、甘さの中に少しの傲慢さを秘めたアルブレヒトの役は本当にお似合い
だ。(とこれを書いていて、ルグリの『白鳥』の王子様が見てみたい〜、といきなり思った私。この
シーズンの幕開けにヌレエフ版でやってたっけ…見てる人がうらやましい……)
ペザント・パ・ド・ドウも群舞も相変わらず上手。そして狂乱の場、アルボの髪の毛は見事にばらけ てました。 ジゼルの死、愕然として走り去るアルブレヒト。そして幕。うーん、正統派『ジゼル』を堪能した〜、 って感じ。ニ幕への期待もいやがうえにも高まるってものです。 | ||
さて、ニ幕の始まり。ニ幕に関しては今回の舞台を見ることで、自分の好みがいかにはっきりしてい
るかということをあらためて知ったわけですが、結論から言ってしまえば、アルボのジゼルはほとん
ど私の思い描く理想のジゼルでした。手を前で組んだままでするジゼル特有のアラベスク(考えてみ
れば手を伸ばしてバランスが取れない分、このアラベスクって難しそうだ)は、上体はほとんど起き
ていて背中から脚がクッと伸びていて美しい。それから全身を伸ばしたままで、上げられるリフトも
2回とも完璧に決まっていて、体重を感じさせないほど。(これは多分、ルグリとのタイミングがぴ
ったりと合っているからでしょう)特によかったのは、片膝をついてうなだれるアルブレヒト(この
ルグリのポーズがまた決まってて、美しいんだな〜)の周りをほとんどトウシューズの音をさせずに
すーっと回っていったところです。うなだれているアルブレヒトは自分の側にいるジゼルに気がつか
ないってシーンだと思うのですが、アルボのこれなら本当に気がつかないかも、と思わせるほどで、
ぞくぞくものでした。
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ウィリになったジゼルとアルブレヒトのパ・ド・ドウは、決してお互いの視線が絡みあうことのない
パ・ド・ドウでそのせつなさをこの二人の舞台で初めて痛感しました。アルブレヒトにとってウィリ
になったジゼルは実体のない精霊だし、ジゼルにとってのアルブレヒトは決して触れることのできな
い生身の人間なんだな〜、と頭ではとりあえずわかっていたことをあらためてつきつけられた感じ。
それほど、この二人の『ジゼル』は真に迫っていて素晴らしかったです。
ちょっと残念だったのは、ミルタのナタリー・オーバンですね。アルボのジゼルが最小限の足音しか しないのに比べて、オーバンはどうも、グラン・ジュテから降りた時の足音がやけに大きくって気に なりました。それから全体的にもうちょっと繊細さが欲しいし。 | ||
アルブレヒトの踊らされるシーン、ルグリもアントルッシャ・シスなわけですが、これがまた、息を
飲むほど素晴らしいです。どうしたらあんなにキレイにしかも早く脚が交差するの? って感じ。バラ
ンスも完璧だし、足音だってほとんどしないし。本当にすごい。
そしてラスト・シーン。去って行くジゼルの、ここがまた素晴らしかった。ポアントでずーっと後ろ 向きに下がっていくわけですが、上体が目に見えない力で後ろからひっぱられてそったかと思うと、 それに抗うようにアルブレヒトの方にとせつなげに前に揺れる、そしてまたひっぱられる、揺れる、 とああ、本当にウィリだよ〜〜と感動しました。なんか今でも目に焼きついています。 お墓に入ってしまうジゼル。悔恨のアルブレヒト。ルグリの舞台中央に進みながら、片膝をついて両 腕を横に広げた美しいポーズで幕が降りる……。 わーん! 感動〜〜!私が今まで見た『ジゼル』の中でこの『ジゼル』が一番いいよ〜。アルボすごー い、いいダンサーだ。うー、よかった〜。というわけで拍手拍手!(しかしこの日もフラッシュがす ごかったです) | ||
会場をあとにする時、4日間見た中で、今日の『ジゼル』が一番よかったよ〜、とあすわさんに報告
する私。会場を出たところで、今日の舞台を見ていらしたM先生とやはり日本からのバレエ・ファン
(確かドイツからパリ入りされた)Sさんとお会いする。とりあえず、ご飯を食べに参りましょう、というわけで、この日入ったのはル・グラン・カフェ・カプシーヌ(だったよな、確か)。
私はお酒はほとんど飲めないのだが、この日はせっかくなので少しワインをいただく。ステキな舞台 に乾杯〜。 おいしいご飯(今日はサーモンのグリル)と楽しいお話(でもってパリ最後の夜は更けていったのでした。 |
0708 Sta. 晴れ時々曇 |
この日は21時55分発の飛行機に乗って、帰るだけ。一度ぐらいはちゃんとしたお店でちゃんとし
たフランス料理を食べようというあすわさんの提案で、ランチを食べることにする。
荷物をまとめ、5日間お世話になったホテルを後にする。うーん、名残惜しい……。 いざレストランへ。地下鉄でポン・ヌフまで行き、ポン・ヌフ橋を渡ってシテ島へ。ポン・ヌフ橋を通る時、おおっ、これがレオス・カラックスが映画を撮ろうと して、許可が下りなくてセットを作ったポン・ヌフなのね〜、と思う。お店は島に渡ってすぐのとこ ろにあり、こじんまりとして可愛らしいつくり。私は、お豆のサラダ、仔牛のグリル、クリームブリ ュレを頼んで堪能する。 食事のあとは、近くのサンジェルマン・デ・プレ教会を見学。それからバレエ、ダンス関係の古本屋さんにも行く。あすわさんはここで、オペラ座の古いパンフレッ トをゲットすることに成功。私は『白鳥の湖』の歴史が書かれているだろうと思われる(うう、フラ ンス語が…)きれいなモノクロ写真がいっぱいのっている本を購入。 そして、再び地下鉄に乗り、オペラ駅で下り、ホテルに預けておいた荷物をとって、空港へと向かうことにする。 | |
空港にはオペラ座の裏からロワシーバスという直行バスが出ていて、これに乗りに行ったのだが、そ
の停留所になんとオレリー・デュポンがいるじゃありませんか! あすわさんにもBBSで書いていた
だいた通り、ほとんどすっぴんのお顔はきりっとしててほんと美女というよりは美少年といった感じ
でした。髪の毛も短かったし。で、びったりとしたパンツをはいていたのですが、その脚の細いこと
まっすぐなこと長いことといったら…! 近くで見るバレリーナってほんっとすごいです。バスの中で
もずっと携帯電話をかけたりしていて、その辺はいかにも今時の女の子って感じでした。(ずっと見
てたのかって? 席が通路をはさんで隣りだったのだよ〜)
私達はシャルル・ド・ゴール空港第2ターミナルでおりる。オレリーちゃんはどうやら第1ターミナ ルのようでした。 | ||
時間に相当余裕があったのでお茶(パリ最後のエスプレッソ)などをしてから、チェック・インする。
無事出国してから全然買ってないお土産を買わなきゃ、というわけで免税店を見て回るが、これがし かし小さいのだ〜。第1ターミナルはすごく立派だそうだからそこがちょっと寂しかったです。 定刻を少し遅れて私達を乗せた飛行機はパリをあとに飛び立ったのでした。 | ||
大韓航空機ではまたしても、ピビンバを味わう。具が行きと微妙に違っているようだ。
そしてソウルでトランジット後成田へ。 | ||
成田へは定刻通りに着き(しかしここで入国カウンターの人の多さにまた驚く)、21時50分発の
東京駅行きリムジンバスになんとか間に合う。これなら多分名古屋行きのドリーム号(夜行高速バス)
の最終に間に合うな、と思ってホッとするも、途中少し渋滞していて東京駅に着いたのが23時15
分。あせってバス乗り場に走って行き23時40分発のドリーム号のチケットを無事ゲット。これで
明日の朝には名古屋に着けるな、というわけでお茶を買ってバスに乗り込む。まもなくして消灯。
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朝〜、6時頃無事に名古屋駅着。ああ〜、暑い名古屋に帰ってきちゃったよ〜。
というわけで、5泊7日(正確には8日ぐらい?笑)のパリ・オペラ座観劇の旅の終わり。 現実の日々が始まるのね〜。 おしまい |
この長々しい日記を最後まで読んでいただいた皆様、本当に本当にありがとうございました。m(__)m 今思い返しても本当に楽しい、あっという間の日々でした。バレエがますます好きになった日々でも あります。 この次はぜひ、サンクトペテルブルグ・マリインスキー劇場に行きたいものです。いや、 オランダでもいいなあ、オランダ国立バレエとネザーランド・ダンス・シアターってのもなかなかい い組み合せかも、いや、サンフランシスコ・バレエもいいかも……と夢はふくらむのでありました。 |