問題の提起:プラトンボの高性能化

昔ポピュラーだった竹とんぼは、今では材料の入手や工作時間がかかるなどの理由で、子どもたちの工作教室の定番とは言いがたい。工作教室では竹の代わりに工作用紙やプラスチック板を使った紙トンボやプラトンボがポピュラーになっているようだ。
稲毛子ども航空科学クラブでは、飛ぶものを主体とした工作と実験を行なっているため竹とんぼも製作物の一つとしている。昨年までは竹を軸として羽を紙で作る紙トンボを作ってきたが、今年はプラスチック板で作るプラとんぼに挑戦した。
出来上がったトンボは飛ばしてみればその性能は比較的容易に比較できる。滞空時間の測定には2人必要だが、水平距離だったらひとりで測ることができる。測定値を使って定量的な比較も可能である。高度を正確に測定することはこれらとくらべて難しいが、高度測定自体も研究の対象として適している。
紙トンボとプラトンボ
プラトンボはプラスチックの板をはさみで切り出し、アイロンであたためてひねりをつける。羽の大きさや形は自由に変えることができ、少し工作に慣れればひねりもある程度変えることができる。
自分でいろいろ工夫し、その結果を評価してさらに高性能に挑戦することで工夫を楽しんで欲しい。工夫をするために必要なごく基礎的なポイントを竹とんぼの科学としてまとめておく。以下の説明では紙トンボやプラトンボではなく一般語として「竹とんぼ」を使う。

関連資料

参考とした情報

  • 秋岡芳夫:「竹とんぼからの発想、手が考えて作る」、1976年1月、講談社発行(ブルーバックス)大変参考になる本ですが今は絶版のようです。
  • アッシャー・H・シャピロ著 今井 功訳:「流れの科学 ・流体力学の基礎」、1974年6月再版発行、河出書房新社 流体力学に関する実験を写真を多用して解説しています。
  • 国際竹とんぼ協会のホームページ竹とんぼの競技会記録が載っています。
  • 竹とんぼ専門「bambiiな部屋」:うすい竹をひねって作る竹とんぼの作り方が載っています。

サイト内関連リンク

サイト内関連書類リンク

竹とんぼが飛ぶための条件

回転しない竹とんぼは飛ばない

竹とんぼは羽を回転させて飛び上がる。回転が弱いと上昇しなくなる。竹とんぼの羽はひねってあり、ひねりの向きは右利き用と左利き用とで反対向きになっている(図2)。左利き用にひねってある竹とんぼを右利きの人が飛ばすと、竹とんぼは上がらないで下の方向に飛んで運が悪いと手にあたり痛い思いをする。
竹とんぼは羽を回転させて浮く力(揚力)を発生させている。飛行機が静止している空気中を動くことにより揚力を発生すると同じように羽が空気のなかを動くことにより揚力が発生している。
竹とんぼの揚力について考える前に、飛行機の翼の揚力についてまとめておく。紙飛行機の基礎で引用したJohn S. Denkerのサイトから図を借りて翼の傾きと揚力の関係を整理しておく。


右利き用と左利き用のプラトンボ

飛行機の翼の揚力の発生−迎角と揚力の関係

 
翼に風が当たると風に直角の方向に揚力が、風の流れている方向に抗力が発生する。右図は、揚力と抗力が迎角によりどのように変化するかを示した図である。迎角(むかえかく、あるいはげいかくと読む)は、翼に当たる風と翼の角度を示しており、迎角を大きくすると揚力はほぼ迎角に比例して増加する。
迎角が15度を超えると迎角を増やしても揚力は増えずむしろ減少する。このグラフでは15度を超えた領域での抗力が示されていないが、迎角を増加させても揚力が増えない領域は翼が失速を起こしていて抗力が急激に増加することが知られている。
迎角を変えたとき揚力と抗力の変化は以下のように要約できる。
  1. 迎角を増やすと揚力が増加する
  2. 迎角が小さい間は迎角の増加による抗力の増加は少ないが迎角が大きくなると揚力の増加率より抗力の増加率が大きくなる。
  3. 揚力が大きい領域では抗力(係数)は揚力(係数)の1/10以下。
  4. 迎角が負になると揚力も負になるが抗力はY軸に対象な形で変化する(迎角が負に大きくなると抗力も大きくなる)。
迎角による揚力と抗力の変化

回転している竹とんぼの羽に当たる風

         
竹とんぼを考える前に飛行機を考えてみよう。
ふくちゃんがグライダーに乗って飛んでいるのを眺める。ふくちゃんがグライダーと一緒に動いているのが見える。
飛んでいるふくちゃんを眺める
ふくちゃんと一緒に飛んでいたらどうだろうか?そうすると自分は動かないで風が前から吹いているだろう。
ふくちゃんと一緒に飛ぶ
ふくちゃんに当たる風の方向と大きさはグライダーが動く早さと同じで方向が逆になる。
飛行機の動く向きとふくちゃんに当たる風の向き
竹とんぼは回転しながら上昇したり下降したりする。回転によるはねの移動速度は回転軸の中心では0で中心から周辺に向かうにつれて大きくなる。
竹とんぼのはねの回転速度分布
竹とんぼが上昇しているときは羽に当たる風の向きと大きさは羽の回転による移動速度と上昇による移動速度を合成した速度になる。
図の場合、風は周辺のCでははねに揚力が働く正の迎角で当たっているが、Bでは揚力が発生しない迎角0、Aでは負の迎角になっていて下向きの揚力が発生することになる。
上昇している竹とんぼでは回転の中心部近傍ではマイナスの揚力が発生している。飛ぶためには、竹とんぼのはねの中心部はない方がいいことになる。
竹とんぼのはねの風速分布

羽の形とひねり

 
羽の中心部は竹とんぼの「飛ぶ」能力に関しては不要な部分である。したがって、羽の形を設計するときは回転中心部分はできるだけ小さくしたい。しかし、竹とんぼを飛ばすときは羽全体を回転させるため中心部でもっとも大きな回転モーメントを発生する。したがって空力的な要請だけからむやみに細くするわけには行かない。はねの強度と飛ぶ能力とのバランスを考えた大きさにする必要がある。
羽のひねりを増やすと迎角が増え、揚力が増える。しかし、同時に抗力も増えるため回転は長続きしない。長く飛ばすためには適当なひねり(=迎角)があることは容易に理解できるが、高く上げるためにも最適なひねり角度が存在する。ひねり角を大きくしすぎると揚力の増加分に対して抗力の増加分が増え、飛行時間が短くなって高度を稼げなくなる。
竹とんぼのはねの形

長く回転させるためには−慣性モーメント

 
重いこまは回転が長続きする。竹とんぼの羽も重くすれば回転は長く続く。しかし、ひねりが同じであれば揚力は変わらず、重くなった分だけ上昇力は低下し、長時間回転しても獲得高度が必ずしも高くなるわけではない。必要な揚力は竹とんぼの重さに依存し、竹とんぼが重くなると揚力を増やさなくてはならない。ひねりを大きくして、揚力を増加させると抗力が増加し飛行時間が短くなる。
同じだけ重さを増加させて、回転力だけ増やすためにはどうしたらいいだろうか?。
鉄輪こまを思い出して欲しい。鉄輪こまは木製のこまに鉄の輪をかぶせたもので、回転中心からいちばん遠い位置に重い鉄輪をつけることによりこまの慣性モーメントを大きくし、長く回転できるようにしたものである。はねの周辺部に銀粉をを貼り付けた「象嵌(ぞうがん)」型の竹とんぼが作られている。
長く回転させるための工夫は、少ない重量増加で慣性モーメントを高くするよう、できるだけはねの外側におもりをつけることになる。
木製こまと鉄輪こま

長く回転させるためには−流体力学的な工夫

 
右図はいろいろな物体の抗力の測定値を比較している。飛行機の翼の形を模した流線型の断面を持つ2次元の物体(柱のようなもの)を、丸いほうを風上に、とがったほうを風下に置いたときの抗力を1としたとき、翼の向きを反対に向けただけで抗力は2.6倍になった。また、この翼の最大厚と同じ直径を持つ円柱では抗力は9.3倍であり、厚みが翼より薄い長方形断面の物体の抗力は4.0倍であった。
風下側がシャープにとがっている物体の抗力がいちばん小さい。風上側は丸みがついていて、風下側がシャープにとがっている羽が空気の抗力が小さく回転が長続きする。
流線型や、円柱の抗力
いろいろな形をした物体(2次元形)の
抗力(測定値)比較
アッシャー・H・シャピロの本から引用

プラトンボの自由研究のヒント

まずはいろいろな形を試してみよう

まずははねの形を試してみよう。いろいろなはねの形を書いた(型紙を参考にして):
  • はねの長さ
  • はねの巾
  • はねの形
  • ピッチ角
を変えてみよう。はねの形を考えるときには、中心部の巾を小さくするよう工夫してみよう。
ピッチ角が大きいと上昇力が大きくなりピッチ角が小さいと長く回転し距離を延ばすことができる。同じピッチ角でもプラトンボの重さが重くなると上昇力が減り、はねの長さが長くなると上昇力が増す。
はねの形を同じにして長さや巾を系統的に変えて飛行距離や飛行時間を比較することにより自由研究にまとめることができる。自分の予想や結果についてどう考えたかを整理できればさらに良い。
ぷらとんぼ
プラトンボのピッチ角

さらに高性能化を目指して

慣性モーメントを増やす工夫をしてみよう。国際竹とんぼ協会の競技会の記録からも象嵌タイプは竹だけで作ったもの(純竹)より性能がいいようです。
プラスチックの板を切ったままでなく切り口を成型してみよう。前側(風が当たる側)を丸くし、後をシャープに加工する。エポキシパテを使って飛行機の翼のようにふくらみをつけるなどの工夫も試してみたい。エポキシパテに銀粉を混ぜれば慣性モーメントの増加も計れる。
初版:2008.7.31