魚菜王国いわて

SNITCH CULTURE

邦題「監視と密告のアメリカ」という本は、田中宇さんが監訳したものです。
著者はジム・レッデンさん。
原題は「SNITCH CULTURE」。
これを読むと、アメリカ社会って、恐ろしい、と思わずにいられません。

「snitch」とは、goo辞書で調べると、名詞なら「密告する者」とあります。
すなわち、「snitch culture」は、密告文化、とでも訳すんでしょうか。
まあ、そんな感じなのでしょう。
アメリカのそのcultureなるものを、この本では紹介しています。

密告文化
監視の機械的システムの代表的なものがエシュロンですが、その人為的システムが密告。
アメリカ合衆国自体が密告奨励政策を行っており、虚偽の密告で一般市民が犠牲になっています。
エシュロンについては、映画「エネミー・オブ・アメリカ」を観れば、大枠の理解を得られると思います(映画ですから、かなりの誇張もありますが)。
それでは、一般市民が、虚偽の密告によって、犠牲になった例を引用します。

1992年のうだるような夏の夜、サンディエゴの自宅にいたドン・カールソンは、誰かが玄関のドアを叩き破ろうとしている音を耳にした。玄関をすぐ入った部屋には物がほとんど置かれていなかったため、その音は部屋中に響き渡った。離婚したばかりの妻に家具をすべて持っていかれたせいでむき出しになった壁と床に、バンバンという音が反響している。
身の危険を感じたカールソンは、拳銃を手にするとドアに向けて二度、引き金を引いた。だが、銃弾はドアを貫通せず、ドアを破ろうとする音は一層激しくなった。すでに蝶番が壊れはじめている。カールソンは恐怖にとらわれ、きびすを返して部屋から飛び出した。だが、廊下のなかほどで銃弾が腿に突き刺さった。転倒したカールソンはなんとか立ち上がり、よろよろと寝室に入り込むと携帯電話を引っつかみ、倒れ込みながら「911」と通報した。背中にさらに二発の銃弾が撃ち込まれ、そのうち一発が肺を食い破った。
「動くな!もう一発食らいたいか!」という荒々しい声が聞こえてきたが、カールソンにはすでにわかっていた。彼らはおそらく自分を生かしておくつもりはないだろう。
連邦麻薬捜査官だと名乗ったその男は、連れの数名とともにカールソンに手錠をかけ、出血の手当てもしないまま床に放置して家の中を片っぱしから捜索しはじめた。「なんで私がこんな目に・・・・」カールソンは瀕死の息でつぶやいた。自分は一市民としてまっとうに生きてきた。コンピュータ会社の役員を務め、法を破ったことなど一度もない。
しかし、彼の家に踏み込んで銃弾を浴びせた十数名の麻薬取締り局(DEA)の捜査官と関税局員、サンディエゴ警察の警官たちは、そんなことなど眼中にないようだった。彼らはカールソンが自宅に2,500ポンド(約235キロ)のコカインを隠し持っているという情報に基づいて行動していたのである。
この情報をもたらしたのは元麻薬の売人のロニー・エドモンドというタレ込み屋で、現在は連邦政府から2,000ドルの報酬を受けて麻薬取引に関する情報提供を行っていた。だが、カールソンの件に関するエドモンドの情報は“ガセ”だった。エドモンドはカールソンの家に麻薬がないことを承知の上で、コカインが見つからなくてもまた別の言い逃れをするつもりだったのだ。
(「監視と密告のアメリカ」p18)

見に覚えのない罪を押し付けられるとは!
アメリカは冤罪だらけのようですね。
しかも、密告が偽証だとわかっても、それが罰せられることは少ない、ということが、次の文章からわかります。

被告弁護人が検察側の偽証やその他の深刻な不法行為を暴くということも常態化している。
司法省の弁護士による「法の基準、適用されるべき職務規定、省の政策に関するあらゆる違反」に対する不服を調査する目的で1975年に設立された「職務責任局(Office of Professional Responsibilities)」には、これらの被告弁護人から送られてくる書類が後を絶たない。しかし、記事によると同局はまったく機能していないという。「職業責任局に不服を申し立てた被告弁護人200名近くに取材したが、大半が、不服申し立てには根拠が認められないという回答の書簡を受け取っただけであった。しかるべき対応がどのようなものかが明らかになった例はない」
このため、検察は立証のためにいくらでも虚偽の密告を利用することができる。たとえ発覚しても咎められる心配はない。「偽証の利用で連邦法執行官が得られる利益は大きく、違反で失うものはほとんどない。そのために、連邦法廷で偽証がはびこる深刻な事態になっている。偽証した者が処罰される例は稀で、見てみぬふりをしたり、偽証だと知りつつ利用した法執行官もまず罰せられることはない」
(前掲書p45)

政府が報酬を与えた密告文化の最も古いものは、古代ローマのドラントール(delantor)と言われ、最も有名な密告者は、聖書に登場するユダ・イスカリオテ。
イエスの弟子でありながら、銀貨30枚と引き換えに、ローマ人に密告しました。

今や、アメリカの密告は、虚偽のものも含めてデータベース化されおり、一度登録されると消すのが大変らしいのです。
それがたとえ匿名の電話であっても、です。

学校でも密告文化を育てている
極めつけは、このsnitch cultureが、学校社会にまで、根を下ろしていることです。
子供にも密告を奨励しており、これじゃ、友達にも、うかうかなれませんよね。
それも報酬付きって言いますから、あきれてしまいます。
そんなものなのかなあ?
その文章を2点引用します。

犯罪防止インターナショナル(CSI)は全国のハイスクールに「学校犯罪防止の会」という支部も設け、他の生徒の密告を行った生徒に報酬を与えている。特に高額の報酬が支払われるのは校内・郊外で実際に犯罪をおかした生徒の関する情報に対してで、そのほかに校則を破った生徒の密告にも報酬が支払われる。オレゴン州セーラムのマッケイ・ハイスクールのレイ・メイヨラル校長は、1995年から1999年にかけて3000ドル程度を支払ったはずだと述べている。「子供や親のなかには、学校が刑務所のようになっていると批判する声もありますが、ほとんどの子供たちは、これで安全が確保されているのだと理解しています」
(前掲書p103)
密告文化の未来を知りたければ、アメリカの公立学校に行けばその一端を垣間見ることができる。近年は、公立校における密告はほとんど“義務化”されている。生徒同士の監視が奨励され、問題を起こしそうな生徒に関する密告に賞金を支払っている学校も多い。制服の警官が廊下を巡回しながら生徒の密告を待ち受け、壁や天井には高性能監視カメラが据え付けられている。少しでも不審な点のある生徒を匿名で密告するための専用電話が設けられ、学校側は、生徒が個人で開設しているホームページまでチェックしている。
(前掲書p185)

子供の教育を間違えば恐ろしく、映画「キリングフィールド」を観れば、そのことがわかります。
クメール・ルージュの子供軍団は最も信用できない、と確か表現されていたと思います。
子供の時点から変な教育を受けていて、その子供が銃を持ち権力を持つ、となると、そりゃ、どうにもなりません。
なんとなくですが、「キリングフィールド」とアメリカの密告文化がリンクして見えるのは、私だけかなあ?

反グローバル=テロリスト
もしここがアメリカならば、私のこのサイトも監視対象でしょう。
反グローバルを掲げるものはすべて、テロリスト扱いになるそうです。
引用します。

それどころか政府は“新たなテロリスト”の脅威をターゲットにしていた。その脅威とは、1999年後半にシアトルでWTO(世界貿易機関)の会議が開催された際に見られたような、反企業グローバル化運動である。
それから数ヵ月と経たないうちに、新愛国主義者たちを監視していた組織やプログラムが、今度は労働・環境・人権活動家が結束して生まれた新たな脅威を監視対象にし始めた。
(前掲書p128)
「反グローバル化団体に対する諜報活動を法的に正当化するため、当局は彼らをテロリストの範疇に含めることにした。現在そのようなレッテルを張られている団体としては、地球の正義、地球第一主義、グリーンピース、アメリカインディアン運動、ザパティスタ、国民解放戦線、アクトアップなどがある」
(前掲書p267)

私はテロリスト?
電話は盗聴されっぱなし?メールも?そして、インターネットのアクセス先も監視対象?
ってなわけはないですよね。
それほど危険なサイトじゃないですから。
それにここは日本ですし。

甘い?

アメリカ政府側は、インターネットをポルノや陰謀、そして爆弾製造法などを広めるだけの存在だ、というイメージを一般人に植え付け、インターネットの監視の口実を作ろうとしています。
このイメージ戦略が成功して監視が合法化すれば、すべての通信を堂々とモニターできるようになります。
日本でも何となくですが、インターネットが関係する事件となると、誇大に報道されているような気がします。
まるでインターネットは悪の巣窟のような感じ。
「またインターネットか!」とか言っているおじさんが、皆さんの周りにもいると思うんですが。

日本がアメリカみたいな密告社会にならないように、みんなで政府を「監視」していきましょう!

ちなみに密告と内部告発は違います。

「密告者は一般市民の情報を密かに権力者に伝えるが、内部告発者は権力者の情報を公に一般市民に伝える」
(前掲書p241)

勇気ある内部告発(「頑張れ!西宮冷蔵」)を私は取り上げていますが、混同しないでください。
巻末にある田中宇さんの解説を読むと、密告文化を育て、利用しようとしているアメリ合衆国自体の企みが、ますます鮮明になってきます。
ブッシュ以前からだったのです。
そして、今度の大統領選挙で、誰が大統領になろうとも、この傾向は変わらないのでしょう。
(2004年8月15日)

加筆
「SNITCH CULTURE」は言論の自由の敵です。
誰も何も言えなくなり、権力の不正など指摘できなくなります。
上記のように、誰かの発言が拡大解釈され、誤認逮捕が乱発し、命まで奪われてしまうからです。
アメリカ社会は急速に変容しつつあり、とても自由の国とは言えるものではありません。
次の記事が、まさにそれを示すものです。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041210-00000235-kyodo-int

情報提供者を保護することは、告発報道の命とでも言うものでしょう。
そうじゃないと、権力から狙われる恐怖感から、情報提供など誰もしなくなります。
よって、ますます権力側の不正が横行することになります。

アメリカは、「アンチ自由の国」です。



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