「ヨハネ・パウロⅡ世教皇書簡」の抜粋

聖ベネディクト生誕1500年に際して発布された使徒的手紙(2019年6月号の続き)

 

 ヌルシーのこの聖者は、東方と西方教会の伝統の中にある宝を完成に導くことによって、人間をその全体的観点から考察する術を修め、人間は他の人にとって代わることの出来ないユニークな人格を持っていることを力説しました。

 

 彼が世を去った547年には、隠世修道的規則の基礎はすでにしっかり堅固なものになっており、そしてこの規律がカロリング朝時代の諸公会議開催後は特に、西方修道院生活となりました。
この隠世修道生活が、各地に広がった修道院やベネディクト会の家によって組織立てられ、新しいヨーロッパの起源となり、その萌芽となったのであります。
《地中海からスカンジナビアへ、またアイルランド平野に広がる地域で、聖ベネディクトの弟子たちが十字架と聖書と鋤を持ってキリスト教文明をそこにもたらした》(パウロ6世回勅「平和の使者」)新しいヨーロッパであります。

 

Ⅱ隠世修道生活の基本的要素

 

 私は今日、ベネディクト会の生活の三つの基礎的要素について、あなたがたの注意を喚起したいと思います。
すなわち祈り、労働、権威の父性的行使です。
これら三つの事柄を神学的、人間的にもっと幅広く考察するならば、すなわち聖ベネディクトの教えと生涯、特にその戒律を背景にしてこの三つの事柄を考察するならば、いわば上から眺めるかのように、それらが持つ本来の意味をもっとよく理解するようになるでありましょう。

 

 戒     律
 天の住人である聖人のことばを信じるとすれば、この生活は確かに《初心者のための戒律》(戒律・序2)であります。
しかし、この戒律は豊かで統一のとれた福音の要約であって、すべての人々が営む通常の生活とは違った生活環境の中で実践されるものです。
事実、ベネディクトはキリストの贖いに結ばれた人間と、その状態を脳裡に置きながら、いくつかの大切な教え、特に人間の生き方を示しています。

 

 この生活の規範(戒律)は隠世修道士のため、特に6世紀の隠世修道士のために書かれたものであるとはいえ、私たちの時代にさえも有効な掟を含んでおり、洗礼によって新たに生まれ、信仰において大人になったすべての人、すなわち《不従順の怠惰によって神から遠く離れてしまい、今、信仰の従順によって神のもとに立ち帰ろう》(戒律・序2)と努力しているすべての人にとって有益であります。


(次号につづく)