収録曲目について        安田和信

 このディスクは、いずれも「シャコンヌ」に関連した、17世紀後半から18世紀前半にかけてのヴァイオリン音楽を収めている。

 シャコンヌchaconne[仏、英]Chaconne[独](イタリア語でチャッコーナCiaccona、スペイン語でチャコーナchacona[西])とは、元来、ラテン・アメリカ大陸に起源をもつ舞曲である。17世紀初頭よりスペインで流行した当初は、ギターやカスタネットなどを伴奏に、時として滑稽な内容の歌詞を付けられた陽気な性格の3拍子の舞曲であった。また、このスペインにおけるチャコーナは、ある特徴的な反復フレーズを持っていた。その反復フレーズは、和声およびバス旋律の定型によって生まれるものであった。

 シャコンヌは、この定型を通奏低音が繰り返すことで成り立つ変奏曲の一形式である。17世紀から18世紀にかけて、この形式は、定型の様々なヴァリアントを派生させながら、声楽曲あるいは器楽曲の中で使用された。定型を繰り返しながら変奏を連ねてゆく形式は、シャコンヌのほかにも、パッサカーリア、ルッジェーロ、モニカ、ロマネスカなど、ルネサンス時代の舞曲に起源をもつとされるものがあり、それぞれの形式には特定のバス旋律や和音連結、あるいは特徴的なリズム型があった。17世紀は、器楽のために書かれた音楽が飛躍的に増加した時代とみることもできるが、それは、声楽曲作曲の発想によらずに、楽器固有の演奏技術を披瀝するために、様々な種類の変奏曲形式が生まれたことにも通じるであろう。そうした中で、シャコンヌは、パッサカーリアとともに、18世紀に至っても楽曲や楽章のタイトルに見られるほどの人気を保った形式である。だが、時代が下り、イタリア、フランス、イギリス、ドイツなどの国々に普及していくにつれ、この二つの形式の区別は曖昧になる傾向が強まった。特に18世紀前半のドイツ語圏の理論家たち(ヨハ・u毆)ン・マッテゾン、ヨハン・ヨアヒム・クヴァンツ、ヨハン・ゴットフリート・ヴァルターなど)は、シャコンヌとパッサカーリアの区別を試みているが、いずれも明確な回答を出せずにいる。実際のところ、「シャコンヌ」と呼ばれる作品や楽章だけをみても、一つの原則に集約されない多様性があると言えるだろう。その多様、多彩な世界が、本ディスクに収録された作品からも垣間見られるのである。

Notes  Kazunobu Yasuda
●T.A.ヴィターリ:シャコンヌ ト短調

●J.J.ヴァルター:カプリッチョ ハ長調

●J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番ニ短調 BWV1004

●J.H.シュメルツァー:ソナタ第4番ニ長調

●attr. Tommaso Antonio Vitali:
Chaconne in g

●Johann Jacob Walther:
Capricci (HORTULUS CHELICUS)

●Johann Sebastian Bach:
Partita fuer Violine d-moll BWV1004

●Johann Heinrich Schmelzer:
Sonata quarta in D

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