研修医宿題
発熱性好中球減少症
亀井武史
■発熱性好中球減少症 ( febrile neutropenia ; FN )
【定義】
@好中球数 が500/μL未満,もしくは1,000/μL未満で48時間以内に500/μL未満に減少すると予測される状態で,かつA腋窩37.5℃以上(口腔内温38℃以上)の発熱を生じた場合にを、熱性好中球減少症(febrile neutropenia;FN)と定義する。
【重症化リスク】
MASCCスコアにより分類する。
項目 |
スコア |
臨床症状(下記のうち1つを選択)
・無症状
・軽度の症状
・中等度の症状 |
5
5
3
|
血圧低下なし |
5 |
COPDなし |
4 |
固形癌であるorあるいは造血器腫瘍で真菌感染症の既往がない |
4 |
脱水症状なし |
3 |
外来管理中に発熱した患者 |
3 |
60歳未満(16歳未満には適用しない) |
2 |
スコアの合計は最大26点
21点以上を低リスク症例、20点以下を高リスク症例とする
【初期検査】
・白血球分画および血小板数を含むCBC測定
・腎機能(BUN, CRE)、電解質、肝機能(AST, T-Bil, ALP)を含む血液生化学検査
・抗菌薬開始前に2セット以上の静脈血液培養
・胸部X線
・その他感染が疑われる部位での培養検査
【FNを引き起こす頻度の高い原因微生物】
・以前は緑膿菌、大腸菌などのグラム陰性菌が優位であったが、近年はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、レンサ球菌などのグラム陽性菌の頻度が高い。
・好中球減少持続期間が長期にわたる患者ではカンジタ属、アスペルギルス属など真菌感染症も考慮する。
【治療】
・グラム陰性桿菌をスペクトラムに含むβ-ラクタム薬を単剤で経静脈的に投与する。
・アミノグリコシド併用の治療効果はβ-ラクタム単剤と同様で腎毒性は併用療法のほうに多く見られるため単剤が推奨される。ただし、緑膿菌菌血症や肺血症ショックでは併用が推奨される。
・エンピリック治療としての抗MRSA薬併用は根拠に乏しいが、薬剤耐性グラム陽性菌感染が強く疑われる状況ではバンコマイシンなどの抗MRSA薬の併用を考慮する。
・重症化したFNでは、抗緑膿菌作用を持つセファロスポリン、カルバペネム、ピペラシリン・タゾバクタムのうち1剤にアミノグリコシドもしくはフルオロキノロンのいずれか1剤を加える。
【治療期間】
解熱が得られ、かつ好中球数が500/μL以上となるまで抗菌薬の投与を継続。
【治療の流れ〜経験的治療〜】
◯ MASCCスコアにより低リスク群の場合
キノロンの予防投与がなければ外来でシプロフロキサシン+アモキシシリン、クラブラン酸内服投与、キノロン予防投与があれば静注抗菌薬治療。
◯ MASCCスコアにより高リスク群の場合
抗緑膿菌作用を持つβラクタム系(セフェピム、メロペネム、ピペラシリンタゾバクタム、セフタジジム)を経静脈投与。培養結果に基づき適宜de-escalationする。
血行動態が不安定、蜂窩織炎を合併、MRSAなど多剤耐性グラム陽性菌感染症が疑われる場合は抗MRSA薬を併用。
敗血症性ショック、肺炎、緑膿菌感染を合併した重症例ではアミノグリコシドまたはキノロンを併用。
【3-4日後の再評価】
◯ 感染巣、原因菌が同定された場合
原因菌に併せて抗菌薬を変更、感染巣に対してはドレナージを検討。
◯ 感染巣、原因菌が同定された場合
発熱が持続していて好中球が増加傾向な場合は変更せず継続、好中球減少が持続していれば真菌症の検査、抗真菌薬の経験的治療(ミカファンギン、アムホテリシンB、イトラコナゾール)を追加。
さらに血行動態が不安定な場合、新たな感染巣、増悪した病変を検索する為の画像検査追加、耐性グラム陰性及び陽性菌、嫌気性菌、真菌に対する治療を行う。
■ケースレポート
【症例】
81歳 男性
既往歴:胃癌→胃亜全摘 左肺癌→左S6区域切除後
現病歴:肺癌術後再発に対してDOC3クール目のday10に白血球1300個、好中球210個とGrade4の好中球低下認めており、ノイアップ(G-CSF)50μg投与開始していた。同日22時より38.2℃の発熱認めた。
経過:
好中球210個で38.2℃とFNの基準を満たしたためガイドラインに沿って診療を進めた。
MASCCスコア
無症状 5点 血圧低下なし5点 COPDあり→0点 脱水症状なし→3点 固形癌である 4点 入院管理中に発熱→0点 患者60歳以上→0点 計17点→高リスク
初期検査:
血液培養2セット、尿培養採取、β-Dグルカン採取し、血液培養は鏡検で陰性、β-Dグルカンも陰性であった。胸部レントゲンでも新たな肺野透過性低下等は認めず、肺炎は否定的。感染巣不明な高リスクFNとして広域抗生剤であるマキシピーム(セフェピム)1g×3回/日で投与開始した。
翌日解熱を得られたが、好中球は280個と立ち上がり悪くノイアップを100μgに増量し、2日目に6900個まで回復した。3日目時点で基準を満たしており4日間のマキシピームでFNとしての治療を終了した。(ノイアップ皮下注は50μg×2回、100μg×1回)
考察: 化学療法中の好中球減少が誘引となったFNであり、今回のように感染巣が明らかでない場合は、可及的に全身の身体診察を行い、可能な限りの検体を採取し感染巣特定に努めるべきである。同時に経験的治療としての適切な抗生剤をすばやく選択し治療を開始することも非常に重要である。今回は各種検査で原因感染巣、原因微生物の特定にはいたらないまま解熱を得たが、3日目の評価時点で解熱を得られず、また原因を特定できていない場合、次の方針は困難を極める。このことを考慮すると、FNは初期対応が非常に大切であることが改めて理解することができた。
(参考文献)
日本臨床腫瘍学会 「発熱性好中球減少症診療ガイドライン」
July 31, 2013
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