魚菜王国いわて

私たちのできる食糧安全保障行動

未だアメリカ産牛肉輸入問題は解決しておりません。
アメリカ農務省は、高級牛肉を扱う食肉加工の小会社「クリークストーン・ファームズ」が申請した、自社負担によるBSE全頭自主検査の承認を拒否したりして、何が何だかわからなくなっています。
先日、BSE問題で、小泉首相がブッシュに屈しなかったのは救いですが。
BSE感染牛を食べた人は、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病を発症する可能性があり、このヤコブ病は致死性であり、治療法は見つかっていないようです。
田中宇さんの国際ニュース解説の今年7月6日号では、このヤコブ病のことを書いています。

http://www.tanakanews.com/e0706BSE.htm

肉食の影響
「WORLD・WATCH」2004年7/8月号の「地球環境に影響する肉食という食習慣」という記事には、思わず驚きを隠せませんでした。
私たちが焼肉やステーキを食べることで、環境に対して、これほど負荷を与えているなど、思ってもみませんでしたから。
森林破壊、草原破壊、水不足、廃棄物増大、エネルギー消費、地球温暖化、農場利用の非効率性、感染症、生活習慣病、生物多様性の喪失と、ほとんどの環境問題に対して、影響を及ぼしています。
肉食の利点といえば、人間の食欲を満たすのみ、と言えるのかもしれません。

具体的には、牛肉生産の水使用量の多さに圧倒されます。
発展途上国で、一塊のパンを作れる量の小麦を栽培するためには、550リットルの水しか消費しませんが、100gの牛肉を生産するためには、7000リットルの水を消費します。
また別の報告では、カリフォルニアでは、牛肉1ポンド消費を減らせば、半年間シャワーを使わないのと同じ節水効果になるとのこと。
廃棄物増大に関して言えば、ブタやトリ、ウシが飼育されるアメリカの「畜産工場」が、人間の130倍の排泄物を出していて、これらは、河川や地下水を汚染し、最終的に海中の酸素不足を促し、死の海域「デッド・ドーン」を拡大します。
化石燃料使用では、人間が消費する1カロリー分の食肉タンパク質を生産するためには、28カロリーの化石燃料を必要とし、穀物を直接消費する場合には、同じ1カロリータンパク質の生産に必要な化石燃料は、たったの3.3カロリーです。
しかも、ウシ1頭は年間75kgのメタンを排出します。
メタン1トンで二酸化炭素23トンに相当する温室効果がありますから、化石燃料消費とあわせて、牛肉消費は、地球温暖化に貢献しているわけです。
中米では、輸出用牛肉を生産するため、過去40年で、雨林の40%が消滅しました。
森林の消滅は文明の滅亡を意味し(「森林を破壊する文明」参照)、イースター島の教訓を無視すればどんな悲劇が起こるのか、想像に難しくないですね。
肉食と森林の関係を示した文章を紹介します。
漁業とも関連があるので、私としても、非常に考えさせられます。

1990年にブラウン大学の世界飢餓計画(World Hunger Program)が行った推計によると、世界で収穫される穀物を家畜の餌にせず、すべて菜食のかたちで平等に分配すれば、60億人分の食糧を供給することが可能であるという。これに対して、豊かな国の人々のように肉を多く摂取する食生活を基準にした場合には、26億人分の食糧にしかならない。つまり、人口が60億を超えている現在、私たちはすでに土地不足に陥っており、その分を海から大量に獲る魚で補っているのだ。その漁業資源も、急速に枯渇しつつある。私たちがこれまでと同じ割合で肉を食べ続ければ、あるいは人口が予測どおりに増加し続ければ、近い将来、世界中の人々に食糧を供給するためにはさらに多くの森林を伐採するしかなくなるだろう。食肉と植物性食品のどちらのタンパク質を摂取するかということは、今後私たちが破壊する森林の面積を直接左右する問題だ。
(「WORLD・WATCH」2004年7/8月号p18)


中国発の食糧不足
以下の事実は、仕事上、私のようなテレビや新聞をあまり見る機会のない人にとっては、知られていないことだと思います。
これら事実やデータは、レスター・ブラウン著「プランB」によります。

黄砂現象は、今や、太平洋を越えて、アメリカまで届いており、その元凶となったのは過放牧です。
中国のウシの放牧数は1億600万頭で、同規模の放牧が可能な草地のあるアメリカの頭数は9600万頭。
そして、ヒツジとヤギは、中国の2億9800万頭に対し、アメリカは800万頭。
そのため、中国のこれらの群れが、表土の植物を食べ尽くし、中国北西部の砂漠化を促進しています。
砂漠の拡大の影響は、中国国内だけにとどまらず、砂嵐が韓国まで到達して、学校が閉鎖され、飛行機が欠航し、呼吸困難の患者が診療所にあふれる事態になっています。
また、「人口問題」で書いたように、世界的に地下水の過剰くみ上げによる水不足が懸念され、灌漑農業の危機が迫っています。
しかし、その前に、河川の水が、世界中で断流(河口まで川が到達しない)を起こしており、これもまた、農業の危機原因となっています。
ナイル川、インダス川、メコン川、そして黄河。
どの川も断流が起こっているか、断流寸前なのです。
原因は、河川上流の都市にあり、生活用水や工業用水のために水を吸い上げていることに起因します。
そして、この後に起こりうる、アメリカや中国の深い化石帯水層の地下水の枯渇時期が、世界の食糧危機を左右することになります。
しかし、その前に、回避できない中国の穀物輸入で、穀物価格の高騰が予想されます。

「なるほどなあ」と思ってしまった文章を二つほど転載しておきます。

1トンの穀物を生産するには1000トンの水が必要なため、穀物輸入はもっとも効率的な水の輸入手段となる。各国は増大する水需要を世界の穀物市場で満たしている格好だ。水不足が深刻化するにつれて、これらの市場における穀物争奪戦はいっそう激しくなるだろう。穀物の先物取引は、ある意味で水の先物取引と同じである。
(「プランB」p34)
穀物の輸入需要が明日どこに集中するのかを知りたければ、今日どこで水不足が起きているかに注目すればよい。現在までのところ、穀物の大部分を輸入しているのは中小国であるが、どちらも人口が10億を上回る中国とインドで水不足が急速に進んでいるのは、世界の穀物市場を揺るがす前兆かもしれない。
(前掲書p55)

減反政策は絶対に誤り!
中国では、水不足を一因とするコメの減産が起こっています。
また、アメリカのカリフォルニアでは、農家の灌漑用水に、都市用水のための買い付けが殺到し、コメの生産量が推定12万トン減少しました。
地球温暖化によるコメの減収も予測されています。
ジョン・シーヒィ作物生態学者によれば、イネの開花期に気温が30℃〜40℃の間で1度上昇するごとに、受精率は10%ずつ減少し、40℃での受精率は、ほぼゼロまで低下するといいます。
嫌な予測!
そして、現在のバイオテクノロジーをもっても、この気温上昇に対しては、大きな成果は上がっていません。

温暖化はすでに起こっている現象で、世界的なコメの生産状況を見るならば、日本の食糧安全保障上、減反などすべきではありません。
おかしな企業群を税金で助けるくらいなら、少しくらいおかしなコメ農家でも助けて、コメ生産を維持すべきです。
中国の物価水準が日本に匹敵するようになったら、その時、コメを輸出して儲ければいいんです(とテキトーなことを書いてしまいました)。
ご飯がなくなったら、寿司も食えない。
皆さん困りますよね。

最悪のシナリオ
中国は、ものすごい経済成長で、賃金もうなぎのぼりと聞きます。
工業などの産業が著しい発展をして、経済大国となるでしょう。
そうすると、世界の食糧をどんどん買うことのできる経済力を身につけることになります。
いくら食糧不足が来ても、経済力のある国は栄え、食糧を買うことができます。
その時日本は?
今や国の財政をみると、お寒いばかり現状で、いつ日本の「円」が信用を失ってもおかしくない状況にあります(つまり日本の破産。あるいは破産を回避するためのハイパーインフレ)。
最悪のシナリオは、その破産が世界の食糧不足と一致するか、食糧不足のあとに起こった時。
貧乏な国、あるいは経済の混乱した国ほど、モノと買い付ける能力がないのは明らかです。
その時に、食糧不足が起こる、ということが一番恐ろしい。
現在、仮に、経済的混乱が日本で起こっても、食糧問題は、それほど逼迫した問題ではないと思います。
新円切り替えとなった場合でも、日本製品の優位性から、その新円は、ある程度時間が経てば、おそらく信用がつくでしょうから。

この世界的な食糧不足が、2080年以降に起こったら?
No Problem!
ここでなぜ2080年という年が出てくるのか、そして、「No Problem!」なのか不思議でしょう。
食糧自給率」参照のこと。

それにしても、どうなることやら。

物理学の大先生アインシュタインいわく、「この世の中には、菜食ほど人間の健康と生存の可能性を増大させるものはないだろう」。
もしアインシュタインが人口問題を考えていたなら、「人は増えすぎないほうがよい。それが地球上で人間が生存できる物理の掟だ」と言ったかも?(笑)

肉はほどほどに!(ファーストフードは明らかに良くない)
そして、コメを食べましょう!
できれば地元の魚も!(これを特に頑張りましょう!)
(2004年10月1日)



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