俳諧・連句

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TWIN DOG 連犬 2002 吉野辰海
(夫馬所蔵)


目次
まえせつ私と俳諧・連句の関わり、これまでの活動歴など
参考作魚の会での胡蝶連句、麦の会での歌仙、日芸での学生歌仙など
私の俳句「俳句アルファ」(毎日新聞刊)に発表した自撰20句
オンライン連句2002年4月からこのHP上で開始したネット歌仙など。
第1回歌仙(2002年12月満尾)歌仙〈ネットで野遊〉の巻(夫馬南斎捌)。
第2回歌仙(2003年1月起首・4月満尾) 歌仙〈神田上水で翁〉の巻(南斎捌き)。
第3回歌仙(2003年5月起首・8月満尾)歌仙〈新樹光のヤポネシア〉の巻(南斎捌き)。山形上ノ山温泉、芭蕉ゆかりの山寺への初吟行句を含む。
第4回歌仙(2003年9月起首・04年3月満尾)歌仙〈こぼれ萩〉の巻(南斎+衆判)。中級者または創作家等限定。
第5回歌仙(2004年3月起首・11月満尾)
歌仙〈芭蕉の芽立ち〉の巻(南斎+衆判)。小石川涵徳亭にて。




まえせつ

 私は連句が好きで、30歳頃から始めた気がするから、もう30年近い履歴になる。最初は当時やっていた芸術サロン「点の会」で文芸評論家の佐々木基一さんを中心にお遊び的にたしなんだのだが、だんだんのめりこみ、やがて手練れの連句宗匠真鍋呉夫さん(小説家でもある。句集『雪女』で読売文学賞)にも加わっていただいての連句集団「魚の会」(佐々木基一、詩人の那珂太郎、映像作家の野田真吉、文芸評論家の宮内豊、夫馬基彦ら)で、毎月例会を重ねることになった。
 
 これは約10年続いたろうか。私など佐々木さんらとは親子ほどに年齢の違う文字通りの末輩だったのに、佐々木さんは「年少の友人」と呼んで下さるなど厚遇して下さり、とても楽しい会だったが、主宰の佐々木さんが亡くなられたのを機に自然消滅した。
 残念だった私は、しばらくたってから今度は自分が主宰する形で小さな連句集団「麦の会」を立ち上げた。これには早稲田大教授(英文学者)の大島一彦、文芸評論家の多岐祐介、ジャズヴォーカリスト丸山繁雄の諸氏が参加してくれ、やはり毎月1回の例会が昨年まで7年ほど続いた。
 
 これらの間にはもちろんいろんな方と単発の座も持ってきたし(俳人の石寒太、中島隆氏らとの半歌仙ほかあれこれ。文音やメール歌仙もある)、早稲田大学エクステンションセンターで1年連句講座を持ったほか、日大芸術学部文芸学科ではすでに丸10年間歌仙を巻く授業を行ってきた。このごろ連句愛好者はいろんな形で広がり、学校でも教えている人は何人か現れたが、年間を通じて歌仙を巻く講座を長く続けているのはあまりないのではと秘かに自負している。
 
 大学での講座はもちろん今後も続けて行くが、しかしやっぱり授業といったものではなくもっと大人の連句を巻きたい感もあるので、「麦の会」休止後の新趣向の意味もあってこのページを作ることにした。
 インターネットを通じてのいわばネット連句は、不特定多数、誰が参加してくるか分らぬ面白さもあり、いかにも時代の申し子のような気もする。ひょっとしたらネットは連句にかなりむいた媒体かもしれない。どうなっていくか、大いに楽しみである。
 みなさん、どうぞご参加下さい。

 なお、私の俳号は「南斎」です。若い頃から頭髪が薄かったためしょっちゅう「あんた、何歳?」と言われていたのと、画人北斎が好き、しかれども北よりは南が好き、かつ三十代四十代とずっと南向きの書斎を渇望し続けていたので、こう名付けた次第。魚の会に入ったときは、君も魚のついた名にせよと言われ、笑魚とか南魚とか考えたのですが、それ以前から使っていた愛着もあり、このままにしたものです。



参考作
   


*以下の連句の作者名などの列がゆがんでいますが、原稿ファイルではほぼ
 まっすぐなのにオンラインにするとなぜかこうなってしまうのです。いずれ直
 します。しばしご寛恕を。
     

胡蝶俳諧〈さるをがせ〉の巻    天魚(真鍋呉夫) 捌き
                     *胡蝶は4面24句の連句形式。近年創案された。
   
                   座 魚の会
                   連衆 大魚(佐々木基一)、南斎(夫馬基彦)、魚々
                      (野田真吉)、 尺筧(しゃっけん 宮内豊)、黙魚
                      (那珂太郎)
                   於 久我山大魚庵

 


 
さるをがせ見えざる風も見ゆるなり        天魚
  しろがね色にのこる朝月             大魚
 大相撲横綱の髷波うって              南斎
  枢(くるる) ゆるみし卓袱台の脚          天
 石犀に夢でまた会ふ男古稀            大
  舗道の熱にむせる午後二時           南
役者絵の真似に旦那紙子着る          魚々
  うわめ使いに湯豆腐を出し            尺筧
 軒先の藤ちりかかる盤面に             黙魚
  黒潮たえて霞むサハリン             南
 亀鳴くとおらびしあとの淋しさよ           天
  「骰子(さい)のひとふり」詩人入神        魚      *マラルメの詩文
ナオ 迷宮を脱け出てしばし安堵顔          尺
   夕凪の湾ジャズが流れて            大
 癌の友痩せ骨さらけ酒を飲む           大
   牙を抱いて喘ぐ白鳥               天
 雷はげし高層ビルの冬の月             黙
   あっという間に消えるタクシー          尺
ナウ アウンサン・スーチー女史の凛然と        天
   古渡り鏡塵もとどめず               尺
 拝殿の奉納俳句百をこえ               大
   屁をかぎながら下る木馬道(きまみち)        魚
 花咲いて眠る少女の眉光り              南
   蜂の羽音のひびく玻璃窓             黙


       1988年8月1日起首                         
       1988年9月18日満尾

                                


脇起し歌仙〈松茸もみぢ〉の巻      南斎捌き

                          *歌仙は36歌仙にちなみ36句連ねる形式。
                               芭蕉以降最も多く用いられている。

                         座 麦の会
                      連衆 鶯吟庵(丸山繁雄)、一朴(多岐祐介)
                          横月平太(大島一彦)
                      於 江古田忠勇亭

       *4月初旬に書いたこの稿にだいぶ誤記が見つかったので、書き直しました。
          皆さん、改めてもう一度読んでみて下さい。4月30日、南斎記。


 松茸や知らぬ木の葉のへばりつき        翁(芭蕉)
  もみづる宿に訪ひ来(きた)る客          鶯吟庵
 上り月夢世の人と舞ひ出でて           南斎
  日記帳なぜか燃えないごみに          一朴
 遠ざかる乙女の祈り冬の空             平太
  鰈は左折 鮃は右折す              朴
ウ 五十肩の怒りし肩は肘九十度           南
   すべては誤解ほろゑひゆゑの          平
 言訳を通す夫に羽織かけ              鶯
  妻(未届け)てふ用語もありぬ           南
 映倫のマークが先づは大写し            鶯
  OBのたびキャディーが見合ひす       朴 *ゴルフ用語。アウト・オブ・バウンズ
 熱帯林虎の影追ふ赤き月             平 *タイガー・ウッズへのかけことば
  サマーワインをシシリー島で            鶯
 第七の手紙を騙る博物館              朴  *プラトンの手紙のこと 
  スナッビズムと飛ぶエアー車夫          鶯
 チェーホフは花を見上げて微苦笑す        平
  入学式に出稼ぎの子も               南
ナオ 春暑し猫の進退極まりて              平
    ヴォウカリストは腎虚をなげき          平
  薬膳の看板かかぐ後家薬師            朴
   釣鐘溶かす化身の一念              鶯
  原罪を説く男ありパリの屋根             鶯
   木枯はいまそこを吹き抜け            南
  しずり雪二本の竹が弾ねにけり           鶯
   猿尾を踏まれ象に怒れず             朴
  負けん気の代議士作家は「No」と云ひ      平
   ダイオキシンが芥の川に              南
  残月に寿司折ひとつ歩道橋             朴
   大学祭は美女コンテスト              南
ナウ 秋しぐれ折傘開く間も待たず            平
   三木のり平と山岡久乃*                      *二人とも本年早々亡くなった
  仲見世の夕暮歩む影のあり             平
    出世列車なる切符買ふとき          朴 *急行津軽。集団就職者の帰省列車
  地唄舞ふ反す緋襟や花の雪            鶯
    鶯鳴きて親子にっこり               南


      1998年10月22日起首
      1999年5月6日満尾



学生歌仙


日大芸術学部文芸学科の連句講座での2000年度の歌仙初折(前半部分)です。
やや見づらいかもしれませんが、授業での進行形式がよく分って参考になると思うのでこの形で載せました。
最上段は発句、脇、月、花、恋、季節などの表示。歌仙はこのあと名残の折(二の折ともいう。後半部分)があります。


       




私の俳句

 毎日新聞社刊の雑誌「俳句あるふぁ」1999ー2000年12−1月号に、
小説家にして連句をたしなむ夫馬基彦の句として
掲載されたもの。次の6句は金子兜太氏がえらく褒めてくださいました。


花降る日螺旋の塔を登りけり

海苔粗朶や昼交わりの窓の外

春逝くや老病の耳引き裂かれ

乳癌の彼女とすするところてん

炎天を真白きシーツで包みこむ

橋が好き今日は木橋を渡りけり


 *以下はその後、多少の手入れをしたり、しかし結局元通りにしたり、いわば多少の曲折を経た句。


美女ありて離人症なり桃の花

仙人の日永眠たし寝死(じ)にたい

雷近く癌の父つと立上がる

冷酒をつぐ女(ひと)白き身八つ口

月赤く赤き大犬飛翔せり

昼の虫五十回忌の経を聞く

冬が来ていつしか生(あ)れ日となりにけり

鴨かもめ川鵜鯉鮒初声す

畳まれし喪服の上の紅一つ

五十妻やや赫髪に染めにけり