三谷不動産鑑定所

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日本経済と土地問題


●1.これまでの経過 '97/6/27 UP
●2.不動産を取り巻く経済概況 '97/10/15 UP
●3.日本の土地価格の中期的展望 '98/4/28 UP


●1.これまでの経過

都市や地方の活力は、その都市や地方を経済的に支えている産業の活力を反映しているのではないでしょうか。

40年代の高度成長期において重化学工業都市が、それに続く大量消費時代には商業都市が、今日では情報発信能力のレベルが都市の活力を規定しているともいえます。

東京は、空港、新幹線、地下鉄網、高速道路、港湾など高度なインフラに支えられ、情報発信能力の高い官庁、金融、証券、商社、コンピュータ、保険の分野で圧倒的な全国シェアーを占め、かつ、将来にわたって高成長が見込まれる、情報サービス業、エンジニアリング業、広告業、デザイン業、各種コンサルタント業などに関しても、ずば抜けた集積を誇っています。

これは、高度な情報経済は、多分野にわたる先端的な産業が集積する大都市においてのみ可能であることを示唆しているのかもしれません。

ただ、国内においてダントツのトップでもニューヨーク、サンフランシスコ、ロンドン、香港、シンガポールなどとの競争ではさまざまな不安を内包しています。

国際的に比較して、日本の土地価格の高さがオフィス賃料、家賃また人件費の高水準を招き、ボディブローのように国際競争力を弱め、製造業の東南アジア等への転出を加速しています。

日本の土地問題は、長年の経済の急成長、大都市圏への大量の人口流入が主因ではありますが、農地法等により過度な供給不足を制度化し、固定資産税などの保有税を軽くしていたことが土地神話を生み、その影響力を巨大なものにしたことは否めません。

どうしてこんなことになったのかを考えてみたいと思います。

◆日本の土地価格形成の歴史的ワク組み

昭和30年以降の急激な経済成長と地価上昇

  • 30年代の特性--->
    大都市(大消費地)近郊の工場用地中心の地価上昇。
    経済が復興し工場の設備投資が活発化した時代。
  • 40年代の特性--->
    住宅地中心の地価上昇。雇用を求めて地方から大都市へ大量の人口が流入し社宅、アパートを始め住宅ローンの普及からマイホームの需要も増加した。
  • 50年代の特性--->
    住宅地と商業地中心の地価上昇。郊外型マイホームの増大に伴大都市圏の拡大。郊外ターミナル、郊外幹線道への大型店出店ラッシュ。
  • 60年代の特性--->
    大都市の都心部オフィス街中心の地価上昇。金融ビジネス等の情報産業の付加価値が無限に大きくなると幻想された時代。
◎(財)日本不動産研究所「市街地価格指数」から求めた
6大都市市街地の各10年間の上昇率
昭和30年〜昭和40年 昭和40年〜昭和50年 昭和50年〜昭和60年 昭和60年〜平成7年
商業地 6.96倍 2.43倍 1.87倍 1.64倍
住宅地 10.38倍 3.70倍 2.04倍 1.51倍
工業地 15.14倍 2.62倍 1.44倍 1.70倍


◎同指数から求めた6大都市市街地の各5年間区分変動率
昭和60年〜平成2年 平成2年〜平成7年
商業地 3.91倍 0.41倍
住宅地 2.63倍 0.574倍
工業地 2.53倍 0.672倍


◎同指数から求めた6大都市市街地のバブル以降現在まで
平成2年〜平成9年
商業地 0.285倍
住宅地 0.520倍
工業地 0.606倍

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●2.不動産を取り巻く経済概況

◆'97年7月以降の概況

最近の経済概況は、設備投資、ビル建設、証券など依然不透明な業種と乗用車、パソコンなどを中心に好調が持続する個人消費に関連する業種及び低い金利から長く高水準が続いた住宅・マンション建設に関連する業種や大型景気対策によって下支えられていた公共投資関連業種のように、今後は需要の減少が確実な分野がみられる。

アメリカ経済は情報革命の牽引力によって堅調を持続しているが、古い桎梏から社会経済が動脈硬化に陥ったようなヨーロッパ経済、安い賃金の魅力から製造業の加工・組立て分野を中心に先進国からの工場移転が活発で、成長を加速させつつある東南アジア、中南米等各分野において国境を越えた『大競争』が繰り広げられており、どの国、どの地域、どの企業がトップ水準であると固定的に考えることはできない時代に突入している。

このような日本経済、世界経済のグローバリゼーション環境のもとで、我国の不動産の価格、利用もその影響を受け、徐々に質的変化の過程にあると考えられる。

大都市圏の住宅地については、価格の低下基調を受け需要層が拡がっている。

商業地については、急増したオフィスビルの供給が一段落し、緩やかな景気回復のもとで需要が増加し空室率の低下が続いている。

ただ中・長期的には我国の金融ビジネス、情報ビジネスの競争力に不安が残ることは否めず、長期の予測のもとに計画される大型ビル用地需要は不透明である。

採算に乗りうるサービス・商品を探しあぐねている大都市の高地価商業ゾーンは縮小する趨勢にあると考えられることから、商業地の地価は下落を続けざるを得ないのではないかと考えられる。

ここ6年間あまりの商業地下落趨勢下においても、コンビニ、都心型大型百貨店、郊外型ショッピングセンタ−、パチンコ店、大型ガソリンスタンドなどは、積極的に出店し、商業地の買い手として大きなウエイトを占めてきた。

マンション用地需要は高水準で推移する可能性も残るが、上記5業種は既にオーバーストア状態であり、確実に淘汰の時代に入っている。

これからの過激な競争の勝利者は、そのシェアーを高め出店もするであろうが、業種全体としての店舗面積は減少し、商業地の需要側から供給側へ、その地位を転ずるでありましょう。

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●3.日本の土地価格の中期的展望

◆日本の不動産は休火山入り?

日本経済の再建のためには、先ず不良債権の処理を促進する事が重大である。

そのためには不動産市場の流動化を促進しなければならない。

また土地が動かなければ住宅投資、オフィスビル投資等も活発化しない。 

ここまでは大方の意見は一致している。

ここから、不動産の市場が今一つ活性化しないのは、未だ土地価格が下がりきっていないからだという意見と、いや貸ビル収益の粗利回りでは7%〜10%程度に達するものもあり、長期の借入れ金利2〜3%に比べれば十分収益水準にある、それが証拠には、アメリカの大手不動産投資ファンド等が徐々に購入を増やしており、日本は出遅れている等々の意見に分かれていく。

確かに一部貸ビル・賃貸マンション物件において、粗利回り6、7%以上であるならば、借入れ金利と比べ投資チャンスであるともいえる。

ただ、現在の賃料が下落せず、かつ元本たる土地価格も下がらなければという仮定の上ではある。

日本の賃貸借契約は通常2年程度の短期で自動更新されるケースが多く、かつ賃料の変更も比較的容易である。

アメリカでは5年〜10年の長期契約も多く、もし貸借人が満期未満で退出する場合は損失を補填する事など、正に契約社会である。

これだと入居済みのオフィスビルなどの収益価格を求める事は、期待利子率の水準をどこにするかが残る以外、比較的容易であろう。

一方、我国の昨今の不動産市場においては賃料の下落又は弱含み傾向と空室率の変動リスクが大きい事から長期、安定的な収益水準の把握が困難であることと共に、土地価格の値下り、建築工法進歩等による建築費の低下など投資元本のキャピタルロスの不安が大きい。

また、固定資産税等の課税評価額上昇に伴う負担増予測も圧迫要因となっている。

昨今、バブル前までに土地価格が下がったから、もうそろそろ底打ちだという意見が聞かれるが、バブル前の土地価格が妥当であった根拠など何処にもないし、当時は今日ほど日本の国勢、国際競争力が衰えても居らず、工場等の国外流出(土地の輸入)も予測されていなかった。

そもそも我国の土地制度、土地税制、持家政策などは土地所有者側に有利に出来ており、そのことが長く日本の高地価を演出してきた。

私は、極めて漠然とした感想であるが、日本の異常な地価上昇は、昭和47年、48年の日本列島改造ブームを最後にしておけば、今日これほどまでに苦しまなくて済んだのに、という思いが強い。

残念ながら、その後の我国の経済政策において、不況期には公共投資、持家住宅建築促進のための住宅公庫の融資ワク増大、ローン金利の所得税控除等々景気対策に土地を道具として多用する事に慣れてしまった。

国家経済のなかでの公共投資のあり方とか、国民の持家と借家のあるべき比率、あるいは床面積などの居住水準、大都市部における居住環境の確保と土地所有者の負うべき義務、又勤労現役世代が郊外の遠距離通勤を課せられているのに対し、都心部に比較的近いゾーンにはそのニーズが比較的小さい退職世代の持家が残存する等々、どうも基本的、複合的な考察を欠いたまま政策を続けてきたような気がする。

このように日本の土地価格は長年の病弊の集積体であるから、今日いわれるように不良債権問題や地価下落による運用利回りの上昇等によって急に回復できるものでなく、かといって全く死んでしまったと言いきれるほど、日本人の蓄財手段、財産運用能力が上昇し、土地が主役でなくなる時代が早く来るようにも思えない。

いわば、時々は地下のマグマが熱くなり噴煙を噴くが、いつか大噴火するのではと仰ぎ見られている休火山状態が続くのではないであろうか。

もし、日本の大都市商業地の土地価格が昭和49年頃の水準まで下落して底打ちするとすれば、(財)日本不動産研究所の六大都市市街地価格指数の商業地(平成2年3月=100)によれば、昭和49年9月の指数は14.9で、平成10年3月の指数25.6に比べ約60%の水準であるから、未だ下落余地が大きく残っている可能性は否定できない。

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