ノーザンライツについて

~少人数で、ゆっくりと、シンプルに~

イラスト:清水麻由

ノーザンライツは知床ウトロのシーカヤックと森のバックカントリーガイドです。
 シーカヤックを使い知床を海からの視点で観察し、たくさんの人が歩くあらかじめ決められた遊歩道ではなく、動物たちが暮らす原生の森の中をご案内致します。
 一度のガイドは4人まで、お客様のペースに合わせてゆっくりと進みます。
 無人の海岸で、あるいは深い森の懐で、知床の美味しい旬の食材をつかい昼食をつくり、知床の自然を五感で感じてみましょう。
 普通の観光では見えてこない、自然の中での生命の輝きや、現代の暮らしの中で忘れてしまいがちな大切なことを思い出してみませんか?
 ここ知床は太古の昔から、そのように人も動物も暮らしてきた場所なのですから。


ガイド 矢代 武士

日本大学 文理学部地理学科卒業
東京環境工科専門学校 自然環境保全学科卒業
2006年、株式会社 知床ネイチャーオフィス入社
2013年、ノーザンライツ企業

 中高生の時は家でゲームばかりしていた。大学に入って反動か日本中を旅して見回るようになった。やがて高山の自然に魅せられ卒業研究を尾瀬で取り組んだ。
 そのなかで、国立公園で働くレンジャーといわれる人たちと出会い、手伝いのアルバイトをする。自然の中で働く仕事をしてみたいと思うようになった。
渋谷にあったレンジャー養成学校にて、2年間学ぶ。自然の中で働くには、人と人との繋がりやチームワークがいかに大切かを教わった。
 卒業後知床にて自然ガイドとして働き始める。そしてシーカヤックというものと出会い新しい世界が開ける。
どうしてもアラスカの自然を観てみたくなり、仕事を辞めひと夏をアラスカで過ごす。ユーコン川をカヌーで下り、ツンドラの荒野や氷河の上をキャンプしながら旅した。
 夢に描いていたそのままの世界がアラスカには残っていた。
 ・・・でも帰ってきてふと思った。
 ずっと一人で旅をしていて、結局これはただの自己満足だったんじゃないだろうか。布団の中で見る夢と同じで。
 夢を現実化するためにはほかの人に思い出を伝えて共有する必要があることに気付いた。伝える方法は様々だけど、不器用な自分に何ができるだろうか。。。
 そうか、やはりガイドしかないな!
 いつまでもこの素晴らしい知床の世界を、感動を、たくさんの人と共有できたらと思う。
 知床の夢を夢で終わらせないために。そして次の世代へ繋ぐために。


知床でのカヤック 危機管理とマインド

知床でのシーカヤックについて、主に安全面とマインドについて思うことを書きたいと思います。ノーザンライツのガイドに参加頂くにあたってもぜひ知っておいてほしいことです。
 
 まず、大前提としてシーカヤックは自然の中で行うスポーツです。フィールドが自然である以上、様々なリスク、危険因子が伴います。それをゼロにして100%絶対の安全を享受することはありえません。(都会で普通に暮らしていても、交通事故のリスクはなくならないように)
 
 特に知床の海は日本屈指の厳しさがあります。それは急激な気象の変化、カヤックの力では抗うこともできない強風、波浪、逃げ場のない断崖、生身で沈水すれば即座に低体温症になるほど低い海水温、同じ海で働く動力船との兼ね合い、ヒグマの存在・・・上げれば切りがありません。
 そのような中でエンジンなどの動力機械には一切頼らず、自分自身の体力、技術、知識、経験、判断力、持てる人間力全てで自然に向き合うのがシーカヤックです。
 知床の海は穏やかなときは湖のように凪いでいる日もありますが、一瞬で波や風の地獄に豹変することもあります。自然に情け容赦はありません。
 
 自然の中で人間が被る事故についてですが、2種類に大別できます。
1つは、どんなに注意深く準備し、行動していたとしても回避できない事故。時に圧倒的な自然の猛威の前では人間の力はまったく無力です。
 そしてもう1つは、人間側の判断の失敗、過失、準備不足によって人間自ら陥ってしまう事故。多くの自然相手のスポーツ事故事例は大なり小なりこちらに属しています。

 ガイドの役割はその危険を事前に察知、予測し、対応できるように備える、回避する、海に出たら事故なく無事にお客様をウトロまで帰還させることです。

 私は知床ウトロでシーカヤックのガイドを初めて10年になります。お客様の多くは知床でパドルを初めて握る初心者の方です。森のガイドも含め、幸い、今まで事故やケガは1つも起こしていません。ガイド中お客様の乗ったカヤックを海上で転覆(沈)させたこともありません。
 
 今のところ無事故でガイドができている要因ですが、私自身の性分で、自然に対してとても臆病であることが大きいと思っています。その日に申し込んでいるお客様には申し訳ないのですが、少しでも不安因子が排除できない日はカヤックは中止にしています。「この程度の状況で中止なのですか?」と聞かれることもあります。
 そして、海水が低温な3月から5月はドライスーツやセミドライスーツの着用は当然です。
 万一転覆しても、陸まで泳ぎ着けないほど、岸から離れた場所を漕ぐこともありません。そもそもシーカヤックは不沈構造(船体が隔壁で区切られた造り)になっており、船体がバラバラに砕けない限りは沈むことはありません。
 また、お客様の人数をガイドの目が全て届く少人数に絞っていることも無事故の大きな要因です。

 因みに昨年(2021年)のシーカヤックの催行可能だった日を月ごとに記します。
(午前中半日のみできたなどは0.5日と数えました)
5月/16日催行 51%  6月/24日催行 80% 7月/28日催行 90%
8月/17.5日催行 56% 9月/14日催行 46%

 なぜそのように厳しい採算も見合わない知床という自然環境の中でガイドを行っているのか、ですが、日本のシーカヤックの泰斗であり、私にとっても偉大な教師である新谷暁生さんの言葉を借ります。

「やるに値する仕事だから」

 知床の自然は厳しく美しく、時としてとても残酷です。初心者にも上級者にも平等に試練も大きな感動も与えてくれます。
 自然を相手にする以上、常に怖さは付きまといます。しかし、人間は太古の昔からこの恐怖と向きあい、勇気を奮いパドルを漕ぎ、自然に祈り、感謝しながら、この海を木彫りのカヌーで自由に航海していたはずです。それは食料を確保し生きるため、命を繋ぐために必要な行動でした。
 そんな現代人が忘れてしまった人間本来の本能を思い出させてくれるのが知床の自然です。
 この自然がまだこの日本に残っていること、この海でシーカヤックができることに感謝し、パドルを握っています。
 厳しいからこそ、自然や他者に対してより謙虚になり、常に学び、準備することが大切だと思います。
 
 今まで、多くのお客様と知床の海を漕いできました。私はカヤックの上手い下手、体力のあるなしに関わらず、真剣に知床の自然と向きあい、素直に感動してくれる、そんな人に共感します。
 これからも、多くの方と知床の自然の素晴らしさを体感し、感動の共有ができればと思います。