第2話:真っ暗の原生林にて… | ||||||||||||
(1980年)当時47歳の父です(私は15歳)。3泊4日のトレッキングに出発する直前の1枚。まさかこの後さんざんな目に合うとは夢にも思っていませんでした.....。 |
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14歳の時に山で死にかけたにも関わらず、私は懲りずにアウトドアーを愛し続けました。翌年の、15歳になった時はフィヨルドランドという、四国がスッポリと入ってしまう程の広さを誇る国立公園へ、地質学者で同じく山を愛する父と2人だけで4日間のトレッキングに出かけました。ちなみに、私が父と二人だけで旅をしたのはこの時が最後でした。父も、この時を最後に、本格的な登山やトレッキングは辞めました。そして、気づけば今は私の方が当時の父よりも年をとってしまいました。人生は振り返って見ると本当に早く感じるものです。 それは さておき、本題に戻りますと、2日目の夕方に、泊まる予定だった山小屋にたどり着くと、そこはまるで遊園地。30人ほどのボーイスカウトの団体がドンチャン騒ぎをしていて、立つ場所もないくらい、床は彼らのマットレスで埋め尽くされていたのです。せっかく大自然を楽しもうと、2日もかけてこんな山奥まで歩いて来たのに、ここではまともに寝ることすら出来ない。近くにいた他の登山客に話を聞いてみると、彼らは仕方なく野宿をするとのこと。私たちも野宿することにしました。 |
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そこで、「テントくらい持って行けば?」と思う人もいると思います。しかし時は1980年。何十年も前の話しです。当時、我家にあったテントといえば、今よりもずっと大きくて重いものでした。それも、テントに限らず懐中電灯1つでもゴッツイ鉄で出来たものに単1電池を入れて使うものでした。今のように、軽くて、小型で、強力なのに長持ちするプラスチック製のLEDライトとは全く話しが違います。カメラも鉄の塊のようなもので、フィールムを入れて使うものしかありませんでした。また山小屋も、日本の山小屋のように売店があったり、食事を出してくれるようなところではありません。電気もガスも通っておらず、持参したランタンで照らすようなシンプルな作りです。つまり、4日間のトレッキングには最低でも4日分の食料や電池などを全て自力で背負っていくしかないのです。人数が多ければ、テント、調理器具、照明器具、救急箱などを分散して運べますが、2人だけの場合は必要最低限の装備しか持っていかないのが基本スタイルとなります。 さて、私たちは野宿を決意したのですが、そこは国立公園です。野宿や焚火をする場合は最低でも500メートル山道から離れなくてはならないという厳しいルールが当時でもありました。1キロほど山道を戻り、厚さ30センチのコケの絨毯に覆われる原生林の中へと進んでいきました。 |
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父です。途中こんな山も越えました。 |
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しばらく歩くと、野宿に適しているところがあったので、火を起こし、夕食を済ませました。満天の星空が広がり、寝袋に入って空を10分も見上げていると、無数の小さな流れ星が見られます。人工衛星も時々UFOのように飛んでいくのが見えます。そして天の川はもちろんのこと、何百万光年も離れた他の銀河系までもが2つほど(アンドロメダ銀河など)、楕円形の雲の様にボンヤリと見えるのです。「今夜は雨なんか降らない」と確信し、安心して寝どころに付きました。ところが、、、 夜中の12時頃です。ポツポツと雨が降り出して、それが次第に豪雨へと変わっていったのです。私たちは仕方なく寝袋をリュックサックに納め、上半身だけ洋服を重ね着し、裸の脚にはリュックサックを被せ、あとはカッパ1枚で濡れたコケの上に横たわって一夜を過ごしました。トレッキング中は半ズボンや靴を履いたまま川をジャブジャブ渡るので、下半身は常に濡れていても気にしてはいられません(ニュージーランド人が半ズボンでトレッキングをする理由に関してはこちらでも説明しています)。また、森の中はブヨだらけなのですが、幸いニュージーランドのブヨは日中の暖かい時間しか活動しません。 しかし、重いリュックを背負って1日8時間ものトレッキングをした後ですから、ザーザーと降る雨の中でも何とか眠りに付けました、、、と思いきや、今度は午前2時頃にオポッサム(木の上で生活するタヌキほどの大きさの動物)の「ガー、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ!」という鳴き声に起こされてしまいました。オポッサムは私たちが縄張りに進入して来たので、威嚇しているのです。結局その後も明け方の6時頃まで、追い払うことも出来ずにオポッサムは鳴き続けました。 ここで、「移動すれば?」と思うのが普通だと思うのですが、当時ニュージーランドは人口が350万人、それに対して羊は2000万頭、それに対して野生化したオポッサムは7000万頭もいるという国でした。 毛皮が重宝されていたオポッサムは、イギリス人が数百年前ニュージーランドに持ち込んだ外来種であり、天敵のいない環境で爆発的に数を増やし、大問題とされていたのです。要するに、どこに移動しようと必ずオポッサムとは遭遇するのです。しかもあたりは真っ暗な、深〜い原生林。むやみに移動するのは危険なのです。 「ザ〜〜ザ〜〜!ガー、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ!ザ〜〜!」 死と直面する程の経験ではありませんでしたが、さんざんな目にあいました。 |
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