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化学なんて大嫌い!という人のための
風変わりなヒント 第42号
2014年3月30日発行
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<目次>
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1.一風変わった化学の授業
〜 カドミウムについて 〜
2.化学をつくった人たち
〜 ウォーレス・H・カロザーズ 〜
3.あとがき
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1.一風変わった化学の授業
〜 カドミウムについて 〜
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今回はカドミウムを取り上げます。
毒性のある元素ということで、水銀に次いでこの元素は有名だと思い
ますが、いくつか興味深い性質もありますので今回取り上げてみました。
カドミウムの概要と性質
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19世紀の初め頃、ドイツのハノーバーの薬局では、「カラミン」あ
るいは「カドミア」と呼ばれていた菱亜鉛鉱(主成分:ZnCO3。カ
ドミアは菱亜鉛鉱の古名)を加熱して亜鉛華(ZnO)を調製していま
したが、白色であるはずの亜鉛華が黄色になってしまうことがたびたび
ありました。
ゲッティンゲン大学のシュトロマイアーは、この原因を調査していく
なかで、その中に何らかの未知の成分が混入しているのではないかと予
想し、1817年にこの原因成分を酸化物として単離します。
そして原料の菱亜鉛鉱(の古名の方)にちなんで、これをカドミウム
と命名しました。
ただ、カドミウムの命名については、フェニキアの伝説上の王子カド
モスにちなんだという説もあるようです。
また、カドミウム鉱物として最初に認められたのは、グリーノック石
(硫化カドミウム鉱:CdS)と言われていますが、実際のところ、こ
の鉱物は2000年以上昔からギリシアなどで採掘されていて、黄色の
顔料として用いられていました。
この他のカドミウム鉱物としては、セレン化カドミウム鉱(CdSe)
や菱カドミウム鉱(CdCO3)などがあるものの、カドミウムの必要量
は、亜鉛を生産する際に得られる副生成物(閃亜鉛鉱(ZnS)から亜
鉛を得る際の副生成物)の量だけで十分に間に合うのが現状です。
カドミウムは、銀白色の金属で、周期表では12族(亜鉛のすぐ下)
に位置しています。
性質は亜鉛に近いですが、毒性の強さはカドミウムのすぐ下に位置す
る水銀に近いものがあります。
カドミウム金属それ自体は軟らかく、表面はかすかに青色がかってい
るものの、空気中では徐々に褐色に変化していきます。
またカドミウムは酸(鉱酸)と反応して水素を発生し、二価の陽イオ
ンとなります。
単体の融点は320.8℃であり、金属元素としては低い方になります。
天然に存在するカドミウムの同位体は全部で8種類あって、最も多い
のが質量数114のもの、その次が質量数112のものです。
また質量数113のカドミウムは、かなり長寿命の放射性同位体であ
り、その半減期は7700兆年となっています。
カドミウムの用途
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カドミウムは対腐食性に優れているため、さび止めとして鋼鉄表面の
被覆などに用いられていました。
厚さが0.05mmという薄い被膜でも、海水中などの過酷な環境で
完全な防護機能を発揮することができるのが特徴です。
(海水がカドミウムと反応すると、その表面に溶解度が小さく、透過性
もほとんどない塩化カドミウムの被膜が形成されることによります)。
カドミウムやその化合物の使用量は、環境や人体に及ぼす悪影響が問
題となって以来、かなりの量で減少してきていますが、その用途として
まだ残っている重要なものに、ニッケル−カドミウム電池(ニッカド電
池)が挙げられます。
これは二次電池のひとつで、正極にニッケル酸化物、負極にカドミウ
ム、電解液には水酸化カリウム水溶液(少量の水酸化リチウムを含むも
の)が用いられています。
モーターなどの高出力用途に適していることと、寿命が長いこと、さ
らに、かなりの回数の充放電に耐えることができるのが特徴です。
ただし現在では、ニッケル−水素蓄電池やリチウムイオン二次電池へ
の置き換えもかなり進んでいます。
硫化カドミウムは鮮黄色の顔料で、「カドミウムイエロー」という名
前で知られています(実際の組成としては、硫化カドミウムと硫化亜鉛
を含んでいます)。
また、硫化カドミウムにセレン化カドミウムが含まれている組成のも
のは「カドミウムレッド」と呼ばれ、セレン化カドミウムの割合が増え
るに従って、オレンジ色、赤色、褐色に変化していきます。
これらの顔料は、ペンキや絵の具、印刷インキなどの顔料として、ま
た、釉薬などにも用いられてきましたが、カドミウムの毒性のため、現
在ではこれらの用途には使われなくなりつつあります。
総じてカドミウムの使用は、現在では消費者の手元に届く大部分の製
品への使用が控えられ、代替品に置き換わっているため、環境中への放
出はほとんどないと言える状態にまでなってきています。
なお、カドミウムは中性子捕獲断面積が大きいので、原子炉の制御棒
の材料としても用いられています。
カドミウムの毒性に関して
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カドミウムは蓄積性の毒物で、腎臓をおかし、亜鉛を含む酵素の働き
を阻害します。
カドミウムは必須元素である亜鉛とよく似た性質を持っているので、
体内でも亜鉛とほぼ同様の代謝経路を通ることになります。
また酸化カドミウムの粉塵を吸入することは特に危険で、命に関わる
事態となりかねません。
海外のある橋を改修する際において、そこに使われていた鋼鉄製ボル
トの防護被膜にカドミウムが用いられていたことから、解体作業中に作
業員が多量のカドミウムを吸入し、重篤な健康被害が発生したという事
故がありました。
カドミウムによる健康被害のうち、有名なものとして挙げられるのが
イタイイタイ病です。
これは富山県の神通川流域で報告された病気で四大公害病のひとつに
数えられています。
骨や関節が弱くなり、動かすたびに激痛を伴う症状で、カドミウムが
原因です。
亜鉛鉱山からのカドミウムを含む排水が川に流れ込み、その水を用い
て作られた作物を食べることによって、カドミウムが高濃度で体内に蓄
積されていき、発症に至りました。
カドミウムが体内(最終的には腎臓)に高濃度で蓄積されていくと、
チオール基(−SH)をもつタンパク質や酵素とカドミウムが結合し、
それらを変成させてしまうことから腎障害を起こします。
その結果として、細胞や組織に障害が現れるとともに、カルシウムの
代謝異常によって骨からカルシウムが失われて骨が変形したり、折れた
りすることになります。
そして全身に痛みが生じ衰弱していくという経緯をたどっていきます。
なお、カドミウムはごく微量ではありますが、いろいろな食品中に含
まれているので、完全にカドミウムを除いた食物をつくることはかなり
難しいと言われています。
国立医薬品食品衛生研究所が、地方衛生研究所と協力して行っている
調査によると、日本人の1日の日常食からのカドミウム摂取量は19.
1μgとのことです(2010年度の調査結果より)。
日本人の体重を53.3kgとした場合、食品安全委員会が定めたカ
ドミウムの暫定耐容摂取量と比べると、この摂取量は暫定耐容摂取量の
約4割にあたります。
体内に吸収されたカドミウムは、メタロチオネインと呼ばれる酵素に
よって取り込まれ、血液中を通り腎臓に運ばれて排出されることになり
ます。
また、体内に入ったカドミウムを薬剤投与で除去するのは難しいよう
です。
その方法で除去しようとすると、人体に必要な亜鉛も同時に除去して
しまうことになるからです。
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2.化学をつくった人たち
〜 ウォーレス・H・カロザーズ 〜
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今回は、アメリカの有機化学者である、カロザーズを取り上げます。
デュポン社で彼が開発したネオプレンやナイロンが有名で、高分子重合
体を工業生産するための研究におけるパイオニアとして広く知られてい
ます。
カロザーズは、1896年にアメリカのアイオワ州バーリントンで教
師の息子として生まれました。
高校生の頃に読んだ化学書によって、わりと早い時期から化学には興
味を持っていたようです。
高等学校を卒業した後は、父の勤めていた商科大学で会計学と簿記を
学んでいましたが、1915年に、ミズーリ州のターキオ大学に移って
から本格的に化学を学び始めます。
その後イリノイ大学で有機化学の修士号と博士号を取得し、1926
年にはハーバード大学で講師となりました。
1928年にデュポン社に招かれ、中央研究所の有機化学研究部長と
なります。
また1936年には重合体の研究が認められ、企業内研究者として最
初のアメリカ科学アカデミー会員に選出されました。
彼は若い頃から神経質で、鬱病の発作にたびたび襲われていましたが、
妹の死などの精神的打撃も重なって、1937年にフィラデルフィアで
青酸カリを服用し自殺してしまうことになります。
カロザーズは、ハーバード大学で高分子の構造と、重合の研究を行っ
ていました。
デュポン社に移ってからは、シュタウディンガーの高分子説を実証す
るために、当時までの最高記録であった分子量4200(エミール・フ
ィッシャーによるもの)を超えるポリマーの合成を目標とし、高分子化
合物や重合反応を研究していきます。
ネオプレン(クロロプレンゴム)について
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モノマーにはクロロプレン(2−クロロ−1,3−ブタジエン)を選択し
ましたが、これはビニルアセチレンに塩化水素を付加させる方法を用い
て得ています。
過酸化物触媒を用いると、クロロプレンはラジカル反応によって付加
重合し、デュプレンと名付けた合成ゴムが得られました。
デュプレンは1931年に工業化されましたが、1936年にネオプ
レンへと名称が変更されています。
ネオプレンは、重合速度が速く、熱に強い上に、たいていの溶媒にも
溶けず、加工も容易であるという、全体的にバランスのとれた合成ゴム
です。
ナイロンについて
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ネオプレンの研究と同時並行で、縮合重合による高分子化合物の合成
方法も検討されていました。
最初の頃は、ポリエステルを合成する方法を検討していたものの、酸
やアルコールを色々と変えて検討したのですが、この時点では重合度が
上がらず融点の低いものしか得られない結果でした。
そこで実験の対象をポリアミドに変更します。(当時解明されつつあ
った絹の分子構造を参考にしたためとも言われます)。
アミノカプロン酸を加熱する試みではうまくいかなかったものの、ヘ
キサメチレンジアミンと、アジピン酸を加熱することにより、1935
年に最初の重合体(現在のナイロン6,6)を合成することに成功しました。
上記の2つの原料を反応させると縮合重合反応によって線状の重合体
が形成されますが、これを紡糸口金から押し出した後、常温で強く引っ
張ることで分子が平行に配列し、格子状に水素結合が生成することにな
ります。
この繊維は、丈夫で特徴のある光沢を有しているのが特徴で、193
8年にデュポン社はこの繊維を「ナイロン」と名付け、工業生産を開始
しました。
ナイロンは女性のストッキング用として大々的に使われ、「石炭と水
と空気から作られ、鋼鉄よりも強く、クモの糸より細い」という当時の
キャッチフレーズは世間に広く浸透していきました。
カロザーズのネオプレンやナイロンでの成功を機に、各種の有用な重
合体が合成・生産されていくようになります。
彼はデュポン社への入社からわずか9年の間で、高分子化学の理論や
その合成方法に大きな影響を残した(シュタウディンガーの高分子説に
実験的な裏付けを与えた)と同時に、合成ゴムと合成繊維という2つの
産業を創設したことになり、近代化学産業への貢献は計り知れないほど
大きいと言えます。
ちなみにカロザーズは、高分子に関する52編の論文を執筆し、69
件の米国特許を取得しています。
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3.あとがき
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春は新しい門出の時期でもありますね。
新生活を始められる方に、ささやかながらエールをお送りするととも
に、自分自身に対しても、また新たな気持ちで日々を過ごしていけるよ
うに、改めて気合いを入れていきたいと思っているところです。
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