第1節:媒介契約と代理契約

1.媒介契約:業者が、宅地建物の売買交換媒介(仲介)の依頼を受ける際の依頼者との契約を媒介契約という。
業法では、媒介契約に関する契約関係を明確化し、紛争を防止するため、業者が宅地建物の売買または交換(貸借は除かれている。)の媒介契約を締結したときは、遅滞なく、一定事項を記載した書面を作成し、依頼者に交付しなければならない(宅地建物取引業法第34条の2第1項)。
この規定は、昭和55年の業法改正によって設けられたもの(施行は昭和57年)であるが、それ以前においては、媒介契約の契約関係が非常に不明確な状況にあり、何ら法律上の規定がなかったため、依頼者とのトラブルも多く、判例においては民法の委任の規定や商法の仲立の規定を援用していたが,必ずしも法律上の扱いは統一されていなかった。現実の契約関係についても、ほとんどの媒介契約が口頭でなされていたため、契約の存否や内容も不明確なものが多くなっており、業者の報酬請求権の有無をめぐるトラブル、業者間での「抜いた、抜かれた」といったトラブルが多発していた。
現在、媒介契約書の交付等は業者の義務となっているが、これは一方では、媒介契約が成立していることの証明となるため、報酬請求権をめぐる紛争などを未然に防止することができる。

2.代理契約: 第三者に代理権を授与する契約を代理契約といい、宅地建物の取引についても、他人に代理権を授与して行うことがあるが、業者が宅地建物の売買または交換の代理の依頼を受けて契約を締結したときは、一定事項を記載した書面を作成して、依頼者に交付しなければならない(宅地建物取引業法34条の3)。 宅地建物の代理は、宅地建物取引業の免許を持つ関連会社間において、一方が売主となる場合、他方がその代理人になるという形が多く、マンション・建売住宅の分譲などに多く見られる。

第2節:媒介契約と宅地建物取引業法の規制

媒介契約は、いくつかのタイプに分けられる。一つは、依頼者が他の業者に重ねて媒介や代理を依頼することを禁止する型式で、専任媒介契約という。

専属専任媒介契約とは、依頼者が依頼した業者が探索した相手方以外の者と売買または交換の契約を締結することができない旨の特約を含む専任媒介契約をいう。もう一つは、依頼者が他の業者に重ねて媒介や代理を依頼することを許す型式のものであり、これを一般媒介契約という。
この一般媒介契約はさらに他の業者を明示する義務があるものと明示する義務がないものとの二つに分けられる。媒介契約書の中においては、当該媒介契約の類型がこれらのいずれにあたるかを明記しなければならない。

(A):媒介契約の有効期間および解除に関する事項
媒介契約が無期限に続くと依頼者、業者双方にとって不都合なため、契約の有効期間を明示することとしている。解除については、解除ができる場合とその効果などを明記する。なお、書面に明記されていなくても、債務不履行などの場合には民法の一般原則により解除できる。

(B):報酬に関する事項
媒介契約をめぐるトラブルの多くは報酬に関するものであるため、報酬の額やその支払時期などを記載することとしている。
3.専任媒介契約・専属専任媒介契約の規制: 専任媒介契約・専属専任媒介契約は、依頼をした宅地建物取引業者以外の業者に重ねて媒介・代理を依頼することを禁止する媒介契約のため、依頼者は強い拘束を受けることになる。このため、依頼者保護の観点から、専任媒介契約・専属専任媒介契約について有効期間の制限を定めるとともに、契約を締結した宅地建物取引業者に対して一定の義務を課している(宅地建物取引業法第34条の2第3項〜第8項)。

(A):有効期間の制限(宅地建物取引業法第34条の2第3項)
専任媒介契約・専属専任媒介契約の有効期間は3ヵ月を超えることができず、「契約の有効期間を6ヵ月とする」との定めをしても、その期間は3ヵ月に短縮される。有効期間は依頼者の申し出により更新できるが、更新された契約の有効期間はやはり3ヵ月を超えることはできない(第3項)。更新の際には、後のトラブルを避けるため、依頼者の申出を文書によって確認することが適当である。なお、更新の申出は依頼者から行うが、業者が更新に同意しないときは、契約は更新されない。

(B):指定流通機構への物件登録(宅地建物取引業法第34条の2第5項)
専属専任媒介契約は、依頼をした業者以外に重ねて媒介・代理を依頼することが禁止され、かつ、依頼者による自己発見取引も禁止されているため、専属専任媒介けいやくを締結した業者は、目的物件を当該目的物件の所在地を含む地域を対象として登録業務を行っている指定流通機構に専属専任媒介契約締結の日から5日以内に登録しなければならない。この登録は従来3日であったが、、平成7年の改正により5日に延長された(平成9年4月19日施行)。
また、専任媒介契約の場合は、媒介契約締結の日から7日以内に登録しなければならない。従来、専任媒介契約については物件登録が業法上の義務ではなく、標準約款において、媒介契約締結の日から7日以内に登録するものとされていた。しかし、より一層不動産取引市場の透明化を図る観点から平成7年改正により、物件情報の登録義務の対象を専属専任媒介契約のみならず、専任媒介契約にまでかくだいされた(平成9年4月19日施行)。
上記の5日または7日の登録期間の計算においては、媒介契約の当日は含まれず(初日不算入の原則・民法第140条)、また業者の休業日は含まれない。

(C):登録済証の交付(宅地建物取引業法第34条の2第6項)
指定流通機構に登録した業者は、同機構が発行する登録を証する書面を遅滞なく依頼者に交付しなければならない。


(D):成約情報の通知(宅地建物取引業法第34条の2第7項)
指定流通機構に登録した業者は、登録した物件について売買・交換の契約が成立したときは、遅滞なく、その旨を同機構に通知しなければならない。
その通知は、次の事項について行う。@:登録番号A:宅地・建物の取引価格B:売買・交換の契約成立年月日。


(E):業務処理状況の報告義務(宅地建物取引業法第34条の2第8項、第9項)
専任媒介契約を締結した業者は、2週間に1回以上、専属専任媒介契約を締結した業者は、1週間に1回以上、業務の処理状況を依頼者に報告しなければならない。報告の内容は、契約の相手方を探索するために行った指定流通機構への登録等の措置、その後の引き合いの状況などである。

第3節:直接取引と報酬請求権

媒介業者の報酬請求権の有無が争われる事項のうち、判例の数が多いものに、依頼者が報酬の支払を免れようとして直接取引をしたケースがある。すなわち、依頼者が業者から紹介を受けた相手方と、業者を排除して、直接契約を成立させる場合であり、この場合、多くの判例において、報酬請求権が認められている。
判例
依頼者Aは業者Bに土地の買受の媒介を依頼したが、売主と売買契約を行う直前になって、Bとの媒介契約を解除しないまま売主と直接取引きを行った。
AはBに対し本件土地を取得することの仲介依頼をするにあたり、その取得契約の成立を停止条件として報酬を支払うことを約したものであり、Aは右のとおり契約成立という停止条件の成就を妨げたものであるから、Bは停止条件が成就したものとして報酬を請求することができる。(最判昭和45.10.22)
行政実例
売主、買主が売買契約成立に関する業者への報酬(仲介手数料)の支払を免れるため、業者に何ら不審行為がないのにかかわらず委任契約を解除し、しかるのち売主、買主間で直接相対取引をした場合においては、業者の仲介により所期の目的を達成したのであるから、業者は当該契約成立に関する報酬請求権を有する。(昭和38.12.23計総発第197号北海道建築部長あて回答)

第4節:売買契約の解除等の報酬請求権への影響

(1)売買契約の約定による解除・・・解除権留保付売買契約の場合(手付放棄・倍返しによる契約の解除)には、媒介業者の報酬請求権に影響を及ぼさないと解される。
(2)解除条件成就による解除・・・・標準媒介契約約款では、ローン不成立の場合について、特に規定しており、この場合は受領した報酬は返還しなければならないとされている。
(3)停止条件不成就による契約効力の不発生・・・・標準媒介契約約款では、停止条件成就の場合に報酬請求権が発生するとされているので、この場合は報酬を請求することができない。
(4)当事者の債務不履行による解除・・・・原則として、報酬請求権に影響はない。但し、その債務不履行に関して媒介業者に媒介契約上の義務違反(例えば、調査義務の不履行など)がある場合には影響する場合がある。
(5)合意解除・・・・報酬請求権には何ら影響しない。
(6)業者の責任において契約が無効または取り消されたとき・・・・報酬請求権は発生しない。


媒介契約の各種類型