第8話:空気も命 | |||||||||||
ニュージーランドの海には、いたるところに'kelp forest'があります。'kelp forest'(コンブの森)とは、海底から水面まで何(十)メートルも伸びるコンブが密集している、まさに「コンブの森」のことをいいます。 私は友だちと、水深5メートル程の浅瀬でアワビを採っていました(ちなみにこちらでも触れたように、ニュージーランドではルールさえ徹底的に守れば素人でもアワビやイセエビなど採ることが許されています)。そこは浅瀬とはいえ、まさに'kelp forest'で、目先1メートルさえまともに見えない程コンブが密集しているところでした。 5メートル潜り、アワビを採っては水面に戻るという作業を繰り返していると、コンブが体の至るところに絡み付いて来ます。特にシュノーケルや、脹ら脛に括り付けてあるダイビングナイフやストラップの金具の部分にはよく絡んでしまうのですが、コンブはヌルヌルしているのですぐに解けるか、少し引っ張ればすぐにブチッと切れるので、それほど危険ではないのです。 ところがその日は、アワビを採り、海面に戻ろうとした時、海面まであと30センチというところで体がビタッと止まってしまったのです。この時点では既に潜ってアワビを採った後なので、息がそろそろ切れる時です。それでも落ち着いて、足を1回ひっぱりますが全く動かない、、、2回目、もっと力を入れてひっぱりますがビクとも動かない、、、3回目、さらに強く引っ張るが、コンブがグチャグチャに絡んでいる足は一向に抜けそうもありません。 「これはマズイ!」と思い上を見上げると、水面がわずか30センチ程のところにあります。人は洗面器1杯の水でも溺れることができると言いますが、まさにそのような気分です。その瞬間、私の視界は端から「ジュワ〜ッ」と暗くなり始めました。気絶する寸前です。ここで私は初めてパニックし、咄嗟にシュノーケルを手で掴み、思いっきり伸ばしたところギリギリ水面まで届いたのです。マスクはもぎ取れてしまいましたが、空気さえあれば命あり。息を取り戻してから落ち着いて足を解き、脱出できたのです。 全てがわずか10数秒ほどの間におこったことだと思いますが、これがもしかして私の人生の中で3番目に死に近かった瞬間だったのかも知れません。 |
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1988年頃に撮影。自転車でマウントクックにも一緒に行ったグレッグです。 今回の話とは別の日に撮った写真ですが、こんな浅瀬でもコンブが密集しているのが分かります。この浅瀬のコンブは太くて分厚いので絡むことは殆どないのですが、もう少し沖に出ると、水深3〜20メートル程のところではもっと細いコンブが密集しているところがあります。 そのようなコンブはヌルヌルしているのですぐに解けるか、少し引っ張ればすぐに切れるのですが、今回の1回限りはそうとう酷く絡んでしまい身動きがとれなくなってしまいました。 |
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