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化学なんて大嫌い!という人のための
風変わりなヒント 第9号
2004年8月7日発行
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<目次>
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1.一風変わった化学の授業
〜 浸透圧について 〜
2.化学をつくった人たち
〜 マイケル・ファラデー(2) 〜
3.あとがき
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1.一風変わった化学の授業
〜 浸透圧について 〜
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今回は浸透圧についてです。
ひとつずつ進めていくことで、思ったよりも簡単なことなんだ、と気
づいてもらえると思います。
半透膜
────
まず、浸透圧のところで出てくる半透膜について簡単に見ておきます。
半透膜というのはとっても目の細かい網みたいなもの、と思ってもら
うのがいいと思います。
その目の細かさは、小さな分子である溶媒(水など)は自由に通り抜
けできるものの、大きな分子である溶質(ショ糖など)は通り抜けられ
ないという微妙な大きさです。
具体例としては、セロファン、ポリビニルアルコール膜やある種の細
胞膜などがあります。
※膜という言葉から連想されるイメージでは、ビニールのようなものを
思い浮かべてしまうかもしれません。
しかし目の細かい網というイメージであれば、通り抜けられるものと、
通り抜けられないものがあることを想像しやすいのではないかと思い
ます。
濃度の違う溶液を混合する
─────────────
さて、浸透圧を考える前置きとして、同じ種類の溶液で濃度の異なる
ものを混合する場合を考えてみます。
まず、仕切りのある容器にそれぞれの溶液を別々に入れておきます。
(このままでは仕切りがあるので、お互いが混ざり合うことはありませ
ん)。
その後で、仕切りをそっとはずしてみるとどうなるでしょうか。
それぞれの溶液が混ざっていく過程で、全体として均一な溶液になろ
うとするので、
・溶質は濃い溶液から薄い溶液の方に拡がっていく
・溶媒は薄い溶液から濃い溶液の方に拡がっていく
ように見えます。
(図にしてみるとこんな感じでしょうか↓)
┃ ├────┤ ┃ ┃ │ │ ┃
┃ │°◇◇°│ ┃ ┠──├────┤──┨
┠──│◇° ◇│──┨ ⇒ ┃ │◇°° │ ┃
┃◇ │◇◇ 濃│°◇┃ ⇒ ┃◇ │◇°◇°│ ◇┃
┃°°└━━━━┘°°┃ ⇒ ┃ °└ ◇°◇┘° ┃
┃°◇°↑仕切り°°薄┃ ┃ ◇°◇°° ° °┃
┗━━━━━━━━━━┛ ┗━━━━━━━━━━┛
濃い溶液と薄い溶液が仕切 仕切りを取り除いたとき
られているとき
※溶質(◇)は濃い溶液→薄い溶液の方に、
溶媒(°)は薄い溶液→濃い溶液の方に移動するように見える。
浸透圧
────
次に、上の場合における仕切りが半透膜だった場合はどうなるかを見
ていきます。
まず、溶質は半透膜を通り抜けられないのでそれぞれの容器内にとど
まります。
しかし溶媒は半透膜を自由に通り抜けできるので、薄い溶液から濃い
溶液の方に移動することができます。
結果的に、濃い溶液の方に溶媒が入っていくことになって溶液が薄め
られ、その体積が増えていく(液面が上がっていく)ことになります。
そしてある一定のところまで溶媒の移動が行われたところで、溶媒が
移動していかない状態になります。
そのときが、液面の上昇する力と外圧とがちょうどつりあっている状
態です。
ここで、上昇してきた液面を元の位置に戻そうとしたときに必要な圧
力を浸透圧と言います。
また、液面の高さの差から生じる部分について、その体積を計算する
ことによっても浸透圧は求められます。
外圧
↓↓↓↓
┃ │ │ ┃ ┃ ├────┤ ┃
┃ ├────┤ ┃ ┃ │◇ °◇│ ┃
┠──│◇°◇◇│──┨ ⇒ ┃ │°◇°°│ ┃
┃°°│°◇°濃│ °┃ ⇒ ┠──│°°°◇│──┨
┃ °└…………┘°°┃ ⇒ ┃ °└…………┘°◇┃
┃°◇ °° °◇ 薄┃ ┃° ◇ °° ° ┃
┗━━━━━━━━━━┛ ┗━━━━━━━━━━┛
濃い溶液と薄い溶液が 半透膜を通って溶媒分子
半透膜で仕切られている が移動する
(最初の状態) (溶質分子は通り抜けられないので
そのまま)
……:半透膜 →ある一定のところで液面の上昇は
◇:溶質分子 止まる。
°:溶媒分子
では、なぜ濃い溶液の方に溶媒分子が移動していくのかを少し考えて
みます。
実は薄い溶液側から濃い溶液側へ一方的に溶媒分子が移動しているの
ではなく、どちら側からも溶媒分子は(反対側の溶液の方へ)移動して
います。
ただし、その移動する速度(あるいは移動する分子の数と言ってもい
いと思います)に差があるので、薄い溶液から濃い溶液の方に溶媒が移
動しているように見える、ということです。
どうして差が生じるのかについては、沸点上昇のところでも少し触れ
たように、「溶質分子が溶媒分子の移動の妨げになるから」です。
濃い溶液の方が溶質分子が多いため、移動する溶媒分子の移動を妨げ
る割合が多くなります。
結果的に薄い溶液よりも濃い溶液の方が、溶媒分子の移動速度が遅く
なってしまう、というわけです。
浸透圧の式について
──────────
浸透圧を求める式は、
Π=CRT
ここで、Π:浸透圧(πの大文字)、C:溶液の濃度(モル濃度)
R:気体定数、T:絶対温度
というものですが、
C=n/V とすると ⇒ ΠV=nRT に変換できます。
(n:溶質のモル数、V:溶液の体積)
さて、この浸透圧の式(ΠV=nRT)と理想気体の状態方程式
(PV=nRT)がよく似ている(というより同じ形である)ことに気
づくと思います。
浸透圧の式を導いたファント・ホッフは、
・気体分子:真空の中で気体分子が自由に飛びまわっている。
・溶質分子:溶媒の中で溶質分子が自由に動き回っている。
というふうに考えれば、気体分子も溶質分子も同じような振舞いをして
いるのだから、よく似た式が導かれるのは納得がいく、と考えました。
厳密に言えば少し違うという説もありますが、おおまかに考えたら同
じような現象なんだと考えてよいと思います。
浸透圧の式は、気体のところで出てきたPV=nRTと同じ形だった
なぁ、と思ってもらえれば十分です。
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☆今回の小さなまとめ☆
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「浸透圧」などというと、難しくて複雑なもののように思ってしまい
がちです。
でもひとつずつ順序立てて考えていくと、今までに知っていることの
組み合わせで説明できてしまいます。
なんだ、たいしたことないんだと思ってもらえるとうれしいです。
次回は「熱化学方程式について」を予定しています。
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2.化学をつくった人たち
〜 マイケル・ファラデー(2) 〜
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前回に引き続き、マイケル・ファラデーを取り上げます。
今回は、有名な電磁気の研究や電気分解について見ていきます。
電磁回転
─────
まず電磁回転についてですが、少しだけ前置きが必要になります。
デンマークの物理学者、エールステッドが、電流を流した導線の近く
に方位磁石を置くと、磁針が動くことを1820年に発見しました。
この発見によって、電気と磁気に何らかの関係があるのではないか、
と各国の研究者が考えるようになります。
そんな中でフランスのアンペールが、2本の平行な導線に電流を流し
たとき、電流が同じ向きならば引き合う力が、逆向きならば反発する力
が働くことを発見します。
他にも次々と電磁気に関する研究が行われていきますが、ファラデー
はそれらをまとめて解説した論文を書きます。
そしてそれまでの様々な研究結果を参考にすることで、導線のまわり
に磁石を回転させる(あるいは逆に、磁石のまわりに導線を回転させる)
実験(電磁回転)に成功します。
これによって、ファラデーの名前は一躍有名になりました。
※ちなみに電気と磁気から機械的な回転運動を生じさせる方法は、現在
のモーターの原理となっています。
電磁誘導
─────
さて、エールステッドの発見により電気から磁気への変換が示されま
したが、ファラデーはその逆に、磁気から電気への変換はできないもの
だろうか、と考えます。
最初は磁石を置いておくことで電流を発生させることができるのでは
ないか、と考えていましたが、それはうまくいきませんでした。
しかし、2つのコイルを用いた実験からヒントを得ます。
まずリングの片側にコイルを巻き、それには電池をつないでおきます。
そしてもう片側のコイルには電流計のみをつないでおきます(それぞれ
のコイルは絶縁してあります)。
これを簡単な図にすると下のようになります。
┌─┓┏───┐
A ┃┃ C A:電流計、C:電池、S:スイッチ
└─┛┗─S─┘ ━:コイル、─:導線
スイッチをつないで電流を流し続けても電流計には何の変化もありま
せんでしたが、スイッチを入れた瞬間と切った瞬間にのみ、電流計に変
化がありました。
このことから、磁気の変化が電流を発生させるのではないかと考えた
ファラデーは、磁石を動かすことで磁界の変化をつくって電流を発生さ
せることに成功します。
これで磁気から電気への変換ができたことになり、電気と磁気に密接
な関係があることがわかりました。
※この結果(電磁誘導)が発電機や変圧器の原理となり、現在の電気を
使う文明への扉を開いたことになります。
(機械的な回転と磁気の作用で電流が発生するというのが発電機の原理
です)。
電気の統一
──────
電気についていろいろと研究を行っていく中で、電気の本質は何なの
かという疑問が生じてくるのは当然のことと言えます。
その当時までに、電気には、摩擦電気(静電気)、電池からのもの、
発電したもの、(電気ウナギなどの)動物が出すものなど、様々な由来
のものが知られていましたが、それぞれが異なるものだと考えられてい
ました。
ファラデーはそれらのひとつひとつについて丹念に調べ、電気として
全て同じものであることを証明しました。
電気分解の法則
────────
有名な電気分解の法則も、ファラデーの電気に関する研究から得られ
たものです。
ちなみに第一法則は、
「電気分解された物質の量は流れた電気量のみに比例する」
(電極、導線の種類や大きさ、電極間距離、電源の種類などには関係し
ない)
第二法則は、
「電気化学当量は化学当量と等しく、同じものである」(☆)
というものです。
(☆)第二法則の「電気化学当量」とか「化学当量」といった言葉はわ
かりにくいですが、その頃は「分子」「電子」などといったもの
について全くわかっていなかったので、敢えてこの表現にしてお
きます。
また、モルを使って具体例で考えるとこうなります。
水の電気分解で水素1gが発生するだけの電気量(電子1モル分)
によって、酸素ならば8g(0.25モル:2価なので)、金属
ナトリウムなら23g(1モル)が得られます。
このときファラデーが実際にどうやって電気量を測定していたのかと
いうと、ヴォルタメーターという装置を自作して測定していました。
ヴォルタメーターというのは、中に入れた水が電気分解されたときに
生じる水素と酸素の体積が正確に測定できる装置で、発生した気体の量
から装置内を通った電気量がわかるという仕組みのものです。
さらに、この法則を発表すると同時に電気分解に関する用語(電解質、
電気分解、電極など)をきちんと制定します。
そのためこの分野においては、いろいろな研究者がばらばらな言葉を
使用して混乱を招くといった事態が避けられました。
※現在、電気分解は工業的に様々なところで使われています。
(食塩水の電気分解による塩素と水酸化ナトリウムの製造や、ボーキ
サイトから得られるアルミナを電解して製造されるアルミニウム、
銅の電解精錬などがあります)
その他の研究
───────
その他の電磁気に関する研究としては、蓄電器(コンデンサー)に関
するものや、物質の常磁性、反磁性を調べたりしたことなどが挙げられ
ます。
また、電気と磁気の関係(電磁誘導)、磁気と光の関係(ファラデー
効果)が認められたことから、電気と光にも関係があるのではないか、
と考えてそれを実証しようとします。
ただ、ファラデーの時代では装置の感度などに問題があって、この研
究はうまくいきませんでした(しかしこれは後になって実証され、現在
では物理学者カーの名前をとってカー効果と呼ばれています)
その当時において電気と光に関連があるかもしれないと考えることだ
けでも、ファラデーの豊かな発想の一端がうかがえます。
ファラデーの人柄
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ファラデーは穏やかで思いやりのある人柄だったと伝えられています。
その人柄は、子供向けのクリスマス講演のうちのひとつをまとめた本、
「ロウソクの科学」を読んでもその言葉の端々から十分にうかがい知る
ことができます。
また、世間での名誉についてはほとんど関心がなく、ナイトの称号を
受けることや、王立協会の会長などに推薦されても全て断っていました。
そういう名誉に伴って生じる時間の損失を、できるだけ避けたかった
のかもしれません。
常に自然科学についての探究心を忘れなかった人だと思います。
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3.あとがき
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電磁気に関する研究を行った1830年代は、ファラデーにとって最
も多忙な時期でした。
多くの論文を書き、数多くの公開講演(金曜講演やクリスマス講演)
と講義、その他様々な雑務を行っています。
そしてその合間に最も好きな電磁気の研究を行っていました。
前回と今回にわたってファラデーについて見てきましたが、正直に言
って、ひとりの人間がここまでたくさんの研究をすることができるのか、
という驚きで一杯です。
本当に好きなことならば、ここまでやることができるという、ある意
味でのお手本のような人と言えるかもしれません。
<あとがきのあとがき>
8/6のウィークリーまぐまぐ[総合版増刊号]で「科学的なメルマガ
35誌」のうちの1つとして紹介していただきました。
これもみなさまのあたたかい励ましのおかげです。
この場を借りてお礼申し上げます。
ありがとうございました。
(ただ、思ってもみなかったことなので、ちょっとびっくりしてもい
ます)。
暑い日がまだまだ続くと思いますが、体調など崩されませぬよう、十
分にお気をつけ下さい。
※参考文献はこちらにまとめてあります。興味がありましたらどうぞ。
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◇◇ 化学なんて大嫌い!という人のための
風変わりなヒント ◇◇
・発行者 後藤 幹裕
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