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化学なんて大嫌い!という人のための 風変わりなヒント
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 第10号(2004.8.21発行)



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   化学なんて大嫌い!という人のための
              風変わりなヒント  第10号
                 2004年8月21日発行

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 <目次>
 ------------------------------------------
 1.一風変わった化学の授業
     〜 熱化学方程式について

 2.化学をつくった人たち
     〜 イェンス・ヤコブ・ベルセリウス

 3.あとがき
 ------------------------------------------

 ────────────────────────────────
  1.一風変わった化学の授業
           〜 熱化学方程式について 〜
 ────────────────────────────────

  今回は熱化学方程式を取り上げながら、化学と熱(エネルギー)に関
 して見ていきたいと思います。


 エネルギー図について
 ───────────

  熱化学の項目のところでは、「エネルギー図」というものが出てきま
 す。はじめに簡単に見ておきましょう。

  例として以下のような場合を考えます。

   ・Aという状態とBという状態があり、Aの状態の方がエネルギー
    が高い。
   ・Aの状態とBの状態のエネルギーの差はQ(kJ/mol)である。

   ※それぞれの状態が持っているエネルギーが実際にはいくらなのか
    についてはわからない場合がほとんどなので、それぞれの状態の
    エネルギーの差に注目します。


  これをエネルギー図に表すと、以下のようになります。


   エネルギー(E)
     ↑ 
     │ A ──────
     │      ↑
     │      Q(kJ/mol)
     │      ↓
     │ B ──────


   ※ここに示したように、上と下でどちらがエネルギーが高いのかを
    示す軸を横に書いておく方がいいようです。


  この例は、エネルギー図としては一番単純な形ですが、それでも言葉
 で説明するよりも、ずっとわかりやすいのではないかと思います。

   ※最初は少し面倒に思えますが、慣れるまでは毎回エネルギー図を
    描いていくと、混乱することがなくなります。



 発熱反応と吸熱反応
 ──────────

  同じく熱化学のところで出てくるのが、「発熱反応」「吸熱反応」と
 いう言葉です。

  エネルギー図のところで示した例を使って考えていきます。


 ○発熱反応

  エネルギーの高いAの状態からエネルギーの低いBの状態に変化した
 とします。
  (A → B の反応が起こったと考えても構いません)


  エネルギーの高いAの状態からエネルギーの低いBの状態に移るため
 には、Bの状態で持つことのできるエネルギー以上のもの(つまりQ
 (kJ/mol)分のエネルギー)を手放さなくてはなりません。

  このとき、手放されたエネルギーは外に放出されるわけですが、ほと
 んどの場合、熱として放出されます(◇)。

  このことから、エネルギーが放出される反応を「発熱反応」と言って
 います。

  ◇放出されるエネルギーは熱としてだけでなく、場合によっては光や
   その他のものとして放出されることもあります。


  ここまでの説明をエネルギー図にすると、こうなります。

   エネルギー(E)
     ↑ 
     │ A ───┬──
     │      │
     │      │Q(kJ/mol) ⇒ ほとんどの場合
     │      ↓        「熱」として放出される
     │ B ──────



 ○吸熱反応

  今度は、発熱反応とは逆の変化について考えます。
  (つまり、B → A の反応を考えます)

  この場合、エネルギーの低いBの状態からエネルギーの高いAの状態
 に持っていかなくてはならないので、不足分のエネルギーを加える必要
 があります。

  どうやって補うのかというと、その分のエネルギーを外部から調達し
 ます。


  多くの場合、外部から熱という形でエネルギーを調達するので、この
 ときの反応を「吸熱反応」と言っています。

  そして熱を持っていかれた外部はその分だけ冷えることになります。


  同じように、ここまでの説明をエネルギー図にすると、こうなります。

   エネルギー(E)
     ↑ 
     │ A ──────
     │      ↑
     │      │Q(kJ/mol)←足りない分のエネルギーを
     │      │       外部から加えてあげる
     │ B ───┴──   (多くの場合、外部は熱を持って
                   いかれることになり、冷える)



 熱化学方程式
 ───────

  さて、ここまで見てきたことを踏まえながら、熱化学方程式について
 見ていきましょう。

  熱化学方程式は、こんな形をしています。

   (左辺の状態)=(右辺の状態)+熱量(kJ)


  まずこの式では、(左辺の状態)と(右辺の状態)のエネルギーを比
 べている、ということに注目してください。

  そして、そこに差がある場合には熱量(エネルギー)で調整し、左辺
 と右辺が等しくなるようにしてあります。
  (だからイコール「=」で結んであるとも言えます)


  またこの式を見ると、(左辺の状態)から(右辺の状態)に変化した
 とき(左辺→右辺への変化のとき)にどうなったか(エネルギーを放出
 したのか、逆に外から吸収したのか)がわかります。


  今まで例として使ってきたAとBの状態を用いてもう少し具体的に考
 えてみます。



 <1>まず、A→Bの変化についてです。

  Aの状態とBの状態ではAの方がエネルギーが高いことを考えると、
 まず左下の図が描けます。次にAからBへの変化を考えれば、エネルギ
 ー図は右下のようになります。


   エネルギー(E)       エネルギー(E)
     ↑              ↑ 
     │ A ──────     │ A ───┬──
     │              │      │
     │           ⇒  │      │Q(kJ/mol)
     │              │      ↓
     │ B ──────     │ B ──────


  エネルギーの高い状態から低い状態に向かう反応なので、発熱反応
 (熱を放出する変化)であることがわかります。


  ここで、Aの状態とBの状態のエネルギーの比較をしながら熱化学方
 程式をつくっていきます。

  A→Bへの変化なので、Aを左辺に、Bを右辺に持っていきます。

    A (=) B  

  しかし、Aの状態とBの状態では持っているエネルギーが等しくない
 ので、熱量(エネルギー)で調整する必要があります。
  ※まだ両辺が等しくないので上の式では等号を括弧書きにしています。


  熱量で両辺を調整する考え方としては、

   a)Aの状態からQ(kJ)を引くことでBの状態に等しくする。
      ⇒ A −Q kJ = B

   b)Bの状態にQ(kJ)を足すことでAの状態に等しくする。
      ⇒ A = B +Q kJ

  の2通りがありますが、どちらも同じことを示しています。


  ただし熱化学方程式では、熱量は右辺に書くきまりになっているので、
 a)の方で考えた場合は熱量Qを移項することになります。


  そうすると熱化学方程式はこうなります。

   A→Bの変化(発熱反応)のとき、 ⇒ A = B +Q kJ
                      ──────────
  となります。



 <2>逆にB→Aの変化のときは、熱化学方程式はどうなるでしょうか。

  考え方は<1>のときと同じなので少し省略して書きます。


  まずエネルギー図は、

   エネルギー(E)
     ↑ 
     │ A ──────
     │      ↑
     │      │Q(kJ/mol)
     │      │
     │ B ───┴──     

  このようになり、B→Aの変化なので、Bを左辺に、Aを右辺に置き
 ます。

    B (=) A

  その後、熱量で調整します。
  同じく2通りの方法で考えることができます。

   c)Bの状態にQ(kJ)を足してAの状態に等しくする。
      ⇒ B +Q kJ = A

   d)Aの状態からQ(kJ)を引くことでBの状態に等しくする。
      ⇒ B = A −Q kJ


  熱量は右辺に書くことを考えれば、熱化学方程式は、

   B→Aの変化(吸熱反応)のとき、 ⇒ B = A −Q kJ
                      ──────────
  となります。




 熱化学方程式についての補足
 ──────────────

  熱化学方程式を書く時には、「対象となる物質」を1モルと置いて、
 つくっていきます。

  生成熱や、燃焼熱などといった用語がいくつか出てきますが、どの場
 合でも「何が」にあたるもの(対象となる物質)を1モルと置いて、そ
 の他の係数を合わせれば、うまく熱化学方程式を書くことができます。


  例えば、メタンの生成熱が+75.3kJの場合(炭素と水素からメタンが
 できる、と考えれば)熱化学方程式は、

    C(黒鉛)+ 2 H2 = CH4 +75.3kJ
                ──
                ↑1モルと置いている

  と書くことができます。


  また、メタンの燃焼熱が+890kJの場合、(メタンが燃えて、二酸化
 炭素と水になる、と考えれば)

    CH4 + 2 O2 = CO2 + 2 H2O(液) +890kJ
    ──
    ↑1モルと置いている

  と書くことができます。



 (余談)熱化学方程式から何がわかるのか?
 ─────────────────────

  化学に限らず何かが変化するときは、特別な条件がない場合、より安
 定な状態の方に進みやすい、ということが言えます。

  ※ここで、より安定な状態というのは、ほとんどの場合、エネルギー
   がより低い状態のことを言います。


  さて、ある反応について熱化学方程式を求めてみたら、発熱反応であ
 るとわかった場合、この反応は(エネルギーの高い状態から低い状態に
 進む方向なので)比較的進行しやすいと言えます。

  逆に吸熱反応だとわかった場合には、その反応は比較的進みにくいも
 のだということが言えます。


  でもこれは狭い意味での熱化学方程式の利用方法です。


  本当のところは、化学という観点から見たエネルギーというものにつ
 いて、少し考えてみましょうということなのだと思います。


  例えば火力発電がいい例だと思います。

  ご存知の通り、石油、石炭、天然ガスなどの炭素化合物を燃やしてエ
 ネルギーを取り出しています。

  これらの原料を燃やすとき、どれだけのエネルギーが得られるかを考
 える上でも、化学とエネルギーの関わりについて見ておくのは大切なこ
 とのひとつと言えます。

  ※化学の範囲をこえますが、その他の発電方法について、その原理を
   おさらいしてみてもいいかもしれません。


 ----------------------
 ☆今回の小さなまとめ☆
 ----------------------

  熱化学方程式は、左辺と右辺のエネルギー状態を比較してつりあうよ
 うに書いただけのものです。

  でもそれを見るだけで、いろいろなことがわかります。


   次回は「酸・塩基と中和反応について」を予定しています。


 ────────────────────────────────
  2.化学をつくった人たち
       〜 イェンス・ヤコブ・ベルセリウス 〜
 ────────────────────────────────

  今回はスウェーデンの化学者、ベルセリウスを取り上げます。
  あまり知られていない人かもしれませんが、現在の化学に大きな影響
 を与えた人のひとりに数えられると思います。



  1779年に生まれたベルセリウスは子供の頃、大変な日々を過ごし
 ます。

  教会に関わる仕事をしていた父親は、彼が4歳のときに亡くなってし
 まい、また再婚した母親も彼が9歳のときに亡くなってしまいました。

  その後、母方の叔父のところに世話になることになった彼ですが、結
 局そこの家族と馴染めずに、飛び出してしまいます。

  そんななかで、近所の農家で住み込みの家庭教師などをしながら、医
 学の道に進もうと考えるようになりました。

  しかし学資が足りなかったので、温泉の効能分析などのアルバイトを
 して学資を稼ぐことになります。


  17歳でウプラサ大学に入った彼は、医学と自然科学を学ぶことにし
 ますが、医学よりも自然科学(特に化学)の方に少しずつ興味が移って
 いくようになります。

  そのため、あやうく医学課程の科目で落第しそうになりますが、自然
 科学の成績がよかったので、なんとか卒業することができました。


  大学を卒業した後は病院での勤務を行いますが、自分で借りた部屋を
 実験室にあてて、余暇の全てを化学研究に費やすようになります。

  そしてこのような彼の姿勢が注目されて、ストックホルム大学の医学、
 薬学助手のポストに就くことができ、後に化学教授に任命されました。

  またスウェーデン科学アカデミーの会員に選出され、化学教授になっ
 たのと同じ頃に会長に選ばれています。



  ベルセリウスの化学に対する貢献として、たぶん最も大きいのは、正
 確な原子量の決定ではないかと思います。

  彼は、ドルトンの原子説(※1)に早くから共感を示して、いち早く
 この説を支持しました。

  しかし、ドルトンが発表した原子量の値には納得できないものを感じ
 たことから、自ら約2000種類の化合物をひとつひとつ精密に分析し、
 40種類にのぼる原子の原子量を決定して公表します。


  ベルセリウスの発表した原子量の値は、現在の値とほぼ一致するほど
 精度の高いものでした(ただし、彼がアボガドロの説を認めなかったた
 め、一部には分子量との混同がありました)。

  当時は個々の研究者によって使われる原子量の値が異なっていたこと
 もあり、混乱のもとになっていました。

  彼の決定した正確な原子量は、化学が発展していく礎になったと言え
 ます。



  ベルセリウスのもうひとつの大きな功績として、元素記号の提案があ
 ります。

  現在までにいくつかの改定や修正が行われましたが、アルファベット
 1文字あるいは2文字で元素を表すという表現方法は現在まで引き継が
 れています。

  ※ちなみにそれまでは、錬金術師が使っていた絵画的なもの、ドルト
   ンの円形記号などがありましたが、広く受け入れられるものではあ
   りませんでした。


  また、この時代の典型的な化学者として、ベルセリウスも新しい元素
 の発見をしています。

  共同で発見したものを含めると、セリウム(Ce)、セレン(Se)、
 ケイ素(Si)、トリウム(Th:※2)の4つの元素の発見に関わっ
 ています。



  その他の功績としては、多くの化学用語の提案を行ったことが挙げら
 れます。

  その中には、

   ・ハロゲン:「塩を形成するもの」という意味から名付けられた。
         現在の17族元素の総称。
   ・異性体:同じ分子式で構造の異なる化合物のこと。有機化合物に
        多い。
   ・同素体:同じ元素の単体で性質が異なるもの。
        例)酸素とオゾン、黄燐と赤燐などがある。

  など、今も使われている用語が多く存在しています。


  さらに研究の傍らで、毎年公表される様々な文献にすべて目を通して
 要約し、彼なりの評論をつけて発行するという、驚異的なことを行って
 いました。

  これにより当時の化学界の権威となったベルセリウスですが、自分の
 考えと合わない論文などについては否定的な態度をとることもありまし
 た(この点は現在から見れば少し残念なところです)。



  さて、原子量の決定のところでもわかる通り、ベルセリウスは非常に
 精密な実験をする人でした。

  ほとんど設備の整っていない実験室で、当時の水準をはるかに超える
 厳密な実験を行ったベルセリウスを、ヴェーラー(一時期ベルセリウス
 の元で研究していました)は、終生尊敬していたといいます。



 ○ 簡単な用語紹介と補足

   ※1 ドルトンの原子説
     元素はそれ以上分割できない原子という粒子から成ること、
     そして、化合物はいろいろな原子が一定の割合で集まってでき
     たものである、という説。
     それまでにわかっていた科学的な根拠に基づいて主張された説
     である。

   ※2 トリウム
     原子番号90番の元素で天然の放射性元素。トリウムが放射性
     元素であることがわかったのは、ずっと後の1896年のこと。


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  3.あとがき
 ────────────────────────────────

  実験の厳密さ、正確さにとことんこだわるというのも、化学者として、
 とてもすばらしいことだと思います。

  新しいことを発見するのももちろん大切ですが、こういう一見地味に
 思えることも化学の進歩にとっては重要である、ということをベルセリ
 ウスは教えてくれているような気がします。



  ※参考文献はこちらにまとめてあります。興味がありましたらどうぞ。
   → http://www13.plala.or.jp/chem-hint/reference.html

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  ◇◇ 化学なんて大嫌い!という人のための          
                     風変わりなヒント ◇◇
  ・発行者 後藤 幹裕
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