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化学なんて大嫌い!という人のための
風変わりなヒント 第11号
2004年9月4日発行
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<目次>
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1.一風変わった化学の授業
〜 酸・塩基と中和反応について 〜
2.化学をつくった人たち
〜 ユストゥス・フォン・リービッヒ 〜
3.あとがき
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1.一風変わった化学の授業
〜 酸・塩基と中和反応について 〜
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今回は、酸・塩基と中和反応についてです。
まず、酸や塩基とは何か、から始めていきます。
酸と塩基
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酸や塩基がどんなものかについて考えるとき、たぶん一番分かりやす
いのが以下の定義だと思います。
酸 :水に溶かしたとき、H+(水素イオン)を出すもの
塩基:水に溶かしたとき、OH-(水酸化物イオン)を出すもの
酸の例としては、塩酸(HCl)とか、硫酸(H2SO4)などが挙げ
られます。
また塩基の例としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリ
ウム(KOH)などがあります。
上の( )内に示した化学式をみれば、酸にはHの部分が、また塩基
にはOHの部分があるので、この定義ならば酸なのか塩基なのかを判別
するのは簡単ですね。
これで酸と塩基がどんなものなのか、を示すことができました。
ところが、ここで少し困ったことが出てきます。
例えば、アンモニア(NH3)はOHの部分を持っていないのに、水
に溶解すると塩基性を示します。さて、アンモニアは塩基なのでしょう
か、それとも塩基ではないのでしょうか?
また、こんな反応はどういうふうに説明すればよいのでしょう?
例)酢酸塩の水溶液に塩酸を加えたときの反応。
(ただし酢酸塩は下の式では酢酸イオンとして示してあります)。
CH3COO- + HCl → CH3COOH + Cl-
酢酸イオン 塩酸 酢酸 塩化物イオン
※塩酸が酸であるのはいいとしても、酢酸イオンはいったい何にな
るのでしょうか?
このように疑問がいろいろと出てきたので、もう少し広い範囲の反応
を説明できるようにしよう、ということになりました。
そこで、酸と塩基の定義を以下のように拡張しました。
酸 :H+を出すことができるもの
塩基:H+を受け取ることができるもの
こうすれば、アンモニアや、先ほどの反応の例もうまく説明できます。
例えば、アンモニアと塩酸の反応では、
NH3 + HCl → NH4+ + Cl-
────
↑H+を受けとっている
のような反応式になり、
左から右に反応が進むことで、アンモニア(NH3)は、「H+を受け
とって」NH4+になっているので、塩基だということがわかります。
また、先の反応の例では、
CH3COO- + HCl → CH3COOH + Cl-(◇1)
───────
↑H+を受けとっている
のように示すことができ、
左から右への反応で、酢酸イオンは「H+を受けとって」いるので、
こちらも塩基であることになります。
さらにこの定義を使って考えていくと、こんなこともわかります。
例として(◇1)の反応の逆(逆反応)を考えます。
CH3COOH + Cl- → CH3COO- + HCl(◇2)
酢酸 塩化物イオン 酢酸イオン 塩酸
この反応で酢酸は、「H+を出す」方なので酸ということになります。
そして、塩化物イオンは、「H+を受け取る」方になるので、塩基と
いうことになります。
※ただし、実際には(◇2)のような反応は非常に起きにくいもの
であることを注意書きしておきます。あくまでも説明のためと思
って割り切ってもらえれば助かります。
このことから、一見すると塩基とは思えないようなものまで、塩基で
あるということができるので、多くの反応の説明ができるようになりま
した。
※そしてもうひとつ、さらに拡張した(ある意味で究極の?)酸・
塩基の定義がありますが、今回はお話しないことにしておきます。
酸と塩基について(補足)
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1)水素イオン(H+)とオキソニウムイオン(H3O+)
今回はどちらの定義でも、酸については、「H+を出すもの」という
ことで見てきました。
ただし実際のところ、「H+」があちこちに動くというのは、少し無
理がある場合もあります。
「H+」は水素原子から電子をひとつ取り除いたもの、つまり陽子そ
のものを表しているとも言えるからです。
では水溶液中ではどうなっているのかと言うと、「H+」が水とくっ
ついたオキソニウムイオン(H3O+)が「H+」の実際の姿です。
(そしてこのことを頭の片隅に置いておいてもらえればと思います)。
従って塩酸の電離は、
HCl → H+ + Cl-
と書くのではなく、
HCl + H2O → H3O+ + Cl-
と書くのが実際の姿を表した書き方です。
さて、このように実際の姿を把握してもらった上で、敢えて次のこと
を書いておこうと思います。
「頭の中で考える場合には、H+(水素イオン)が移動する、という
方法で考えることをおすすめします」
もしかしたら混乱の元になってしまうかもしれませんが、上のように
考える方が単純化することができてよいのではないかと思います。
また、後で出てくる項目についても「H+」を使って考えた方が楽な
場合が多いという理由もあります。
2)アルカリ性と塩基性
アルカリ性と塩基性という言葉の違いについては微妙なところもあり
ますが、一般的には、水溶液の場合に限って「アルカリ性」という言葉
を使うようです。
ですから、ここではもう少し広い意味を含んでいる「塩基性」という
言葉を用いていきます。
強酸、弱酸(強塩基、弱塩基)
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酸や塩基の強さ、弱さについて少し書いておきます。
酸の場合でも塩基の場合でも、強い、弱いの定義は同じ感覚でとらえ
ることができます。
強い:ほとんどが電離してしまうもの。
→酸ならば、すぐにH+を出すことができる。
塩基ならば、すぐにH+を受け取ることができる。
弱い:あまり電離しないもの。
→酸ならば、なかなかH+を出そうとしない。
塩基ならば、なかなかH+を受け取ろうとしない。
※酸・塩基の強弱は、反応後に生成する塩の性質や、他の物質との
反応性を決めるもとになります。
酸、塩基の価数
────────
もうひとつ、酸・塩基のところで出てくるのが「価数」です。
簡単に言えば、
・酸ならば、1分子あたり最大で何個のH+を出せるか
・塩基ならば、1分子あたり最大で何個のH+を受け取れるか
ということです。
ただしこの場合、酸・塩基の強弱は関係ないことに注意して下さい。
例)強酸である塩酸(HCl)の価数は1、
弱酸であるリン酸(H3PO4)の価数は3。
※あくまでも、「最大で」何個出せるか(受け取れるか)に注目し
て下さい。
H+を何個出せるか(何個受け取れるか)が中和反応では重要に
なってきます。
中和反応とは?
────────
最後に中和反応について簡単に見ておきます。
中和とは、酸と塩基の打ち消し合いのことです。
酸と塩基を数えながら、1組ずつペアにしていき、お互いに相殺して
いくことになります。
そして酸と塩基の数がぴったり合ったときを中和点と言っています。
(ただし、中和点のときに溶液が必ず中性であるとは限りません。この
あたりのことは次回説明していきたいと思います)
また、酸と塩基の数の比較ということから、モルの考えが必要になっ
てきます。
酸と塩基の濃度から、常にモル数(分子やイオンの数)を意識するよ
うにするとよいかもしれません。
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☆今回の小さなまとめ☆
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・酸と塩基は、H+(水素イオン)をやりとりする関係です。
・H+の出しやすさ、出しにくさの違い(H+の受取りやすさ、受け取
りにくさの違い)が、酸・塩基の反応を決めています。
次回は 「pHと塩の性質について」を予定しています。
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2.化学をつくった人たち
〜 ユストゥス・フォン・リービッヒ 〜
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今回は、ドイツの化学者リービッヒを取り上げます。
有機化学という分野の確立に、大きく貢献した人です。
リービッヒは、1803年にダルムシュタットで薬物商をしていた家
に生まれました。
父親は仕事のかたわらで、簡単な化学実験などをしていたようです。
そんな雰囲気の中、彼も幼い頃から実験に親しんでいきます。
ただ化学に熱中するあまり、学校(ギムナジウム)の授業の方はさっ
ぱりでした。
15歳のときに薬物商へ徒弟として奉公に行くものの、屋根裏部屋で
行っていた実験で屋根を吹き飛ばしてしまい、実家に戻されてしまいま
す。
困った父親は、知り合いだった大学教授のカストナーにリービッヒを
預けて学ばせることにしました。
カストナーの助手兼学生のような立場で研究をしていたところ、その
才能が認められてフランスへ遊学する機会を得ます。
リービッヒが雷酸塩(※1)の研究についてフランスのアカデミーで
発表したところ、たまたまそれを聴いていたフンボルトという博物学者
に出会います。
そして彼の引き合いで、高名なゲーリュサックの研究室に入れてもら
うことができました。
※当時は、ゲーリュサックの講義を聴くことはできても、研究室に
入るのは普通ではほとんど無理でした。
ゲーリュサックの研究室で彼とともに雷酸銀についての研究を行った
後、リービッヒはフンボルトの推薦で故郷ドイツのギーセン大学教授に
なることができました(21歳のときです)。
リービッヒは長い間爆発性の雷酸塩について研究していました。
(ゲーリュサックの研究室で、雷酸銀に関する研究を行い、それを完成
させたのは既に述べた通りです)。
ところがヴェーラーの研究していたシアン酸(※2)も雷酸と同じ分
子式であることが判明します。
当時は同じ分子式で性質の異なる化合物は存在しないと考えられてい
たので、最初はどちらかが間違っているのだろうと思われていました。
しかし、リービッヒとヴェーラーの双方がもう一度確認した結果、ど
ちらも正しいことがわかります。
これが、異性体というものの存在が示された最初の例になりました。
そしてリービッヒとヴェーラーの友情がこれを機に始まります。
また、リービッヒはヴェーラーと共同で、苦扁桃油(※3)の研究を
行います。
いろいろな化合物を合成していく過程で、いくつかの原子のまとまり
が不変であることに気付きます。
つまり特定の原子が一定のまとまりを持って動くことが確認されたわ
けです。
二人はこの原子のまとまりを「ベンゾイル」と名付けます。
それまで有機化学(有機化合物)については、わからないことばかり
だったのですが、このことがわかってから、有機化合物を体系化する試
みが始まります。
(このような原子のまとまりは、現在では「官能基」と呼ばれ、有機化
合物を分類したり理解したりするための重要な手がかりになっています)
リービッヒが有機化学に最も貢献したと言われる理由のひとつが有機
化合物の分析方法を改良・発展させたことです。
ゲーリュサックのところで学んだ方法やベルセリウスが行っていた方
法を改良して、熟練を要しない、誰でもできる簡単な方法(※4)にし
ていきました。
これによって、それまでより各段に多くの有機化合物が分析され、有
機化学が発展していく基礎となりました。
また、リービッヒの行った教育方法は、当時としては画期的なもので
した。
その頃の大学の研究室は、教授が個人的に少数の学生を見るだけでし
たが、リービッヒは多くの学生を集め、講義の他に実験室で学生が自ら
実験して学ぶ方法を採用しました。
そしてこの教育方法は、すぐに各地に広まっていきます。
(現在の理科系の大学教育のもとになっているシステムでもあります)
さて、リービッヒは激しい性格の人だったと伝えられています。
学問上の議論が行き過ぎ、喧嘩同然となって相手と断交したり、疎遠
になったりすることも多かったようです。
ただ、リービッヒは単なる激情家だったわけではなく、あたたかい一
面がありました。
先生であるゲーリュサックへの恩義は終生忘れることがありませんで
したし、ヴェーラーへの友情は生涯にわたって変わることがありません
でした。
リービッヒの元に世界各国から多くの学生が学びにきたことを考えて
も、人間味のある人であったことは容易に推察できます。
穏やかな性格のヴェーラーとの間に多数の往復書簡が残っていて、ふ
たりの厚い友情を現在に伝えてくれています。
○ 簡単な用語紹介と補足
※1 雷酸(雷酸銀)
雷酸は、HONC(雷酸銀はAgONC)で表される。雷酸塩
は衝撃により爆発する性質がある。
※2 シアン酸(シアン酸銀)
シアン酸は、HOCN(シアン酸銀はAgOCN)で表される。
雷酸塩と異なり、シアン酸塩には爆発性がない。
※3 苦扁桃油(くへんとうゆ)
バラ科の植物クヘントウから得られる無色の油状成分。ベンズ
アルデヒドが主成分で、香料などにも用いられる。
※4 リービッヒによる有機化合物の分析方法
試料を燃やして出てくる炭素由来の二酸化炭素と、水素由来の
水を正確に測定することで、有機化合物の組成を求める方法。
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3.あとがき
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リービッヒの名前を聞くと、私はまず「リービッヒ冷却器」が頭に浮
かびます。
冷却効率はジムロート型の方がよいのですが、単純な構造でいろんな
場合に使えるため、わりと重宝していました。
リービッヒ冷却器に限りませんが、人の名前のついた実験器具を見な
がらその人のことに思いをめぐらしてみるのも、ときにはいいかもしれ
ませんね。
※参考文献はこちらにまとめてあります。興味がありましたらどうぞ。
→ http://www13.plala.or.jp/chem-hint/reference.html
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◇◇ 化学なんて大嫌い!という人のための
風変わりなヒント ◇◇
・発行者 後藤 幹裕
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