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化学なんて大嫌い!という人のための
風変わりなヒント 第12号
2004年9月18日発行
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<目次>
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1.一風変わった化学の授業
〜 pHと塩の性質について 〜
2.化学をつくった人たち
〜 フリードリッヒ・ヴェーラー 〜
3.あとがき
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1.一風変わった化学の授業
〜 pHと塩の性質について 〜
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今回はpHと中和反応で生成する塩について見ていきます。
(前回と同様に化学式が出てきますが、説明のために使っているだけ
なので、あまり気にしないようにしてもらうと助かります)。
最初は前回のおさらいとして、酸と塩基がどんなものだったかをもう
一度確認しておきます。
酸 :H+(水素イオン)を出すことができるもの
塩基:H+を受け取ることができるもの
でした。
これを踏まえた上で、まずはpHから見ていきます。
pHについて │
───────┘
pHというのは、溶液の酸性、あるいは塩基性を表す目安(指標)の
ことです。
どういうものなのかについて、少し詳しく見ていきましょう。
まず最初に、水について考えます。
水は少しだけですが、こんなふうに電離しています。
H2O → H+ + OH-
(本当のところは、2H2O → H3O+ + OH- です。
前回と同じ理由で上では簡単に書いてみました。また、この反応
は平衡反応なのですが、それも省略しています)
25℃の水が中性のとき、H+とOH-はどれくらいの量が存在してい
るのか(どれくらい電離しているのか)というと、
水1リットルあたり、1×10の−7乗モル(1×10-7 mol/l
= 0.0000001 mol/l)というかなり少ない濃度であることがわかってい
ます。
ここで中性の水に、少量の酸を加えてみるとどうなるでしょうか。
酸は「H+を出すもの」なので、酸の加えられた水(水溶液になりま
す)の中のH+の濃度は高くなります。
たくさんの酸を加えれば、それだけ水溶液の酸性の度合いが強くなっ
ていくのと同時に、H+の濃度が高くなっていきます。
ということは、水溶液の酸性の度合いを測る目安として、水溶液中の
H+の濃度を使うことができる、というわけです。
では、中性の水に塩基を入れた場合には、どうなるのでしょうか。
塩基は「H+を受け取るもの」なので、塩基を加えられると水溶液中の
H+の濃度は低くなります。
塩基を多く加えれば、それだけ水溶液の塩基性の度合いも強くなって
いくのと同時に、H+の濃度が低くなっていきます。
というわけで、塩基性の度合いを測る目安としても、H+の濃度を使う
ことができるわけです。
繰り返しになりますが、25℃の中性の水において、H+の濃度は、
1×10-7 mol/l = 0.0000001 mol/l
という、とても薄い濃度でした。
水溶液の酸性の度合い(あるいは塩基性の度合い)をH+の濃度で表す
ことにしよう、と言っても、いちいち10の何乗とか、0.00・・・
などと0をたくさん書いていくのはとっても面倒です。
そこで、「何乗」にあたる部分で示せば、わかりやすいし比較もしや
すいのではないか、ということで導入されたのがpHです。
とりあえずpHの定義を書いておくとこうなります。
pH = −log[H+]
※ここで[H+]というのは、H+の濃度のことを表しています。
例えば、中性の水ならば、[H+]=1×10-7 mol/l なので、
pHは7になります。
また、0.1 mol/lの塩酸ならば、[H+]=0.1 mol/l =1×10-1 mol/l
なのでpHは1になります。
ただし塩基性の場合は少し工夫が必要です。
まず水溶液中のH+の濃度([H+])とOH-の濃度([OH-])には下
のような一定の関係があることに注目します。
[H+]×[OH-]=1×10-14 (mol/l)2 (◇)
従って、[OH-]の値がわかれば[H+]を求めることができます。
例えば、0.1 mol/lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液では、
[OH-]=0.1 mol/l = 1×10-1 mol/l
となるので、上の(◇)で示した式を使うことで、
[H+]= 1×10-13 mol/l が求められることから、
このときのpHは13ということになります。
さて、pHの値と酸性、中性、塩基性の関係はこうなっています。
・pHが7より小さいと酸性
・pHが7なら中性
・pHが7より大きいと塩基性
身のまわりにあるもののpHがどのくらいなのかを考えたり、調べた
りしてみると新しい発見があっていいかもしれません。
中和反応で生成する塩の性質 │
──────────────┘
塩を溶解させた水溶液が酸性なのか塩基性なのかを見分けるときに、
すぐ判断できる方法があります。
それは、塩をイオンに分けてみて、それぞれのもとになっている酸と
塩基が強いか弱いか、で比較して判断する方法です。
具体的な例で示すとこうなります。
1)塩化ナトリウム(NaCl)の場合、
強酸である塩酸(HCl)と、
強塩基である水酸化ナトリウム(NaOH)から生成するので、
→お互いに引き分けで水溶液は中性になる。
2)酢酸ナトリウム(CH3COONa)の場合、
弱酸である酢酸(CH3COOH)と、
強塩基である水酸化ナトリウムから生成するので、
→水溶液は(強い方の)塩基性になる。
3)塩化アンモニウム(NH4Cl)の場合、
強酸である塩酸と、
弱塩基であるアンモニア(NH3)から生成するので、
→水溶液は(強い方の)酸性になる。
でも、これではあまりにも「化学は暗記ものです」と宣言しているみ
たいな気がするので、もう少し詳しく見ていきます。
1)の場合、塩化ナトリウムは水溶液中で、
NaCl → Na+ + Cl-
のように電離しています。
このとき、Na+(ナトリウムイオン)にもCl-(塩化物イオン)に
もH+を出したり、受け取ったりする能力がありません。
Cl-はH+を受け取れそうな気がしますが、塩酸が以下のように完全
に電離することを考えれば、それはまずありえないものだということが
わかります。
HCl → H+ + Cl-
※水溶液中で上の反応の逆反応(右から左への反応)は、ほとんど
起こりません。
このような理由で塩化ナトリウムの水溶液は、H+を出したり、受け
取ったりすることに関係がないため中性になります。
2)の場合は、酢酸イオン(CH3COO-)が問題になります。
酢酸は水溶液中であまり電離しません。
ということは、
CH3COOH(酢酸)と、
電離した後の CH3COO- + H+(酢酸イオン+水素イオン)
を比較した場合、
圧倒的に酢酸の方が多いわけです。
つまり、いったん電離したとしても、ほとんどの場合、酢酸イオンは
H+を受けとって酢酸に戻ってしまいます。
(つまり、こうなりやすい↓。
CH3COO- + H+ → CH3COOH)
ということで、酢酸ナトリウムの水溶液に存在する酢酸イオンは、ま
わりの水から「H+を受け取って」しまうという、塩基の定義そのまま
の存在なので、水溶液全体で見ると塩基性になってしまうわけです。
※反応式で書くとこうなります(注:本当は平衡反応です)。
CH3COONa + H2O → CH3COOH + Na+ + OH-
3)の場合はアンモニウムイオン(NH4+)に注目してみて下さい。
アンモニアは弱塩基性なので、やはりほとんど電離しません。
つまりNH4+であるよりも、H+を出してNH3になりやすいと言えま
す。
NH4Cl + H2O → NH3 + H3O+ + Cl-
NH4+が「H+を出す」という点で、酸の定義がそのままあてはまり、
水溶液は酸性になるというわけです。
さて、ここまで考えてくると、中和点で中性になるもの、酸性になる
もの、塩基性になるものがある理由が少し見えてきます。
「中和」という、酸と塩基の数合わせに関することと、そのときの水
溶液の性質は違うものなんだ、ということを、前回と今回の内容からほ
んの少しでも把握してもらえるとうれしいです。
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☆今回の小さなまとめ☆
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・pHは、その溶液が酸性なのか塩基性なのかを簡単に判断すること
ができるように考えられた、単なる指標です。
・塩の水溶液が示す性質については、それを構成するイオンの性質を
考えることで、判断がしやすくなると思います。
次回は 「酸化と還元について」を予定しています。
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2.化学をつくった人たち
〜 フリードリッヒ・ヴェーラー 〜
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今回はドイツの化学者、ヴェーラーを取り上げます。
リービッヒとともに有機化学の確立に貢献した人です。
ヴェーラーは1800年にドイツのフランクフルト近郊で生まれまし
た。
化学実験と鉱物採集が大好きで、学業の方にはあまり身が入らなかっ
た少年時代だったといいます。
マールブルク大学に入って医学を学びますが、有名な化学者であるグ
メーリンのいるハイデルベルグ大学に移り、医学を学びながら彼の講義
を聴こうとします。
しかしグメーリンからは、ヴェーラーの化学の知識は十分なので講義
を聴く必要はないと言われます。
その代わりに、彼の実験室を使うことを許可してもらいました。
この実験室でシアン酸とその塩の研究を行っていきます。
最終的にヴェーラーは医学の学位を取りますが、グメーリンの勧めで
化学に転向することになります。
そして、スウェーデンのベルセリウスの元で研究を行う機会を得ます。
わずか1年という短い期間でしたが、このときの経験はヴェーラーに
とって終生忘れがたいものとなりました。
帰国後はベルリンやカッセルで教鞭をとった後、ゲッティンゲン大学
の化学教授に迎えられて生涯そこにとどまることになります。
ヴェーラーといえば、最も有名なのが尿素(※1)の人工合成です。
きっかけは全くの偶然でした。もともとシアン酸アンモニウム(※2)
を得る目的で、シアン酸塩とアンモニウム塩を水溶液中で反応させた後
に水を蒸発させたところ、尿素が得られたという経緯です。
つまり、シアン酸アンモニウムの水溶液を加熱することで尿素が得ら
れることがわかったということになります。
当時、有機化合物は生物だけが作り出すことができると思われていた
(生気論)ので、無機化合物であるシアン酸アンモニウムから有機化合
物の代表である尿素ができたことは、かなり衝撃的なことでした。
そしてこの実験がきっかけとなって、生気論に対する疑問が出てくる
ようになりましたが、必ずしも全ての化学者がそう思ったわけではなか
ったようです。
(後にヴェーラーのもとで学んだコルベが完全な無機物質を原料にして
酢酸を合成したことで、ようやくこの問題は決着することになります)。
また、シアン酸と雷酸の分子式が同じであったことから始まるリービ
ッヒとの友情は、リービッヒが亡くなるまで続きますが、彼との共同研
究が有機化学という分野の確立に大きく貢献しました。
(このあたりのことは前回のリービッヒの項に書いた通りです)。
その他の有機化学の分野での研究としては、アルカロイドやヒドロキ
ノンに関するものなどがあります。
さて、ヴェーラーのイメージとしては、どうしても有機化学の分野で
の業績が目立ちますが、無機化学の分野での功績も数多く存在します。
デンマークのエールステッドが発見したアルミニウムを、最初に純粋
な形で取り出すことに成功したのもヴェーラーです。
アルミニウムは反応性の高い元素なので、過去に幾人かの化学者が挑
戦しては、その都度はね返されてきました。
ヴェーラーの方法は精製した塩化アルミニウムに金属カリウムを反応
させてアルミニウムの単体を得る方法で、当時最も純粋なアルミニウム
を得ることができる方法でした。
しかしその工程が複雑なのが難点で、アルミニウムが大量に供給され
るようになるのはもっと後のことになります。
※ちなみにアルミニウムの工業的な製造方法を確立したのは、偶然
にもヴェーラーの孫弟子にあたる人(アメリカ人のホール)で、
その方法は現在も用いられています。
アルミニウムのほかにもケイ素やホウ素に関連した研究、リンの製法
や炭化カルシウムからのアセチレンの生成など、挙げていけばきりがな
いほど多くの研究をヴェーラーは行っています。
また彼は研究だけでなく、リービッヒと同様に教育にも力を入れてい
ました。
世界中から彼の元に多くの留学生がやってきましたし、彼の講義を受
講した学生も8000人を超えているというから驚きです。
さらに、多くの教科書や論文の翻訳を一人で行って、他国の優れた研
究や業績を数多く紹介していきました。
ドイツがその後のヨーロッパでもっとも化学の発達した国になってい
ったのは、このようなことが背景にあったからと言ってもいいと思いま
す。
ヴェーラーは穏やかな性格で、なるべく口論などは避けるようなタイ
プの謙虚な人柄だったと言われています。
リービッヒへの手紙に書かれている言葉の中から、ヴェーラーの心の
あたたかさを感じるのは、たぶん私だけではないと思います。
○ 簡単な用語紹介と補足
※1 尿素
構造は(NH2)2COであり、動物の尿から見出された化合物。
現在は肥料や尿素樹脂の原料などに使用されている。
※2 シアン酸アンモニウム
構造はNH4OCN であり、尿素とは異性体の関係にある。
条件をうまく選べば尿素から合成することも可能。
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3.あとがき
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リービッヒとヴェーラーの性格はほとんど正反対と言ってよいほど違
っていましたが、逆にそういうところがお互いにとってよかったのかも
しれません。
ただ、だからといって性格が違っていればすべてうまくいくのかとい
うと、もちろんそれだけでは長い間の友情を保つことは難しいでしょう。
ふたりの場合は化学に対する想いや目指す方向が同じだったので、多
くのことで共感することができたのだと思います。
親友とこのような友情を保っていくことができたらいいな、とこの項
を書き終わってから思いました。
※参考文献はこちらにまとめてあります。興味がありましたらどうぞ。
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◇◇ 化学なんて大嫌い!という人のための
風変わりなヒント ◇◇
・発行者 後藤 幹裕
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