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化学なんて大嫌い!という人のための
風変わりなヒント 第13号
2004年10月2日発行
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<目次>
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1.一風変わった化学の授業
〜 酸化と還元について 〜
2.化学をつくった人たち
〜 アントワーヌ・ローラン・ラヴォアジェ 〜
3.あとがき
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1.一風変わった化学の授業
〜 酸化と還元について 〜
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今回から「酸化・還元」に関連する事柄について見ていきます。
化学を学ぶときに、もしかしたらここが一番混乱しやすいところかも
しれません。
(正直に言うと、私が高校生のときにはあまり理解できていなかった
ところです)。
そのため、ゆっくりひとつずつ確認しながら進めていくつもりです。
酸化と還元(1)〜酸素との結びつき〜
───────────────────
酸化・還元という項目の中で、いちばんイメージしやすいのが、この
定義です。
酸化:酸素がくっつくこと
還元:酸素が離れること
酸化という用語が「酸素と化合する」という言葉を元にしていること
から見ても、これはわかりやすいのではないかと思います。
よく使われる例ですが、銅の反応で、
A) 2Cu + O2 → 2CuO (銅を加熱する)
B) CuO + H2 → Cu + H2O
(水素の中に酸化銅(II)を入れる)
という反応式が出てきます。
この反応式で、「銅(Cu)を基準に考える」と、
A)は銅に酸素がくっついたので、「酸化された」
B)は酸化銅(II)から酸素が離れたので、「還元された」
ということができます。
酸化と還元(2)〜水素との結びつき〜
───────────────────
また、酸化・還元では、水素との結びつきで考えることもあります。
そのときは、酸化と還元の定義はこうなります。
酸化:水素が離れること
還元:水素がくっつくこと
例としては、以下のようなものが挙げられます。
C2H5OH ⇔ CH3CHO
エタノール アセトアルデヒド
エタノールからアセトアルデヒドへの反応(左から右への反応)では、
水素が離れるので「酸化」です。
また、アセトアルデヒドからエタノールへの反応(右から左への反応)
では、水素がくっついて(増えて)いるので「還元」になります。
※ちなみにここまでの定義は有機化学のところでよく出てきます。
有機化学において「酸化・還元」というときには、酸素あるいは水
素が「くっついた」のか、それとも「離れた」のかということを考
えます。
簡単にまとめると、
・酸素がくっついた、あるいは、水素が離れた
⇒ (対象となる化合物が)酸化された
・酸素が離れた、あるいは、水素がくっついた
⇒ (対象となる化合物が)還元された
になります。
酸化と還元(3)〜電子のやりとり〜
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さて、ここまでは酸素や水素がくっついたり離れたりするということ
でイメージしやすかったのですが、これらの定義にあてはまらない反応
をどうするのか、という問題が次に出てきます。
例えばこんな反応はどう考えたらよいのでしょうか。
2KI + Cl2 → 2KCl + I2 (◇)
(ヨウ化カリウムと塩素を反応させると、塩化カリウムとヨウ素が生
じる反応)
酸素も水素も関わっていない反応です。
この反応は酸化・還元に関わる反応なのでしょうか。
結論から言うと、(◇)の反応も「酸化・還元反応」になります。
そしてそれをうまく説明するためには、酸化・還元の定義を広げる必
要があります。
拡大した定義をまず示すと、以下のようになります。
酸化:相手に電子を与えること(=自分は電子を失う)
還元:相手から電子をもらうこと(=自分の電子が増える)
ここまで来ると、「酸化・還元」というのは「電子のやりとり」であ
る、ということになります。
でも、電子を与えている、もらっているという関係が(◇)の反応式
を見てもわからないじゃないか、という声が聞こえてきそうです。
確かにその通りです(反応式を見ただけではわかりません)。
そこで、新たに「酸化数」という考え方(概念)を使って考えること
になります。
酸化数について
────────
酸化数というのは、化合物中の原子それぞれに対して割り当てられた
電子の数が、いくつになるのかを相対的に示すものです。
細かいルールがたくさんあるので少しやっかいなのですが、今回はそ
こには触れずに、考え方を示しておきます。
実際には、化合物やイオンなどの全体で電子を共有しているので、ど
の原子が何個の電子を持っているのか、ということを本当は決めること
はできません。
しかし便宜上、電子を割り当てるルールとして、電気陰性度の大きい
方の原子に所有権(みたいなもの)があるというように考えます。
そしてこの考え方を使って、反応の前後で電子の数を調べてみると、
酸化・還元反応が説明しやすくなる、というわけです。
先に出てきた(◇)の反応式を例にして見てみます。
(酸化数をそれぞれの原子の下の[ ]内に示してあります)
2KI + Cl2 → 2KCl + I2 (◇)
[+1][-1] [0] [+1][-1] [0]
これを見ると、ヨウ素(I)の酸化数が−1から0に、塩素(Cl)
の酸化数が0から−1になっていることがわかります。
このことから、ヨウ素は反応の結果、電子をひとつ失って(相手に与
えて)酸化され、塩素は電子をひとつもらって還元された、ということ
になります。
※酸化数がマイナスならば電子を余分に持っているということです。
逆に酸化数がプラスならば電子を失っていることになります。
電子はマイナスの電荷を持っているので、それに合わせて酸化数の
符号が決められています。
また、酸化数の増減と電子の増減には関係があるので、
・酸化数が増える = 電子を失う(相手に電子を与える)
= 酸化される
・酸化数が減る = 電子をもらう = 還元される
ということになります。
そして当然のことながら、最初に出てきた銅に関する反応も、酸化数
を使って考えた場合でもきちんと説明できます。
A) 2Cu + O2 → 2CuO
[0] [0] [+2][-2]
→銅(Cu)は酸化数0から+2になっているので「酸化された」
ことになります。
B) CuO + H2 → Cu + H2O
[+2][-2] [0] [0] [+1]*2[-2]
→酸化銅(II)(の銅)は酸化数+2から0になっているので
「還元され」、
一方の水素は酸化数0から+1になっているので「酸化された」
ことになります。
言葉の問題
──────
さて、酸化・還元のところでは、言葉の使い方(言いまわし)を間違
えないことが肝心です。
もう少し詳しく言うと、「酸化(還元)する」と「酸化(還元)され
る」の違いをきちんと押さえておくということになります。
もし逆の使い方をしてしまうと、全てが反対になってしまうので注意
が必要です。
そこで混乱しないためには、まず対象とするものを決めることが必要
になります。
(「何について考えるのか」という視点で見るとよいかもしれません)
そしてその対象とする化合物が「酸化された」のか「還元された」の
かを考えると間違えずに済みます。
例えば上で出てきた酸化銅(II)の反応の場合、
CuO + H2 → Cu + H2O
酸化銅(II) 水素 銅 水
酸化銅(II)について見ると、反応後に「還元されて」銅になってい
ます。
一方、水素について見ると、反応後は「酸化されて」水になっていま
す。
というようになります。
※これを逆に言ってしまうと、ひどく混乱してわけがわからなくな
ってしまうので、注意してください。
酸化・還元を学ぶ意味合い
─────────────
ここまで、いろいろと見てきましたが、酸化・還元のところで大切な
のは、反応について個別に覚えることでも、酸化数を計算することでも
ありません。
ある物質(化合物)の反応性(反応しやすいか、反応しにくいか)に
ついて電子を仲立ちにして考えてみよう、ということです。
そして電子の動きを通して反応を見ることや、反応には電子が関わっ
ているということが、なんとなくでもわかってもらえるならば、それで
十分なのではないかと思います。
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☆今回の小さなまとめ☆
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酸化・還元反応は「電子のやりとり」であると考えれば、少しだけわ
かりやすくなると思います。
(酸化数は、酸化・還元反応を考えるための道具です)。
そして化学反応に電子が関わっていることを、なんとなくでも感じて
もらえると、化学に対する理解が進みます。
次回は 「酸化剤と還元剤について」を予定しています。
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2.化学をつくった人たち
〜 アントワーヌ・ローラン・ラヴォアジェ 〜
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今回はフランスの化学者、ラヴォアジェを取り上げます。
近代化学の父と呼ばれている人です。
ラヴォアジェは1743年にパリの裕福な家庭に生まれました。
小さい頃に母親をなくしたため、叔母に育てられることになります。
彼の両親はともに法律家の家系だったので、周りからもそうなるよう
に期待されます。
そしてパリで最も有名な(そして最高の)学校であるマザラン学院
(コレージュ・マザラン)で学びました。
ラヴォアジェはそこで法律の学位をとって弁護士の資格を取るのです
が、結局は在学中から興味を持ち続けた科学の道に進むことになります。
最初は、ラヴォアジェ家が親しくしていた地質学者のゲタールの助手
として、フランス全土の鉱物分布や地質図をつくる手伝いをします。
その後、市街地の照明に関する懸賞論文で認められ、25歳にしてフ
ランス科学アカデミーの準会員に選ばれます(1年後に正会員となりま
した)。
彼は、まず最初に古代ギリシア以来の四元素説(※1)に疑問を持ち
ます。
その当時は、水を繰り返し蒸留すると土に変化するという、四元素説
をもとにした考えが信じられていました。
そこで、水を特殊なガラス容器に入れて101日間連続で熱し、得ら
れた土のような沈殿物と、使用したガラス容器の重さを精密に測定する
ことで、それが容器由来のものであることを証明しました。
これにより、科学的根拠のない四元素説を打ち砕くことに成功します。
次に、燃焼に関する研究を行います。
当時の燃焼についての考え方は、物が燃えるとフロギストンという成
分が放出される、というのが定説でした(これをフロギストン説(※2)
と言います)。
ラヴォアジェも最初の頃はその説を学んでいましたが、自分で実験を
するうちに、その説がどうもおかしいということに気付きます。
フロギストン説が正しいとすると、物が燃えた後で、その物質は軽く
ならなければいけないのですが、彼が行った精密な実験では、どんな場
合でも重量が増加していたからです。
そこで、彼はフロギストン説が間違いであることを、以下のような実
験で実証します。
1)まず、密閉容器内で重さを測定しておいた錫(すず)を燃やし
ます。
2)錫を燃やす前と後とでは、容器を含む全体の重量の変化はあり
ませんでした。
3)そこで、密閉されていた容器を開けると、空気が容器内に入り
込みました(注:これは容器内にあった酸素が消費されたことに
より、燃焼後の容器内が少しだけ減圧の状態になるからです)。
4)その上でもう一度全体の重量を測定して、入りこんだ空気の重
さを求めます。
5)また、燃やした錫を取り出して重量を測定し、その増加分が、
入りこんだ空気の重さとほとんど同じであることを確認します。
このことから、錫が燃えた後の重量の増加は、容器の中の空気の一部
と錫が結びついた結果であることがわかります。
すなわち、燃焼は、フロギストン説で言うような、何かを放出する現
象ではなく、空気との結合(実際は酸素との結合)を意味することが明
らかになりました。
そして、このような一連の実験から、後に質量保存の法則(※3)と
して知られるようになる法則を見出します。
ラヴォアジェの功績として、もうひとつ大きなものは、それまで個々
の化学者や地域によって異なっていた化合物の呼び名を、きちんと体系
化したことです。
食塩を塩化ナトリウム、硫酸と銅から得られる塩を硫酸銅というよう
に、化合物の組成をもとにした命名法をつくり、用語を統一化しました
(この命名法の基本的な考えは現在まで受け継がれています)。
また、化学的な方法では分解できないものとして元素を定義し、分類
しました(ただし、この中には、後に化合物であるとわかったものや、
元素でないものも含まれてはいました)。
そして、これらの命名法や実験方法、様々な化学の理論をまとめた入
門書的なものとして「化学原論」という本を出版します。
この本は、次の世代の化学者にとって必読書ともいえるものとなり、
大きな影響を与えることになります。
その他に、アルコール発酵でも質量保存の法則が成り立つことを確認
したり、生物の呼吸が燃焼と同じ現象であることを示したりするなど、
時代に先んじた研究を行っています。
さて、ラヴォアジェというと、研究しかしていない人のような印象が
ありますが、実際はフランスのためにいろいろなことを行っています。
一例を挙げるだけでも、火薬の製造方法の改良、様々な農業計画の立
案、各種の団体・組織の理事や委員および会計の仕事、度量衡の合理化
(後のメートル法につながる)など、挙げていけばきりがないくらいの
仕事をしていました。
そして彼がそのような多忙を極めている中でフランス革命が起き、時
代が大きく変わっていくことになります。
徴税請負人(※4)でもあったラヴォアジェは、行過ぎた革命ともい
える恐怖政治のもとで告発され、逮捕されます。
そして即決裁判の後、断頭台に送られました。
(恐怖政治の終わりとともに、彼の名誉が回復されたのが唯一の慰め
かもしれません)
ラヴォアジェ亡き後は、彼の著書などから影響を受けた様々な化学者
によって近代化学が発展していくことになります。
○ 簡単な用語紹介と補足
※1 四元素説
根源的な元素として、空気、火、水、土の4つを考え、すべて
の物質がこの4つの組み合わせで成り立っているという説。
※2 フロギストン説
物が燃えるとフロギストン(燃素)と呼ばれるものが放出され
て、灰が残るという説。
この頃になると、あらゆる化学反応にフロギストン説を適用し
ようとして混乱していた。
※3 質量保存の法則
化学反応の前後において、物質の全質量は変化しないという法
則。
現在では質量とエネルギーは交換可能なことがわかっているの
で、つきつめていくと多少問題になる場合もあるが、普通の化
学反応を考える上では十分に成り立つ。
※4 徴税請負人
革命前のフランスでは、税金を集める仕事を民間に委託してい
た。
国に代わって税金を集め、集めた税金の中から一定額を国に納
める仕組みになっていたので、不正の温床にもなりやすかった。
→ラヴォアジェがこの仕事を行っていたことについては、人によ
っていろいろな感じ方があると思います。
ただ、当時の水準において極限まで精密さを求めた研究には、
相当なお金が必要だったのだろうということは十分に理解でき
ます。
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3.あとがき
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「酸化」というと思い出すのが中学のときに行ったある実験です。
スチールウール(わからない方は「金たわし」のようなものと思って
下さい)を燃やすと、燃やす前に比べて重量はどうなるのか、という実
験です。
私のいたグループは、燃焼後も重量が増加しなかった数少ないグルー
プのひとつでした。
実験に失敗した原因は後片付けのときにようやく判明します。実験台
に飛び散った破片を回収しなかったからです。
当時から実験だけは率先して行っていた私のミスなのですが、思い出
すたびに笑ってしまいそうになる失敗実験のひとつです。
(私の失敗した実験についてはまだまだありますが、機会をみながら
また書いていきたいと思っています)。
※参考文献はこちらにまとめてあります。興味がありましたらどうぞ。
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◇◇ 化学なんて大嫌い!という人のための
風変わりなヒント ◇◇
・発行者 後藤 幹裕
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