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化学なんて大嫌い!という人のための 風変わりなヒント
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 第23号(2005.9.30発行)



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   化学なんて大嫌い!という人のための
              風変わりなヒント  第23号
                  2005年9月30日発行

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 <目次>
 -------------------------------------------
 1.一風変わった化学の授業
     〜 化学平衡の移動について

 2.化学をつくった人たち
     〜 ヘルマン・シュタウディンガー

 3.あとがき
 -------------------------------------------

 ────────────────────────────────
  1.一風変わった化学の授業
          〜 化学平衡の移動について 〜
 ────────────────────────────────

  今回は化学平衡の移動についてです。
  条件が変化した場合、どちらに平衡が移動するか、について見ていき
 ます。


 ルシャトリエの原理について │
 ──────────────┘

  可逆反応が平衡状態のときに、外から温度や圧力などの変化を与える
 と、それまでの平衡状態とは異なる平衡状態になります。

  これを化学平衡の移動(あるいは単に平衡の移動)と言います。

  そして条件を変えたときに、どのように平衡が移動するのかを考える
 には、以下の「ルシャトリエの原理」を使います。


  ◎ルシャトリエの原理:化学平衡の条件を変化させると、その影響を
             やわらげる方向に平衡が移動する。


  どんな条件の変化によって、どういうふうに平衡が移動するのかにつ
 いて見ていきます。



 反応条件の変化と平衡の移動 │
 ──────────────┘

  条件の変化とそれによる平衡の移動を簡単にまとめると次のようにな
 ります。


    条件の変化      平衡の移動の向き
  ──────────────────────────────── 
  1)濃度を増加させる・・濃度を減少させる方向
  2)濃度を減少させる・・濃度を増加させる方向
  3)温度を上げる・・・・温度を下げる方向(吸熱反応の方向)
  4)温度を下げる・・・・温度を上げる方向(発熱反応の方向)
  5)圧力を上げる・・・・圧力を下げる方向(気体分子数が減る方向)
  6)圧力を下げる・・・・圧力を上げる方向(気体分子数が増える方向)
  ──────────────────────────────── 


  これを見てわかるのは、与えられた変化と反対の方向になるように平
 衡が移動するということです。
  (これが「その影響をやわらげる方向に移動する」ということです)。


  以下で、1)〜6)までについてもう少し詳しく見ていきます。
  可逆反応の例として、前回も使用した下の反応で考えます。

   A + B ⇔ C + Q kcal (Q>0:正反応が発熱反応)

  また、A,B、Cのすべてが気体であるとします。



 1)と2)濃度の変化
 ───────────

   A + B ⇔ C 

 の反応において、例えばAの濃度を増加させたとします
 (実際の操作としては、Aを外から加えるということになります)。

  Aが加えられたことによって、Aの濃度を減少させるように反応が進
 み、新しい平衡状態になります。

  このとき反応はAとBからCができる方向(A+B→C:右方向、正
 反応の方向)に進むので、「平衡は右に移動する」と言います。


  またこれとは逆に、Aの一部を取り除いて濃度を減少させたとします。

  すると、その影響をやわらげるためにCからAとBができる方向
 (A+B←C:左方向、逆反応の方向)に反応が進みます(この場合は
 「平衡は左に移動」します)。



 3)と4)温度の変化
 ───────────

  温度を変化させた場合には、その反応がどちらに進むと発熱反応(あ
 るいは吸熱反応)なのかを見ます。

   A + B ⇔ C + Q kcal (Q>0:正反応が発熱反応)

 の反応では、A+B→Cの向き(右向き)に反応が進むと発熱反応であ
 ることがわかります。

  また、逆に考えれば、A+B←Cの向き(左向き)に反応が進むと吸
 熱反応ということになります。

  さらに、

  ・発熱反応 ⇒ まわりに熱を放出するので、温度が上がる
  ・吸熱反応 ⇒ まわりから熱を奪うので、温度が下がる

 ことを頭に入れておきます。


  そして、温度を上げれば温度を下げる方向に、温度を下げれば温度を
 上げる方向に反応が進むことを考えると、

  ・温度を上げる⇒吸熱反応の方向:A+B←Cの向き(左向き)
  ・温度を下げる⇒発熱反応の方向:A+B→Cの向き(右向き)

 というように平衡が移動します。



 5)と6)圧力の変化
 ───────────

  圧力を変化させた場合は、どちらに反応が進むと気体の分子数が増え
 るのか(あるいは減るのか)を考えます。

   A + B ⇔ C (A、B、Cはすべて気体とします)

 の反応で、A+B→Cのように右に進むと、全体の分子数がより少なく
 なります。

  逆に、反応がA+B←Cのように左に進むと、全体の分子数がより多
 くなります。


  ここで、分子数と圧力が比例していること(※)を考えれば、

  ・分子数が少なくなる=圧力が下がる
  ・分子数が多くなる=圧力が上がる

 ということになるので、

  ・圧力を上げる ⇒圧力を下げる方向
          =分子数が減る方向:A+B→Cの向き(右向き)

  ・圧力を下げる ⇒圧力を上げる方向
          =分子数が増える方向:A+B←Cの向き(左向き)

 に平衡が移動します。


 ※分子数と圧力が比例していることについて

  ここでは圧力のみを変化させて、温度や体積は一定と考えているので、
 単純に壁面にぶつかる分子の数で圧力が決まると考えれば納得できると
 思います。

  また気体の状態方程式(PV=nRT)で考えても同じになります。
 (P=nRT/Vと変形すると、V、T、Rは一定なのでPとnは比例
 していることが示せます)。



 触媒の影響
 ──────

  最後に触媒の影響について見ておきます。

  結論から言うと、触媒を加えたり取り除いたりしても、平衡の移動に
 は関係ありません。

  触媒によって、反応速度は変化します(平衡になるまでの時間は変化
 します)が、触媒によって平衡がどちらかに移動することはありません。

  触媒を加えると反応速度が上がりますが、正反応、逆反応ともに同じ
 だけ反応速度が上がるので、平衡の移動には影響がないというわけです。



 ◇◇ 今回のひとこと ◇◇

  ある条件の変化によって、それがどのような影響を与えるのかをつか
 んでから、ひとつずつステップを踏んで考えていけば、どちらに平衡が
 移動するのかについての判断もそれほど難しくないと思います。


 ────────────────────────────────
  2.化学をつくった人たち
        〜 ヘルマン・シュタウディンガー 〜
 ────────────────────────────────

  今回は、ドイツの有機化学者シュタウディンガーを取り上げます。
  高分子化学の創始者、開拓者として知られています。



  シュタウディンガーは、1881年にドイツ、ヘッセンのヴォルムス
 で生まれました。

  父親はギムナジウム(中等学校)で哲学を教えていたそうです。

  子供の頃は植物が好きで、化学にはあまり興味がなかったのですが、
 父親の友人の植物学者から「植物をよく知るためには、化学を勉強して
 おいた方がよい」というすすめを受けて化学を学び始めました。


  その後ハレ、ミュンヘン、ダルムシュタットの各大学で化学を学んで
 学位を取り、1903年にシュトラスブルグ大学で助手の地位を得ます。

  カールスルーエ大学の有機化学客員教授を経て、スイス連邦工科大学
 の一般化学教授になった後、1926年にフライブルク大学の化学教授
 として招かれました。

  1940年に化学教室主任と高分子化学研究所長を兼任し、1951
 年に引退するまでその地位にとどまります。

  引退後は名誉職としての国立高分子化学研究所所長に就任しました。



  シュタウディンガーは、高分子化合物についての正確な構造を提唱し
 た最初の人です。

  彼が研究を始めた頃に広く受け入れられていた考えは、複数の低分子
 化合物が弱い結合でお互いにゆるくくっついたものが高分子化合物の姿
 である、というものです。

  当時は有名な化学者の多くがこの説に賛同し、それが常識になってい
 ました。

  ところがシュタウディンガーは、この頃までに合成されていたポリス
 チレンやポリオキシメチレンについて考えたとき、その説には納得でき
 ないものを感じます。

  彼は高分子化合物が鎖状の構造を持ち、共有結合によってしっかりと
 結びついている大きな分子量の化合物であると考え、発表しました。

  しかしこの考え方は、なかなか受け入れられませんでした。その頃は
 彼の主張の方が非常識なものと思われたからです。

  そこで彼は、自分の説を証明するための実験を行っていきました。


  まず、ゴムを水素化して二重結合をなくすことで、分子量をほとんど
 変えないような化学変化を行い、その挙動を調べました。

  これは、もし通説通り低分子化合物がゆるやかにくっついているもの
 が高分子化合物であるとすれば、二重結合がなくなることでバラバラに
 なるはずである、という考えに基づいています。

  結果は変化前と変化後でゴムの挙動にはほとんど変化がないことがわ
 かりました。

  さらに、高分子化合物溶液の粘度と分子量の関係(※)を導くことで、
 高分子化合物の分子量をきちんと求められることを示しました。
 (※シュタウディンガーの式と呼ばれています:ただし後に一部修正さ
 れました)。

  これらの結果や、他の研究者の様々な実験事実が積み上がっていくこ
 とで、彼の説は受け入れられていきます。

  そして彼の説が多くの人に認められていくと同時に、その成果はナイ
 ロン、ポリエステルなどの合成繊維に応用されていきました。



  その後1953年になってようやく高分子化学という新しい分野への
 貢献が認められ、ノーベル化学賞を受賞することになります。

  現在のプラスチックや合成繊維の発展は、この人の理論から始まると
 言っても過言ではありません。

  また彼は、タンパク質やDNAなどの生体高分子についても、当時の
 まだ詳細がわかっていない段階で卓見を示し、生化学への貢献も果たす
 ことになりました。


 ────────────────────────────────
  3.あとがき
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  私にとっての秋と言えば「読書の秋」でしょうか。
  暑くもなく、寒くもないせいか、集中して読めるような気がします。

  よかったら、おすすめの本など教えて頂けるとうれしいです。



  ※参考文献はこちらにまとめてあります。興味がありましたらどうぞ。
   → http://www13.plala.or.jp/chem-hint/reference.html


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  ◇◇ 化学なんて大嫌い!という人のための          
                     風変わりなヒント ◇◇
  ・発行者 後藤 幹裕
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   からお願いします。
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