メールマガジン
化学なんて大嫌い!という人のための 風変わりなヒント
ホーム ≫ メールマガジン ≫ バックナンバー ≫ 第24号


ホーム

メールマガジン

 ・バックナンバー

  →第24号

 ・参考文献

化学の参考書

おすすめの本

リンク

お問い合わせ



 第24号(2005.10.10発行)



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
 ○o。○o。○o。○o。○o。○o。○o。○o。○o。○o。○o。○o。○o

   化学なんて大嫌い!という人のための
              風変わりなヒント  第24号
                  2005年10月10日発行

 ○o。○o。○o。○o。○o。○o。○o。○o。○o。○o。○o。○o。○o
 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 <目次>
 -------------------------------------------
 1.一風変わった化学の授業
     〜 無機化学に進む前に

 2.化学をつくった人たち
     〜 ライナス・C・ポーリング

 3.あとがき
 -------------------------------------------

 ────────────────────────────────
  1.一風変わった化学の授業
          〜 無機化学に進む前に 〜
 ────────────────────────────────

  今回は、無機化学分野の話に進む前段階として、頭の片隅に入れてお
 いてもらえれば、と思うことについて書いていきます。



  無機化学の分野では、覚えることが多いように感じるのが普通だと思
 います。

  そしてその意味や意義のようなものがあまり見えてこないので、ただ
 単に覚えるという作業になってしまい、苦痛の元になることが多いよう
 です。

  また試験では、元素や無機化合物の性質、反応についてどれだけ答え
 られるかということで問題が出されるので、どうしても暗記する方向に
 進んでしまいます。

  ただ、それではあまりにもつまらないと思うので、その性質が発現す
 る仕組みや根本の原理に近いものについて今回は考えてみたいと思いま
 す。



 元素の性質を決めるもの
 ────────────

  元素それ自体の性質は、大雑把に言えば、陽子数とそれに伴う電子数
 に基づいています。

  そして電子数が決まると、電子配置が自動的に決まることになります
 (電子の「座席の位置」はあらかじめ決められているので、それに従う
 ことになります)。

  ここで、電子配置と周期表を重ねてみます(図表などで電子配置も併
 記されている周期表があるとわかりやすいです)。

  さらにこの電子配置(特に最外殻電子の部分)と性質をリンクさせて
 みます。

  すると周期表上で、

   ・縦(の列)で性質が似てくるもの
   ・横(の行)で性質が似てくるもの

 があり、「性質が似ているもの」と電子配置に特定の傾向があることが
 わかります。

 つまり、

  電子配置(特に最外殻電子の部分)が似ている = 性質が似ている

 という傾向がつかめます。

  性質の発現には、電子が重要な役割を果たしていて、電子配置が似て
 いれば性質も似てくるということになります。



 より安定な方向に進もうとする
 ───────────────

  さて、話は少し変わりますが、どんなものでも、エネルギー的により
 安定な方向に向かおうとします。

  電子配置の場合で考えると、希ガス型の電子配置が一番安定です。

  希ガス型ではない電子配置のものは、何かのきっかけがあると、希ガ
 ス型の電子配置になる方向に進もうとします(その方がより安定だから
 です)。


  例えば、ハロゲンは電子を1個もらうことで(1価の陰イオンとして)
 安定になろうとします。また、アルカリ金属は電子を1個放出して(1
 価の陽イオンとして)安定になろうとします。

  こうなりやすい理由は、電子1個であればやりとりするのが比較的容
 易だからです。

  一方で炭素のように、単独で4個の電子をやりとりしなければ希ガス
 型の電子配置にならないという場合、それはかなり面倒かもしれないと
 いう予想ができます。

  そこでこういった原子は、単独ではなく、周りの原子とお互いに電子
 を共有することで希ガス型の電子配置になろうとします。


  つまり、最外殻電子(価電子)の数によって、どうやって結合をつく
 るのかが決まってくることになります。

  目標とする安定的な電子配置になるためにはどうすればよいのかを考
 えることで、イオン結合になるのか共有結合になるのか、あるいは金属
 結合になるのかが決まってきます。

  その原子は電子がとれやすいのか、くっつきやすいのか、それともど
 ちらとも言えないのか、それを見極めるために電子配置と周期表を活用
 してみて下さい。


  より安定な希ガス型の電子配置になる方向に進もうとすることと、そ
 れに基づいた固有の性質が現れてくることの両方に注目してみるとよい
 と思います。



 電子を引きつける度合い
 ────────────

  ある原子が自分のまわりにどれだけ電子を引きつけるのか、という指
 標が電気陰性度です。

  これによって、特定の化合物について電子がどのように分布している
 のかを考えることができます。

  その結果として、水素結合や配位結合ができる理由がつかめます。

  また分子間力についても、こういった微妙な電子の偏りによって生じ
 ていると言えます。

  (なお、電気陰性度については、有機化学の分野でも考え方のベース
 として重要になってきます)。



 ◇◇ 今回のまとめとして ◇◇ 

  つきつめていくと、結合や化学反応の起こる理由として、電子のふる
 まいを見ていくことが重要であることがわかります。

  原子や分子というフィールドの上で電子がどんなふるまいをしている
 のかについて考えると、その性質や反応について見えてくるものがある
 と思います。

  また、最初の頃に出てきた項目について、もう一度おさらいしてみる
 のもよいかもしれません。


 ────────────────────────────────
  2.化学をつくった人たち
        〜 ライナス・C・ポーリング 〜
 ────────────────────────────────

  今回は、アメリカの理論化学者で生物科学者でもある、ポーリングを
 取り上げます。
  2つのノーベル賞を受賞した数少ない人物の一人です。



  ポーリングは、1901年にオレゴン州ポートランドで生まれました。

  父親は薬剤師だったのですが、彼が9歳のときに亡くなってしまい、
 家計はかなり苦しかったようです。

  働きながら学費の不要なオレゴン州立農科大学の化学技術課程に進み、
 化学工学を学びました。

  卒業後はカリフォルニア工科大学で理論化学を研究し、博士号を取得
 します。

  その後、博士研究員として奨学金をもらいながら1年半ほどヨーロッ
 パに留学しました。

  この間に当時の著名な科学者である、ゾンマーフェルト、ボーア、シ
 ュレーディンガーらと出会い、量子力学を学びます(これが後の研究成
 果に大きく貢献することになりました)。


  帰国後は、母校のカリフォルニア工科大学で理論化学の助教授となり、
 1931年には教授になりました。以後1963年まで同職で研究と教
 育に従事することになります。

  その後、ライナス・ポーリング科学医学研究所を設立してその所長に
 就任し、健康問題やビタミンCについての研究も行っていきました。



  ポーリングの初期の業績は、量子力学を化学結合や分子構造の解明に
 応用したことです。

  電子の相互作用から生じる電子対や化学結合の本質について、量子力
 学を化学に応用していきました。


  まず、炭素がなぜ正四面体構造を取り得るのかということについて、
 「混成軌道」という考え方を導入することで、理論的な裏付けをします。

  これは過去の化学者による様々な実験結果や、X線構造解析から得ら
 れる結果とも一致し、それまでに考えられていた原子軌道の考え方では
 説明できなかった事柄を容易に説明できるという点で画期的なものでし
 た。

 (多くの有機化合物の構造についても同様に説明でき、有機化学と構造
 化学が結びつくことにつながりました)。


  さらに、単一の構造式ではその性質をうまく表わせない化合物につい
 て、「共鳴」という概念を導入します。

  構造式と、そこから予想される化学的な性質が異なる化合物について
 は、無理に単一の構造式で考えずに、考えられるいくつかの構造式(極
 限構造)の中間的なものが真の構造であると考えます。

  そして、無理のない極限構造の種類が多いほど、その化合物は「共鳴」
 によって安定化されている(共鳴安定化)としました。

  現在、これらの「混成軌道」や「共鳴」の考え方は、有機化学におけ
 る定性的な構造についての理論や、反応理論の基礎になっています。


  また、「電気陰性度」の概念を導入し、1つの結合における電子対は、
 より高い電気陰性度を持つ原子の方に優先的に引き寄せられる、としま
 した。

  実際にこの値を用いることで、ある物質がどのような性質を持つのか
 を知る手がかりになることから、大変有用な指標となっています。


  そしてこれら一連の化学結合の本質に関する研究により、ポーリング
 は1954年度のノーベル化学賞を受賞することになります。



  さて、1940年代になると、ポーリングの関心は生物科学(分子生
 物学)の分野に向かいました。

  まず、免疫における抗原抗体反応についての研究を行うことで、分子
 構造についての研究で得られた知識をこの分野に応用していきます。


  また、タンパク質についての研究から、その構造が、水素結合や弱い
 分子間力によって結びつけられた、らせん状の構造を持つことを解明し
 ました。

 (なお、この成果が後のワトソン、クリックらによるDNAの構造解明
 の大きなヒントになりました)。


  この分野におけるその他の主な業績としては、鎌状赤血球貧血症(※)
 の研究があります。

  赤血球中のヘモグロビンの構造を調べることにより、病気の原因が、
 ヘモグロビンを構成するタンパク質部分の遺伝的変異であることを示し
 ました。

  これは、病気の原因がひとつの分子の違いによるものである例として、
 初めて示されたものでした。



  もうひとつ、ポーリングの特筆すべき業績として、平和運動が挙げら
 れます。

  核兵器の拡散と大気中の核実験に対して強い関心を持つようになった
 彼は、1万1000人以上の科学者の署名を集めた核実験中止の請願書
 を国連に提出します。

  さらに著書を出すことによる啓蒙活動を行うなど、常に運動の先頭に
 立ち続けました。

  彼のこのような活動に対し、1962年にノーベル平和賞が贈られて
 います(ポーリングは2種類のノーベル賞を受賞した数少ない人物とな
 りました)。



  ポーリングの業績は、20世紀で最も重要なもののひとつに数えられ
 ると思います。

  科学の特定の分野での原理を他の分野に応用していくことで、化学と
 その周辺分野へ多大な貢献をした人物と言えます。



 ○ 簡単な用語紹介と補足

  ※ 鎌状赤血球貧血症
   ヘモグロビンの遺伝的変異によって起こる貧血症の一種で、赤血球
   が鎌のような形になり、うまく酸素を運べなくなる状態になる病気。
   ヘモグロビンのタンパク質部分を構成するたったひとつのアミノ酸
   が異なることで生じる。
   分子構造の変異と、病気の原因との関係が示された最初の例として
   有名。


 ────────────────────────────────
  3.あとがき
 ────────────────────────────────

  このメルマガは、化学をできるだけわかりやすく伝えられるように、
 また化学の本質のようなものについてもわかってもらえるように、とい
 う想いを込めて書いています。


  そんな中で最近、物理の分野でそういった想いを強く感じるメルマガ
 を知りました。

  著者の田原さんが予備校の講師として積み重ねてこられた内容が、
 ぎっしりとつまったメルマガです。

  高校のとき物理が苦手だった私でも、微積分を使うと物理が逆にわか
 りやすくなるということに気付かせてくれます。

  もし私の高校時代にこのメルマガがあったら、また違った方向に進ん
 でいたかもしれません。

  物理をなんとかしたいと思っている受験生や、もういちど物理をやり
 直してみたいと思っている方にとっては、きっと役立つことと思います。

 ◇田原さんのメルマガ:
  「物理の美しさに感動したい人集合!微積物理超入門」
   http://www.mag2.com/m/0000151538.html


  また、田原さんが開講されている「物理Web講座」は、受験生だけ
 でなく、たくさんの社会人の方が、物理を学びたいということで登録さ
 れているようです。

  ※無料講座への登録は10月末までとのことですので興味のある方は
   お早めに。

 ◇「物理Web講座」
   http://rikasougou.com/muryo.html


  さらに物理についての考え方をもっと学んでみたいという方は、田原
 さんのブログ、

  【田原の物理】http://tahara-phys.net

 を訪問してみるとよいと思います。

  本質をついたたとえ話がとても面白いので、物理に対するイメージが
 変わるかもしれません。

 ────────────────────────────────



  ※参考文献はこちらにまとめてあります。興味がありましたらどうぞ。
   → http://www13.plala.or.jp/chem-hint/reference.html


 ────────────────────────────────
  クリックするだけで募金ができるサイトを紹介させてください。
  1クリックあたり1円を企業がクリックする人に代わって「熱帯雨林
 保全」や「難病のこども支援」などを行うNPO団体に募金してくれる
 サイトです。
  もしよかったらこちらから訪問してみてください。
 (ダイヤルアップ接続の方はテキストサイトの方がいいかもしれません)
  (FLASHサイト)→ http://www.dff.jp/index.php
  (テキストサイト) → http://www.dff.jp/index_t.php
 ────────────────────────────────

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
  ◇◇ 化学なんて大嫌い!という人のための          
                     風変わりなヒント ◇◇
  ・発行者 後藤 幹裕
  ・配信システム まぐまぐ( http://www.mag2.com/ )
  ・登録の解除は、 http://www.mag2.com/m/0000129929.htm
   からお願いします。
 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

  よかったらあなたのお知り合いにぜひ転送してもらえればと思います。
  ただし転載を希望される場合は、ご一報ください。


 ←第23号へ

第25号へ→ 
バックナンバーの一覧へ


※ メルマガ作成時に使用した参考文献はこちらにまとめました。



ホームメールマガジン化学の参考書おすすめの本リンクお問い合わせブログ

このサイトへのリンクはご自由ににどうぞ。
ご意見、ご感想など頂ければとてもうれしいです。
ただし、サイトの内容を転載される場合はこちらまでご連絡ください。
Copyright(c) 2004-2013 化学を楽しくするヒント