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化学なんて大嫌い!という人のための
風変わりなヒント 第28号
2007年3月31日発行
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<目次>
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1.一風変わった化学の授業
〜 リンについて 〜
2.化学をつくった人たち
〜 ロバート・B・ウッドワード 〜
3.あとがき
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1.一風変わった化学の授業
〜 リンついて 〜
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今回は、リンについてです。
実生活ではそれほど表立って出てくる元素ではありませんが、生物に
とっては大切な元素のひとつです。
リンの豆知識
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元素発見の歴史において、リンの発見は古いほうに入ります。
1669年、ドイツのハンブルクに住んでいた錬金術師のブラントが、
ヒトの尿を蒸発させて得られた残留物から分離したのが最初と言われて
います。
リンの元素名は「光をもたらすもの」という意味のギリシア語
(phosphoros)からきています。
空気中で発光することからその名前が与えられました。
また地殻におけるリンの存在量は0.1%程度で、それほど多くはあ
りません。
天然には質量数31の安定同位体が100%存在しており、リン灰石
などのリン酸塩の形で産出されます。
リンの同素体
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リンの同素体としては、白リン、紫リン、黒リンを挙げるのが一般的
なようですが、黄リン、赤リンなどを同素体として挙げている文献も多
くありますので、統一された見解はないようです。
白リン、紫リン、黒リンの違いは、原子配列が互いに異なることによ
るもので、それに伴って化学的性質も異なってきます。
≪白リン(黄リン)≫
不純物(赤リンの薄い皮膜など)で黄色く見えるため、黄リンと呼
ばれることもあります。
リンの同素体の中では最も反応性が高く、空気中で発火するため、
水中で保存します。
また猛毒でもあり、致死量は0.15gです。
経皮吸収されて中毒を起こすこともあり、使用時には換気が必要に
なります(大気中の濃度は0.1mg/m3以下であることが定め
られています)。
白リンが燃えると十酸化四リン(P4O10:五酸化ニリンとも呼ば
れます)が生成します。
この十酸化四リンは強力な乾燥剤、脱水剤として使用されます。
≪紫リン≫
暗赤紫色の結晶で無毒です。α金属リンとも呼ばれますが、もちろ
ん金属ではありません。
≪黒リン≫
同素体の中では最も反応性が低く安定です。こちらはβ金属リンと
も呼ばれます。
≪赤リン≫
暗赤色の粉末で、白リンを空気のない条件で300℃に加熱すると
得られます。
赤リンは白リンと紫リンの混合物と言われていますが、毒性も弱い
ため取扱いやすいのが特徴です。
最近はあまり見かけなくなっていますが、マッチの側薬(箱の方に
塗ってある茶色の部分:発火剤)として使われているのが有名です。
リン酸(オルトリン酸)
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十酸化四リンを水に溶かして加熱すると得られます。
「リン酸」という場合、通常はオルトリン酸のことを指しています。
適度な強さの酸なので、金属と反応してその表面を不溶性の皮膜で覆
うことができます。
これにより金属の腐食を防ぐ目的や、塗装のための下地をつくる用途
で使用されます。
(自動車の車体などの塗装前にリン酸処理が行われています)。
ポリリン酸
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ニ分子以上のリン酸が縮合した直鎖状のリン酸をポリリン酸と言いま
す。
硬水中のカルシウム、マグネシウムなどの陽イオンと結合する性質が
あるため、ボイラーや給湯管内のパイプ詰まりの原因となるパイプスケ
ール(カルシウム塩などの不溶物)の除去に使われます。
だいぶ前のことですが、家庭用洗剤にトリポリリン酸ナトリウム
(Na5P3O10)が添加されていたことがありました。
これはマグネシウムやカルシウムなどミネラル分を多く含む水(硬水)
では洗剤の洗浄効果が落ちてしまうため、それらのミネラル分を補足す
る目的で添加していました。
しかしリンを多く含む排水が河川や海に流出することで富栄養化が起
こり、微生物の異常繁殖による水質悪化を引き起こしたこともあって、
現在はほとんど添加されることはなくなりました。
※ただし外国製の洗剤の中には、硬度の高い水に対応するために同様
の化合物を添加しているものもあるようです。
リンを含む有機化合物
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リンを含む有機化合物は主に農薬、殺虫剤として使用されています。
これらは、神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する酵素(アセ
チルコリンエステラーゼ)の作用を阻害することにより、害虫に対する
神経毒として効果を発揮します。
なお、これらの殺虫剤はリン酸エステル型の構造を持っているため、
環境中で比較的すみやかに分解されるのが特徴です。
生物に含まれるリン化合物
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生物に含まれるリン化合物の中で代表的なものとしては、DNAやR
NAなどの核酸が挙げられます。
≪DNA(デオキシリボ核酸)≫
DNAという言葉自体がすでに一般的になっているので、いまさら
説明は不要かもしれませんが、遺伝子の本体を成すものです。
リン酸、糖(デオキシリボース)、塩基からなるヌクレオチドが鎖
状につながった構造(これをポリヌクレオチドと言います)をして
おり、2本のポリヌクレオチドがうまく絡み合って有名な二重らせ
ん構造をとっています。
≪RNA(リボ核酸)≫
リン酸、糖(リボース)、塩基から構成されるヌクレオチドが一定
の配列で結合したもので、様々な役割を持つものが知られています。
代表的なものとしてメッセンジャーRNA、トランスファーRNA、
リボソームRNAの3種類が知られています。
また、ウイルスの遺伝物質はDNAではなくRNAであるところが
特徴的です。
さらに生体にとって重要なものとしては、ATP(アデノシン三リン
酸)があります。
これはエネルギーを蓄えておきながら必要なときに供給することので
きる分子で、ATP分子内のリン酸結合が比較的大きなエネルギーを蓄
えていることによるものです。
細胞がエネルギーを必要とするときには、このリン酸結合を分解する
ことで生じるエネルギーを利用することになります。
リン酸肥料
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肥料の3大要素として、窒素、リン、カリウムがあります。
これらは生体を構成するために必須の元素であるため、多くの植物に
とっては地中から採取しなければならないものです。
その中のリンを供給する肥料として、リン酸肥料があります。
代表的なものとしては、過リン酸石灰(リン酸ニ水素カルシウムが主
な成分で硫酸カルシウム(ニ水和物)を一部含む混合物)、リン酸アン
モニウム(リン安)などが挙げられます。
また、リンだけでなく他の成分も含まれている多成分肥料も多く使わ
れています。
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2.化学をつくった人たち
〜 ロバート・B・ウッドワード 〜
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今回はアメリカの有機化学者ウッドワードを取り上げます。
20世紀最大の有機化学者と呼ばれるのに最もふさわしい人です。
ウッドワードは、1917年にアメリカのボストンで生まれました。
わずか16歳でマサチューセッツ工科大学に入学し、3年後に学士号、
その1年後に博士号を取得します。
21歳のときにハーバード大学に移った後、1944年に助教授、1
946年に准教授、そして1950年に教授となり、その後は様々な寄
付講座の教授職を歴任しますが、生涯ハーバード大学に籍を置きました。
有機合成に関する業績
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ウッドワードの最初の重要な研究としては、デーリングと共同で成し
遂げた、マラリアの特効薬であるキニーネ(※1)の全合成が挙げられ
ます(1944年のことでした)。
当時キニーネの全合成は不可能と考えられていたこともあって、ウッ
ドワードの名は一躍有名になります。
1947年には抗生物質であるペニシリン(※2)の構造を明らかに
し、その後様々な抗生物質やアルカロイドなどの構造決定を行いました。
1950年からはコレステロール、コルチゾン、ラノステロールなど
のステロイド合成に取り組みます。
1954年にはストリキニーネ(※3)や幻覚剤LSDの原料である
リセルグ酸を合成し、1960年にクロロフィル(※4)の合成を実現
しました。
さらに1966年には抗生物質であるセファロスポリンCおよびテト
ラサイクリンの合成を行い、再び抗生物質に関わるようになりました。
そしてこれらの有機化学分野での卓越した功績により、1965年度
のノーベル化学賞を受賞することになります。
また1972年には、スイスの化学者エッシェンモーザーとの共同研
究を含む10年以上の努力の結果、ビタミンB12(シアノコバラミン)
の全合成を達成しました。
これらの有機合成は、それまでの方法では考えられないほど複雑な分
子を対象にしていることと、収率が最大になるように立体特異性を考慮
しながら検討されていたことが特徴です。
さらに、実験室レベルだけでなく、商業ベースでの製造を可能にする
ような反応が数多く用いられていたことも特徴的です。
理論化学に関する業績
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ウッドワードは有機化学者として優れていただけでなく、物事の本質
を見抜く天才でもありました。
先に述べたように複雑な生理活性物質の合成で有名になりますが、有
機合成に関する業績だけではないところが彼をより一層際立たせている
と言えます。
1941年から42年にかけて、1,3−ブタジエンにおける紫外吸
収の極大波長が、アルキル置換基の種類によって一定の割合でシフトす
ることを経験的に導き出しました。
また同時に、不飽和ケトンの置換基効果に関する経験則についても示
しています。
これらの経験則はウッドワード則と呼ばれており、彼の理論化学者と
しての見識を示すものと言えます。
さらに1965年にはホフマンと共同して、環状電子反応における立
体化学を支配する法則を見出しました(ウッドワード・ホフマン則とし
て知られています)。
これはπ電子が関与する多くの反応について、軌道対称性の保存の概
念を用いることにより、その反応の起こりやすさや立体化学(得られる
分子の形がどのようになるのか)を予測することができる画期的なもの
でした。
このような彼の理論化学における業績は、有機反応機構についての理
論的な洞察力に基づくものであり、彼が有機合成の達人というだけの人
ではないことを示しています。
天然化合物の構造解析と複雑な構造を持つ分子の全合成、有機反応機
構の研究と幅広い分野への影響の大きさなど、彼の多くの業績のうちの
どれをとっても超一流のものばかりです。
1人の化学者が一生の間でここまでのことをできるものなのか、とい
うくらいの業績であり、驚嘆すべきものであると言えます。
彼がもう少し長く生きていれば、1981年度のノーベル化学賞もホ
フマンや福井謙一とともに受賞していたかもしれません。
○ 簡単な用語紹介と補足
※1 キニーネ
マラリアに対する唯一の特効薬として用いられていた化合物で、
キナノキの樹皮中に含まれる。単離されたのが1820年、化学
構造が決定されたのが1908年のことであり、その特異な構造
から、合成は不可能と考えられていた。
※2 ペニシリン
1928年にフレミングによって、ある種の青カビの培養液中か
ら発見された抗生物質。細菌の細胞壁合成に関わる酵素を阻害す
ることで抗菌力を示す。
※3 ストリキニーネ
アルカロイドの一種で、ストリキニンとも言われる。強力な毒性
物質であり、中枢神経系に作用して全身の痙攣を引き起こす作用
がある。
※4 クロロフィル
植物が光合成を行うために必要な緑色色素で、葉緑素とも言われ
る。葉緑体の中にタンパク質と結合した状態で存在している。
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3.あとがき
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気持ちに余裕がないときは、頑張っている割には成果につながらない
ことが多いようです。
忙しいと感じるときほど、敢えて心に余裕を持つようにしていかなけ
ればならないと思うこの頃です。
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※参考文献はこちらにまとめてあります。興味がありましたらどうぞ。
→ http://www13.plala.or.jp/chem-hint/reference.html
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◇◇ 化学なんて大嫌い!という人のための
風変わりなヒント ◇◇
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