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化学なんて大嫌い!という人のための
風変わりなヒント 第30号
2008年3月31日発行
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<目次>
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1.一風変わった化学の授業
〜 チタンについて 〜
2.化学をつくった人たち
〜 エミール・フィッシャー 〜
3.あとがき
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1.一風変わった化学の授業
〜 チタンについて 〜
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今回はチタンについてです。
どこかで聞いたことのある名前だと思った方もいると思いますが、以
前にいくつかの分野で話題になったことがある金属元素です。
チタンの概要
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チタンの元素名は、ギリシア神話に出てくる巨人タイタンに由来して
います。
イギリスの牧師であり鉱物学に興味を持っていたグレガーによって、
チタンを含む鉱石(現在のイルメナイト)が発見されたのがチタン発見
の発端です。
その後、別の鉱石(現在のルチル)について調べていたクラプロート
によって、そこに含まれる成分元素がチタンと名付けられました。
しかし純粋な金属チタンは、それよりもかなり後の時代である191
0年になってようやく得られました。
ただ、以外にもチタンは広く地殻中に存在していて、9番目に多い元
素です(地殻中には0.6%程度存在しています)。
自然界では常に酸化物や窒化物などの化合物として存在していますが、
生物中にはほとんど含まれていないのが特徴的です。
地殻には豊富に含まれているにも関わらず、工業的に金属材料として
実用化されはじめたのは第2次世界大戦が終わってからでした。
これはチタンと酸素との結合力がアルミニウムよりも大きく、精製が
難しいことによるものです。
なおチタンの供給源としては、先に名前が出てきたルチル(主成分:
TiO2)や、イルメナイト(チタン鉄鉱、主成分:FeTiO3)など
の鉱石が挙げられますが、これらはチタンの含有量が比較的多いことに
よります。
チタンの精製と性質
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チタンの精製は、まず原料の鉱石に塩素ガスと炭素を加えて約900
℃で処理し、四塩化チタン(TiCl4)を得ます。
その後不活性ガス中において、この四塩化チタンを約1000℃で金
属マグネシウムを使って還元し、単体のチタン(別名スポンジチタン:
銀白色の金属)を得るのが一般的です。
※この方法は考案者の名前をとって、クロール法と呼ばれています。
金属チタンは、空気中では表面に酸化皮膜を生じることから良好な耐
食性を示します。またチタンは、海水中では白金に次ぐ耐食性の強い金
属でもあります。
チタンの質量は鉄とアルミニウムの中間(アルミニウムの約1.5倍)
で、同じ重さで比較すると強度は鉄の2倍、アルミニウムの6倍です。
加工しやすい上に極めて腐食しにくいのも特徴です(空気中では60
0℃くらいまで安定です)。
また鉄よりも酸に強く、アルカリとは反応しない性質があります。
良好な耐食性と軽くて強いという性質から、チタンは以下に示すよう
に様々な用途があります。
チタンの用途
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チタンは現在の技術水準においては不可欠の金属となっています。
すでに銅、鉄、アルミニウムなどとともに主要金属のひとつとなって
いて、その耐食性と強度を利用した様々な用途があります。
純チタンとしては、高温でも安定なことを利用し、原子力発電所や火
力発電所の熱交換機に用いられています。
さらにチタンは、アルミニウムや他の元素を添加した合金とすること
で、著しく強度の優れた金属材料となります。ジェットエンジンのター
ビンブレードに使われているのがその代表例です。
それ以外にも、屋根の建築材や、ゴルフクラブ、人工関節などの生体
用金属材料にも使われています。
また、以前に話題となった形状記憶合金のひとつとして、チタンとニ
ッケルとの合金があります。
二酸化チタンについて
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二酸化チタン(TiO2)は、別名チタンホワイトとも呼ばれます。
純度の高いものは純白であり、光の反射率が高いのが特徴です。
化学的にも安定で、安全性にも問題がない化合物です。
白色顔料として塗料や印刷インキなどの用途があるほか、紙の充填剤
やセラミックスの成分として、また紫外線を散乱することから紫外線防
止剤として化粧品に使われることがあります。
最近は、光触媒活性物質としても話題になりました。
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2.化学をつくった人たち
〜 エミール・フィッシャー 〜
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今回はドイツの有機化学者、エミール・フィッシャーを取り上げます。
歴史上、フィッシャーという名前の有名な化学者は何人かいますが、
このエミール・フィッシャーは1902年にノーベル化学賞を受賞して
いる人です。
エミール・フィッシャーは1852年にボンに近いオイスキルフェン
で生まれました。
父親は有名な商人で、息子に家業を継いでほしいと考えていましたが、
彼は自分が商人には向いていないことを知っていました。
かねてから好きな学問の道に進みたいと考えていたフィッシャーは、
なんとか父親を説得して大学で学ぶことになります。
1871年にボン大学に入学し、まずケクレに学びました。
翌年にはストラスブルグ大学でバイヤーに師事して、1874年に博
士号を取得します。
その後バイヤーがミュンヘン大学へ転任するのにあわせてこれに同行
しました。
1879年に同大学の助教授となった後、1882年にエルランゲン
大学教授に就任します。
それから3年後にはヴュルツブルグ大学教授となり、1892年にベ
ルリン大学教授となりました。
エミール・フィッシャーの業績のうちで、最も有名なもののひとつが
糖類の研究です。
その鍵を握る化合物がフェニルヒドラジン(※1)という化合物です
が、彼はそれを1875年に発見します。
ただ、その当時はまだ糖類に関する研究ではなく、このフェニルヒド
ラジンの誘導体とアニリン染料に関する研究を行っていました。
転機となるのは、その後の1884年に、フェニルヒドラジンが炭水
化物と反応して明るい黄色の結晶(オサゾン(※2)と呼ばれます)を
つくることに気づいたことです(これが糖類研究の鍵となる反応でした)。
彼は3つの異なる糖(グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、
マンノース)とフェニルヒドラジンの反応により得られた化合物につい
て、構造解析を行います。
また、ヘキソース(六炭糖:炭素原子6個から構成される単糖類)に
ついて同じ方法を用い、考えられる立体異性体の構造を決定していきま
した。
※後にこれらの構造はX線結晶構造解析によって正しいものであるこ
とが改めて確認されています。
1891年までにはファント・ホッフの立体化学説(不斉炭素原子理
論)から考えられる16個のアルドヘキソース(※3)について、それ
らを合成することにより13個までの構造を確認しました。
これはファント・ホッフの理論(当時はまだ仮説の段階でした)を実
証する有力な証拠となりました。
また、1894年には糖を分解する酵素についても研究しています。
その他に、フェニルヒドラジンを酸触媒とともに加熱する方法でイン
ドールの誘導体を合成しています(これはフィッシャーのインドール合
成として知られている方法です)。
糖類以外の代表的な研究としては、1882年頃から開始された、カ
フェインや尿酸に関連する物質の研究が挙げられます。
フィッシャーはこれらの化合物がすべて、これまでに知られていなか
った物質に関連づけられることに気づき、それをプリン(※4)と名付
けました。
そして100種類以上の類似化合物を合成していき、プリン化合物の
体系化を行っていきます。
また、これに関連した化合物として最初の合成ヌクレオチドも合成し
ました。
1899年からはタンパク質の研究を開始します。
タンパク質の加水分解により、十数種類のアミノ酸を分離しました。
それと同時にオルニチン、セリン、システインなどのアミノ酸を合成し
ます。
また1907年には、合成によるアミノ酸の結合(ポリペプチド合成)
を行い、18個のアミノ酸からなるポリペプチドを合成して構造を確認
しました。
その後、これらの成果を踏まえた形で、生体に重要な物質を有機化学
の手法で研究するという新しい分野が開拓されていくことになります。
そして1902年には、プリン誘導体と糖類の研究業績が認められ、
フィッシャーはノーベル化学賞を受賞しました。
フィッシャーの研究は常に実験事実に基づくもので、彼の優れた洞察
力から導き出される独創的なものでした。
それは酵素の作用を鍵と鍵穴のモデルで説明したことにも象徴されて
います。
有機化学におけるの多くの分野に研究範囲を広げながら、主に化合物
を合成する方法を駆使して研究を進めていったフィッシャーのもとには、
世界中から彼の指導を受けるために化学者が集まっていきました。
○ 簡単な用語紹介と補足
※1 フェニルヒドラジン
現在は、アルデヒドやケトン、糖類の確認用試薬として用いられ
る。アルデヒドやケトンと反応して結晶生成物であるフェニルヒ
ドラゾンを生成する。また糖類との反応ではオサゾンを生成する。
※2 オサゾン
糖のような化合物に対し、フェニルヒドラジンに代表される化合
物が2分子反応して得られる化合物(ジヒドラゾン)の総称。
※3 アルドヘキソース
分子中にアルデヒド基をもつ単糖類をアルドースと総称している
が、このアルドースのうちで、炭素数が6個のものをアルドヘキ
ソースと呼ぶ。
※4 プリン(purine)
有機化学におけるプリンという名称は、「純粋な尿」という言葉
に由来している。またプリン骨格(C5H4N4)は核酸のうちの
アデニン、グアニンに見られることもあり、広く生物中に存在し
ている。
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3.あとがき
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今回は私が好きな(学生時代に憧れだった)化学者の一人であるエミ
ール・フィッシャーを取り上げましたが、このメルマガを書いていると
きに、大学の学生実験でフェニルヒドラジンの反応を行っていたことを
思い出しました。
当時はこういった歴史的な背景を全く知らずに実験を行っていたこと
を思うと、多少の気恥ずかしさとともに懐かしい気持ちになります。
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→ http://www13.plala.or.jp/chem-hint/reference.html
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◇◇ 化学なんて大嫌い!という人のための
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