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化学なんて大嫌い!という人のための
風変わりなヒント 第39号
2012年9月30日発行
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<目次>
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1.一風変わった化学の授業
〜 セレンについて 〜
2.化学をつくった人たち
〜 カール・チーグラーとジュリオ・ナッタ 〜
3.あとがき
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1.一風変わった化学の授業
〜 セレンについて 〜
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今回はセレン(Se)を取り上げます。
意外にも人体にとっての必須元素のひとつでもあります。
セレンの性質と概要
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セレンは、1817年にベルセリウスとガーンによって、硫黄を燃焼
させた後に生じた沈積物から発見されました。
セレンの元素名は、すでに発見されていたテルル(ラテン語の「地球」
に由来)と性質が類似していることから、ギリシア語の「月」にちなん
で名付けられました。
地球上に広く存在するものの、存在量はきわめて少なく、主に硫黄や
硫化物に少量含まれて産出されます。
セレンは反応性に富む元素のひとつで、他のほとんどの元素と化合す
る性質があります。
化学的性質は硫黄に似ていて、多くの金属、非金属と硫化物に似たセ
レン化物をつくります。
硫黄との違いは、硫黄化合物では+6価が安定なのに対し、セレンは
+4価の方が安定であることが挙げられます。
セレンには多くの同素体が知られています。
主なものとしては金属セレン、無定形セレン、単斜セレンがあります。
最も安定な金属セレンは灰色セレンとも呼ばれていて、らせん状の構
造で、他の同素体を200〜230℃に加熱すると得られます。
セレンの製法と用途
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セレンの単体を工業的に得る方法としては、銅の電解精錬の際に発生
する電解槽沈殿物(陽極泥)を焙焼して酸化セレン(IV)を得た後、還
元精製してセレンを得る方法があります。
特徴的な性質としては、セレンには光伝導性があること(特にオレン
ジ色や赤色の光に敏感)が挙げられます。
※光伝導性:光を固体に当てると、固体内の電子が励起して電気伝導
度が増大し、光を止めるともとの伝導度に戻る現象のことです。
加減抵抗器にセレンの棒を用いていたところ、太陽の光があたる昼間
の方が夜間よりも伝導性があることが発見され、これによって光伝導性
という現象が知られるようになったという経緯があります。
後に、この現象を利用することで画像伝送などの画期的な技術が生ま
れ、光電素子の端緒ともなりました。
無定形セレンは融解したセレンを急冷すると得られるガラス状物質で、
可視光領域で強い吸収をもつ光伝導性があり、静電複写(乾式複写、
xerography)に利用されています。
※静電複写(コピー)について:
アメリカのカールソンにより、静電気と光伝導性を結びつけて、写
真のような化学的なプロセスを用いない、乾式で簡単な複写方法の
開発が行われました。
後に真空蒸着したセレンがこの用途に理想的であることがわかり、
今日のコピー機の基礎となりました。
セレンの蒸着面(アルミニウム基板の上に真空蒸着した無定形セレ
ン)に光があたると、その部分だけが静電荷を誘導するという性質
を利用しています。
上記以外の用途としては、古くから有名なものとして、交流と直流を
変換するセレン整流器があります。
(ただし現在ではシリコン整流器が使われていることがほとんどです)。
また、ガラスからの鉄の除去剤(鉄が微量存在するとガラスが緑色と
なってしまうのを防ぐ目的)、その他の赤色の着色(カドミウムレッド
:CdSeが有名)、半導体としての用途がよく知られています。
さらに合金の材料、光電池、増感剤としての用途などで、幅広く使わ
れています。
その他のトピックス
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○必須元素としてのセレン
中国で発見された克山病などの原因を解明することにより、セレンが
哺乳動物にとって必須であることがわかっています。
※克山病はセレンの欠乏が原因で、主に子供の成長を阻害し、心不全
などを引き起こす病気です。
セレンの欠乏が病気を引き起こす一方で、セレンの過剰摂取も動物に
とっては悪影響となります。
これについては、タンパク質や核酸などの硫黄原子がセレン原子に置
き換えられて正常な機能を発現できなくなるものと考えられています。
セレンの生理作用としては、抗炎症性、免疫促進効果などが見出され
ています。
また、体にとって有毒な過酸化水素あるいは脂肪の過酸化物を分解す
るために必要な酵素であるグルタチオンペルオキシターゼなどの重要な
酵素にセレンが含まれています。
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2.化学をつくった人たち
〜 カール・チーグラーとジュリオ・ナッタ 〜
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今回は、チーグラーとナッタの二人を取り上げます。
彼らの名前のついた、チーグラー・ナッタ触媒で知られている化学者
です。
カール・チーグラー
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ドイツの有機化学者であるチーグラーは、1898年にカッセル近く
のヘルサで牧師の家に生まれました。
1920年にマールブルク大学で博士号を取得後、同大学、フランク
フルト大学、ハイデルベルク大学で教鞭を取ります。
1943年にはカイザー・ウィルヘルム研究所(後のマックス・プラ
ンク研究所)の所長となり、生涯その地位にありました。
彼にはチーグラー触媒以外の業績もあります。
まず、環状ケトンを合成するためのチーグラー環化反応(※1)を確
立しました。
また1942年にはアルケンの臭素化反応として、N−ブロモコハク
酸イミドを用いる方法を開発しました。
※N−ブロモコハク酸イミドが不飽和化合物のアリル位に臭素原子を導
入する優れた試薬であることを見出します。
この反応はウォール・チーグラー反応(ウォール・チーグラー臭素化)
として知られています。
チーグラーは、ハイデルベルク大学時代から有機金属化合物の系統的
な基礎研究を進めていました。
1930年には、有機リチウム化合物を金属リチウムとハロゲン化炭
化水素から直接合成していて、この化合物の有用性を示した最初の人物
となります。
また有機合成触媒として、トリアルキルアルミニウムも使用していま
した(これが後にチーグラー触媒へ繋がることになります)。
アルミニウム、水素、アルケンからトリアルキルアルミニウムを合成
する方法を見出し、エチレンをトリアルキルアルミニウムのアルミニウ
ム−炭素結合に段階的に付加させることで、より高級なトリアルキルア
ルミニウムが作れることを示します。
そしてこれを加水分解することで、洗剤等に用いられる高級アルコー
ルを得ました。
さらにアルミニウムに結合している基をアルケンに変えることで高級
アルケンを得ますが、その反応においてニッケルも触媒となることを発
見しました。
このような研究成果を背景として、彼は最大の発見となるポリエチレ
ン製造法(チーグラー法)を1953年に発見することになります。
そして彼はこの方法を世界各国の化学工業会社に譲渡していきました。
チーグラー法の発見のきっかけは、トリアルキルアルミニウムとエチ
レンを加熱して高級トリアルキルアルミニウムを合成しようとしていた
ところ、エチレン単量体がすべて二量体の1−ブテンに変換されていた
ことでした。
その原因は、その前に行っていた接触水素化実験で用いたコロイド状
ニッケルが痕跡量残っていたためであることがわかります。
この結果をもとに、有機金属化合物をある種の重金属と混ぜると、エ
チレンを常圧(低圧)で重合させることが可能であること、また得られ
たポリエチレンは従来の方法で得られたものとは異なり、高分子量で高
融点であることがわかりました。
ジュリオ・ナッタ
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イタリアの化学者であるナッタは1903年にイタリアのジェノバの
近くのインペリアで裁判官の家に生まれました。
1924年にミラノ工科大学で化学の博士号を取得し、パビア大学一
般化学教授、ローマ大学物理化学教授、トリノ大学工業化学教授を歴任
します。
その後、1938年になって工業化学科の教授および工業化学研究所
長としてミラノ大学に戻りました。
ナッタは1953年になってから高分子化学の研究に集中することに
なりますが、そのきっかけは、チーグラーとイタリアのモンテカチーニ
社(当時ナッタはこの会社の顧問を務めていました)との協定が結ばれ
たことに起因します。
彼はチーグラー触媒をプロピレンやその他のオレフィンの重合に応用
していくことになります。
この触媒を用いると結晶性が高い生成物が得られることから、その重
合体は秩序ある構造であろうと推測し、実際にX線結晶構造解析でその
確認を行いました。
また、この反応における重合反応機構や、立体特異性が発現するメカ
ニズムの解明を行っています。
※あわせて、重合体の立体特異性を示すイソタクチック、シンジオタ
クチック、アタクチックという用語を導入しています。
そして重合反応機構として配位重合(※2)という新しい型の重合で
あることを示しました。
チーグラー・ナッタ触媒
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チーグラー・ナッタ触媒は、チーグラーによって見出され、ナッタに
よって改良された重合反応用の触媒の総称です。
チーグラーは、トリエチルアルミニウム(Al(C2H5)3)と四塩化
チタン(TiCl4)を用いて、低圧でのポリエチレンの合成に成功しま
した。
それまで、ポリエチレンは高温(190℃)、高圧(1500気圧)
でしか得られないものとされていましたが、この触媒を用いることで、
エチレンが常温、常圧で重合することがわかりました。
また、この触媒を用いて合成されるポリエチレンは、密度が高く、枝
分かれがほとんどないため、結晶性が高いのが特徴です。
一方でナッタは、トリエチルアルミニウムと三塩化チタン(TiCl3)
を用いることで、ポリプロピレンなどの重合にこれを応用しました。
チーグラー・ナッタ触媒は、重合生成物が乱雑な構造にならず、立体
的な規則性を保つことができることと、応用例がきわめて多いことが特
徴です。
この触媒の発見により、エチレンやブタジエンなどのアルケンから得
られる高分子化合物(プラスチックや繊維、フィルムなど)が発展して
いくことになりました。
チーグラーとナッタはこの業績により、1963年にノーベル化学賞
を受賞しています。
○ 簡単な用語紹介と補足
※1 チーグラー環化反応
ジニトリルの環化により環状ケトンを得る合成法。
ジニトリルをナトリウムアミドなどの塩基の存在下で分子内縮合さ
せ、得られたイミノニトリルの加水分解と脱炭酸を同時に行うと環
状ケトンが得られる。
チーグラーはこの方法を発展・改良させて7〜33員環ケトンの合
成を行った。
※2 配位重合
できあがった鎖と触媒の固体表面の間に単量体が挿入されていくこ
とにより高分子鎖が成長していく重合法のこと。
これにより立体化学(立体特異性)が決定される。
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3.あとがき
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9月の半ばを過ぎても真夏の暑さだったので、このまま夏がずっと続
くのではないかという錯覚に陥りましたが、ようやく秋らしい涼しさに
なってきました。
食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋など、いろいろな楽しみがある季
節になってきます。
充実した時間を過ごしていけるとよいですね。
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◇◇ 化学なんて大嫌い!という人のための
風変わりなヒント ◇◇
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