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新首都建設と日本のバージョンアップ


T.新首都建設(首都機能移転)
 ●新首都建設を進めなければならない理由 '97/9/22 UP
 ●数10万人の移住者の根拠について '97/10/1 UP
 ●その数10万人の離農者は当然都市又はその周辺で職に就くこととなる根拠 '97/10/1 UP
 ●新首都に求められる条件 '97/10/1 UP
 ●新首都の位置 '97/10/9 UP


T.新首都建設(首都機能移転)

●新首都建設を進めなければならない理由

国会等移転の気運は、昨今の行政改革論議の盛り上がりや、公共投資自粛ムード,東京圏の地価下落で普通のサラリーマンでもマンションなら買えそうだ、という安堵感から、住宅・土地問題の切迫感がうすらいだこと等、やや中だるみ状態であろうか。

過去何回もくりかえされた首都移転構想の空中分解が今回はありえないとは思うが、何となく日本人の長期ビジョン構想力、その持続推進力に疑いを持つ私としては、新首都はともかく新都市を創らねばならない理由を提示して、その側面支援をしてみたい。

今までの新首都建設を推進するエネルギーには、首都圏の道路渋滞,交通問題,電車通勤の過密やマイホーム取得の困難さ等、急膨張都市東京の住みにくさ,非効率さが大きな伏線になっていたような記憶がある。

地震,災害や水の問題はやや学者間レベルの問題であった。

このため都内の高速道路体系や、地下鉄網が整備され、新幹線通勤や通勤電車の高速化、複々線化などの改善が進むと、その推進エネルギーが減衰するのも当然の帰結といえなくもない。

そういう面では、今回の新都建設もバブル時代が背景にあるだけに、その必要性を十分国民にアピールしているかといわれれば、新都のイメージ図が先行し、かつての東京湾を埋土したり、地下に都市を造ったり、百階を超える超大型職・住近接複合ビル等、大東京時代の夢構想とダブる部分があることも否めない。

でも、今回は不退転で推進しなければならない。

根拠はあと5年もすれば誰の目にも明らかになるであろう。

それは日本の地方農村地域の経済基盤崩壊により数10万人の人々が都市周辺に移住せざるを得なくなると推測されることである。

このことは昭和40年代以降、長い間継続された「国土の均衡ある発展」という我国の政治上・行政上の不文律に基づき、地方交付税や公共事業、米価等々で都市の所得を中央省庁を介して地方農村に移転するという手法で、日本の農村を守ることが出来なくなったことが明らかになってくるからである。

その主な理由は・・・

1.都市自身の問題

都市自身の成長エネルギーが弱まり、転移しうる所得余剰が小さくなること。

成長期に多種多様な公共サービスは充実したが、その多くは所得成長が将来も長く続くという暗黙の前提で整備されているため、成長が低下すると都市自身の財政機能不全が一気に表面化してくること。

そもそも自前の財源である地方税(法人市民税、市町村民税、固定資産税等)が財政収入全体の50%を越える都市は少なく(全自治体の6.6%)、国からの補助金等で足らない部分は、自治体の借金である地方債で補うという借金体質であるから、ちょっと収入が落ちると借金で借金を返さなければならないサラ金地獄に陥る。

2.農業自身の問題

米,果物,肉,牛乳などのように国内価格と世界の市場価格が大きく乖離している農産物について、ウルグアイランドの約束を実行していけば、国内価格が大巾に低下し、もはや日本で農業を継続することがいかに無謀なことか自明となるであろう。

一見大変な暴論のように見えるが、ちょっと視点を変え、40年代以降、産業流通構造の転換・変化に伴って、転業・変身し生き延びた中小企業,商店ももちろん多いが、たいした政策的援助も受けずに時代の大波を受け倒産,廃業した企業等がいかに多かったことか、人の目はどうしても明るい光りが当る方向を向くので、その当事者の苦悶や諦観等々について語られる機会がなかったことに思いを致せば理解を得られるのではないだろうか。

自由経済は市場の将来動向を予測し、市場で求められるであろう製品,サービスを提供するものだけが存続,発展できるわけであり、予測を誤ったり、求められる水準の製品等を一定以下のコストで供給できなかった場合、消滅する厳しさがイノベーションを促進し、活力を生み出している。

農業における政策も、一般産業と同じように、急激な産業・流通構造の変動に際しては、緊急援助,補助等といった援助策をとるも、一定の期間を超えたら市場にまかせるという手法が取られていたら、今日においてこれほどの大問題を残していなかったであろう。

長い間の政策決定権は戦後の食糧難経験世代にあり、また世界の農業生産力のこれほどの成長、及び食料貿易の伸び等々予測できなかったこともあり、やむを得ない事情もあるが、ウルグアイランド等の外圧で初めて若干の政策を変更するとは、もう石頭を通り越して戦後40年間以上同じ回路で思考する化石的頭脳組織だといわざるを得ない。

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●数10万人の移住者の根拠について

このことに関して国勢調査等で援用できる統計資料はないと思うので、次の資料を参照した。

1.農林省の平成7年農業センサスでの農業就業人口

15才〜29才  21万人(内女性  9万人)
30才〜39才  29万人( 〃  20万人)
40才〜49才  46万人( 〃  29万人)
50才〜59才  69万人( 〃  47万人)
60才以上   248万人( 〃 132万人)

2.専業農家世帯数

42.7万戸

3.農村人口

4,400万人

4.中山間地域の人口,農業就業人口

中山間地域人口   1,831万人
中山間地域農業人口   161万人

※中山間地域とは、農林統計上、林野率が50%以上であるなどの要件に該当する地域のこと。

以上の資料や東洋経済の「地域経済総覧」の町村データ等を概観して少なめに考えても、数10万人の移住者が見込まれる。

もちろん、ある地域で農業専業人口100人の移住によって、その関連地域の商業,サービスに従事している何人が付随して移住するかということは、各種関連データから統計的に数値を求めることも可能であろうが、今の時点ではその数値等にまで言及しなくても許されるであろう。

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●その数10万人の離農者は当然都市又はその周辺で職に就くこととなる根拠

先年まで比較的盛んであった農村地域への工場立地は、東南アジア方面との海運,空運の飛躍的進歩から、我国の一般的な農村地域の交通利便性や知識・技術水準、勤勉性等の有利性では、賃金等のハンディが大きいことからもはや競争力を持ち得ないと考えることが妥当であろう。

よって、現在の自宅から通勤できるゾーンでは就労は困難である。

ではどの都市へ移住するかということになるが、現在や今後の国際的な大競争時代に新たな雇用を生み出していける都市は、経済圏人口150万人以上で総合的な産業・サービス集積があり、ハイテク,ソフト開発の一応の基盤が整備されている地方中枢都市圏以上の都市圏と考えられる。

やや独断的だが、逆にいえば150万人以下の独立的な経済圏では停滞又は衰退する可能性が高いと思われる。

私のイメージでは、150万人以上で新たな雇用を生み出していける経済圏は、当然その外周部においても住宅価格水準,家賃水準は高く、農村地域からの移住者にとってその負担は大変であり、農村部での農地等を売却しても大半は困難な水準であり、不可能かもしれない。

しかし、専門性が高く、収入の大きい仕事が豊富な新都市を創造すれば、すなわちそのような仕事をするに適した新都市を造れば、すでに都市圏で生活している人々のうちから多くの人達が新都市に移住し、宅地の需給関係も変わり、価格も低下するはずである。

宅地の価格はその都市圏の将来発展力を反映したウエイトも高く、発展して需要が増えると予測されるから、より一層現時点の供給が小さく、価格が上昇基調になるわけであり、逆にその都市の将来が暗いものになるなら、供給が増え価格は下落基調を強めるものである。

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●新首都に求められる条件

現在の各地の新首都移転候補地の概要を、新聞広告,インターネット等で見るかぎり、あいかわらず新首都の国会らしき都心部建物群とか公園都市的イメージ画像が中心で、どうも訴えてくるインパクトが弱い。

確かにそういう都市,街があることは喜ばしいことだが…。

どの地域も“なるほど新首都にふさわしい”という条件がそろった地域などありえない。

もしそういう地域があれば、この狭い日本でとっくの昔にそれなりの都市になっているはずだからである。

いずれの候補地も、都市として発展出来なかったいくつかの条件があるからこそ、未だ都市的形態を成していないゾーンばかりである。

何々は欠点だが、何々の条件には優れている、というようにアピールする方が説得力が高いと思うのだが・・・。

既に色々な意見が出ており、既知なことは略して私なりに追加的に重要と思われる条件を列挙してみる。

ア .自然的条件

新首都は、大災害の危険性が小さくなければならない。

その為には、大土木事業によって山谷を大々的に切盛土して地盤や地勢を大巾に変更することや、海を大々的に埋め立てることは、災害を招きやすく、費用の面からも避けなければならない。

水の問題は、水量に恵まれるにこしたことはないが、海が近くにあれば海水からの淡水化技術で、ある程度カバー出来る時代になっていることを考慮すべきであろう。

イ .国際・情報都市

国際・情報都市は、世界の人々が自由に行き来出来、自由に情報を発し、また受け取れる場所が豊富にあるようにすべきであろう。

当然現在の出入国管理手法は見直されなければならないし、通信インフラも大容量でフレキシブルかつリーズナブルなものでなければなるまい。

また、グローバルな時代には交通インフラ,オフィス,関連サービス等が24時間対応でなければ大競争時代において優位は保てないのではなかろうか。

ウ .観光・イベントサービス都市

新都市は、内外の多くのビジネス客や観光客が見聞を広め、刺激やヒントを求めてやってくる観光・イベント都市であってほしい。

国際都市の条件とも重なるが、活力ある新首都には外国人も日本人もリラックスできる、すばらしいホテルやレストランと共に、喧燥と猥雑さを備えた歓楽街も必要である。

もちろん、休日に気軽にドライブ出来る観光地や大きなレジャー公園があればなお良い。

エ .住環境の優れた街

日本の住宅は木造であり、降水量が多く、台風もよく発生するうえ湿度が高く、傷みやすい。

特に風通しが悪い市街地住宅地では、基礎部の傷みが進みやすいうえ、地震にも耐えることが要求される等々、悪条件が重なっている。

現在の都市計画法,建築基準法のように、小規模宅地を多額の費用で造成するというような方向でなく、自然の地形等と共存するように、平坦地では一区画は700u以上,建ぺい率は30%以下,敷地内には50%以上の緑地を取ること等のようにすれば、雨水に伴う災害等も防ぎうるように出来るのではなかろうか。

現在の関連法規があまりに絶対安全主義を指向しているように思うのは私だけであろうか。

もちろん、今日までの都市住宅地の造成が農地法上の転用規制のため、平坦で優良な農地を宅地転換できないため、ゆるやかな山林→谷を介した起伏丘陵山林へと徐々に土地開発条件の悪い地域へと進んだため、災害防止が最重視された理由も理解できるが・・・。

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●新首都の位置

新首都の位置については母都市との関係位置,国際空港,国際コンテナ港との距離,新幹線,高速道の各体系との連絡利便性が重要と思われる。

具体的には、各候補地の長所・短所を調査し、各条件の重要度に応じて、各評点を加重平均する等で候補地を絞り込んで行けばよい。

ア.母都市との位置関係

当初は10万人〜20万人程度の街としてスタートしつつも、その総合力において地方中枢都市並みの利便性、快適性は具備しなければならない。

さもなくば、その都市は他の中枢都市からの移住者を吸引することが出来ず、単なる人工都市として成長がストップしてしまうであろう。

されば、母都市と電車や自動車道等で、何時でもスムーズに時間・費用の負担も小さく交流できることが望ましい。

近ければ近いほど良いが、現在の地方中枢都市圏の近くで、宅地利用等が少なく農地・山林等の利用が多く、地価水準も低く地勢条件も良好な3000ha以上のまとまりのある地域となれば、限られたものとなるであろう。

将来の各種交通手段のスピードアップ等を見込んでも、30Km〜50Km程度の距離内に存することが望まれる。

もちろんその周辺通勤圏内に、500ha〜5000haのクラスター状住宅都市群に開発しうる地勢条件の地域が備わっていることも大切である。

イ.国際空港、国際コンテナ港との距離

国際空港や国際コンテナ港は、母都市に属するものを共用することとなるが、やはり50Km以内が望まれる。

ウ.新幹線・高速道との連絡

既に新幹線が走っている付近であれば、新駅を造る等で対応出来るが、遠い場合は母都市の新幹線駅への鉄道連絡を優れたものにするのが妥当な解決策であろう。

もちろんリニア新幹線の場合、なるべく新首都近くに駅を造ることは考えられよう。

高速道路の場合は、ジャンクションや新しい自動車道路を造る事によって解決は容易であろう。

エ.新都市の域内交通

新都市の域内交通は非常に重要だ。

当初の人口規模が小さいので、電車・地下鉄を基軸にすると明らかに大きな赤字を累積するであろう。

かといってマイカー中心にすると騒音・大気汚染など、折角の新都市も色褪せたものになりそうで情けない。

ここは皆で知恵をしぼらなければならない。

私の提案は、1人乗りの乗車部をロープウェイ式、チェーン式等で連結した、24時間運行の動く軌道システムを基幹とするものである。

都市の中心に中枢機能・オフィスゾーンを設け、郊外部にショッピングゾーン・文化ゾーン等を設ける。

幹線道路を放射状に配し、環状道路で連絡すると共に、中枢ゾーンへのマイカー等出入りには料金を徴収するなどペナルティを課して前記基幹域内交通インフラを利用するよう誘導する。

郊外の電車・自動車専用道のスピードはともかく、3,000ha程度のゾーンであるから、域内交通は20Km〜40Km程度の落ち着いたスピードを基調とする体系でまとめれれば良いと思う。




←域内交通の動く軌道システムのイメージ図


動く軌道は、一方方向に時速20Km程度で24時間稼動し、その乗車ボックスの本線と乗降線の合流・分離は、乗客がボタンを押すことによって、本線と分離し、乗降線に入り50m位の区間で徐々にスピードを下げ停車・降車し、合流する場合は、50m位で徐々にスピードを上げ合流する等、お年寄り・子供でも簡単に操作できるロボットシステムとする。

乗降場では常時3両程度を停車させておき、1両出発する毎に本線から空車の車輌が自動的に補充されるシステムとする。

乗降線は300m程度毎に1ヶ所設置する。

動く軌道システムの一周が、9Km前後であるから、時速20Km(1分間に約330m)として1周に約28分、時速25Km(1分間に約420m)で1周に約22分を要する。




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