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働く人から学ぶ会

最近の中学校では、1年生を対象に「働く人から学ぶ会」というのをやっているそうですね。いろいろな職業に就いている人たちを学校に招き、生徒が社会人から話を聞く機会を設けているようです。

平成14年の1月、山口市内のある中学校では、子どもたちから「作家」の話を聞きたいという要望が出されました。
たいていは生徒の保護者や近所の人たちの中から該当する人を探してくるのですが、これはそう人口の多い職業ではありません。
というわけで、その中学校で教師をしていた学生時代の友人から、私のところに電話がかかってきました。
ほかの職業の人たちといっしょに全体会で話をして、そのあと、分科会に分かれて質問を受けたり、詳しい話をしたりするのだそうです。

たいして活躍しているわけでもない私が、「作家」という職業に就いた者として話すのはおこがましいことだけれど、何らかの著書のある人間なら、一応、そう名のっても騙したことにはならないでしょう。(ほら吹きであっても、嘘つきではない)
ここで断ったら、先生たちはほかに頼めるあてが無くて困るだろうと予想されました。(山口県内には、地方に珍しく大物作家が何人かいますが、とつぜん言われてもちょっと時間がとれないでしょうから)。
それに私自身の気持ちとしても、本が好きで、作家という職業に興味を持っているという子どもたちに、会ってみたくなりました。

その日に先立って、分科会の子どもたちから質問状が届きました。
その質問を念頭に置きつつ、話す内容を用意してみました。
それは自分自身の思いを整理することにもなりました。

結局、当日はあっという間に時間が過ぎてしまい、準備した資料は使わなかったのですが。

そのとき、私が自分の考えをまとめてみた資料を、以下に公開します。
ここに書いたことは、第一には、そのときの分科会の生徒たちのためのものです。彼ら、彼女らのために作ったのですから。
けれども、同じようなことに興味を持っている今の中学生や若い人たちにも、分かち合ってもらいたいと思います。
もしも、何かの参考になるなら見てください。

「働く人から学ぶ会」資料

平成14年2月16日(土)

1、社会的特徴

・環境に左右される要素が少ない。
 幼いときから基礎的なレッスンが必要な芸術・芸能と違い、親が無理解、経済的に苦しい家庭、極端な田舎でもだいじょうぶ。図書館で本を読み、紙と鉛筆があればいつでもどこでも始められる。
・年齢に限界がない。
 スポーツを目指す人は、一定の年齢になるまでに結果を出せないと、あきらめる時期が来る。創作は生きている限り何歳でもできる。(ただし、実年齢に関係なく、脳が老化して新鮮なアイディアが生まれなくなることはある。)
・必要とされる人数が少ない。
 教師や医師や警察官や保育士や消防士や調理師……等々の実際的な役に立つ職業と違って、感動させたり楽しませたりする職業は、そんなに多人数は必要ない。(プロのスポーツ選手や漫画家、芸能人、芸術家も同じ)。少しくらい能力があっても、なかなかチャンスをつかめない。
・全国どこに住んでいても仕事ができる。
・決まった方法、資格、免許などは何もない。
・うまくデビューできたとしても、続けられるとは限らない。

2、準備

・読むこと
 10代のときの読書は人格に直接入ってくる。いい本を1冊でも多く読んでいたほうが人生が豊かになる。成人してからは本を読んで感動しても、感動の質が違う。10代の頃のような心を浸す読み方はできなくなる。今がチャンス。
・書くこと
 中学生のうちは必ずしも小説を書く必要はないが、文章を書く訓練はしておいた方がいい。(日記、作文。名文を書き写す。メモ……等)
 成人してからは、せっせと書くこと。創作は習えない。どんどん書くことで方法が身につく。
・いろいろな経験を積むこと
 どんな書き手もこれまでの自分の人生を財産として書くことになる。じゅうぶんに生きた人ほど、作品に厚みを出せる。
・アイディアを書きためておくこと
 とくにSFやファンタジーを書く人は、若いときの思いつきが財産になる。

3、方法

 学生からいきなり作家になることはめったにない。早く世に出なくても、チャンスはあるので焦らないこと。
・専業で(フリーターを含む)書く
 じゅうぶんに時間がとれる。
 早く結果を出さなくてはならない。30歳くらいが限度。
 親の理解が得にくい。
 生活費を稼ぐためには、結局、時間を割いて何か仕事をしなくてはならない。
 職場のしがらみからは解放される。
 挫折の危険が大きい。
 結果を出せなかったとき、他人のせいにしない自覚と覚悟が必要。
・就職して書く
 大器晩成でもかまわない。
 自由になる時間は少ないけれども、継続してやれば確実性が高い。
 意志を強く持たないと日々の生活に流される。
 生活のための作品を書かなくてもいいので、ほんとうに書きたいものに集中できる。
 デビューしても、収入は少ない。両立できる仕事があると有利。
 執筆よりも職場の仕事を優先しなくてはならない。
 どちらの仕事も中途半端に終わる恐れがある。

4、具体策

・創作教室 …… 勉強にはなるが、これだけではだめ。講師の反応を知ることはできる。田舎ではあまり機会がない。
・同人誌 …… 地味だが、堅実。なれあいにならず、個性をなくさないように。
・投稿 …… 自分のレベルを知り、選者の助言を得られることもある。
・公募 …… 受賞すれば注目されるが、受賞できなければ次点も予選落ちもいっしょ。
・持ち込み …… 出版社や編集者についての予備知識があったほうがいい。やみくもに送りつけるのは失礼。

5、方程式

(才能+適性)×努力+環境+実行力+意志+適度の思いこみ+運+その他=結果

※ これは、いろんな表現のしかたができます。

※ 「才能」と「適性」は、関連が深いけれども別のものです。

6、きっかけ、その他

 和木浩子の場合
 …… 小さい頃からお話を作って語るのが好きだった。
小学校2年生頃から作った話をノートに書き留め始める。自分がやっているのと同じことを、作家という職業の人がやるらしいと知り、それでは自分は大きくなったら作家になるのだな、と思いこむ。
中学生の頃までは、ためらいなく、将来は作家になりたいと公言していた。
高校生になると、そんな非現実的なことを言うと笑いものにされる(大切にしている真剣な夢を傷つけられる)という恐れと、ほんとうは自分の能力ではだめかも知れないという不安で、だんだん本音を言わなくなる。
大学生の頃、就職を決めなくてはならないが、ほんとうにやりたい職業に就職することはできないので悩む。一般的な職業に就いて、自由な時間に創作活動を続けていくことにする。
卒業後、高校生の頃から興味を持っていた児童文学の勉強会に出席し、プロの作家の指導を受け、同じ志を持った人たちとも知り合いになる。
26歳の時、作家の先生の紹介で、出版社の人に原稿を見てもらう。編集者の助言を受けて何度か書き直し、30歳の時、単行本でデビューする。


追記

もちろん、一人として同じケースはなく、一般的なアドバイスは存在しません。

自分の内側にあるものを書くことができなければ幸せでない、というタイプの人は、作家を職業にしてもしなくても、成功しても失敗しても、誰が何と言っても、死ぬまで書き続けるでしょう。


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