研修医宿題
IVH必勝法〜鎖骨下静脈編〜
山田 圭吾、本間 さちゑ
はじめに
外科医としての最初の登竜門ともいえるIVH挿入。高カロリー輸液管理のみならず呼吸器外科領域においても、中心静脈圧測定やPG投与経路としておおいに活躍しているが、その手技については各外科医の経験に基づく勘に頼るところが大きいといわざるをえない。術者が誰であっても常に成功するいわゆる「必勝法」があれば、こんなに心強いことはない。
必勝のツボ1 座標軸の設定
そもそも「必勝」と銘打つからには、再現性がないと話にならない。清書に「鎖骨の一横指下から胸骨上縁めがけて鎖骨の下をくぐらせるように・・・」といった説明文をよくみかけるが、刺入角度、深さが曖昧で一般性にかける説明である。そこで、まず刺入点を零点とした座標軸を設定することで恒常性の維持を図る。
必勝のツボ2 患者のposition設定
鎖骨下静脈の解剖学的な位置より、鎖骨中央部の鎖骨下には必ず静脈が存在する.(Fig1)
従ってまずこの1点を零点として設定する。あとは各座標軸に対する刺入角が決まればいいのである。ここで発想の転換が必要となるが、確実なメルクマールのない状態で術者の方で一定の刺入角をキープするのは不可能である以上、動くのは患者さんの方になってくる。つまり、術者の刺入方向は常に頭尾側方向に対して垂直、床面に対して平行と設定する。床面に対して水平方向に刺入する以上、より確実にあてるためには鎖骨下静脈の長軸方向と床面との角度(仮にδとおく)が大きい必要がある(Fig2)
では、どうするか。患者さんの背中に肩枕をいれ、両肩をしっかり床面につけて肩をいからせるようなpositionをとってもらうとδ角は大きくなる。簡単なことのようであるが以外とおろそかにされていることである。敷布をかけてしまうと穴から見える一点にしか注意がむかず、緊張で言葉すくなになってくると患者さんが恐怖で肩が上がってきていることにも気がつかない。肩をしっかり床につけたほうが安全であることをしっかりムンテラし、安心感を与えてあげることが重要である。
必勝のツボ3 左手をきかせる
最後のコツは左手の親指と人差し指の2本をうまく使う。目的とする胸骨切痕のくぼみに人差し指をおいて固定し、先に設定した零点のやや手前を親指でしっかり圧迫した状態で親指の上を滑らせるように刺入する。この工夫によってδ角は大きく保たれる.
慣れてくると患者さんが太っているか、やせているかによって微調整を加えられるようになってくるであろうが、基本的には、以上の方法を忠実に実行すれば必ず成功するはずである。ただし、物事にはえてして例外というものも存在する。
必勝のツボ4 名誉ある撤退
以上の方法にてもIVH挿入がままならないときは、動脈硬化がきつくて静脈の位置が移動してしまっている可能性が高い。このようなときは闇雲に操作を進めても動脈を穿刺してしまうリスクをあげるだけである。Anomalyな状態であることを即座に判断したら、すぐに操作を中止する。この判断ができるかどうかが名医の条件ともいえる。
September 27, 2002
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