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新美保鎮守府サイト


第1部本編:序章〜10話


■更新■2022年01月09日


序章(改3.0)<白い海>


某92年冬の日本海。北風と吹雪の中、海戦が行われていたが、あまりにも一方的だった。

『ワタシモ、カエリタイ……』

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マイ「艦これ」(みほちん)
 序章(改3.0):<白い海>
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 白い海。大荒れの日本海。
そして激しい吹雪。吹き付ける風と高い波。

もはや海上の視界はゼロに等しいが、空を見上げれば多少は見通しが利く。だがそこには重苦しい雲が覆い被さるばかりだ。

 時折、風が弱まる。すると吹雪の間から思い出したように差し込む幾筋もの日光。海面に揺れ動く水面(みなも)は、どす黒い。白波がキラキラと煌(きら)めく。




 その揺れる波間に、いくつかの影。艤装を付けた少女たち、艦娘だ。
人と同じ大きさでありながら、実際の艦船と同じ能力を持つ。帝国海軍の切り札となっている。

 しかし、この天候では艦娘といえども陣形を維持することは困難だった。強風と吹雪で互いに接近することが難しい。冬の海が意図的に距離を取らせまいとしているかのようだ。

もし電探があっても、この荒天では方向や距離感が直ぐに失われるだろう。僅かな判断ミスが艦同士の接触を招き最悪、遭難を誘発しかねない。

そんな艦娘たちの中央に居るのが旗艦を務める軽巡洋艦の艦娘だった。

茶髪で、やや長身の少女。

彼女は実戦経験も豊富だったが今日は経験の浅い艦娘を多く率いていた。
 
そのことは別に不満には思わなかった。
(これも任務なのだから……ただ、あの作戦参謀だけは……)

そのとき彼女を少し離れ必死に並走していた駆逐艦が叫んだ。
「感あり!」

「ちっ」
……と舌打ちした少女は冷静に発する。

「回避行動!」
雑音に混じって無線の声が全体に伝わる。

すぐさま全員が回避行動を取った。
数名の艦娘が回避した直後に水柱が立った。

旗艦の少女は確認する。
「被害は?」
「ありません!」

「……敵か」
どうやら近い。

彼女は軽巡洋艦、特に重雷装艦に改装されて本人も自慢だった。
しかし、この天候で照準はおろか発射すら困難だった。

今回は訓練も兼ね、6人の艦隊だ。だが途中から天候が急変した。

(もし小編制だったら……)
ふと、そんなことも考えた。

「フッ、何を今さら……ね」
悔いても始まらない。

 彼女たちは何度か交戦を繰り返しつつ一人も脱落者を出さず耐えてきた。それは彼女の経験の賜物と言えた。

誰も弱音を吐かず必死に航行を続けていた。
だが全員が既にボロボロだ。

 風が弱まった一瞬、再び駆逐艦が叫んだ。
「右舷後方!」

旗艦が再び指示を出す。
「射てる子は攻撃! 狙わなくて良いから」

『はいっ』
後方の艦娘たちが一斉に半身を翻(ひるがえ)して魚雷を発射する。
無照準の直接攻撃だ。

やや距離を置いて前方の艦娘たちも続けて一斉に魚雷を放つ。

旗艦の彼女は、その方法で佐世保沖で敵を沈めた経験があった。
それを隊員たちに教え込んでいた。

 だが残念ながら敵への影響は無かったようだ。

「甘くは、ないか」
舞鶴の海、この海域の敵は手練れだ。彼女はそれを痛感した。

攻撃したことで、こちらの位置を相手に知らせてしまった。
すぐ敵の反撃を受け始める。

再び回避行動を続ける艦娘たち。

「回避、回避!」
叫び声と同時に彼女たちの周りには、いくつもの水柱が立つ。

艦娘は諦めない。必死で反撃を試みる。
だが明らかに実戦経験が乏しかった。
さらに、この大荒れの海上では攻撃よりも自らの体勢維持が精一杯だ。

(厳しい)
指揮する彼女は、つい心中で弱音を吐く。

(悪条件過ぎる)
不慣れな者に、この荒天は衝突や同士討ちの危険すらある。
一部の駆逐艦娘は不安そうに耳を澄ませ何かを待っている。

そのとき彼女たちの北方に黒い船団……敵本体が見えた。

(深海棲艦……)
誰かが呟く。

彼らはこの荒天でも臆することなく次々と攻撃を繰り出している。
その安定した攻撃振りから冬の海での実戦経験の多さを感じさせた。

(くっ……)
旗艦の艦娘は焦った。

部下の艦娘たちには悪条件が重なっている。
経験不足に加え装備も不十分だ。

その焦りが伝わったのか一人の駆逐艦が叫んだ。
「隊長!」
ハッとしたように旗艦の少女は笑顔を作った。
「まだ大丈夫!」

凍てつく吹雪の中で彼女は反省した。
(弱気になっちゃダメだ)

 だが次の瞬間、敵の魚雷が二人の間近で爆発した。
艦娘たちが叫ぶ。巨大な水柱で再び隊列が乱れていく。

少女は叫んだ。
「皆、無事?」

「大丈夫ですっ!」
部下の反応も弱々しかった。

(歯がゆい……)
こんなに悔しいのは初めてだった。

あの作戦参謀の下だから余計に焦るのだろうか?
(いや、そんなことはない)

なぜか必死で否定する自分……だめだ今は戦闘中だ。
集中せよ!

そのとき無線担当の駆逐艦が嬉しそうに叫んだ。
「司令部より入電……撤退です!」

「遅い……」
旗艦は複雑な表情を見せた。
だが躊躇している暇はない。

大きく頷いた彼女は離脱を指示。
駆逐艦たちは慎重に反転を試みる。

 しかし吹雪の間隙を縫って再び激しさを増した敵の砲撃と雷撃が部隊の撤退を阻む。そして再び数発の魚雷が彼女たちの周りで幾重もの巨大な水柱を作る。

艦娘たちは歯を食いしばりながら必死で回避運動を続け直撃を避ける。

数発の魚雷に続いて誰かが叫んだ。
「注意! ……ミサイル」

次の瞬間、行く筋もの光軸が彼女たちをかすめ、大きな水柱が上がる。
「……!」

そのとき誰かの声にならない叫びが響いた。
そして部隊全体に動揺が走った。

旗艦の艦娘が徐々に白い海へ沈んでいくのが見えたのだ。

「隊長!」
周りの駆逐艦は異変に気付き慌てた。

「誰か! 早くっ」
数名の駆逐艦が救援のため近づこうとするが敵の猛攻は激しさを増した。
近寄ることも出来ない。

敵も状況を把握したようだ。
残された艦娘たちを弄ぶかのごとく直撃弾を意図的に逸らして部隊を分断させ始めた。

そして弾幕の向こう側に分断された旗艦は留まることなく白い波間に沈み行く。

 一瞬の晴れ間。

残された艦娘たちは波間に傷付いた隊長の姿を見た。
その艤装からは火花が散り額から赤い筋が滴り落ちる。

誰かが叫ぶ。
『隊長!』

だが彼女の瞳には苦悶ではなく受容する安堵の表情が見えた。

(これで終わる)
そう呟いているのか?

『隊長!』
部下の叫び声……しかし自分も、どうすることも出来ない。

体の各部が機能を停止し回路が分断されていく。
(深手を負ったな……これが轟沈か)

それは痛みや悔しさよりも不思議な気持だ。

『隊長ぉ!』
艦娘たちの声が遠ざかる。

 だが突然、彼女は我に返ったように大きく腕を空へ伸ばした。
それは完全に水没する直前だった。

「……!」
他の艦娘の名前か?
誰かの名前を叫んだようだった。

そして急に哀しい表情を見せた。

見守るしかない艦娘たちには隊長の情念のようなもの……何か抑圧的なものが外れた感じがあった。

 しかし大きな波が覆い被さり彼女の姿は消え去った。
あっけない最期、そして灰色の天海が吹雪の中で空しく広がる。

残された駆逐艦たちは吹雪の向こうに幾つもの黒い群れを見た。
彼女たちが初めて間近に相対する敵の本体。

しかし旗艦を失った艦隊に反撃する気力は失せていた。
敵の高速艦は遠巻きにしながら徐々に退路を塞いでいく。

手出し出来ない少女たちは、ただ青ざめ互いに手を取り合ってジッとしているだけ。

もう救われる道はないのか?

 なにも、
 ワカらナイ……

冷たい白い海の中で……旗艦の艦娘は手を伸ばしていた。

 ナニモ、
 ワカラナイ……

同じ単語を呟くように繰り返す。
海中なのに妙な響きと残響がある。

だが暗い水の中。
白雪の如く揺れる水泡は何も答えてくれない。

海上では不気味な灯りを点滅させる群れが居た。
彼らは白い海に浮かぶ残された艦娘に徐々に近づく。

恐怖に震える少女たち。
もう、正視出来ない。

 そこで場面は暗転。

薄暗くなった日本海に少女たちの叫び声が響き渡る。
同時に金属が引きちぎられ擦り合うような音。

 それは海中にも伝わってきた。

消え行く自我の中で旗艦だった彼女は呟いた。

 アノコタチハ……ヨクヤッタ。
 デモ、ワタシハ……


彼女は、よく作戦参謀と
意見がぶつかったきとを思い出す。

彼には遠慮すまいと思っていた……それが彼女なりの責任感だった。

『やっぱり……反省すべきね』
薄れる意識の中、彼女は苦笑した。

 フフフ……
(これは誰の声?)

彼女がそう思った瞬間だった。
むくむくと別の感情が沸き上がってきた。

 押えがたい衝動だ。

 ワタシモ、カエリタイ……

冷たい海の底へ沈みつつ手を伸ばす。

 マタ……アイタイ。

彼女の物語は、これで終わる。
誰もが、そう思う。

その後、今回の舞鶴沖海戦の戦果が報告される。

舞鶴沖:日本海海戦 戦果報告
 軽巡洋艦1:沈没
 駆逐艦5:沈没
 舞鶴鎮守府 艦隊6人を消失
以上

 この戦いは、よくある敗北した戦闘の一つとして記され、
彼女たちの登録は抹消された。

 また、この情報は後の艦娘の作戦資料として
利用され終わったことだろう。


「大井っちの馬鹿……何で沈んじまったのさ」
彼女は遠くに見える山を見て呟いた。

 すっかり日も落ち照明が灯る舞鶴鎮守府。
日中、強かった風も収まり舞鶴の海も凪いでいた。
その埠頭に立つ黒髪の艦娘。

「あんた最後まで参謀に黙って……それで良かったのかなぁ」

彼女を陰から見守る一人の影。
「……」

 彼女は気配に気づいた。

しかし気に留めない振りをして、その場を立ち去った。

 彼女の後ろ姿を見送ったのは、もう一人の参謀だった。
彼は、そのまま黙って腕を組んでいた。

ジッと夜の海を見つめ考えていた。
(今回の指揮を執った作戦参謀は解任されるかな)

階級からいえば
恐らく次に作戦担当指揮官になるのは自分だと思った。

だか彼は、それを喜ぶでもなく淡々と受け止めた。
それが目的では無かったから。

眼鏡を軽く押えつつ呟く。
「軍人に人間的感情は不要だ」

自分の中に湧く真逆の感情を押さえ込もうとしている。
それは分かっていた。

そんな矛盾した感情に
『人間は不完全なモノだな』と思った。

少し風が出てきた。
彼は再び自分に言い聞かせるように呟く。
「艦娘と過度に交わると人は不幸になる」

そしてコートの襟を立てた。
「良いんだ……これで一つの時代が終わる」

彼もまた埠頭を後にした。

 舞鶴の艦娘たちの轟沈によって
彼女たちの物語は終わったかのように見えた。


 だが、ここから「みほちん」の物語は始まる。


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※これは「艦これ」の二次創作です。

序章<白い海>
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ハーメルン 2015年08月04日(火) 07:47  
PIXIV 2015年6月25日 22:40 閲覧数  501  
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暁  [作]2016年 11月 24日 11時 45分  閲覧数 756  
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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。


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禁止私自轉載、加工 天安門事件
Prohibida la reproduccion no autorizada.



第1話(改3.4)<7月21日>


某94年7月21日、美保鎮守府着任のため列車に乗っていた「私」は、あれこれ考えていた。

<降って湧いたような着任辞令だ>

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マイ「艦これ」「みほちん」
:第1話(改3.4)<7月21日>
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 ワタシモ、カエリタイ……

『彼女』の声が響く。
それは聞き覚えがあるのだが誰だったか?

 思い出せない。
ただ懐かしく哀しい、何か胸が締め付けられるようだ。

……ギギギっという金属がこすれる音と小刻みな振動で体が震える。
続いて列車が停まった反動で体が座席から前に投げ出されそうになり目が覚めた。

「おっと」
思わず声が出た。

(……やれやれ、うっかり座席で居眠りしていたらしい)
さすがにヨダレを垂らす事は無かったようだが少々恥ずかしい。
ただ車内は閑散としていて誰にも見られて居ないようでホッとした。

半分開け放した窓からは夏の日差しに照らされた駅のホームが見えた。

「戻ってきたな」
私は呟いた。

 列車は小さな無人駅に停まっていた。ここは鳥取県西部を走る境線。
寝ぼけ眼(まなこ)でボーっとしたまま窓の外を見る。長旅の疲れが出たかな?

……ちょうどそのとき背後から長い包みを背負った男性が通路を通り過ぎた。彼は両手に木製の道具箱を持っている。

(絵を描く人だな)
ピンときた。

そう思った瞬間、彼は私に会釈をした……歳は父と同じくらいだろうか。品(ひん)のある老人だった。私も会釈を返す。

外へ向かう彼の後ろ姿を見送りながら、この時世に絵を描くとは風流だと思った。

 深海棲艦との戦いは終わる気配がない。だから市中で軍服を着ていると一般の人から会釈をされる。今のやり取りのように。

 国全体、いや世界が戦時体制である。

だが我が国では国民が絵を描くこと自体、禁止されていない。むしろ積極的な趣味活動は社会の閉塞感を打破するものとして推奨されている。

(……でも、この山陰で絵画とは、あまり聞かないな)
都会から来た人だろうか? と思った。

 客車を降りた男性を目で追いつつ駅名を見る。
「河崎口(かわさきぐち)か」

私は鞄からメモを取り出して確認した。
「確か、中浜(なかはま)か上道(あがりみち)の駅で降りれば良いはずだな」

……ガラガラと気動車の発動機が響く。降りた男性に入れ替わるようにして親子連れが乗り込んだ。

 山陰の夏は湿気が多い。その熱気の中でディーゼルの排気臭と無数の鉄粉がキラキラと宙を舞うのが見えた。

「さっきの夢は……舞鶴か」
手帳を閉じて呟く。

忘れもしない。冬の日本海だった。
「この暑さとは裏腹に……か」

艦娘艦隊が敗北した季節。

……艦娘が出現した当初、某50年代には通常の艦隊と艦娘が並走して出撃していた。

だが某60年代の半ばには艦娘だけが出撃する戦い方が主流になっていた。
艦娘の方が戦力があり敵の攻撃への耐久性もある。だから人間が最前線で危険を犯す必要はない。究極のアウトレンジというわけだ。

 もちろん未だ賛否両論ある戦法だ。
特に艦娘とのケッコンが合法化された某80年代半ばからは軍部内でも強行派と穏健派が対立するようになっていた。

 この戦法が主流になったのは、かつて横須賀沖の海戦で、ある提督が艦娘をかばって亡くなったから、という説がある。

ただ不思議なことに、その提督が亡くなったという海戦記録は、どの公文書をひっくり返しても出てこない。もちろん該当する指揮官の名前も不明だ。

(一説に某60年代の半ば『66攻勢』辺りらしいが……まぁ軍隊に、よくある伝説の類かも知れない)
『66攻勢』とは海軍史の授業でも何度も出てくる敵の大反撃だ。歴史が苦手な私でもこの単語だけは忘れない。

 無線技術の発達は艦娘戦闘の遠隔制御を可能にした。まさに究極のアウトレンジ。いつしか現海軍の艦娘による戦いにおいて指揮官が直接現地へ赴くことは皆無となった。

 だが無線にも限界はある。気候条件などで途切れることも多い。特に近年は深海棲艦による電波妨害が著しい。

 そして某92年、冬。私の指揮する艦娘の艦隊が深海棲艦に大敗する。
あの悪夢が果たして正確かどうか 正直、私にも分からない。

 その後、軍には新しいパケット通信技術が導入され情報遅延による不具合は、かなり改善された。

(もっと早く導入されていれば……)
何度も悔やんだ。

 さらにメモ帳をめくっていると別のページの『ショウコウ』という記述が眼に留まった。
「伝説の艦娘だな」

私は頭を掻いて記憶を手繰る。この艦娘は姉妹で、やたら強かった。当時の兵学校でも良く話題になった。

 だがその後、彼女たちの艤装開発に絡む不正疑惑が発覚。政権交代と共にその艦娘たちの話題も自然消滅した。

当時、海軍内でも穏健派と強行派が分かれていた。それに巻き込まれたという噂だった。

強い艦娘が登場して敵をバタバタなぎ倒せば皆、幸せになる……という単純な話でもないらしい。軍部や政治の世界は難しいものだ。

「海軍もイロイロだよな」
呟いた私は先の男性が駅のホームで私の方を向いて敬礼をしているのに気付いた。

「おっ」
少し慌てた私も敬礼を返した。
街で私のような佐官を見かけても敬礼は義務ではないのだが。

(退役軍人だろうか)
そう思った。彼の敬礼が妙に型に決まっていたから。

「列車、発車いたしまぁす」
車掌の笛の音と同時に汽笛が鳴った。私の乗った客車は一瞬ガチャンという連結器の音を響かせた後に、ゆっくりと発進した。

 敬礼を続ける男性を見ていた私は、あれ? と思った。
(どこかで出会ったかな)

彼の顔に何となく見覚えがあった。だが顔見知りではなさそうだ。
「気のせいか」

彼が視界から消えた後、私は改めて座席に座り直した。

 今回、着任するのは鳥取県境港市にある美保鎮守府。
艦娘だけで構成された鎮守府。海軍でも、まだ珍しい存在だ。
今では艦娘だけで戦うことが主流になったが、それでも長らく艦娘だけの鎮守府は存在しなかった。

今でも軍での娘の存在を快く思わない強行派が敢えて敵に艦隊戦を挑むことがある。しかし結果は明白、ほとんど無意味だった。

なかなか艦娘だけの部隊が作られなかった理由が強行派連中の面子かどうかは知らない。

 しかし一昨年、ようやく実験部隊の名目で山陰地方に初めて鎮守府が設置された。私は改めて自分で調べたメモを取り出して確認する。

<美保鎮守府>
・某92年7月21日開設:ちょうど2年前の今日だ。

・初代提督は女性:私の兵学校時代の恩師だ。だが半年くらい経った頃、突然彼女はその任を降りてしまった。理由は不明。

・以後の美保鎮守府では男性の提督が何人も着任:だが、いずれも長続きしなかった。理由は分からない。噂では艦娘との折り合いが難しいとか。最初の女性提督でも難しかったのに男性では、なおさらか。

・結局、半年前からは提督不在となっていた:強行派の多い海軍内部からも美保は潰せという意見が出ていた。そこに降って湧いたような男性への着任辞令……それが私だ。

しかし現実は、さきの如くの体たらく。
「私は名提督でも何でもない」

思わず肩をすくめた。
「そもそも初陣で全滅させているくらいだからな」

 正直、艦娘の指揮は苦手だ。彼女たちが嫌いなのではない、むしろ逆で、つい艦娘だと手心を加えてしまうのだ。

だからあの海戦も悩んだ挙げ句の出撃だったから、つい判断が鈍った。
私は後悔と悔しさに唇を噛んだ。

……それ以来、慎重な指揮を心掛けたから艦娘の犠牲は出ないが戦果も芳しくない悪循環を繰り返し、周囲からも陰口を叩かれている。

 今回の特例人事が誰の発案か分からないが軍の命令は絶対だ。

「海軍の上層部もきっと自棄(やけ)を起こしているに違いない」
私は苦笑して窓枠に肘をついた。

(ひょっとしたら私を当て付けて失敗した口実で、この鎮守府を終わりにするつもりか?)
そこまで考えて首を振った。

「止めよう、下手な考え休むに似たりだ」
私は分析を止めた。

……車窓には、のどかな田園風景が広がっていた。吹き込む風が嫌な気持を癒すようで心地良い。


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※これは「艦これ」の二次創作です。

第1話(改3.4)<7月21日>
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ハーメルン 2015年08月04日(火) 07:47  閲覧数 3718
改3.4 23:19 2021/03/13 再
PIXIV 2015年6月25日 22:40 修正 4:06 閲覧数 360
改3.4 23:32 2021/03/13
TINAMI No.851561 16/06/04 12:54 投稿  閲覧数 126
改3.4 23:32 2021/03/13
暁  [作]2016年11月24日11時45分  閲覧数 693/665
修正:4:24 2017/12/05 閲覧数 733
改3.4 23:36 2021/03/13
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改3.4 14:45 2021/05/23


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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。  


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第2話(改2.8)<出会い、遭遇>



私は境線で妙な女子学生に突然、声をかけられた。その直後、空襲警報が響きわたる。

「逃げて」
「はぁ?」

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マイ「艦これ」「みほちん」
:第2話(改2.8)<出会い、遭遇>
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「そういえば」
私は鞄を開いて今回、着任前に送付されてきた案内書を出した。

改めて見ると発信は今の美保鎮守府の提督代理こと重巡『祥高』となっていた。

「重巡……あれ?」
思わず目を疑ったが間違いない。

「まさか、あの艦娘か?」
呟くと同時に冷や汗が出た。

半ば伝説化しているが彼女は轟沈していない。今も海軍のどこかで艦娘任務をこなしても不思議じゃない。

それに今回は曰くつきの美保鎮守府だ。
「やれやれ……早く確認ときゃ良かった」

でも……と考え直す。
(もし出発前に彼女の名前を見てたら果たして来てたか?)

「否」
絶対、尻込みしただろう。

それに振り返れば此度(こたび)の人事発令が突然だった。一昨日、辞令が出て書類を貰ったのが昨日。あれこれ考える暇もない。

「それが良かったのかも」
私は流れる景色を見ながら苦笑する。

「ま、今更ジタバタしても始まらン。任務だし何とかなるサ」
腹をくくった。

取り敢えず、もう一度その艦娘を確認。そもそも艦娘が指揮官を勤めるなんて初聞だ。

「珍しい事例だよな」
何か事情があるのか?

……来る途上で受けた電話連絡では今日、到着した米子駅まで駆逐艦娘が迎えに来ると聞いていた。

「でも実際には誰も来なかったンだよな」
不思議そうな駅員の視線を思い出して、つい肩をすくめた。

「だから痺れを切らして境線に乗ったんだ」

……その結果として列車内で、あの忌まわしい悪夢を見る羽目になった。

それは仕方ないが、その出迎えの駆逐艦はどうした? 
「すっぽかしたのか」

言いながら頭を振った。
「いや、あり得ん」

海軍じゃ、艦娘は人間以上に命令に忠実だ。
「じゃ、何かの事故か?」

私は米子駅で憲兵さんに声を掛けられたのを思い出した。

『閣下』
『オゥ?』
声が裏返った。

『お困りでしょうか?』
憲兵お得意の職務質問かと思った。
だが見ると意外に親切そうな憲兵さんだった。

『あ、いや美保鎮守府へ行きたいのだが』
『なるほど』
頷いた彼は丁寧に美保鎮守府への行き方を教えてくれたンだ。

説明の途中で列車が来た。
『閣下、あの列車ですわ』
『ほぇ?』

また声が裏返った。それでも促されるままに改札を通り、そのまま飛び乗った。十分、礼もせず別れて、ちょっと失礼したかも。

「狭い田舎だ。もし今度出逢ったら謝罪しよう」
私は座席で広げた資料を片付け始める。

……その時、何となく視線を感じた。ふと見ると斜め前に紺色セーラー服の女学生が座ってる。

       

(夏なのに暑苦しい)
そう思っていると向こうも、こちらを見ていた。

(軍の白い制服が珍しいンか?)
軍人と目が合った民間人は直ぐ目を逸らすか会釈する。

(女学生なら会釈かな?)
そう思ったが、その娘はジッとこちらを見ているだけ。

イヤ、その焦点も微妙に合ってない。
(要はボーっとしてるンかい?)

愛想笑いすら出来ないクソ真面目な性格の私だ。仕方なく目を逸らして流れる車窓の風景へ目を移した。

「あぁ、腹減ったなぁ」
……本当なら、もう鎮守府に着いてる頃か?
そもそも山陰本線では列車内で駅弁も売ってない。駅でも買いそびれた。

 ガタゴト走る列車は時おり激しく揺れる。お尻がジャンプする。

「路盤が悪りィな」
言いつつ視線を車内に戻した私はギョッとした。対面に、さっきの女学生が居る。

(いつの間にっ!)
「……」
だが少女は相変わらず焦点の合ってない視線をこちらに向ける。

そして、おもむろにボソッと言った。
「逃げて」

「は?」
いきなりの発言。

その時、外から『ウー』っという音が響く。
「空襲警報?」

……列車は警笛を鳴らしながら急停車した。

≪緊急停車、緊急停車≫
車内放送が流れた。

隣の車両から走ってきた車掌が叫ぶ。
「皆さん、列車から降りて防空壕へ!」

車内にいた僅かな乗客は慌てて荷物を抱え出口へ。
境線の景色は、どこも同じようにしか見えない。

ただ車窓から格納庫がボンヤリ見えた。列車が止まった場所は空軍基地の直ぐそばだ。

私は鞄を抱えたまま車掌と共に乗客を車外へ誘導する。
「皆さん落ち着いて……外へ出たら直ぐに近くの防空壕へ!」

海軍とはいえ軍人が居ると心強いのだろう。みんな比較的、落ち着いて行動していた。これが都会なら大混乱するところだ。

……最後の乗客に続いて列車を降りて振り返る。列車の出口縁(へり)から地面まで意外と高さがある。
私は車掌と共に高齢者や小さい子供が怪我をしないように降車するのを手伝っていた。

 既に遠くから妙な金属音が響いてくる。恐らく敵機だ。ただ地面の上だと距離感がつかみ辛い。

線路から少し離れた木立の向こうに小高く防空壕が見えた。そこへ向かって次々と避難を始める乗客。

 飛行音は徐々に大きくなる。振り向くと海の方角……東の空に、いくつかの黒い点が見え始めた。

「来たか」
私は立ち止まって状況を確認する。

戦場で何度も聞いた特徴ある音。深海棲艦の機体で間違いないだろう。

 単発的に発射音が響く。敵機方向に白い弾幕が張られていく。
「境港と由良の陸軍……高射砲か」

奴らは通常兵器が使える相手ではない。果たして効果があるのか? 
(何もしないよりゃマシか)

 陸海空三つの基地が集中する美保地域だが敵の航空機に直接攻撃されるのは極めて珍しい。

表情の見えない敵とはいえムヤミに攻撃しては来ない。連中も意外に要領は良い。

「目的は何だ?」
整理するように私は口に出して呟いた。

もともと深海棲艦も主戦場は海の上。連中が船舶や艦船を攻撃するのは分かる。

しかし美保湾周辺で大規模な作戦行動があるとは聞いてない。

「なぜ今?」
解せン。

連続して高射砲の音が続く。
(美保鎮守府と、この攻撃には何か関係があるのか?) 

妙な胸騒ぎを覚えながら私は防空壕を目指した。
「考え過ぎなら良いがナ」



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※これは「艦これ」の二次創作です。

第2話(改2.8)<出会い、遭遇>
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・ハメ,初稿:2015年08月05日(水)  00:17(米子駅出発前・旧版)  閲覧数 3214
(改2.8)22:52 2021/03/17
暁 [作]2016年11月24日14時 05分 閲覧数 565/545(改2.8)23:00 2021/03/17
TINAMI No.851784 16/06/06 12:48 投稿  閲覧数 240 (改2.8)23:03 2021/03/17
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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。

※無断転載対策おまけ
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第3話(改2.5)<空襲と救出>



乗車中の列車が敵に襲われた。セーラー服の女の子を助けようとした私は敵機に襲われる。


「えっと、女の子は何処だ?」

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マイ「艦これ」「みほちん」
:第3話(改2.5)<空襲と救出>
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 ドンドンという音と共に空には高射砲の弾幕が張られる。しかし敵に通常の対空砲火は、あまり効果がない。

「ムダだぞ陸軍」
私は空を見て呟く。

車掌に聞いた。
「列車の状況は?」

彼は軽く敬礼した。
「はっ、ほとんど自力で(防空)壕へ逃げましたが……まだ年配者が」

戦闘機が弾幕をくぐり抜けこちらへ近づく。

「直ぐ誘導する」
「はい!」
私たちは列車の傍で右往左往する年配者に駆け寄る。

「大丈夫ですか? 避難しましょう」
「……」
彼らの手を引く。多くが赤子のような純粋な笑顔でニコニコしてついてくる。

(ちょっと認知っぽい人たちだな)
私は思った。

 防空壕は線路脇の畑にあった。この戦時下、各自治体や部落では壕の設置が義務付けられている。

乗客は、ほとんど退避した。年配者もギリギリ間に合った。

「やれやれ」
壕の中で制帽を取った私はホッとした。

 私は豪内の雰囲気が変わるのを感じた。それまで軍服の私を敬遠していたらしい。年配者の手を引く私の印象が大きかったのか。

子連れの婦人が話しかけてきた。
「海軍さん」

「ん?」
振り向く彼女は小さな女の子を連れていた。

(河崎口の駅で『絵描き』と入れ替わって乗り込んできた人だな)
そんな事を一瞬考えた。

婦人は少女の手を握りながら言った。
「あの、女学生が居たはずですが」

その言葉で私は例の少女を思い出した。
「居ないのか?」

「はい」
婦人は頷く。確かに壕の中には居ないようだ。

すると別の男性が言った。
「さっきチラッと見たけど壕と反対の方向へ駆けて行ったで」
「え? まずいな」

「……」
年配者は暗がりでも相変わらずニコニコしていた。その笑顔が逆に緊張感を増した。

「車掌、この場を頼む」
「はっ」
その場を車掌に託し私は再び壕の外へ出た。

「えっと、女の子は何処だ?」
そう言いつつ辺りを見渡す。すると小高い丘の向こうを紺色のセーラー服の少女が走っていた。

「なに考えていンだ? 逆に目立っとる」
彼女は防空壕とは反対方向へ、どんどん逃げている。

呆れた。
「あの子、状況が分かって無いンか?」

今、学校で避難訓練は必修科目のはずだ。だがあの子は訓練を受けてないのか? 

「登校拒否? まさか」
今の時代に、それは有り得ない。

敵が近づく。時間がない。
私は『危ない』少女を救出する決意をした。

「まだ行けるか?」
目算で距離を読みつつ線路から草地へ向かう。

だが海上と陸上じゃ感覚が狂う。
「ヤバい、間に合わン」

制帽を脱いだ。
「えい、ダッシュ!」

起伏のない平地に列車が停車していれば敵からは格好の目標だ。案の定、奴らは列車に狙いを定めた。

「来る!」
機体の一部が何か光ったと思った次の瞬間、激しい轟音が響く。
私も咄嗟(とっさ)に身をかがめる。

地響きと同時に火花を散らして先頭車両は粉々に砕け散った。
派手に白煙が上がって煙幕のように周囲を蔽(おお)う。パラパラと細かい破片が落下してくる。

その煙のお陰で逃げている少女は、しばらく安全だろう。私は直ぐに駆け出して少女に追いつこうとした。

「あれ?」
異変が起きた。足が竦(すく)んだのだ。

「まさか……」
それは軍人としてあり得ないことだ。別に最近、戦場で危険な目に遭ったわけでもないのに……焦った。鼓動がどんどん早くなる。そして気分が悪くなってきた。

「これは毒ガスの類ではない」
呼吸を整えた私は努めて冷静に状況を分析した。その間にも地響きが続く。敵は、まだ列車を攻撃することに夢中だ。

「1に敵。2は、私や少女に敵は気付いてない」
敢えて自分に言い聞かせるよう数えながら呟く。すると不意に足が軽くなった。

「今だ!」
弾かれたように少女目掛けて走り出す。

「おーい君、大丈夫か?」
少女は振り返る。少しビックリしたようだが私の問い掛けに小さく頷いた。

彼女が立ち止まったので何とか追いつく。
(やれやれホッとした)

相手は女学生だからな。軍人に声をかけられて警戒されるかと思った。
近頃は内勤が多くて体が鈍ってる。この炎天下で数百メートルも全力疾走して息が切れた。

だが私と同じ条件下で疲れているハズの彼女が意外に息も切れてない。
「……」

(タフな子だな。何か運動でもしてるのか?)
平然としている彼女を見て私は、そう思った。

……改めてみると不思議な子だ。大きな瞳が印象的で、まるで人形のように可愛らしいのだが気配が無い。
(この子、もしや……)

 その時、地響きと共に爆発音が連続した。見ると列車や線路が次々と敵によって破壊されている。

「考えてる暇ァ無いな」
時おり黒煙で太陽が陰る。ここは戦場なのだ。私は素早く状況を確認。既に列車と私たちは、かなり離れていた。

 相変わらず無数の破片がバラバラ降り注ぐ。幸い私は軍服、少女も長袖のセーラー服だから、さほど痛みは感じない。

 敵は数機で列車周辺の地面にまで次々と攻撃を加えて破壊を続けている。乗客は既に避難しているから連中は拍子抜けだろう。逃げ惑う人間が一人もいないのだから。

 彼らは列車の上空で何か探すような仕草をする。直感的にまずいと感じた。

女の子は紺色のセーラー服。よく見るとリボンだけが赤い。オマケに私は海軍の制服で白……こりゃ目立つ。

直ぐ私たちが発見された。
敵機は先頭機体が少し向きを変えただけで即、編隊ごと向かって来る。

 光の閃光が私たちをかすめる。瞬く間に近くの地面が地響きと共に抉(えぐ)られる。

「おりゃアア」
雄叫びを上げつつ少女抱き抱いて反対側へ身を反らす。無我夢中だ。

小柄な少女は私の腕の中で子犬のように大人しくなった。

(抵抗しないのか)
そう思った直後、右に左と一面の土砂や草木が舞い上がる。土埃(ぼこり)以外は何も見えない。

「あっ痛!」
一瞬、肩のあたりを銃弾がかすめた。

(機銃か? 当たったかも)
……まだ体は動く。

「ンがぁ」
奇声を発しつつ逃げまくる。

「……」
少女は自然体というか、ほのかに緊張感を維持して……まるで発射直前の兵器が待機するような感覚だ。

(不思議な子だ)
一瞬、艦娘かと思った。

この非常時に、ほんのり感じる体温。そして香水じゃない女子っぽい香り。
(この身体の柔らかさは女の子だなぁ……嗚呼、不謹慎)

自戒しつつ周りを見た。
反転する敵機。

 舞い上がった土煙(つちけむり)が収まると同時に再び光筋が私たちを狙う。
「このままじゃアブねぇ」

私は思いっ切り近くの窪地へとジャンプした。
「あり?」

……予想外にも、そこは用水路だった。


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※これは「艦これ」の二次創作です。

第3話(改2.5)<空襲と救出>
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・ハーメルン, 初稿2015年08月頃 3718?  更新(改2):21:15 2017/12/08  
(改2.5)23:53 2021/03/23
・暁:[公]2016年11月24日 15時15分 (改2.5)0:15 2021/03/24
・tinami,No.851970  16/06/07 12:46 投稿  (改2.5)0:18 2021/03/24
・pixiv, 2015年6月27日 04:30 (改2.5)0:23 2021/03/24
・サイト更新:初 21:37 2017/12/08  (改2.5)15:25 2021/05/23

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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。




第4話(改2.8)<逃避行>



私は女の子に追い付くが意外にその子は敵襲を恐れていなかった。

「空軍は……陸軍もやられたよ」
「え?」

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マイ「艦これ」「みほちん」
第4話(改2.8)<逃避行>
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「ぷへぇっ」
思わず吐いた。泥水の味……くぼ地には水が流れていた。
そういや弓ヶ浜にゃ、こンな小川が多かった。

 兵学校での訓練を思い出す……まさか自分がこの年で少女を抱えて水路に飛び込むとは。

川の外では激しい閃光と地響きが続く。時折、砕けた土や小石が頭上からバラバラと降り注ぐ。

 私は少女を護りつつ低姿勢で振動に耐え続けた。その間も女の子は、ずっと大人しい……が何かブツブツ呟いてる。

(少し変わった子なのだろうか?)
俗にいう『中2病』……この年頃は、そんなモノか?

ふと振動が収まり敵機が遠ざかる気配がした。

「やれやれ」
少し顔を上げた私は改めて少女を見た。

「大丈夫か?」
私は周りの様子を見つつ彼女から離れた。

「……」
少女は呟くのを止めた。そして大きい瞳で、こちらをじっと見上げている。

 お互い何も言わない。場は一瞬の静寂に包まれた。
遠くからは断続的に爆発音が続いている。

 共に小川に飛び込んだから彼女も制服の上から下まで、ずぶ濡れだ。
制服もボロボロ。どこかで擦ったか。

 改めて確認したが、お互いに無事らしい。
だが、この少女は敵の攻撃を恐れていない。つまり感情が動いていない。

 私も海軍だから各地で住民を避難させた経験がある。普通の市民は大概、敵の攻撃を受けると動揺して逃げ惑う。結果、犠牲になった人も無数に見た。

(肝が据わっているのは元軍人くらいだ。まして女学生が落ち着いているなんて初めてだ)
妙に感心した。

「ブツブツ」
再び少女は呟き始めた。

やばい、目の焦点が合ってない。
(電波系の危ない子か?)

さっきの年輩の男性を思い出した。もし、この子もその類(たぐい)なら恐怖という概念は無いだろう。

私は息を殺して辺りの様子を伺う。少女の呟きと地響きは続いている。

 今は夏。ジッとしてると徐々に汗ばんでくる。

「ここから早く移動したいな」
何気なく呟いた。

それでも暑い日で良かった……これが冬場ならキツイ。そもそも冬に水を被ったら動けないだろう。

「冬、水?」
不意に舞鶴の海戦を思い出す……。

辺りは焦げたような臭いが充満している。これは陸戦の臭い……海の戦いとは違う。

 敵の兵器は通常火薬ではない。硝煙というより何かが純粋に焦げたような鼻にツンと来る臭いだ。

 それでハッとして我に反った。危ない、ここは前線だ。

 敵機は上空を旋回し続けてる。発動機の音が聞こえず黒光りする機体には何ともいえない不気味さと威圧感がある。

おまけに我々の使う航空機と違って自由自在に動き回る。

「深海棲艦め」
私は睨み付けた。

 連中には何度も辛酸を舐めた。あのチョコマ動く戦闘機は侮蔑の意味を込めて前線では『ゴキブリ』と呼んだりもする。

 歴史的には敵の出現と時を同じくして『艦娘』が出現した。彼女たちが私たち人類の味方になってから人類は優勢に傾き始めている。それほど艦娘の存在は大きかった。

 だが地上戦となれば、やはり連中が強い。地上兵器に対しては圧倒的に優位に立つ。現に陸軍も空軍も歯が立たない。

 だが意外にも連中は地上を逃げる人間は十分に索敵し切れない。

「何しろ普段相手をしているのは艦娘だからな」
連中の機体は対艦攻撃用の機体だ。そもそもゲリラのような普通の人間……特に地上において、それに特化した電探は持っていないようだ。

(だから地上で視界が悪くなると単純に相手を見つけるのが困難らしい)

そういった諸々の理由からだろうか? 彼らが戦いを挑んでくるのは専ら海上の艦娘や鎮守府に限定されることが多い。

 裏を返せば一般住民が生活する地上を彼らが空襲したり銃撃することは、ほぼ無い。それが反(かえ)って陸軍の連中が歯がゆく感じる理由だ。何しろ敵が陸に攻めて来ないから陸軍は開店休業状態なのだ。

挙句、一部で陸軍縮小案も出る始末。これは世界的傾向だ。噂では海外にも艦娘は居るらしいが通信網が寸断されており情報が乏しい。詳細は不明だ。

 私は改めて少女を振り返った。
「今のうちに、逃げよう」

「……」
何か呟いていた彼女は口を閉じると小さく頷いた。
手を差し出すと躊躇(ちゅうちょ)無く私の手を取った。

(ほのかに暖かい)
この状況で妙にホッとした。

 私たちは小川を出た。身を屈めて茂みに沿って数百メートル先に見える防空壕を目指す。陸軍の対空砲火は、いつの間にか聞こえなくなっていた。恐らくは敵に攻撃されたのだろう。

そういえば美保空軍は迎撃機の一つくらい出さないのか?
(まさか全滅?)

そう思っていたら後ろから少女の声。
「空軍と……陸軍もやられたよ」

「え?」
なぜ、その情報を知ってるのか?

……いや今は問うまい。逃げるが先だ。

軍事施設が叩かれるのは仕方ないが民間人への攻撃は避けたい。軍人の使命だ。

私は不意に彼女に謝るように言った。
「済まないな」

「……」
相変わらず大きな瞳で私の背中を見つめてる気配。

 今回、美保鎮守府の提督(指揮官)という辞令を受けた私だが軍人は単独では結局、何もできないのだ。司令といえども、ここでは単なる看板だ。

それに敵の前で一瞬、足が竦(すく)んだことは恥ずべきことた。軍人の名が廃(すた)る。

「実に歯がゆい」
私は敵機に注意しつつ唇を噛み締めた。


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※これは「艦これ」の二次創作です。

第4話(改2.8)<逃避行>

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以下魔除け
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・ハメ,初稿:2015年08月06日(木) 20:35   (改2.8)9:33 2021/03/28
・暁,[公]2016年11月24日16時06分 閲覧数:526/547
  (改2.8)21:16 2021/03/28
・tinami,No.852136初稿:16/06/08 12:54 (改2.8)21:24 2021/03/28
・pixiv,初稿:2015年6月27日 18:09 閲覧数 302(HP改2.8)21:25 2021/03/28

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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。





第5話(改2.5)<私たちが護る>



私たちは防空壕に逃げ込む。少女が呟くと敵機が次々と……。


「私たちが護るから」

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マイ「艦これ」(みほちん)
:第5話(改2.5)<私たちが護る>
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 何とか敵の攻撃を掻い潜(くぐ)った私たちは土埃(つちぼこり)でドロドロになりながらも、ようやく防空壕に、たどり着いた。

「はぁ」
壕の前で改めて息つぎをした。

(ここまで来れば安心か)
まだ爆音と地響きは響いている。だが敵機は丘の防空壕には構わずに列車への攻撃を執拗に続けていた。

「なんだか鬼気迫るな」
遠くの火柱を見つつ額の汗を拭った。もはや汗だくだ。

「参った、私も運動不足だなぁ」
自分で反省し呟いた。

 壕の扉を叩くと覗き窓から、さっきの車掌が私を確認する。

「おぉ、ご無事でしたか?」
そう言いながら彼は閂(かんぬき)を外す。

「……」
振り向くと少女は無言だった。私は制帽を取って防空壕に入ろうとするが彼女はボーっと突っ立っていた。

「おい、入るぞ」
私が促すと、ようやく歩き出した。

(不思議な子だな。本当に女学生なのか?)
そう思いつつ入口でチラッと防空壕全体を見上げた。ここは小高い丘をくり貫いて造られていて比較的大きい型だ。

 壕の中は薄暗く暑苦しい。しかし私と少女が入って行くと直ぐに拍手が起きた。

「大丈夫かね」
年配者の声だ。私は軽く手を上げて応えた。

「有り難う、お蔭様で」
その時、私が列車から助けた年配の男性がニコニコして、こちらを見ていることに気付いた。私は反射的に会釈をしたが不思議と癒された。

(なぜだろう?)
彼を助けたからだろうか。それとも、ああいう人は純粋な人が多いから?

そう思いつつ私は床に敷いてある茣蓙(ござ)の空いた場所に腰を下ろした。
「ヨイッショ!」

壕の、それまで張りつめていた雰囲気が急に和んだようだ。

 だが例の少女は、この状況に慣れないのかキョロキョロしていた。

「大丈夫だ、座ろう」
私は隣の床を指差した。

「……」
軽く頷いた少女は無言で近くの茣蓙(ござ)の上に靴を脱いで座った。やはり普通の素朴な子だな。私は彼女を見ながら制帽を取った。

「これで、ひと安心だな」
「……」
少女は無言で相変わらず無表情だが少しだけ表情が明るくなった気がした。

 防空壕の中は薄暗く非常用の懐中電灯が灯っていた。それが時おり地響きで揺れる。

 海軍ながら私は避難訓練には積極的に参加してきた。だから、こういった状況には慣れている。軍人仲間から『暇だね』と揶揄されることも多いが……実はその通り。

 江田島兵学校出ながら私は実戦での戦果はボロボロ。特に艦娘が混じるとダメだった。

呼び出され軍の適性検査を受けても異常なし。机上演習でも平均以上の成績で結局、軍令部も 『原因不明』 として匙(さじ)を投げた。

 以後は地上勤務=地域の住民対応が増えたが私は腐らず黙々と任務をこなした。

 学生時代に悩んで軍人を辞めようと思ったこともあるが、その後はブレずに軍人を続けていたワケだ。

 空襲は止む気配が無い。時折、ズシンという地響きが伝わってくる。避難している人たちも不安そうだ。

 普段から酒も煙草も女も買わない私は『マジメ君』の通り名もあった。それが僻地へ飛ばされなかった一因かも知れない。

(そんな私もついに年貢の納め時。山陰に飛ばされたか)
だが、ここは私の地元だから、そんな表現は使いたくない。

 また地響き。頭を押さえる人もいる。
雰囲気を変えようとしたのか車掌が聞く。
「外は……どんな様子ですか」

「あぁ、列車や空軍基地以外も幅広く攻撃しているようだ」
防空壕の中の人たちに「ほうっ]といった感じで落ち着きが広がる。こういう状況では情報が一番だ。

だが私は黙って分析する。深海棲艦の連中が地上の軍事だけでなく、それ以外の施設以外を攻撃するのは珍しいことだ。なぜか?

その時、親子連れの女の子が母親に聞いた。
「ねぇママ、ずっとココに居るの?」
「悪い人たちが居なくなるまで我慢してね」

そのやり取りに気になった私は薄暗い中で聞いてみた。
「婦人、この辺りでも空襲は多いのか?」

女性が言葉に詰まったので近くの男性が答えた。
「えっと、鎮守府が出来てからは少し増えたような……」

決して棘(とげ)のある言葉では無かったが私は自分が原因に思えて申し訳なかった。

今度は別の老人が言う。
「今までは兵隊しか襲わんかったけんなぁ」

気を使ったか、それ以上は何も言わなかった。もともと山陰人はハッキリ、モノを言わない。その優しさが逆に心苦しい。

「失礼」
制帽を被り直した私は改めて外へ。情報収集は軍人の使命だ。この調子なら防空壕は恐らく直撃されないだろう

「酷いな」
外に出て反射的に呟く。

 線路周辺は手当たり次第に攻撃され空軍基地の重火器類までが、ねじ伏せられていた。

陸軍同様。敵に対空砲や迎撃機で応戦しても歯が立たない。

「もうダメだな」
空軍基地の各所から火の手と黒煙が立ち上がっている。

 敵は感情的……深海棲艦は沈着冷静な印象だったが今回は違う。
「何かに取り憑かれたか?」

急に目眩(めまい)がした。
「うっ」

足がふらついて動悸が早まる。
「またか……なぜ?」

 さっきもそうだ。今まで経験したことがない状況……そもそも目の前に敵が来ているのに何という体たらくか?

ふと人の気配を感じて振り返ると、あの少女がいた。チョット慌てた。
「おい、外に出ると危ないぞ」

「……」
何を言っても少女は無言だ。

 私はポケットから簡易双眼鏡を取り出して言った。
「空軍も、弾切れか?」

「……」
不思議と、その少女に反応を感じた。

普通、軍の知識が無い民間人に何を言っても暖簾(のれん)に腕押しだが。何となく私の意図を理解している。

(変わった子だな)
そういえば息切れしないし戦場を恐れない。それはまるで戦闘慣れしたゲリラみたいだ。

 私は滑走路周辺の様子を見て呟く。
「空もダメか?」

空軍が、このまま攻撃力を失えば、この地域の守りが手薄になる。放置すれば遠からず弓ヶ浜への敵の上陸を許すことになる。

「くそ!」
双眼鏡から目を離した私は悪態をついた。だが現在の私には何も出来ない。ただ手をこまねいて見ているしかない。

 そのとき私の隣にいた少女がまた呟いていることに気がついた。
「距離12500……小型機3」

彼女の顔を見ると澄んだ瞳で微笑んだ。日が差して彼女の栗毛交じりの長い髪の毛が風になびいてキラキラしていた。
「大丈夫」
「え?」
「私たちが護るから」

 その言葉の直後、何かが滑空してくる気配がした。少し遅れて、かなり遠方からドドンという鈍い音が響き渡る。
(この威圧感は……)

直ぐに悟った。
「艦砲射撃か!」

それも通常の艦艇ではない。紛れも無く艦娘だ。反射的に空を見上げた直後、私たちの目の前に閃光がきらいて何かが敵機に命中した。

 最初の一発目が寸分も違(たが)わず敵に直撃した。間髪を入れず残りの敵機にも次々と砲弾が打ち込まれる。

「弾着観測射撃……」
遥か遠くからは連続で発射音が響く。この砲撃音は恐らく大口径の砲塔から発射されているはずだ。

「美保鎮守府の艦娘か?」
すると目の前の少女が私に軽く頷く。

そのまま彼女は指示を続ける。
「修正、北東マイナス250から350。現地、風速5程度」
(ひょっとして、この子も艦娘なのか?)

 その後、数発続いた砲撃によって敵機は完全に制圧された。私は直ぐに防空壕の扉を開けて中の乗客たちに声をかけた。

数名が様子を伺いながら外へ出てくる。数人に続いて出てきた親子が言う。
「ねえママ、もう大丈夫?」
「そうね……」

そして先に出た人たちの間から感嘆の声が上がった。
「おぉ」
「すごい」

私たちの眼前には攻撃を受けた惨状と合わせて敵機が撃墜された情景が広がっていた。それは軍人でなくとも溜飲が下がるだろう。

 ところが、なおも遠くから砲声が響く。

「あれ?」
まさかと思う間もなく敵の居ない草原や空き地目がけて弾着が続く。
既に敵は完全に沈黙しているが今度は艦砲射撃が止まらない。

「お、おい!」
次第に関係ない場所……基地以外の畑とか雑木林にまで次々と着弾し始めた。

私は慌てて顔を出した乗客たちを壕へと戻した。
「皆さん、一度戻って下さい!」

振り返ると地響きと同時に飛び散る無数の破片。
「正気か?」

 しかも最初は精度が高かった砲撃が気のせいか次第に投げやり的になって来た。まさか……と思ったが明らかに着弾がズレている。

(こっちも感情的だな……)
そんな印象を受けた。この感情的かつムラのある攻撃パターンは艦娘に違いないと確信した。

 私は艦娘を指揮した経験があるから、それが分かる。
なにしろ艦砲射撃だ。身の丈は小さくても、れっきとした海軍の艦船なのだ。その辺の野戦砲とは破壊力が違う。

「このままじゃ基地周辺に被害が拡大するぞ」
下手すれば住民感情が悪化しかねない事態だ。

(おや?)
私の斜め後ろに例の少女が居た。

「……」
吹き付ける爆風や細かい破片をを受けながらも平然としている。

一計を案じた私は、とっさに言った。
「君! ……止めさせてくれ」

「……」
女の子は大きな瞳で私を見上げると直ぐに敬礼して何かを呟いた。ほどなく砲撃がやんだ。周りには立ち上る白や黒の煙に包まれている。

弓ヶ浜は、ようやく静寂を取り戻した。
「やれやれ……」

 防空壕の乗客たちもホッとした表情で再び顔を出した。そして安堵のため息が上がる。

敵だけでなく着任早々に艦娘から手荒な挨拶を受けたような気持ちになった。恐らくは美保鎮守府だと思うが……どんな艦娘が居るのか?

 私は肩をすくめた。よく分からないが先が思いやられる。


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※これは「艦これ」の二次創作です。

第5話(改2.5)<私たちが護る>
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・・ハーメルン 初稿:2015年08月07日(金) 12:09   閲覧数:2532
(改2.5)22:46 2021/04/02
・暁 ,初稿:[公]2016年11月25日12時 44分 閲覧数:451/439
(改2.5)22:46 2021/04/02
・tinami,No.852197 初稿:16/06/08 21:07 投稿 閲覧数:312/311(6+305) 
(改2.5)22:48 2021/04/02
・pixiv,初稿:2015年6月27日21:39  投稿 閲覧数:324
(改2.5)22:53 2021/04/02

・サイト (PCとスマホ)(加筆改訂2.3) 2:57 2018/07/12
 (改2.5)8:32 2021/06/13

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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。



第6話(改2.6)<戦闘収束と憲兵>




私たちは敵の攻撃をしのいだが、そこへ憲兵がやってきた。

「陸軍と海軍の仲が悪いから」

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マイ「艦これ」「みほちん」
第6話(改2.6)<戦闘収束と憲兵>
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 まだ辺りには土ぼこりや焦げた匂いが漂っていた。

「今度こそ大丈夫だな」
私は改めて空を仰ぎ、周りの景色を見渡した。

ここは空軍の滑走路以外は草地が広がっている。何事も無ければ、のどかな場所だ。

 でも今じゃ無数の弾孔が点在。小さな丘は無残にえぐられ木々は片っ端から、なぎ倒されていた。まるで嵐が通り過ぎた後のようだ。

何度見ても、この状況には、ため息が出る。

 艦娘であっても地上への艦砲射撃となれば破壊力がある。まして今回は敵だけでなく艦娘も『攻撃』した。
「下手したら敵の攻撃よりも被害が大きいぞ」

私は頭を掻いた。
「はぁ」

空軍周辺に人家がほとんど無いのは幸いだった。

 避難していた人々が防空壕から外をうかがっている。
「あ……」

私は壕へ引き返して、まだ残っていた乗客に声をかけた。
「もう大丈夫ですよ」

誰もが安堵した。車掌に手を引かれて年配の人もヨロヨロと歩み出てきた。

私は、あの『精神の傾いた』年配の男性を探した。彼は隅の方でジッと座っていたが私の顔を見ると、また微笑んでくれた。私も笑顔を返した。

外に出ると、あの少女も、こちらを見ていた。
(不思議な娘だな)

そのとき歓声が上がった。
「おお」
「これは凄い」

乗客たちだった。

 彼らは海軍による反撃と覚(さと)ったようで直ぐ自然に拍手が沸きあがった。同時に乗客たちからは尊敬するような視線を感じた。

私は面映ゆい反面ホッとしていた。
(どうやら普通の人の目には艦娘による攻撃とは区別がつかないらしい)

 少女は相変わらず無表情だったが私と年配の男性を交互に見ていた。
「どうかしたか?」

問いかけると彼女は視線を上げた。
「迎え……来た」

「え?」
その指差した先を見ると病院の名前が入った車が近くの道路に停車していた。そして職員が数人こちらに向かって来るところだった。

「よく、ここが分かったな」
「私……教えた」
「あ、そう」
反射的に『余計なことをしたな』と思った。

職員たちは私の前まで来ると敬礼をする。
「ご迷惑をお掛けしました、閣下」
「いや……」

そして彼らは年配の男性に声をかけて手を差し出した。
「ほら、戻りますよ」

その時、その男性が不機嫌な表情を見せた。そして抵抗する素振りを見せた。

 私も少々面食らったが職員たちは、もっと驚いた。

「ちょっと……何?」
「どうしたの?」
そして男性は何故か私に助けを求めるような哀願の目をした。その気持ちが痛いほど伝わってきたが、どうすることもできない。

咄嗟(とっさ)に私は少女の顔を見た。だが彼女も静かに首を振った。
「……」

「だめ……だよな」
このやり取りで場の空気が変わった。

 年配の男性は急に大人しくなり病院の職員に自ら手を出して従う様子を見せた。皆、ほっとした。

「では、失礼します」
他の職員は私に敬礼をして立ち去った。

「……」
何とも言えない気持ちになったが気を取り直し帽子を被り直すと少女に声を掛けた。

「行こうか?」
「……」
彼女は頷いた。私たちは逃げるようにその場から離れた。

 線路脇の小道を境港方面へと歩き始める。
「ここは美保鎮守府から遠いのだろうか」
「……」

歩きながら尋ねた。
「君の名は?」
「カヨ……」

急に立ち止まった彼女は直立の姿勢を取って敬礼をした。

(えっ)
思わず私も敬礼をした。習慣だ。

彼女は言った。
「駆逐艦『寛代(カヨ)』と申します!」

意外に低めの声。
「提督を美保鎮守府の司令官として、お迎えに参りました!」



(何だ? ちゃんと敬語も使えるじゃないか)
無口な感じで普段から、ほとんど喋らないのだろう。

「ご苦労」
私は返した。意外なことだらけだ。

……にしても出迎えの子が、なぜ私と一緒の列車に乗っていたのか。
(列車を間違えたのか?)

いろいろ聞きたいが我慢して敬礼したまま固まっている彼女に命令した。
「もう良いよ、歩こう」

この言葉で腕を下ろした寛代。
「暫く歩くか」
「……」

 私は煤(スス)で汚れたカバンを軽く払って持ち直すと線路と平行に歩き始める。少女も従った。
「さて、どのくらい歩くのかなあ」
「……」
「街道筋に出ればバスが捕まるかも」
「……」

 敵の攻撃で忘れてた。今は真夏だ。日本海側の夏は晴天が多い。
ジリジリ照り付ける陽射しが眩しい。私は制帽を軽く持ち上げて汗を拭った。

 少し行くと前方に敵機の残骸が見えた。まだ黒煙を吐き、焼け焦げた悪臭と時折バチッと火花が散っている。

用心しながら、さらに近づく。
「ほう」

 改めて敵機の頑丈さと、それすら貫いた艦娘の砲撃の威力を実感した。

深海棲艦を至近距離で見るのは初めてだ。撃墜すれば直ぐに海へ沈む。おまけに海軍の私が陸上で戦うことは有り得ない。

「惜しい」
貴重な敵の情報源だが、今は鎮守府へ向かわなければ。

 すると寛淑が私の後ろに視線を移していた。

「ん?」
背後から複数台の発動機の音が近づいてきた。

 振り返ると先頭車両に憲兵が数名乗っていた。

「おや」
見ると私が米子駅で案内をして貰った親切な憲兵さんだった。

「閣下ぁ、ご無事でしたかァ!」
彼はニコニコと手を振っていた。相変わらず妙に明るい。

彼は普段から、そういう性格なのだろう。周りの陸軍からも特に注意されることがなかったくらいだ。

私は苦笑した。
「屈託が無いな」

彼の挙動には冷静な寛代が驚いたくらいだ。

 敵の残骸や列車の周辺に次々と車両が止まる。
憲兵と一緒に来た一団は明らかに陸軍の連中だ。車両には『米子』と書いてある。
(三柳にある駐屯地だな)

 彼らは車を止めて順々に降りると手短に点呼。直ぐにパラパラと敵機の周りに散らばった。そして手際よく列車の消火や後片付けを始めた。

「フム」
よく見ると陸軍だけでなく鉄道省の連中も混じっている。

 散乱している敵の機体。彼らは付近を立ち入り禁止にして何かを撮影したり計測を始めた。それを不思議そうに見詰める寛代。

それを見た私は何気なく彼女に語りかけた。
「陸軍には敵の情報が、あまり無いからな」

(そうなんだ)
……といった面持ちで私を見上げた寛代。興味を持ったらしい。

改めて説明を続ける。
「中央じゃ陸軍と海軍の仲が悪いからな。敵さんの情報にしても協力体制がないんだよ。だから地上に敵の機体が落ちたとなれば飛んでくる」

「……」
寛代は小さく頷いた。この話が理解できるなら単なる艦娘ではない。

そこで、さらに問いかけた。
「美保では陸軍と海軍は仲が良いのかな?」

「……」
別に回答は期待していなかったが当然、寛代は無言。
でも呆けてはいない。何か考えているようだ。

 ちょうど打ち合わせをしていた憲兵が、ばらばらと解散した。その中の一人……あの米子駅で出会った憲兵が私の前までやって来てサッと敬礼した。
「閣下、美保鎮守府まで、お送りするよう指示を受けました!」

「アっ、そう?」
渡りに船だが、ちょっと驚いた。

軽く咳払いをして改めて聞いた。
「美保鎮守府までは、ここから遠いのか?」
「いえ、近いです」

言いながら彼は済まなそうな顔をした。
「実は先ほど米子駅で閣下に詳しく説明する時間が足りませんで申し訳ありません」

私も恐縮した。
「いや、君の話を最後まで聞かずに列車に飛び乗った私の方こそ済まなかった」

彼は言った。
「いえ、境線が空襲されたと聞き閣下が、お乗りになっていることを上官に報告。直ぐに対処する部隊と共に中浜へ向かうよう指示を受けましたので」

「ほう」
(陸軍にしては機転が利くな)
私は感心した。 寛代は無言のまま。

憲兵は続ける。
「遠くから見えましたが、すごい戦闘でしたね。驚きました」

「あぁ」
さっきの艦砲射撃か。あまり触れたくない話題だ。

「ですが、直ぐに決着がついてホッとしました」
「そうだな」
それは私も同じ。

「では閣下、こちらへどうぞ」
彼は陸軍の車両を指さした。

「ご案内します。お乗り下さい」
「ウム」
……しかし腰の低い憲兵で感心した。地方には、こういうタイプが多いのだろうか? 私が今まで出会った憲兵は皆、高飛車だった。

「そうだ」
歩きかけた彼を呼び止めて私は言った。

「この子も一緒に頼む……おい、来い」
私は隠れるように離れていた寛代を手招きした。

憲兵は一瞬、不思議そうな顔をした。
「あの、閣下のお知り合いですか?」
「いや、この子も海軍の軍人だ」

「は?」
その反応は無理もない。まだ海軍以外では『艦娘』自体が軍事機密に近い。

一般市民だけでなく憲兵も含め陸軍でも、ほとんど知られていないはずだ。仮に知っていても彼女は見ただけでは普通の少女にしか見えないだろう。

「早くしろ」
私はボーッとした彼女の手を取ると半ば強引に車の傍に寄せた。

「取り敢えず鎮守府まで頼む」
「はっ」
そこで私と憲兵さんは改めて軽く敬礼した。

 私の動作を見てボンヤリしていた寛代も反射的に敬礼をする。私は内心苦笑した。
(これもまた軍隊の習慣性か)

その所作はキビキビしていて気持ちが良い。少女の敬礼を見た憲兵も彼女が兵士であると理解したようだった。少し微笑んでいる。

 私たちが後部座席に乗り込むと憲兵さんは発動機を起動させる。黒煙を上げて車体が震える。辺りは独特の排気臭に包まれた。
「では出発します」

 私たちを乗せた車は、そのまま線路を離れた。そして作業を続ける陸軍や調査員たちの間をすり抜けた。
(せっかくの機会だ、しっかり調べてくれ)

ここぞとばかりに出てきた憲兵や陸軍だ。
(海軍には国防の、お鉢を奪われ放しだからな)

 今の戦争は、ほぼ海上に限定され陸軍や空軍は何も手出しができない状況だ。同じ軍隊だから形だけ全軍で戦時体制を取っているだけだ。彼らも歯がゆいだろう。だから陸軍も空軍も常に敵の最新情報を欲しがっている。

 特に陸軍は海軍と見ると憲兵を通して直ぐに探りを入れて来る。私もここまでの道中、何度も憲兵に話しかけられた。だから白い海軍の制服で街をウロウロするのは苦手だ。

 今回も深海棲艦の機体が地上で撃墜されたと聞いたから陸軍は直ぐに飛んで来たのだろう。私を鎮守府に送るというのも邪魔物を排除したいという思惑か。

 さっき空軍の車も見えたのだが陸軍が活動しているのを見て、そそくさと撤退してしまった。

 実は海軍だって敵の情報を、ほとんど持っていない。海上で仕留めても結局『海の藻屑』となるばかりだから。

ただ唯一、敵と交戦した経験値だけある、といったところか。

それに最近は、ほとんど艦娘が戦闘を代行しているから、なおさら解り辛い。

 遠くの空軍基地では、焼け跡への放水が始まっていた。


以下魔除け
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禁止私自轉載、加工 天安門事件
Prohibida la reproduccion no autorizada.


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※これは「艦これ」の二次創作です。

第6話(改2.6)<戦闘収束と憲兵>
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・ハーメルン 初稿:2015年08月07日(金) 18:12 (加筆改訂2.6)23:48 2021/04/13
・暁 ,初稿:[公]2016年11月26日12時51分 (加筆改訂2.6)23:52 2021/04/13
・tinami,No.852308 初稿:16/06/09 12:45 投稿 (加筆改訂2.6)0:00 2021/04/14
・pixiv,初稿:2015年6月27日 23:32 (加筆改訂2.6)23:56 2021/04/13
・サイト (PCとスマホ)(加筆改訂2.6)2:26 2021/07/09


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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。



 第7話(改2.4)<白い波濤>



弓ヶ浜の松林を過ぎた先に、いよいよ目指すべき美保鎮守府が……

「やはり海は良いな」

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マイ「艦これ」「みほちん」
第7話(改2.4)<白い波濤>
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 私たちを乗せた陸軍の車は現場を離れた。
屋根は有るが半分吹きさらしの陸軍の車はガタゴトと線路脇の細い道を走る。

この辺りは郊外だから人家もまばらだ。舗装もされていない。そこを憲兵さん、かなり高速でブッ飛ばす。

境線の揺れも激しかったが……この運転の荒さでは舌をかみそうだ。

(陸軍だから仕方ないか)
私は苦笑した。

ただ隣の寛代は意外に平然としている。
(艦娘だから多少の『揺れ』には強いのだろうか?)

興味が湧いた。
「お前は車の運転は出来るのか?」

「や……」
寛代は黙って首を振った。

「そうか」
確かに駆逐艦級(クラス)の彼女が車のハンドルを握る絵は、すんなりとは思い浮かばなかった。
実際、各地の鎮守府でも運転の上手な艦娘は、だいたい巡洋艦以上だ。

軍用車は直ぐに舗装された道路に出た。
(やれやれ)

揺れが収まって私は腕を組んだ。
車窓から見えるのは弓ヶ浜の平原に広がる松林や畑。それに大小の砂丘だ。

私は呟く。
「小さい頃、よくここで遊んだな」

少し意外そうに寛代は、こちらを見た。
私は説明した。
「ここが出身地なんだよ」

「……」
彼女は軽く頷いた。

(不思議な子だな)
毎回、そう思う。

前で運転している憲兵さんが言う。
「中浜駅から鎮守府まで歩きで30分です」

ミラー越しに私を見た。
「それを米子駅で、お伝えしようとしたら行かれてしまって」

「うむ、申し訳ない」
確かに軽はずみだった。

 海軍とはいえ地上での自分のバカさ加減が恥ずかしい。私の両親は落ち着いた性格なのに自分はなぜ、そそっかしい?

すると憲兵さんも多少、気をつかったのか急に話題を変えた。
「えっとぉ閣下は、あの敵を何度も戦場で、ご覧になっとられるんですか?」
「そうだ」

彼は続ける。
「我々自慢の、お台場高射砲でも歯が立たンかったって……敵は相当強いンですねぇ」
「まあ、そうだな」
「ンな連中相手に閣下が戦われているとは我々も誠に心強い限りですわ」

彼の発言に私は「おや?」と思った。
(陸軍も自覚してるのか)

しかし、よく喋る憲兵さんだ。
私は隣の少女を見た。
「……」

この艦娘は陸軍とは対照的に黙って座っている。『寛代』といったな。きっと幾多の実戦をくぐり抜けて来たから空襲も恐れなかったのか。

もちろん海上では修羅場も見ただろう。だから、この子には何となく影を感じる。

 艦娘は皆、過酷な状況を通過して生き残っている。危険な最前線に駆り出されているのだ。一方の人間は安全な後方だ。

(あの忌まわしい冬の日本海の如く)
そう思った私は胸が痛んだ。

 軍用車が松林を抜けると急に目の前に視界が開けた。真っ青な海。久しぶりに見る日本海だった。

今日は風があるので時おり白い波濤が砕けている。とても力強い。
軍用車だから潮の香りを直接、肌に感じる。

「やはり海は良いな」
思わず呟いた。最近は陸上勤務が多かったから、なおさらだ。

 隣の寛代も長い黒髪を押さえている。そして気のせいだろうか? 少し微笑んでいるようだ。この子も海を見て何かを感じたのだろう。

 松林を抜けて片側2車線の幹線道路を行く。
「閣下、あそこです!」

彼が指差した松林の向こう側にうっすらと赤い建物が見えていた。

「なるほど」
憲兵さんの言う通り駅から歩いたら、かなり時間が掛かりそうな距離だ。

(やれやれ……人の話は最後まで聞くものだ)
と素直に反省をした。今回は親切な憲兵さんのお陰で助かった。人との出会いは大切だ。

「あ……」
私は寛代を見て思わず声を掛けた。

「お前との出会いもな」
「……」
彼女は髪の毛を押さえながら、こちらを見た。



無表情だったが最初に出会ったときよりも人間らしい感情の動きを感じた。このとき私は改めて艦娘にも感情があることを覚った。

 艦娘との出会いも人類にとって重要なことなのだろうか? そんなことを考えた。


以下魔除け
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※これは「艦これ」の二次創作です。

第7話(改2.4)<白い波濤>
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・ハーメルン 初稿:2015年08月07日(金) 20:20 (加筆改訂2.4)19:11 2021/04/25
・暁 ,初稿:2016年11月27日22時16分(加筆改訂2.4)19:20 2021/04/25
・tinami,初稿:No.852445 16/06/10 03:46(加筆改訂2.4)19:23 2021/04/25
・pixiv,初稿:2015年6月28日 13:32(加筆改訂2.4)19:30 2021/04/25
・サイト(加筆改訂2.4)21:06 2021/07/15

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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。




 第8話(改2.5)<美保鎮守府>



私は新たに着任すべき『美保鎮守府』へ到着した。そこには代理提督と先ほどの戦闘で艦砲射撃をした艦娘がいた。


「この人、新しい提督ぅ……?」

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マイ「艦これ」「みほちん」

:第8話(改2.5)<美保鎮守府>
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 憲兵さんの運転する軍用車は日本海に沿いの幹線道路を進む。やがて前方に見える山並みが車の行く手を阻むように少しずつ視界の中で大きくなる。
 
「島根半島だな」
私は呟いた。

あの山が見えると弓ヶ浜出身の人間は懐かしさを覚える。特に境港出身の私にとって島根半島は故郷の象徴といえた。

「あの山、ご存知ですか?」
憲兵さんが反応する。  

「あぁ、こっちが地元だからね」
私の発言に彼は頷く。  

「もともと境(さかい)に港があるのも、あれ(半島)が天然の防波堤になっているからですね」
「そうだね」
「海軍さんが美保湾に基地を作るのは、むしろ遅すぎたくらいですよ」
憲兵さんはペラペラ喋り続ける。  

「フム」
生半可な返事をした私だったが直ぐにそれを実感する状況になる。  

軍用車は減速すると交差点を右折した。
「もう直ぐ到着です」  

松林を抜けて小さな水路を渡った時だった。  
「おや?」

私は驚いた。松林の向こうは海かと思っていたが予想に反し、そこは広い平地だったから。

「埋立地か?」  
記憶に無い。まるで別世界。

憲兵さんが聞く。
「どうか、されました?」
「いや……ここに、こんな場所があったのか?」

彼は頷いた。
「そうです。ここは割と最近、造成されたンですよ」
「確か、かなり以前に計画が、あったように思うが」

憲兵さんは振り返る。
「閣下も、ご存知でしたか」
「あぁ」

私は記憶を手繰った。
「まだ小さい頃、この道路沿いに埋め立て計画の看板が立っていたのを覚えてるよ」

「ははぁ、そうですね。ありましたね」
私たちは、そこで互い同郷者だと悟るのだった。

 赤信号で軍用車は停まった。憲兵さんは言う。
「やはり閣下には他の海軍の、お偉いさんとは違う雰囲気を感じたんですよ」
「そうか?」

「はい。ですから米子駅でもし別の海軍さんだったら自分も、ここまで気に掛けなかったと思います」
「なるほど」
人の縁は有り難いものだ。

彼は水路を見ながら続ける。
「確か、ここは地元の代議士親子が三代で成し遂げたって話です」

……それも何となく聞いた覚えがある。

 艦娘や深海棲艦が出現する以前……それこそ大東亜戦争直後の混乱期に地元の代議士が『この山陰を日本海側の経済共栄圏の中心とすべし』と構想した。それを政府に働きかけた結果が、この埋め立て地だと。

私の考えに呼応するように憲兵さんが続けた。
「地元出の大臣さんが企業誘致を目論んで埋め立てたんですよね」
「そうだな。でも結局は深海棲艦の出現で、その夢も頓挫したが」

 ただ、お役所仕事の面白いところは一度決まったことは粛々と実現していくことだ。気付いたら私が故郷を離れている間に、こんな広大なものが出来ていたわけだ。

「これは無用の長物なのだろうか」
その言葉に憲兵さんは肩をすくめた。

 そして私たちは苦笑した……埋立地の話題を出せば地元の大半の人たちが同じ反応を見せるだろう。

 信号が変わり再び軍用車は走り出す。広大な埋立地の潮風を受けながら私は考えた。
(もし、この戦争がなければ、この場所には、お店や工場が建ったかも知れない。ただ普通の鎮守府は無理だな)

「ああ、あれです」
憲兵さんの言葉で直ぐに赤い建物が見えてきた。

「美保鎮守府か。レンガの雰囲気は海軍だが規模は小さいな」
この埋め立て地では仕方がない。隣の寛代は無言のまま車窓の外を眺めている。

私は事前に聞いたことを思い出す。
(ここは艦娘だけの鎮守府……)

 なぜ、そうなったか?
誰かが働きかけたのか……確かに艦娘だけなら広くない埋立地でも設置は可能だが。

 この地域には既に空軍と陸軍の基地がある。敢えて正規の鎮守府を誘致する必要もない。私は自問するように呟く。
「とりあえず、この小さな鎮守府が答えというわけか」

 だが軍用車が美保鎮守府の敷地内に入って驚いた。門が無く道路から直接、玄関前まで入れたのだ。
「守衛も居ないのか?」

私と同様、少し驚いた憲兵さん。
「ここですか……実は自分も初めてであります」

思わず苦笑した。
(同じ弓ヶ浜半島にある陸軍の憲兵ですら初めて来るのか)

鎮守府ながら敷地にはクレーンすら見えない。それに入口からして無防備だ。改めて説明されないと鎮守府ということすら見逃しそうだ。
(まさか意図的に、こんな状態にしているのだろうか?)

……まるで人目を避けるように。

 軍用車は正面玄関に横付けした。私は一つしかない鞄を抱えた。実はもう一つの鞄もあったが空襲で焼けてしまった。

「降りよう」
「……」
私と寛代は軍用車を降りた。

「助かったよ」
私は憲兵さんに軽く敬礼をした。

彼は一瞬驚いた後、慌てて車を降りた。そして敬礼をしながら言った。
「閣下、何かあったら、いつでもお声かけて下さい!」

「ありがとう」
私と寛代は玄関前で彼に別れを告げた。最後まで忙(せわ)しい憲兵さんを乗せた陸軍の車は門のないゲートから外へ出た。

それを見送りながら私は何気なく寛代に言った。
「生真面目で親切な憲兵さんだったな」

ふと見ると彼女も少し笑顔になっていた。私はホッとした。

「さて」
改めて鎮守府の建物を見上げた。ここは二階建ての小さな庁舎だ。

「本当に、こじんまりとしているなぁ」
舞鶴など他の鎮守府に比べると美保は、ふた周りほど小さい印象だ。大型重機も見えない。さすがに倉庫や工廠はありそうだが。

普通の鎮守府なら敷地が広く門も厳重で大抵は守衛が居る。もちろん舞鶴は入り組んだ地形だから鎮守府そのものは思ったほど平坦でもないが。

ところが、ここは艦娘だけとは聞いているが少し拍子抜けする。

私は寛代に言った。
「出迎えもないな」
「……」

「別に嫌味じゃないぞ」
「……」  
(この子も相変わらずだな)

普通の少女なら私も怪訝(けげん)に思っただろうが、この子の態度は妙に自然に感じた。

私は問いかけた。
「まあ良い、お前が案内してくれ」
「……うん」

ようやく私の言葉に反応してくれた。そこで早速、正面玄関から本館に入った。

「ホウ」
思わずため息が出た。ロビーは明るい吹き抜け。規模は小さくとも建物自体には海軍の品格を感じる。

ここの設計も海軍本省がきちんと管理したに違いない。そう思った瞬間、私は自分に言い聞かせるように呟いた。

「ここも海軍だな」
寛淑から特に反応はない。

視線を移すと奥の通路に数人の少女たちが見えた。
「艦娘か」

もちろん珍しくはない。だが、この状況では少々緊張する。彼女たちはヒソヒソ話をしている。

さらに向こう側には偉そうに腕組みをして見ている艦娘も居る。
(これが艦娘部隊だよな)

この光景だけ見れば、どこの女学校かと錯覚する。他の鎮守府と違い独特な雰囲気に満ちていた。

ここは帝国海軍の鎮守府だが改めて、この場に立つと受ける違和感が大きい。

(雰囲気に飲まれてはダメだ)
私は無視して廊下を進んだ。寛代も無言で私の斜め後ろから付いて来る。

「執務室は上かな?」
振り返ると彼女は頷く。

(確か初代の提督は女性だったな)
資料にあった内容。恐らく先任の提督たちは途中で参ったのだろう。

(果たして私は?)
敢えて強気で歩くのだが、どうしても不安が湧く。

そう思っていたら寛代が私の腕を引っ張る。
「あ?」

「……」
彼女は無言で2階へ上がる階段を示していた。

「ついうっかり階段を通り過ぎるところだった」
私は頭に手を当てて照れ隠しした。なるほど建物が小さいから階段も狭い。荷物を持ち直すと彼女に促されるまま2階へと上がった。

そこで私は思わず立ち止まった。急に視界が開けた。
「おぉ」

1階では分からなかった、2階の窓からは鎮守府を囲むように蒼い海と緑色の島根半島がよく見える。それらが夏の陽射しを受け鮮やかな対比を見せていた。

その開放的な景色を見て、それまでの想いが払拭された心地だった。

「海は良いな」
思わず呟いた。海は、すべてを受け入れてくれる。

「……」
少し先で立ち止まっていた寛代も小さく頷く。

その先に提督執務室があった。私たちは大きな扉の前に立った。

「今日から、ここが私の前線だな」
「……」
寛代は黙っていた。

まず目の前の扉をノック。
「はぁい」

女性の声。
(噂の代理提督か?)

私はドアノブに手をかけ部屋の中に入った。

 執務室の中は正面にデスク。そして壁には時計。椅子に腰かけているショートヘアでスリムな艦娘が一人。

その服装は白を基調に青いアクセントが入っていて、ごく一般的な艦娘の秘書艦が着るタイプだ。

 彼女の横に背の高い艦娘が立つ。やや長身の彼女もまたショートヘアだ。服は標準的な戦闘服で巫女か浴衣のような和風の出で立ち。

私が入る直前まで艦娘が報告をしていたようだ。入室した私を見て二人とも驚いているた。

敬礼しながら私は言った。
「本日付けで美保鎮守府に着任する美保だ」

……私の苗字は『美保』だ。ここに着任するときも上官から『お前の鎮守府だな』と冗談っぽく言われた。

正面の艦娘は直ぐに立ち上がるとサッと敬礼した。
「お待ち申し上げておりました提督。臨時提督代理を務めております私、重巡『祥高(しょうこう)』と申します」

私は軽く頷いた。
「よろしく頼む」

敬礼を解きながら私は、ふと考えた。
(艦娘は美人が多いが彼女も例外ではないな)

きりっとした口元に精悍な顔立ち。多少「押し」が強そうだが。
(不思議なカリスマ性を感じるな)

何処の鎮守府でも秘書艦を担当する艦娘はキッチリして押し(芯)が強そうな子が多い。

 もっとも、そのくらいで無いと指揮官の補佐役は務まらないだろう。特に代理提督を務めるくらいだから、ある程度のカリスマ性は必要か。

私の想いを他所に彼女は言った。
「寛代ちゃん、提督の荷物をお持ちして」

「……」
重巡の指示で私の荷物を受け取った駆逐艦娘は袖机の上に私の鞄を置いた。

 そのとき机の横に立っていた艦娘が私をチラ見しつつ蚊の鳴くような声で言った。
「この人、新しい提督ぅ?」

彼女は戦闘直後なのだろう。服はボロボロで短めの髪の毛が、あちこち飛び跳ねている。表現は悪いが、まるで『落ち武者』的な鬼気迫るムードだ。

いや、そもそも彼女の存在自体が、どことなく凄みがある。まさに『サムライの妻』の如くだ。

そこまで考えて私は悟った。
(そうか、先に空港めがけて艦砲射撃した艦娘って、この娘じゃ?)

……もしそうなら着弾点に居た私と寛代は二人で逃げ惑って危うく死に掛けたわけだ。いくら相手が艦娘でも文句の一つでも言いたくなった。

私はザワつく気持ちを抑えながら聞いてみた。
「先刻、艦砲射撃をしたのは君か?」

名指しされた彼女は目を丸くした。たじろぎつつ何か言い掛けたが直ぐに祥高さんが横から説明をした。
「はい彼女は戦艦『山城』です。美保湾及び弓ヶ浜に敵機来襲と聞き、距離はギリギリだったのですが私の判断で砲撃を命じました」

そこまで聞いた山城さんは改めて不安そうな表情を見せた。
「あのぅ……何か?」

私は彼女の不安かつ澄んだ瞳を見て急に怒りが収まった。

(この眼……)
ふっと舞鶴沖で沈んだ例の『彼女』を思い出したのだ。そういえば、あの艦娘も私の命令に反発しながらも澄んだ瞳を向けてきたものだった。

急に慌てた私は打ち消すように言った。
「あ、いや……美保にも戦艦が居るんだなぁってね」

我ながら、この反応は不自然だと思ったが後の祭りで、場の空気が固まる。自分に嫌気が差す。

「えっと……」
ばつが悪くなった私は取り繕うように制帽を脱いだ。

すると祥高さんが続けた。
「美保の主軸となる戦艦は彼女だけです。あとは駆逐艦がほとんどです」

私は頷いた。
「なるほど唯一の戦艦が『山城』さんか」

それならば敵が来れば彼女が一番に反撃するのは当然だ。いくら山城さんだって自分勝手に砲撃はしないだろう。要するに命令をしたのは祥高さんだった、ということか。

 提督代理の命令ならば山城さんの責任ではない。それに彼女も最前線にて全力で戦っていたのだ……私は自分の態度に恥ずかしさを覚えた。穴があったら入りたい。

「そうか、君もご苦労さんだったね」
私は山城さんを労(ねぎら)った。

そう言われた彼女は一瞬、驚いた後、ポッと頬を赤らめた。そして恥ずかしそうにボロボロの服を隠す仕草を見せた。

(ああ、この子も普通の女の子だな)
そう思った。だが私も寛代も、山城さんと同じように服は汚れ穴も開いていた。敵の機銃掃射や艦娘からの艦砲射撃の着弾点を逃げ回っていたから仕方ない。

(これじゃ、ここの艦娘たちにジロジロ見られたのも無理はないか)
私はつい苦笑した。

 気になったのは秘書艦の名前。艦娘も戦艦クラスになると所属の鎮守府以外でも知名度が高くなる。大和、武蔵、長門……そもそも彼女たちは戦果も華々しい。

しかし彼女は重巡だ。そんなに有名な艦娘なら知っているはずだが……。
(まあイイ。また思い出すだろう)

 私は改めて執務室内を見回した。


以下魔除け
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※これは「艦これ」の二次創作です。

第8話(改2.5)<美保鎮守府>
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・ハメ,初稿:2015年08月08日頃 (改2.5)21:31 2021/04/25
・暁,[公]2017年02月15日02時46分 閲覧数:406/388 (改2.5)21:21 2021/04/25
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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。



第9話(改2.5)<秘書艦(仮)>



ようやく着任した私は提督代理の艦娘から報告を受けた。彼女は手際が良かった。

「提督が鎮守府に着任しました」

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マイ「艦これ」「みほちん」
:第9話(改2.5)<秘書艦(仮)>
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 改めて執務室内を見回した私は神棚を見つけた。

自分自身ボロボロの姿で神前に立つのは申し訳ないと思いつつも、その下で私は大きく拍手(かしわで)を打った。

祥高さんは恐らく司令部の人間たちが行う所作には慣れているのだろう。私の行動には表情を変えなかった。

だが山城さんは目を丸くしていた。
(彼女は、こういう経験がないのか?)

……帝国海軍の軍人としては、これが基本だと思うが。

それに、ここの神棚の榊(さかき)は元気なく枯れてホコリだらけ……頂けない。

私は振り返った。
「祥高さん、当面は君が秘書艦を担当してくれ。最初は執務室の整理だ。特に神棚の掃除は直ぐに頼む」

彼女は直立して敬礼をした。
「はい。至りませんでした!」

その反応の速さに私は苦笑した。さすが代理を務めるだけある。

状況が理解できない山城さんに私は言った。
「正式な任艦は上の指示を仰がないとダメだけどね。だが彼女が秘書艦で異論はないだろう?」

彼女は頷いた。

 そして新たな秘書艦(仮)となった祥高さんは敬礼をして宣言するように言った。
「提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮を執ります」

まるで何かのスイッチが入るようだ。

 艦娘は巫女っぽい服装の子も多い。だから神棚と艦娘というのは相性が良いかも知れない。
(それも何か意味があるのかな)

 祥高さんは脇の二人の艦娘に指示を出した。
「山城さんと寛代ちゃんの報告は後から聞きます。二人は、いったん下がって下さい」

「わかりましたぁ」
山城さんは気だるそうに敬礼するとヨロヨロと歩き始めた。

(彼女はたった一人の戦艦として、この鎮守府の守りを固めている。その重圧は大変だろう)
山城さんが退室する際に会釈をしたので私も軽く返した。その時フッと彼女さんの表情が緩んだ。

一瞬、鳥肌が立つと同時にホッとした。
(彼女にも人間らしい感情があるのだ)

山城さんが退出した執務室は、ちょっと気が抜けた。

「さて」
ふと見ると……。

「あれ?」
「……」
まだ無言で立ち尽くす駆逐艦『寛代』が残っていた。
なぜか動かない。

「寛代ちゃんも、聞こえた?」
祥高さんが重ねて聞いて、やっと駆逐艦娘は顔を上げた。

「……」
少しボーっとしていたが、のそのそ退室して行く。

 二人の艦娘が退室して、ようやく落ち着いた。私は腕を軽く回しながら言った。
「美保は独特なのかな? やっぱり」

祥高さんは頷いた。
「そうですね。他の鎮守府に比べて歴史も浅いですし」

 そのとき廊下の方が急に騒がしくなり「キャッキャッ」という女子の笑い声が響く。

祥高さんは微笑む。
「艦娘たちが外で待ち構えていたようですね」
「そうだな」

 艦娘は普通の人間では無いがロボットでも無い。一種、独特な雰囲気を持っている。あの山城さんや寛代だって、そうだ。

 ところが、この秘書艦たる祥高さんは、それともまた違うようだ。





彼女は普通の艦娘には無い何というか、人間に近いものがある。

「司令、お着替えは?」
その問いかけで私は現実に戻った。

「いや、まだいい」
上着を脱いだ私は司令の席に近寄りながら言った。

「それより先ほどの戦闘の状況と戦果の報告を頼む」
「承知しました」
軽く敬礼した祥高さんは自分の机に積み上げたメモや資料を整理する。

「済みません、少々お時間を頂けますか?」
「あぁ構わないよ。私も準備しよう」
ヨイショッと私は司令の椅子に座った。

そこで思わず叫ぶ。
「あ痛っ!」

腰回りから足首に掛けて激痛が走った。
「打撲……か」

だが秘書艦は動じない。提督代理を務めたから肝が据わっているのだろう。資料を整理しながら言った。
「先ほどの戦闘ですか?」

まさに秘書艦の鑑(かがみ)だ。
その雰囲気は海軍省の中央司令部の役人どもに感じが似ていた。

私は改めて自分の体のダメージに気付いた。
「草むらで逃げ回った時に、あちこち打ったようだな」

腰をさすりつつ私は聞く。
「あの寛代は何ともなかったのか……艦娘だから当然だが」

その問いに祥高さんは微笑んだ。
「そうですね。あの子は通信に特化しているので……さほど最前線には出ませんが身のこなしは柔軟です」

「なるほど」
納得した私は腕を組んだ。

「通信に特化か……何となく、そんな雰囲気はあるな」

微笑んだ秘書艦は続ける。
「あの子は通信を中継する任務が多いから……出撃回数自体は他の艦娘より多いですし、いざとなったら高速で前線から離脱するので意外と鍛えられているのかも知れません」

「ああ、そうなるのか」
確かに、あの子はそういうタイプだろう。

早々に書類をまとめた祥高さんは言った。
「では、よろしいでしょうか?」

「ああ」
私はノートとペンを取り出してメモの準備をした。
聞くだけでは、なかなか頭に入らないから。

 立ち上がった彼女は執務室に有る黒板を併用しながら説明を始める。

1)今朝07:40頃、山陰海岸は由良沖の日本海に突然、深海棲艦の軽空母と航空機が出現した。

2)敵は由良と境港にある2箇所の陸軍の砲台を電撃的にピンポイント攻撃した。

3)遅れて上がってきた美保空軍基地の迎撃機もまた一瞬で、すべてが撃墜された。

4)当、美保鎮守府も多少、敵の攻撃を受けた。

しかし山城さんを始め演習航海中であったため艦娘への被害は、ほとんどなし。また残っていた艦娘たちも全員が避難していた。

 そこまで聞いて私は改めて悟った。
「なるほど避難さえスムーズに行えば有事の際に艦娘っていうのは便利なものだな」

何処の鎮守府でも艦娘の退避は早い。

 ところが彼女は、あまり浮かない顔をしていた。
「そうですね」

少し気になったが私は敢えて何も言わず続きを促した。

5)ちょうど海上では演習から帰還中の山城さんが島根半島の先端にある美保関(みほのせき)に差し掛かったところだった。
だが美保空港付近までの距離は遠く、そこからの射程はギリギリだ。

6)山城さん自身の疲労もあったが緊急を要するため祥高さんが指令。
美保関沖から美保空軍基地付近の敵機に対して遠距離砲撃を開始した。

「山城さんが海上に居たのが幸い……と言えるのか微妙ですが」
祥高さんは言い訳のように言葉を付け加えて続ける。

7)空港近くにいた駆逐艦『寛代』からの観測通信を受けて弾着観測射撃を実施。数発、着弾がそれたが速やかに弓ヶ浜地区を襲っていた敵機を制圧した。

「なるほど。まさか海上から攻撃を受けるとは敵も想定外だったか」
「はい」
私の言葉に彼女は頷く。

8)同時に美保関港に待機していた電や島風など駆逐艦と併せ、海上の軽空母も合流して短時間で敵を挟み撃ちする形で制圧した。

「以上です」
「ふむ、なかなかの戦果だ。鎮守府としても最大限の威力を発揮して制圧出来たわけだ」

「有難う御座います」
そこで彼女は資料を閉じる。

私は言った。
「その電撃作戦のお陰で、こちらは命拾い……」

そこまで言って私は苦笑した。
(まあ場合によっては死にかけたのかも知れないが)

それでも敵の攻撃を押さえ込んだのは確かだ。

多少、現地で私が攻撃に巻き込まれたとしても、それは仕方がないと思った。


以下魔除け
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※これは「艦これ」の二次創作です。

第9話(改2.5)<秘書艦(仮)>
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・ハメ,初稿:2015年  (改2.5)23:41 2021/04/28
・暁 ,(改2.5)23:41 2021/04/28
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・サイト:(改1)2022年01月09日

PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。




第10話(改2.5)<美保の艦娘たち>



執務室の私は秘書艦から鳳翔さん他、艦娘の説明を受けた。

「まずは艦娘の名前から覚えないとね」

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マイ「艦これ」「みほちん」
:第10話(改2.5)<美保の艦娘たち>
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 私は冗談半分に言った。
「見事な采配だナ。いっそ、このまま君が指揮官を続けた方が良くないか?」

だが彼女は「いえ」と緩やかに否定した。
「私は秘書艦ですので」

(この反応が人間臭いんだよな)
私は、そう思った。

 艦娘は感情を持った武器だ。本人が情緒不安定になれば能力が下がる。

機嫌を損ねたら言うことを聞かない……あの舞鶴の彼女のような艦娘も少なくない。

「あの子……名前は何だっけ」
思わず私は呟きながらメモ帳を取り出した。半分、照れ隠しだ。

 そんな私を見た祥高さんは軽く会釈をして自席に戻ると静かに書類の整理を始めた。

 私はパラパラとメモ帳をめくったが舞鶴の頃の記録は残っていなかった。

「ふう」
諦めた私は手を休めて窓の外を見た。

 キラキラと輝く美保湾。その向うに青白く浮かぶ大山。時折、訓練をする艦娘たちと戦闘機が海上を横切る。

「艦娘……か」
感情があることで本来の性能以上の能力を発揮することも、まれにある。だから艦娘の扱いには通常の兵器以上の慎重さと感情的な配慮が不可欠だ。

そんな私も指揮官とは名ばかりだ。決して彼女たちの扱いに長けてはいない。特に舞鶴の一件があってからは艦娘の機嫌を取りながら恐る恐る指揮を執ってきた。

その是非は分からない。だが今のところ艦娘たちには概ね好評なのだろうか。
(その結果としての美保への着任だと信じたいな)

 もちろん私の手法が保守的な軍人仲間から陰口を叩かれていることも知っている。

 そのとき私は頭を掻きむしった。つい舞鶴で艦娘を轟沈させた嫌な感情が甦ったのだ。

驚いた祥高さんが視線を向けた。

「……止めよう」
私は呟きながら立ち上がった。

「思い出すのも嫌になる」
彼女は黙っていた。

(あの艦娘を沈めた感覚は当事者でないと分かるまい)
艦娘と人間(指揮官)が一対一で個室に居ると沈黙に耐え切れず取り留めの無いことを喋りだす子も居る。

笑い話か漫才のようだが、いろいろ思い出す子も居るのだ。

かと思えば祥高さんのように黙々と作業をする艦娘もいる。
(艦娘も、いろいろだ)

 私は窓枠に手を置いて窓を開いた。美保湾の潮風が緩やかに流れ込む。
訓練をする艦娘や戦闘機が良く見えた。

この美保鎮守府は決して満足とはいえない艦娘の規模だ。しかし代理の指揮官(祥高さん)でも十分な抑止力を持つようだ。

 私はチラッと彼女を見た。つかず離れずといった絶妙な距離感。

そのとき、ひらめいた。

 ひょっとしたら、この重巡『祥高』は、その能力の高さゆえに、こんな辺境の地に追いやられているのだろうか?
(軍隊という閉鎖した組織ではよくある話だが)

……同期の出世を妬んだり、イジメの仕返しで背後から撃つと言うウソみったいな話は、表にならないだけで意外に多くある。
(特に陸軍は酷いらしい)

まして相手が艦娘となれば、よけい煙たがる人間は少なくない。
(秘書艦のように自然に「間」が取れる艦娘は、かなり高スキルだと思うが)

時折、その秘書艦の視線を感じながら私は妙に長い「間」を持ったことを誤魔化すように彼女に言った。

「あの駆逐艦『寛代』は私を迎えに来ていたようだが」
「……はい」

私はイスに深く腰をかけると頭の後ろに手を廻した。
「米子駅では結局30分くらい待っても出会わなかったぞ」

それを聞いた祥高さんは困ったような顔をした。
「申し訳ありません提督。実はあの子、よく乗り過ごすのです。今日も安来(やすぎ)の方まで行ってしまって慌てて引き返していました」

「それで、たまたま同じ列車に乗り合わせたのか?」
私は笑った。

「やれやれ……無線が付いていなかったら果たしてどこまで行ってたことやら」
呟きながら再びメモ帳を開いくと早速、書き付けた。

『寛代』:通信特化。性格は、そそっかしい……と。

そんな私を見た祥高さんは言う。
「提督、何度も伺うのですが……お怪我の方は?」

私は軽く手を振った。
「大丈夫だ。いきなり地上戦に巻き込まれたんだから仕方がないよ」

そして提案する。
「個人的に私のことは提督より『司令』が良いんだが。まぁ強制はしないが」
「畏まりました。主な子たちには呼称の共有します」

 ホッとした私はメモ帳を閉じた。どうも提督ってのは落ち着かない。まして、この美保鎮守府の規模では、なおさらだ。

そこで思い出して、付け加えた。
「しかし急だったからな……手持ちのカバンくらいしか持ち出せなかったよ」

壁際にある黒ずんだ鞄を見詰めて言った。
「着替えや他の書類は、さっきの空襲で、ほとんど焼けてしまった」

「え!」
いきなり彼女は叫んだ。今度は、こっちがびっくりした。

「それでは、すぐにお着替えと関連書類を手配します!」
「あ……そう」
いきなり素早い反応だな。

 祥高さんが内線で連絡を取ってから直ぐに『鳳翔』(ほうしょう)さんという軽空母の艦娘が挨拶に来た。彼女は、とても落ち着いた雰囲気の艦娘だった。

「まるで……お母さんだな」
思わず呟くと彼女は静かに微笑む。



「いえ、そんな……祥高さんより若いんですよ」
「え?」
そりゃ、またビックリ。

……後から知ったのだが実は彼女、他の艦娘たちと、さほど年齢は変わらないらしい。

秘書艦は言う。
「急で申し訳ないのですが司令の着替を準備して下さい」
「承知しました」
(2人とも所作に滞(とどこお)りがない。彼女も秘書艦に匹敵する感情の安定感がある)

今後は鳳翔さんが司令部の庶務全般を担当してくれるようだ。

 着替えが来る間、私は上着を脱いだ軽装のまま祥高さんに案内され執務室の向かいの部屋に入った。
「ここが美保鎮守府の作戦司令室です」
「なるほど。移動も便利だな」

思わず本音。舞鶴も呉も広いから、こういうのは逆に新鮮だ。
「今朝の作戦も、ここから指示しました」
「フム」

見ればメモを張り付けた黒板や無線機が所狭しと置かれている。だが窓もあって日本海や大山が見え、眺めが良い。

黒板のメモを見ながら彼女は言った。
「簡単に所属艦娘の説明を、よろしいでしょうか」
「ああ」

 秘書艦は書棚から写真付きのファイルを取り出して『戦艦』という頁を開いた。それを見た私は思わず反応する。
「あ、この艦娘は、さっき出会った山城だな」

今朝の戦闘で空港へ艦砲射撃をした娘だ。



祥高さんも言う。
「はい。彼女は火力が充実しているんですが性格にムラがあります。ちょっと被害妄想的で……」

私は苦笑した。祥高さんや鳳翔さんとは真逆の性格か。

 また頁をめくっていくと『駆逐艦(特型)』という見出しの頁に見覚えのある艦娘。
「この子は寛代だな」
「はい」

最初に出会った駆逐艦、寛代。
「小さいながら通信や索敵に特化しています。基本的に大人しい子ですが少々、慌てん坊です」

「そうか。これからも失敗が多そうだな」
その言葉に彼女も苦笑した。

さらに頁をめくる。
『重巡・その他』という見出しの頁に秘書艦担当として重巡『祥高』さんが載っていた。

「君は見た目よりタフだな」
率直な感想を言うと彼女は苦笑いを浮かべる。

「恐縮です」

(彼女の性格か……)
私は考えた。

多少のことでは動じない。それは司令部付きとしては最適だろう。

 ただ祥高という名前は何処かで聞いた覚えがある。鞄に入っていた虎の巻ともいえる海軍資料が焼けていなければ直ぐに分かったんだが。

 さっきの舞鶴の艦娘に秘書艦と、どうも最近、艦娘の名前を良く忘れる。まるで浦島太郎だ。

 とりあえず着任して分かったのは、この程度。美保鎮守府は駆逐艦が多数で、まだ主要な戦艦や空母がほとんどいない。

「なるほど『小さな鎮守府』というところか」
私は呟いた。

 しかし朝の戦闘での迎撃力や破壊力を見ても、やはり艦娘の威力は尋常ではない。艦娘の戦いぶりから陸軍や空軍が悔しがるのも無理もない。

また海軍内でも艦娘について敬遠している提督も少なくない。だが軍人は与えられた場所で任務を遂行するのみだ。

敵も待ってはくれない。早く、個々の状況を覚えて対応しなければ……。

「どうか、されましたか?」
祥高さんが聞く。

「いや、何でもない」
私は少し笑って応えた。

「まずは艦娘の名前から覚えないと」
「そうですね」
私の言葉に彼女も微笑んだ。


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※これは「艦これ」の二次創作です。

第10話(改2.5)<美保鎮守府>
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・ハメ, 19:42 2021/05/03(加筆改訂)再度 21:44 2021/05/03
・暁 ,20:07 2021/05/03 (加筆改訂)
・tinami,21:19 2021/05/03(加筆改訂)
・pixiv,21:22 2021/05/03(加筆改訂)
・サイト:17:13 2022/01/09


PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。