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遺伝子って何ですか?

遺伝子とは、親から子へ伝える特徴や個性の情報を記憶しているものです。カエルにはカエルの遺伝子があり、犬には犬の、人には人の遺伝子があります。人の遺伝子は約2万5千個です。親から子へ伝えるべき情報は、「タンパク質」におきかえられて、どの種類のタンパク質をいつ作るかということで表わされています。タンパク質は、筋肉となって体を作るだけでなく、体の中で化学反応が起こるときに非常に重要な役割をしています。生命のすべての活動は、タンパク質によって行われています。遺伝子はこれらのタンパク質を作るための設計図の働きをしています。遺伝子は、「DNA」のあちらこちらに散らばって存在しています。

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DNAって何ですか?

DNAとは、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の「塩基」が対になって並んだものです。塩基とは化学的なかたまりのことです。DNAには30億個の塩基対があります。DNAは、大まかに分けると、働きによって次の3つの部分があります。ひとつめは遺伝子で、DNAの約1.5%です。ふたつめはDNAの働きを調節する部分で、DNAの数%、3つめはどういう働きをするかまだよくわかっていない部分で、これが全体の90%以上です。つまり、遺伝子はDNAのほんの一部です。DNAはひも状で、46本あります。体の細胞のひとつひとつにこの46本のDNAがあります。DNAにはAとTとGとCがさまざまな順番で並んでいて、その順番を「配列」といいます。DNAの配列はほとんどの人で同じですが、何らかのきっかけで塩基が「変異」することがあります。

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遺伝子の変異って何ですか?

遺伝子の変異とは、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の塩基が変化することです。人の体は60兆個の細胞からできていて、60兆個の細胞のそれぞれにDNAが入っています。細胞が増えるときは、DNAはコピー(複製)されて新しい細胞にDNAが分配されます。DNAを複製する過程や、また、紫外線や化学物質など環境的な影響で、DNAの塩基が別のものに置き換わったり(置換)、増えたり(挿入)、失われたり(欠失)することを「変異」といいます。変異することで、本来作られるはずのタンパク質が作られなくなったり、作られないはずタンパク質が作られたりして病気になります。色素失調症は、遺伝子の変異によって本来作られるはずのタンパク質が作られなくなって発症します。

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変異はなぜ起きますか?

変異が起きるかどうかは、偶然のこともありますし、環境などの影響のこともあります。ある遺伝子の変異が、生命の生存にとって有利な特徴をもつものならば、その生命は生き残りやすく子孫を残しやすくなります。その反対に生存にとって不利な変異ならば、生き残ることができず、子孫を残すことができなくなります。生命は遺伝子変異とともに進化してきました。ある変異が、有利な変異であるか不利な変異であるかを区別することは難しいでしょう。生命は単体のみで生きるものではなく、周りの環境の中で生きるものであるからです。ある環境においては不利な特徴でも、別の環境では有利なことかもしれません。ですから遺伝子が多様であることは、その種全体からすれば、生き残るためにはよいことなのです。

染色体とは何ですか?

DNAは、細胞が増えるときに複製されて新しい細胞に分配されます。DNAは46本の紐状で細胞の「核」という場所の中にありますが、細胞が分裂する前にそれぞれ棒状に凝縮します。この棒の状態のことを「染色体」といいます。従って、染色体は46本あり、必ず対になっているので23対です。大きいものから順番に通し番号がつけられていて、1番から22番を「常染色体」、最後の1対を「性染色体」といいます。性染色体は2種類あって、それぞれ「X染色体」、「Y染色体」といいます。色素失調症は、X染色体上の「Xq28」という位置にある遺伝子の変異によって起こります。

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X染色体とは何ですか? 

X染色体とは、性別を決める染色体で、性染色体のうちのひとつです。性染色体にはX染色体とY染色体があります。女性(XX)は父親からもらったX染色体を1本と母親からもらったX染色体を1本持っています。男性(XY)は、父親からもらったY染色体を1本と、母親からもらったX染色体を1本持っています。色素失調症は、X染色体上の「Xq28」の「IKBKG遺伝子」が変異して発症する病気です。

Xq28 画像

Xq28って何ですか?

「Xq28」とは遺伝子の位置を示すものです。XはX染色体、qは染色体の下半分を示します。Xq28とは、X染色体の下半分、28(ニ・ハチと読みます)という位置である、ということを表しています。X染色体には、遺伝子が全部で1098個あります。色素失調症は「IKBKG遺伝子」の変異によって起こります。

IKBKG遺伝子ってどんな役割の遺伝子ですか?

IKBKG遺伝子は、「NEMO(またはIKKγ )」というタンパク質を作る遺伝子です。NEMO(IKKγ )はIKKα 、IKKβ というタンパク質とともに3つ揃って初めて機能します。NEMO(IKKγ )とIKKα とIKKβ は共に、「NF-κ B」を活性化する働きがあります。NF-κ Bというのは、炎症や免疫や血管の形成など、からだの中で重要な働きに関わっている物質です。IKBKG遺伝子に変異が起きて、NEMO(IKKγ )が作られなくなると、 NF-κ Bを活性化できなくなります。色素失調症はIKBKG遺伝子の変異によって、NEMO(IKKγ )が作られなくなった結果、NF-κ Bを活性化できなくなったことが原因で起こる病気です。色素失調症が起こるメカニズムは、2000年Smahiらによって解明されました(Smahi et al 2000)

NF-κ Bとは何ですか?

NF-κ Bは、炎症や免疫反応の調節に関わる物質です。NF-κ Bは「転写因子」のひとつです。転写因子とは、ある遺伝子に結合してその遺伝子が働くようにする物質です。NF-κ Bは、炎症を起こさなくてはならないときや免疫反応をしなくてはならなくなった時に、必要なタンパク質を作る遺伝子に結合し、その遺伝子が目的のタンパク質を作るように働らきかけます。NF-κ Bは、炎症や免疫以外にも、表皮細胞の増殖、分化、「アポトーシス」の抑制、骨や歯牙の形成による破骨細胞の分化、血管の形成などにも関わっていることが、近年わかってきました。色素失調症では、NF-κ Bの活性がなくなることや低下することで、皮膚、目、歯、毛髪、中枢神経に症状が現れます(Smahi et al 2000)

色素失調症のNF-KB 画像

アポトーシスとは

細胞が自分で死んでしまうようにする体の働きです。アポトーシスによって、おたまじゃくしの尾は自然になくなりますし、人は胎児の時に掌の指の間の手かきが時間の経過とともになくなります。アポトーシスでは、細胞自ら死んでしまうことがプログラムされていますが、「TNFα 」 という癌を出血させて壊死させる働きのある物質によって、アポトーシスが引き起こされることもあります。

IKBKG遺伝子はどんな形をしていますか

遺伝子は「エクソン」と「イントロン」という部分からできています。遺伝子が働くときは、イントロンは取り除かれ、エクソンだけになります。IKBKG遺伝子には、エクソンが全部で10個あります。またIKBKG遺伝子の下流に、IKBKG遺伝子のエクソン3からエクソン10と同じ配列が逆向きの状態でありますが、こちらには遺伝子としての機能はありません。このような元の遺伝子に配列が似ているものの遺伝子としての機能のないものを「偽遺伝子」といい、遺伝子が複製され組変わるときに影響を与え、新しい変異を引き起こすこともあります。また、IKBKG遺伝子のエクソン4(前から4番目のエクソン)の前と、エクソン10(前から10番目のエクソン)の後ろに、同じ配列の部分(「MER67B」といいます)があります。IKBKGP偽遺伝子のエクソン4の前とエクソン10の後ろにも先ほどと同じ配列の部分(「MER67B」)があります。そしてIKBKG遺伝子のMER67Bは、IKBKGP偽遺伝子のMER67Bとは反対の向きになっています。

IKBKG遺伝子と周辺 画像

IKBKG遺伝子がどのように変異するのですか?

IKBKG遺伝子には、約2万3000個の塩基があります。それらが置換(別の塩基に置き換わる)・挿入(別の塩基が入る)・欠失(あるはずの塩基がなくなる)するので、色素失調症の遺伝子変異には数多くのパターンがありそうです。しかしながら実際は、色素失調症の80-90%が全く同じ部分を大きく欠失しています。小さな置換・挿入・欠失による変異は10%強です。色素失調症の80-90%を占める ”同じ部分の大きな欠失” とは、エクソン4からエクソン10までの欠失です。この部分の欠失が起こる理由は、遺伝子を複製するときに、エクソン4の前とエクソン10の後ろの「MER67B」が、間違って入れ替わってしまうからです。IKBKG遺伝子はこれによってエクソン4からエクソン10までを欠失するのです(Smahi et al 2000, Fusco et al 2004)。

IKBKG遺伝子 画像

IKBKG遺伝子のエクソン4〜10までを欠失するのは、子どもの突然変異が原因ですか?

健康な両親の子どもが、突然変異でIKBKG遺伝子のエクソン4から10を欠失するのは、エクソン4の前とエクソン10の後ろに「MER67B」と呼ばれる配列があり、それらが組変わることで起こります。これに加えて、わずかながら次の2つの理由もあります。ひとつ目は、両親のどちらかでIKBKGP偽遺伝子が変異している場合です。この部分が変異しても病気にはならないので、両親は健康ですが、IKBKGP偽遺伝子でエクソン4からエクソン10を欠失している場合(この欠失を「IKBKGPdel」といいます)、子どものIKBKG遺伝子でエクソン4からエクソン10までを欠失することがあります(1)。2つ目は、両親のどちらかが、IKBKG遺伝子のエクソン4からエクソン10までをIKBKG遺伝子の下流で重複していることがあります(この部分を「MER67Bdup」といいます)。この場合も、子どものIKBKG遺伝子でエクソン4からエクソン10までを欠失することがあります(2)。IKBKG遺伝子は、これらの「MER67B」のためエクソン4からエクソン10を欠失しやすいのです(Aradhya et al 2001, Fusco et al 2009)。

IKBKG遺伝子 画像

変異と症状は関係ありますか?

色素失調症の80-90%は、エクソン4からエクソン10までの欠失で、つまり塩基823個の欠失です。遺伝子にとっては大きな変化で、これによってNF-κ B活性を完全に失います。のこりの10%強は、多くは塩基1〜3個の欠失、置換、挿入です。こちらは小さな変化ですが、NF-KB活性は完全に失われることもありますが、活性が低下するだけの場合もあります。しかし、症状の重さに関係するのは、塩基の変化だけではないのです。エクソン4からエクソン10までの欠失でも症状がわからないぐらい軽症から、神経症状のある重症まであります。1〜3個の塩基の変異についても軽症から重症まであります。母の変異を娘がそのまま受け継いだ場合でも、2人の症状は違います。色素失調症の症状の重い軽いには、変異の大小だけではなく、「X染色体の不活化」という体の働きが大きく関係します(Fusco et al 2004)

X染色体不活化とは何ですか?

女性の2本のX染色体のうち片方を眠らせてしまう働きのことです。女性の性染色体はXX、男性はXYです。男性はX染色体が1本で生きているのですから、細胞にとって本来は1本でいいはずです。そこで、X染色体の数を男性と同じにするために、女性は2本のX染色体のうち片方を眠らせます。これを「X染色体不活化」といいます。一般的に、2本あるうちどちらのX染色体を眠らせるかは、受精卵が胚盤胞という時期のころランダムに決まります。しかし、色素失調症の女性の血液では、正常遺伝子のあるX染色体の方が多く働き、変異遺伝子のある方が多く眠っています。血液では、受精卵の時に変異のあるX染色体は優先的に不活化されますが、何らかの理由で皮膚細胞のX染色体では完全に不活化されず、それらの不活化されなかった皮膚細胞は出生後に排除が始まるので、皮膚の症状が現れます(Smahi et al 2000)

X染色体不活化

なぜ皮膚は色素沈着しますか?

IKBKG遺伝子変異によって皮膚の細胞がNF-κ Bの活性を無くしてしまいます。しかし体には、そのように傷ついた遺伝子の皮膚の細胞を排除する働きがあります。何らかの理由で、変異遺伝子をもつケラチン生成細胞という細胞が炎症を起こすのをきっかけにして、「TNFα 」などの物質を分泌します。するとTNFα が「アポトーシス」という細胞を壊そうとする働きを起こします。これによって、紅斑、水疱、発疹など炎症がおき、炎症が起きた細胞を消化するための食細胞が現れます。食細胞はメラノゾーム複合体を含んでいるので、皮膚は色素沈着します。変異遺伝子を持つ細胞が正常細胞に置き換わるにつれて、色素沈着は消えていきます。まれに、このときにすべての変異遺伝子をもつ細胞が排除されなければ、数年後に感染などをきっかけにしてもう一度この過程が行われます(Courtois et al 2005)

ブラシュコ線とは何ですか?

ブラシュコ線とは、受精卵から胎児に成長するときに皮膚の細胞が分裂しながら増えていく方向を示している線です。健康な人では、皮膚のどの部分の細胞が分裂して増えても、同じ皮膚なのでその線は現れません。色素失調症では、X染色体の不活化が優先的に行われなかった変異遺伝子の細胞と、X染色体の不活化が行われ変異遺伝子が眠った状態である正常な細胞が混じり合うことになります。それぞれは、分裂しながら同じ細胞として増えていき、その後、変異遺伝子の細胞だけが炎症、発疹、色素沈着を起こします。不活化が行われなかった変異遺伝子の細胞と不活化が行われた健康な細胞とが混じりながら皮膚細胞が増えていくので、これがブラシュコ線として現れます。

ブラシュコ線 画像

なぜ男の子は流産になるのですか?

女性(XX)はX染色体が2本あり、片方は不活化されます。色素失調症では、そのうち変異のある方が優先的に不活化されるので、健康なX染色体が多く残ることになります。しかし、男性(XY)はX染色体を1本しか持っていませんので、変異のある遺伝子があってもそれを使うしかないのです。ですから、男性で働くのはすべて変異遺伝子のあるX染色体になります。人と同じくX染色体上にNOMOの遺伝子があるマウスの実験では、NF-κ Bが欠失したマウスは、肝不全でマウスは胎内で死んでしまいます。過剰なアポトーシスによって肝細胞が壊死するものとみられていますが、人ではまだ実証されていません(Rudolph et al 2000)

X染色体優性遺伝とはなんですか?

女性(XX)はX染色体を2本、男性(XY)はX染色体を1本とY染色体を1本持っています。染色体は2本1組で機能します。優性遺伝とは1組の染色体のうち1本が変異を持っていると発症する遺伝です。色素失調症はX染色体優性遺伝の病気です。色素失調症の女性は、正常な遺伝子のあるX染色体1本と病気の遺伝子のあるX染色体を1本持っています。色素失調症の男性は、病気の遺伝子のあるX染色体1本と、正常なY染色体をもつことになります。しかし、色素失調症の男の子の多くは生まれてこられません。女性は、X染色体が2本あるため、片方が機能しなくても、もう片方が機能できますが、男性はX染色体が1本なので、代わりになるものがなく、色素失調症の場合は生まれてくることができないのです。

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モザイクとは何ですか?

受精卵から人へと成長する過程で、一部の細胞の遺伝子が変異を起こして、変異細胞と正常細胞が混ざり合った状態のことを言います。遺伝子変異した細胞からは、同じく遺伝子変異した細胞が複製されます。ですから、初期に変異すれば、変異細胞が多くなりますし、後の方で変異すれば、変異細胞は少なくなります。モザイクには、「体細胞モザイク」と「生殖細胞モザイク」があります。体細胞とは精子と卵子以外の細胞で、生殖細胞とは、精子と卵子の細胞です。体細胞モザイクの場合は、体の細胞が正常遺伝子の細胞と変異遺伝子の細胞が混ざり合うので、変異遺伝子によって引き起こされる病気の症状は軽くなります。また、遺伝子変異は、親から子に伝わりません。生殖細胞モザイクの遺伝子変異の場合、変異した遺伝子から精子か卵子が作られると、遺伝子変異は親から子に伝わります。生殖細胞モザイクであっても、正常な遺伝子から精子か卵子が作られた場合は、正常遺伝子が子に伝わります。

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色素失調症は小児慢性特定疾病に指定されました


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GeneReviews®の
「色素失調症」を翻訳しました


GeneReviews®は医療関係者向けの遺伝性疾患情報サイトです。米国国立衛生研究所などの後援のもとワシントン大学によって運営されています。GeneReviews®の色素失調症の項を翻訳をしました。
⇒ GeneReviews 日本語版
  「色素失調症」