1 任意後見契約とは |
超高齢化社会を迎えて、認知症などによる判断力の低下は誰もが避けて通れない問題です。 判断能力がなくなると、日々の暮らしで物を買ったり(売買契約)、医療を受けたり(受診契約)することができなくなったり、財産の管理(預金の引出し、不動産の管理など)ができなくなるなど、日常生活に支障が生じることになります。 判断能力の低下にそなえて… このような事態に備えて、自分が元気なうちに、信頼する人との間で、将来、自分の判断能力が衰えた場合には、自分に代わって日々の契約を結んだり財産管理を任せることを頼んでおくのが、「任意後見契約」です。 まだ元気なうちから任せたい 判断力はしっかりしているのだけれど、加齢や病気などで思うように外出できなくなったなど、自分で預貯金の引き出しや財産管理ができないことが起こり得ます。 このような場合に備えて、元気なうちから財産管理を頼んでおくのが、「財産管理の委任契約」です。 財産管理の委任契約+任意後見契約 「財産管理の委任契約」と「任意後見契約」の2つをセットで結ぶことで、まだ元気な現在から判断力が低下した将来にわたって継続的な支援を受けることが期待できます。 |
2 「財産管理の委任契約+任意後見契約」の公正証書を作成するには |
当公証役場で公正証書を作成する際の手順は、次のとおりです。 1.頼む人(委任者)と引き受ける人(受任者)の間で、頼む内容を決める 2.頼む内容を決めたら、公証役場へ依頼 ・電話で相談日を予約して、当事者二人でお出でください。 ・公証人と面談して内容を伝え、必要書類を集める 頼む内容により必要書類が異なります。公証人から必要な書類をご案内します。・必要書類が集まったら、公証役場へ事前送付(郵送可) ・公証人が準備・見積もりを算出して連絡→作成日を予約 3.予約当日(作成日) ・当事者二人でお出でください(本人確認書類と印鑑を持参) ・当事者間の決めた内容に基づいて「公正証書」を作成 ・当事者と公証人が署名・押印して完成 |
3 必要書類、決めておきたい事項について |
1.必要書類
【委任者(頼む人)】 ①「印鑑登録証明書」と「実印」 ②「顔写真付き公的身分証明書」(運転免許証、マイナンバーカード等)と「認め印」 ※①~②の組合せのうち、いずれかをご用意ください。 ③「戸籍謄本」と「住民票」 【受任者(引き受ける人)】 ④「印鑑登録証明書」と「実印」 ⑤「顔写真付き公的身分証明書」(運転免許証、マイナンバーカード等)と「認め印」 ※④~⑤の組合せのうち、いずれかをご用意ください。 ⑥「住民票」 |
2.報酬の取り決め 委任者(頼む人)と任意後見人になる人(引き受ける人)との合意で、報酬を決めることができます。 一般的には、身内の人(家族や親族)が引き受ける場合には無報酬の場合が多く、第三者(他人)が引き受ける場合には一定の報酬を支払う例が多いようです。 任意後見人(引き受ける人)は、家庭裁判所が選んだ「任意後見監督人」の監督下で事務処理を始めます。 「任意後見監督人」には、家庭裁判所が決めた額の報酬が発生し、任意後見人が管理する本人の財産から支出することになります。 |
3.出張を希望する場合 任意後見契約の委任者(頼む人)が病気などで公証役場に出向くことができない場合には、公証人が、病院・施設に出張して公正証書を作成することができます。 日程調整と事前の準備が必要ですので、あらかじめ必要書類を公証役場に送付していただき、公証人と打合せを行ってください。 なお、出張できるのは、法令上、福岡県内に限られています。 また、出張作成では、手数料が割増しになるほか、日当と交通費実費(往復タクシー代)が必要です。 |
4 頼む内容について(財産管理の委任契約) |
「財産管理の委任契約」の標準的な内容は、次のとおりです。 1 甲(頼む人)の有する一切の財産の管理、保存 通常は「処分」までは含みません。 2 次の金融機関との全ての取引 ① 〇〇銀行〇〇支店 ② 〇〇信用金庫〇〇支店 ③ ゆうちょ銀行 ④ 甲が取引をするその他の金融機関 よく利用する金融機関の支店名まで特定して記載する必要があります。 3 家賃、地代、年金その他の社会保険給付等定期的な収入の受領、家賃、地代、公共料金等定期的な支出を要する費用の支払並びにこれらに関する諸手続等一切の事項 4 生活に必要な送金及び物品の購入等に関する一切の事項 5 保険契約の締結、変更、解除、保険料の支払、保険金の受領等保険契約に関する一切の事項 6 登記の申請、供託の申請、住民票、戸籍事項証明書、登記事項証明書の請求、税金の申告・納付等行政機関に対する一切の申請、請求、申告、支払等 7 医療契約、入院契約、介護契約、施設入所契約その他の福祉サービス利用契約等、甲の身上監護に関する一切の契約の締結、変更、解除、費用の支払等一切の事項 8 要介護認定の申請及び認定に対する承認又は審査請求に関する一切の事項 |
5 頼む内容について(任意後見契約) |
「任意後見契約」の標準的な内容は、次のとおりです。
1 不動産、動産等すべての財産の保存、管理及び処分に関する事項 2 金融機関、証券会社との全ての取引に関する事項 3 保険契約(類似の共済契約等を含む)に関する事項 4 定期的な収入の受領、定期的な支出を要する費用の支払に関する事項 5 生活費の送金、生活に必要な財産の取得に関する事項及び物品の購入その他の日常関連取引(契約の変更、解除を含む)に関する事項 6 医療契約、入院契約、介護契約その他の福祉サービス利用契約、福祉関係施設入退所契約に関する事項 7 要介護認定の申請及び認定に関する承認又は審査請求並びに福祉関係の措置(施設入所措置を含む)の申請及び決定に対する審査請求に関する事項 8 シルバー資金融資制度、長期生活支援資金制度等の福祉関係融資制度の利用に関する事項 9 登記済権利証・登記識別情報、印鑑、印鑑登録カード、住民基本台帳カード、個人番号(マイナンバー)カード・個人番号(マイナンバー)通知カード、預貯金通帳、キャッシュカード、有価証券・その預り証、年金関係書類、健康保険証、介護保険証、土地・建物賃貸借契約書等の重要な契約書類その他重要書類の保管及び各事項の事務処理に必要な範囲内の使用に関する事項 10 居住用不動産の購入及び賃貸借契約並びに住居の新築・増改築に関する請負契約に関する事項 11 登記及び供託の申請、税務申告、各種証明の請求に関する事項 12 遺産分割の協議、遺留分侵害額請求、相続放棄、限定承認に関する事項 13 配偶者、子の法定後見開始の審判の申立てに関する事項 14 新たな任意後見契約の締結に関する事項 15 以上の各事項に関する行政機関への申請、行政不服申立て、紛争の処理(弁護士に対する民事訴訟法第55条第2項の特別授権事項の授権を含む訴訟行為の委任、公正証書の作成嘱託を含む)に関する事項 16 復代理人の選任、事務代行者の指定に関する事項 17 以上の各事項に関連する一切の事項 |
6 死後の事務処理に関する委任契約 |
債務の支払,家賃・地代の支払など急迫な事情があって,相続人による事務処理が可能となるまでの間に処理しなければならない事項に限らず,緊急な事項ではないが,事務の性質上,死後比較的短期間に終了する事項(医療費の支払,櫛施設利用料の支払,入居一時金の受領,不要な生活用品の処分など),事務の処理が比較的長期間にわたる事項(葬儀・埋葬・墓石建立・菩提寺の選定に関する事項,相続財産管理人の選任申立て,賃借建物明渡しなど)について,その事務処理を委任する契約についても,任意後見契約と一緒に締結することができます。 |
7 費用の目安 |
公証人が受け取る手数料は、政令(公証人手数料令)で定められています。
任意後見契約の場合は、以下のとおりです。 ・公証役場の手数料:1契約につき1万1000円 ・公証役場の用紙代:枚数が4枚を超えるときは、1枚250円×超過枚数 ・法務局に納める印紙代:2600円 ・法務局への登記嘱託料:1400円 ・書留郵便料:約540円 ・正本と謄本の作成手数料:1枚250円×枚数 受任者が複数の場合は(権限を共同行使する場合は別として)受任者1人につき1件の契約になります。出張作成の場合は、手数料が50%加算されるほか、日当1万円と交通費(実費)が加算されます。 |