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賢治童話との出会い   

=1961年生まれ(姉)
=1965年生まれ(妹)

 宮沢賢治で最初に読んだのは何だったか覚えてる?

 「やまなし」だったと思う、教科書の……。というと、意外な気がするけれど、たぶん「風の又三郎」とか読んでなかったし……小学校六年生というと大きすぎるかもしれないけど……「やまなし」だったと思うね。特に有名といったら、やっぱり「銀河鉄道の夜」とか「風の又三郎」とか。

 でも、ああいう作品に出会うのはたいがいの人は……。

 中学生くらい。

 ……くらいじゃないかな。

 あと、ほかのもので「いちょうの実」とか、かわいらしい、いい話もあるけれど、ああいう作品集を買ったのは中一のときだから。あれはなぜ買ったかというと「やまなし」で興味を持って。「やまなし」は強烈な印象がある。

 「やまなし」というのは、かなり好感を引き出す作品みたい。

 そう、そう、そう。宮沢賢治というとそれだけで話題性のある人だし、有名な人だし、ファンも……ファンというか、特別な感情をもっている読者が多いと思うけど、それだからって、私が好きになるという訳はない。最初に出会った作品が「銀河鉄道の夜」ではなくて「やまなし」だったのがいいのかもしれない。……作品はぼかしがかかっているままでも素敵だけど、ぼかしがかかってて、見えないからおもしろいし、見たくなる。宮沢賢治の作品は分析のしがいがあった。「やまなし」が最初だったけど、それにとりつかれて中一のとき「まなづるとダァリア」の感想文を書いたのだけれど。このあいだ読み返してみると意外とくだらん感想文だったけど(笑)、書いたときは感情がこもっていたし、作文力を越えた意欲が審査員に伝わって、賞をとったのかもしれない。あれが『セロ弾きのゴーシュ』の作品集だった。

 ああ、標題……本のタイトルが、ね。

 あの中には「さるのこしかけ」とか「いちょうの実」とか、短編がいっぱい載ってて、「セロ弾きのゴーシュ」が一番長いくらい。まず「やまなし」、それから「まなづるとダァリア」。宮沢賢治のことを好きなら読まなくては……という感じで「銀河鉄道の夜」とか「風の又三郎」とか読んだけど、読むのに努力感がいった。それよりは、あんまり有名でない、無名の短編が好き。有名な作品の中で結構好きだったのは「注文の多い料理店」。感想画を描くとすれば、どす黒い色彩を使った怖い絵になりそう。どきどきっとするような、お化け屋敷に入って行くような、そういう面白さがあるような気がした。

 あの、旺文社の文庫本を貸して、Bちゃんが読んだときに「水仙月の四日」って、好きだったみたいね。

 ああ、ああ……。その題名を聞いて、それ、好きだったというのは思い出した。「セロ弾きのゴーシュ」は有名な作品だけど、あれはかわいらしくて、素直な作品と思うけど。……無名の短編というのにひかれた。

 でも、本当をいえば、ああいう手に入りやすい文庫に入っている短編は、有名と無名の中間くらい。全集でも買わない限り読めないような作品というのがあるよ。

 宮沢賢治全集というのが出てる。それこそ、なんでもかんでも出てるのが……。

 全集は重たい本で出てるけれど、ちくま文庫で全集が出たおかげで、いろんな人が気軽にマイナーな作品を読めるようになった。それ以外にも新潮文庫が次々に何冊も出している。今、子どもだったら、お小遣いでいろんなものを読めたのに。あのころは文庫本も旺文社と新潮と角川と岩波と講談社を買ったら後がないから、できるだけだぶらないように組み合わせながら買ってた。ちくま文庫が出たのが私が学校を卒業してからだから、もっと早くちくま文庫が出ていたらよかったんだけど。「フランドン農学校の豚」、あれをBちゃんが一時読みたい、読みたいって言ってたよ。

 ふうん。でも、どこに行けば読めるかわからなかったし。

 今なら、ちくま文庫があるけどね。

 小六のとき、C先生(当時の担任)が山本有三とか高村光太郎とか、どんどん読み聞かせをされた、その中に宮沢賢治があったんだけど、「永訣の朝」とか「(雨ニモマケズ)」とか。「(雨ニモマケズ)」は覚えるくらい……先生がしつこかったんじゃないけど、印象的だったから。「永訣の朝」はこのあいだトラム(山口市内の演劇サークル)で朗読があって、ああなつかしい、と思ったからね。うれしかったし、なつかしかったし、うまく読めたらいいなという気になったからね。小六という幼いときに先生の話を聞きながら読んだからか、情景が頭の中に浮かぶの、その雪の中の。

 下手をすると、宮沢賢治というと「(雨ニモマケズ)」しか知らない人が圧倒的になるから、それと並べて「永訣の朝」のような、全く違うタイプの……ちょっと私小説的な詩? と、ああいうものと並べられて紹介されたのはよかったと思う。

 「(雨ニモマケズ)」は詩ではないからね。詩ではないというのはおかしいけど、つぶやきみたいなもので……。

 作品化する意図のないものだから。

 それにしてはウケがいいけど。

 口調がいいからね。たまたま詩人的な素質の人が手帳に走り書きしたから、自然に詩的になってしまったというだけで、つまらない詩だとか批判を受けることもあるけれど、あれは思ったままをだあーっと書いていった、ワン・センテンスの文章だから。

 すべて、原点は小六のときにあると思う。「やまなし」の授業もふくめて、C先生がそういう土壌を作ってあったし。

 結局、十幾つの、十を出たばかりの年齢のころに分かり得る、童話というジャンルで、しかもバックが……懐がすごく深いものだから、いろいろ考えることになる。

(1996年7月19日夜)

(註) 掲載にあたり、発言者の許可を頂きました。感謝申し上げます。
過去の対談なので、内容は必ずしも現在の発言者の思いにそのまま合致しているとは限りません。また、録音テープの話し言葉をそのまま起こしたので、文章としては首尾一貫しないところもありますが、あえて手を加えませんでした。

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