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銀河鉄道の朝(あした)
一、朝(あさ)の授業 「今日はみなさんに悲しいお知らせをしなくてはなりません」 「ご承知だと思いますが、ゆうべ、カムパネルラさんがなくなりました。川で溺れたお友達を助けるために、飛びこんで、そのまま沈んでしまったのです」 「カムパネルラさんは、いいことをしたのですから、きっと天上へ迎えられたでしょう。みなさん、カムパネルラさんのために祈りましょう。けれども、みなさんは天上よりももっといいところをこの地上にこさえなくてはなりません。どんなにいいことをしても、死んでしまってはいけません。お友達を亡くしてどんなに悲しかったか、今日の気持ちをずっと忘れずにいてください」 「それから、カムパネルラさんが亡くなったことで、とくにつらい思いをしているお友達がいます。だれだか、わかりますか」 先生はジョバンニのようすに目を留めてうなずきました。 二、道 カトウやマルソたちは教室の後ろに集まって、カムパネルラの家に行く相談をしていました。カムパネルラのお父さんが、放課後うちへ遊びに来るようにと誘ったのです。 けれども、ジョバンニはその仲間に加わらず、ずんずん学校の門を出ました。歩いて歩いて川の近くまで歩きました。 その朝も変わらずジョバンニは新聞を配りに出かけ、カムパネルラの家にもまわっていました。ふだんはしぃんとしているのに、家の中ではせわしく人の動く気配がして、少し開いた戸のすきまから、戸口にたくさんの靴が脱いであるのが見えました。犬のザウエルが箒みたいなしっぽを垂らしてジョバンニの臭いをかぎ、くんくんと鳴きました。ジョバンニは胸が裂けそうな気がして、カムパネルラの家を離れたのでした。 前の夜あんなに人が集まった河原は、ほとんど人の影もなく、川の面に風景がくっきり映っていました。まるで美術の本の風景画を切り取ってきたように見えました。 ジョバンニはとぼとぼと河原を歩きはじめました。 三、ザネリの切符 「ザネリ、学校のお友達よ」 おっかさんがいってしまうと、ザネリはにわかに起きあがり、叫ぶように云いました。 「昨日の夜、ケンタウル祭の最中に、ぼくはいつのまにか寝入って夢を見たんだ。気がつくと、ぼくは汽車に乗って、銀河の旅に出ていた。カムパネルラといっしょだった」 「僕が死んだほうがよかったんだ。みんなそう思っているんだ」 「家に帰ってから、その夜、僕は夢のつづきを見た。黒い大きな帽子をかぶった人があらわれて僕にこう云った、『おまえが会うどんな人でも、いっしょに苹果を食べたり汽車に乗ったりしたのだ。だれもみんなカムパネルラだ。あらゆるひとのいちばんの幸福をさがして、みんなと一緒に行くがいい。そうすれば、おまえはカムパネルラといつまでもいっしょに行ける』。その人は僕にいろいろのことを教えてくれ、いつのまにかブルカニロ博士という人と入れ替わっていた。もしかしたら、二人は同じ人だったのかなあ。ブルカニロ博士は銀河鉄道の切符をポケットに入れてくれた。僕、目が覚めてからもその切符を持ってたんだよ」 室の窓からはすっきりとした明るい空が見えました。 その夜、ジョバンニはザネリを誘って、河原に星空を見に出かけました。 (おわり) ※この原稿は、2002年8月30日、ふくやま文学館で行われた地方セミナーの席上での天沢退二郎氏のご発言に触発されて書いたものです。 |
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